久々に春の山道に分け入った。足下から急に蝶が飛び出した。ミヤマセセリかと歩を進めたが、枯れ葉に止まったのは越冬した小さなクジャクチョウだった。春の日を一杯に浴びながら静かに開閉する羽には、ギリシャ神話のイオの涙の模様があまりに美しく輝くいて見えた。そして、春まだ浅い山肌にはマンサクが所々に見え、芽吹き始めた周囲の若葉が驚くほどに新鮮に映った。
今、庭の桜が散り、庭の樹木ではレンギョウ、ツバキ、モクレン、ボケ、ライラック、ドウダンツツジ、ジンチョウゲ、ハナスオウ、ユキヤナギなどがそれぞれに個性的に咲きほこっていて何とも美しい。まもなく白いリュウキュウツツジが咲き出しそうだ。
厳しい冬を乗り越え、新しい命を謳歌する自然のすべてがあまりにすばらしい。
こうした自然の美しさをなんとか表現したいと思い、写真を撮る、スケッチをする。五感を総動員してその思いを綴る。でも、その時その場の感動にしくものはない。
退職して1年が過ぎた。いつも平穏な有り余る時間に感謝しながら、自然との対話を楽しみ豊かな感動に浸りたいと思っている。