「さては俺に惚れたな」「ばか。誰が惚れるか」
住宅設備機器メーカーに同期入社した、太っちゃんとわたし。仕事は営業。 ある時、太っちゃんがインフルエンザで四十度近い熱を出した。でも現場にはどうしても行かなければならない。点滴を打ってもらって少し元気になった太っちゃんを助手席に乗せて私が運転していくことに・・・。
冒頭は、営業車で現場に向かう途中でふたりが交わした会話。単なる友人でもなく恋人同士でもない。もちろん深い関係でもない。ふたりの関係をどう表現したらいいのだろう。
ある時ふたりは飲みながらこんな会話を交わす。「おまえさ、秘密ってある?」「秘密?」 話は進んで「先に死んだ方のパソコンのHDDを、後に残ったやつが破壊するのさ」ということに・・・。
不幸な事故で太っちゃんが死んだ。約束を果たすべく私は、彼の部屋に忍び込む・・・。 『沖で待つ』絲山秋子/文芸春秋 いいなこんな関係・・・。
でも、男女の間にこんなにいい「線」って実際に存在することがあるんだろうか、それとも小説の中だけの虚線なんだろうか?