■ 松本清張の代表作に私は『点と線』『砂の器』『ゼロの焦点』を挙げます。清張作品の多くがテレビドラマ化、映画化されていますが、これらの作品もテレビドラマにも映画にもなっています。
今年は清張生誕100年、先日はNHKで『天城越え』が、民放で『火と汐』が放送されました。『顔』も放送が予定されています。
『天城越え』は再放送で清張自身も出演していました。清張がちょい役で出演するシリーズの1作品でした。このシリーズを観た記憶があります。
映画『砂の器』は邦画の中では一番印象に残っている作品です。ハンセン病の父親とまだ小さい息子が故郷を離れて全国各地を放浪する(北陸から山陰だと思いますが、ロケは別の場所でも行われたのでは)後半のシーンはとても切なくて泣きました。美しい風景も音楽も印象的でした。
清張作品の主人公は孤独な人が多いです。芥川賞受賞作の『或る「小倉日記」伝』の主人公の青年 田上耕作がそうです。『砂の器』の主人公 和賀英良も、『ゼロの焦点』の室田佐知子もそうです。『球形の荒野』にもやはり孤独な外交官 野上顕一郎が登場します。タイトルが孤独な世界を暗示しています。
『砂の器』を読んだのは中学生のときでしたが、『ゼロの焦点』もたぶんそうだったと思います。『球形の荒野』は高校生の頃かな。
『ゼロの焦点』は71年(昭和46年)にNHKでドラマ化されています。このドラマも観ました。主な登場人物は女性3人。見合い結婚した直後、夫が失踪してしまう主人公鵜原禎子を演じたのは十朱幸代、金沢の煉瓦製造メーカーの社長夫人 室田佐知子を演じたのは奈良岡朋子。その会社で働く田沼久子は誰だったか名前を忘れてしまいましたが、ネットで調べて「渡る世間は鬼ばかり」に出ている長山藍子だったと分かりました。
今秋『ゼロの焦点』が映画化され、現在公開中です。先のテレビドラマと配役を対応させると十朱幸代が広末涼子、奈良岡朋子が中谷美紀、長山藍子が木村多江となります。
テレビドラマ化や映画化される場合、時代の設定を現在に変えることもよく行われますが、『ゼロの焦点』は小説と同じ、もはや戦後ではないと言われた昭和32、3年です。
この作品の場合、終戦直後の立川での出来事が重要な意味を持っていますから、時代の設定を変えるわけにはいかないでしょう。上野駅を発車して行くSL、雪の金沢の街、路面電車やバス、車。映画では昭和が実にうまく再現されていました。
期待して観た映画でしたが・・・。残念だったのは、なんだかホラー映画に思えてしまったことです。再現された昭和の金沢でホラーな演技の中谷美紀。リアルな舞台から遊離した演技。原作とは全く別の世界です。これは彼女のせいではもちろんありません。原作をどのように理解しても、どのように映画化してもいいとは思いますが・・・。ただ、好きな役柄を演じた木村多江はよかったです。
終戦直後、占領下で生きるのに必死だった室田佐知子。過去との突然の遭遇、そして悲劇。それは田沼久子にも鵜原禎子にも及んで・・・。
私には野村、橋本コンビの『砂の器』の印象が強く残っているせいか、どうも馴染めないままラストシーンへ。小説では印象的なラストシーンが映画では上手く描かれてはいませんでした。
エンドロールに流れる曲がなぜ中島みゆきなのか、私の感性では分かりません。静かにバッハでも流れてきたらよかったのに・・・、荒涼とした海の底から響いてくるように。