**ひっきょう(畢竟)科学パラダイムに依拠する技術は、不可避的に「物理限界」を有しており、その「物理限界」が、その技術の「制御可能」の次元と「制御不能」の次元との境界(生死の境界)を特徴づける。そしてその限界を越えると、人知を超えて列車は転覆し、飛行機は墜落し、原子炉は熱暴走するのである。
したがって、技術に立脚する企業は、その境界の位置と特徴と構造を根本から知悉しておかねばならず、しかもその境界を越えるような「本当に想定外」の事故が起きたら、経済を越えてリスクをいかに最小限に抑えるかに専念しなければならない。私たちは、それを「技術経営」と呼ぶ。JR福知山線事故の本質も、この原発事故の本質も、根本は同じ「技術経営の決定的な誤謬」に他ならないのである。**(104、5頁)
筆者は福知山線事故と東電福島第一原発事故を分かりやすく表にして比較している。両事故には上記の指摘が当て嵌まる。
福知山線の事故については、
**技術者は、転覆限界速度(転覆限界速度を求めるのは大学入試問題にもありそうな物理の力学に関する問題)を求めたうえで、もともと半径600mで設計していた。経営者は科学的考察なしに線路の曲率半径を600mから304mに変更することを決定した。彼らは、物理限界とは何かを知らなかった。**と書いている。( )内は私の追記。
一方福島第一原発事故については、
**技術者は、「最後の砦」たるICもしくはRCICが8時間ないし数十時間動くように設計していた。彼らはそれが止まったら、原子炉は制御不能になることを知っていた。経営者は、海水注入の意思決定をしなかった。彼らは、物理限界とは何かを知らなかった。**と書いている。(104頁)
ここでのポイントは福島第一原発では全交流電源喪失後も無電源(または直流電源)で動く「最後の砦」、1号機のIC(非常用復水器)は8時間程度、2号機ではRCIC(原子炉隔離時冷却系)が約70時間、3号機では同じくRCICが約20時間稼働していて、原子炉が制御不能という事態に陥る前に海水注入で暴走を止めることが可能だったということだ。にもかかわらず、その決定を躊躇った・・・。この辺の事情を事故発生から約2ヶ月マスメディアは報じていなかった。なぜなら「最後の砦」の存在も意味も知らなかったし、問題にもしようとしなかったから。本書を読んで初めて知った事実だ。
なぜ経営陣は海水注入を拒んだのか。海水注入で廃炉にすることによる経済的な損失を避けたかったのだと、本書には書かれている。国民の安全は二の次だったということか・・・。
メモ
2号機 約70時間 3月11日14時50分から14日13時まで
3号機 約20時間 3月11日15時05分から12日11時36分まで
『JR福知山線事故の本質 企業の社会的責任を科学から捉える』
本稿で取り上げた第1章の執筆者、山口栄一氏の著書