透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

川上弘美「ハヅキさんのこと」

2009-12-06 | A 読書日記



 今朝、久しぶりに書店へ。川上弘美の掌篇小説集『ハヅキさんのこと』が文庫になっていた。川上弘美初の講談社文庫、たぶん。単行本が文庫化されるとき、カバーデザインは変わることが多い。が、この小説は同じだ。どっちがいいかな。変わっていたほうがいいかな。

少しだけ立ち読みした。このところ小説を読んでいないがこれなら読める、そう思って購入した。翻訳家の柴田元幸さんは解説で**一気に読むより、一ページずつ、一本ずつじっくりゆっくり読むにふさわしい本だと思う。**と書いているが、午前中一気に再読した。

表題作。私とハヅキさんは元教師、同僚。ふたりとも教師には向いていなかった。よくふたりで酒を飲んで、教師業のうっぷんを晴らしたあとは、お互いの恋愛についてああでもないこうでもないと言いあっていた。この辺は実体験にもとづいているのかもしれない。川上弘美は高校で生物を教えていたことがあるから。ちなみに主人公の私は理科の、ハヅキさんは国語の教師だった。

それにしても彼女の小説には居酒屋がよく出てくるような気がするがどうだろう。テレビドラマは小泉今日子が主演して話題になった、なったかな、『センセイの鞄』は居酒屋カウンター小説だった(と言い切ってしまおう)。

あるとき、私とハヅキさんはお互いふられたことを打ち明けてハシゴ酒。気がつくとラブホの大きなベッドの上。ふたりとも女性、念のため、まあこの辺がこの作家の理性というか文学。ハヅキさんが男だったら通俗的だろう。

**「どっちが入ろうって言ったの」
「よく覚えてないけど、わたしのほうが面白がって入ろうとしたような気がする」
「ばかっ」とハヅキさんは叫んだ。
「私が相手だったからいいようなものの、誰か知らない男だったらどうするのっ」
ハヅキさんはこんこんと私を叱った。ラブホテルのスプリングのきいたマットレスの上で、こんこんと、私を叱りつづけた。**

あれから十数年、わたしは入院中のハヅキさんを見舞いに行くためにバスに乗っている。バスの座席のスプリングが、あのときのラブホテルのマットレスと同じような音をたてて鳴る・・・。

解説には「ばかっ」という安易にぎすぎすしない字づらが何ともこの書き手らしい、とある。「馬鹿っ」でも「バカッ」でもありえないし、!付きでもありえないというのだ。そうかもしれない。

川上弘美は輪郭を実線ではなく、破線、それも薄い破線でしか囲みようがないような場の空気、エッセイのタイトルにもしている『あるようなないような』雰囲気を実に上手く表現する。

さて、少しずつ小説モードへ。つぎは小川洋子かな。その前に『ヒマラヤ世界 五千年の文明と壊れゆく自然』『キリマンジャロの雪が消えていく』『それでも子どもは減っていく』『「論語」に帰ろう』『自然界の秘められ戸たデザイン』を読まなくては。今年の読み納めはどの本になるのだろう・・・。


新月材

2009-12-06 | A あれこれ

 以前書いた新月材に関する記事を少し改めて再度アップしておきます。

月は約29.5日の周期で満ち欠けを繰り返しています。この月のリズムに同調する生物のリズム。ウミガメや珊瑚は満月の夜に産卵することが多いそうですし、女性のリズムも月にほぼ同調しています。月は生命が地球に誕生するより遥か昔から地球に影響を及ぼしていたことを考えると、このような現象は別に不思議なことではないと思います。

ところで日本建築学会が毎月発行している「建築雑誌」の2008年10月号に「木造建築の到達点」という特集が組まれていて、新ブランド「天竜新月材」の誕生という記事が掲載されています。

この記事のリード文には**美林で知られる静岡県の天竜地域で、「新月の木」を安定的に供給する体制がほぼ整った。「新月の木」とは、月の光が最も暗くなる「下弦~新月」の時期に伐採した木で、虫やカビの被害が少なく、割れにくい腐りにくいとされる。新ブランド誕生までを振り返る。**とあります。



2003年に天竜地域で木材業を営む榊原商店の社長が『木とつきあう知恵』地湧社(写真)を読んだのがきっかけで「新月の木」の事業化に着手したそうです。この本は私も興味深く読みました。著者のエルヴィン・トーマ氏はオーストリアで製材業を営んでいるそうですが、オーストリアでは新月伐採が行われているとのことです。

木も月のリズムに同調して生命活動を変化させながら生長しているんですね。雑誌の記事には新月から満月まで毎日連続して伐採した杉と桧の試験片を土中に埋めて実験している様子の写真が載っています。腐り具合などを調べているのだと思います。

記事に紹介されている材木の出荷証明書には生産者や生産地、樹種・樹齢、伐採者、製材日などに加えて伐採日と月齢が記録されています。

試みに「新月材」で検索してみると何件もヒットします。新月材で家を建てる会もあるようです。

朝夕ににしをそむかじとおもへども 月待つほどはえこそむかはね
『日本の美意識』宮元健次/光文社新書に紹介されている「鴨長明集」の一首です。つい西方浄土のことを忘れて、もっぱら西に背を向けて東の月を見てしまうといった意味だそうです。

現代人は昔の人ほど日常の生活で月を意識しなくなったと思いますが、月を眺めて、ああ、美しいなと思うくらいの感性は失いたくありません。今月の2日(091202)は満月でしたね。きれいな月を愛でました。

以上「新月材」に関する記事を読んでの雑感でした。


 


ガラスに貼り付いたブタ

2009-12-06 | F 建築に棲む生き物たち


棲息地:韓国家庭料理 ぶたや@松本市大手 観察日091205

昨晩は酔族会の忘年会@樹だった。「男女9人冬物語」した。鍋のしめのうどんが美味かった。マスター、いつも美味い料理とお酒をありがとう。

ほろ酔いで「定宿」まで歩いて帰る途中に出会ったブタ。豪快に笑っている。ここの料理もそのうち味わってみたい。

松本の建築にはいろんな生き物が棲んでいる。探せばまだまだ見つかりそう。