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田中利典師の『体を使って心をおさめる 修験道入門』集英社新書(3)/「修験道とは何か PARTⅠ.」

2022年03月15日 | 田中利典師曰く
田中利典師の名著『体を使って心をおさめる 修験道入門』(集英社新書)の内容を師ご自身の抜粋により紹介するこのシリーズ、3回目の今日は「そもそも修験道って何だ?」の第一部を紹介する。師のFacebook(1/31付)より。

シリーズ「修験道の定義」
拙著『体を使って心をおさめる 修験道入門』(集英社新書)は7年前に上梓されました。一昨年、なんとか重版にもなりました。「祈りのシリーズ」の第2弾は、本著の中から、「修験道」をテーマに、不定期にですが、いくつかの内容を紹介いたします。よろしければご覧下さい。 

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「そもそも修験道って何だ?」
われわれ山伏の行じている宗教、それが「修験道」です。「山伏とは何者か?」と尋ねられたら、「修験道の実践者である」ということになります。修験道とは、山中に分け入り、山を駈け、山へ籠もって厳しい修行を行うなど、身体を使って行をして験力や悟りを得る宗教のことです。そして、修験道の実践者を修験者または山伏といいます。では、修験道とはいったいなんでしょうか。ここでは、四つの観点から説明しましょう。

「修験道の定義1/山の宗教である」
第一に、修験道とは「山の宗教」であるということです。山で修行をする宗教、山を道場とする宗教、山を拝む宗教、それが修験道です。とにかく山なくしては、修験道は成り立ちません。もっというと、山そのものがご神体であり、ご本尊であり、経典なのです。これが修験道の一つの大きな特徴です。

そもそも修験道の生まれた背景としては、山の多い日本の風土があります。そして、日本人特有の宗教観にも由来します。古来、日本人は自然を崇拝し、とくに山に対する畏れの思いを抱いてきました。山にはある種の霊的な力があると信じられてきました。その人智を超えたなにか力のある山に入り、そこに籠もって修行する。山という大自然の中で身心を鍛えていく、法力(験力)を得る、智慧を磨いていく。そのなかで、悟りを得ていく。これが修験道の目指すところです。

今でも、私たち吉野修験の山伏の欠かせない修行として、毎夏、大峯奥駈という山奥を駆ける修行をします。だいたい一日十三時間ぐらい、雨が降ろうが槍が降ろうが、決められた行程を黙々と歩む修行です。それは偉大な自然の中に入らせていただく、ありがたくも山というご神体・ご本尊の中で修行させていただく、仏さまの体内で過ごさせていただく……そういう心がけで行う、悟りへの修行です。

「修験道の定義2/実践的な宗教である」
修験道とはなにかという第二のポイントは、修験道はつねに「実践的な宗教」であるということです。「実践的な宗教である」とはどういうことかというと、まさに「わが身体を使って心を磨く修行である」ということです。五感をフルに目覚めさせて行うのが実践です。観念的なテキストを読んで信仰するような思想や理念を掲げる宗教ではありません。

この修験道の実践性は、「山伏」という呼び名にわかりやすく表されています。今では、「山伏」という表記が一般的ですが、「山臥」とも書いていました。その言葉のとおり、山を住みかとして寝起きし、山を教室として学びます。われわれは山という大自然の中に分け入って身心を鍛練するのです。

修験とは「修行得験」あるいは「実修実験」の略語です。実際に自分の「身体」を使って修め、行じていく。つまり、自分の身体にありありと「験し」をつかんでいく。それが山伏の修行です。山谷を跋渉(歩きまわること)し、自らの身心を使って限界まで修行する。私たちはそれによってさまざまな霊力や験しを得ていきます。試験とは、勉強の験しを試すという意味ですが、同様に修行の験しを求めるのが修験なのです。

山を歩く。礼拝する。滝に打たれる。冥想をする。これらはぜんぶ山伏の修行です。そしてぜんぶ、身体を使った実践修行です。このように、私たちは理屈ではなく、自分の五体を通して実際の感覚を体得するということを繰り返し、それによって心を高め、悟りを目指していきます。極めて実践的な宗教、それが修験道。そして、大自然の聖なる力、超自然的な神仏の力(験力)を修めた者という意味で「修験者」とも呼ばれるわけです。

また、実践的な修行は、山の中だけではありません。山で験力を獲得した修験者は、里に降りて、護摩を焚き、地はらいや雨乞いをはじめ、憑きもの落としや病気平癒の加持祈祷など、人々の願いに応えてさまざまな実践活動を展開してきました。「山の行より里の行」、つまり里の人々の中での活動もまた、山伏の大切な修行実践なのです。
*写真は大峯山表行場の「西の覗き」
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