透明タペストリー

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「FUKUSHIMAレポート」を読む その1

2012-02-25 | A 読書日記

**ひっきょう(畢竟)科学パラダイムに依拠する技術は、不可避的に「物理限界」を有しており、その「物理限界」が、その技術の「制御可能」の次元と「制御不能」の次元との境界(生死の境界)を特徴づける。そしてその限界を越えると、人知を超えて列車は転覆し、飛行機は墜落し、原子炉は熱暴走するのである。
したがって、技術に立脚する企業は、その境界の位置と特徴と構造を根本から知悉しておかねばならず、しかもその境界を越えるような「本当に想定外」の事故が起きたら、経済を越えてリスクをいかに最小限に抑えるかに専念しなければならない。私たちは、それを「技術経営」と呼ぶ。JR福知山線事故の本質も、この原発事故の本質も、根本は同じ「技術経営の決定的な誤謬」に他ならないのである。**(104、5頁)

筆者は福知山線事故と東電福島第一原発事故を分かりやすく表にして比較している。両事故には上記の指摘が当て嵌まる。

福知山線の事故については、
**技術者は、転覆限界速度(転覆限界速度を求めるのは大学入試問題にもありそうな物理の力学に関する問題)を求めたうえで、もともと半径600mで設計していた。経営者は科学的考察なしに線路の曲率半径を600mから304mに変更することを決定した。彼らは、物理限界とは何かを知らなかった。**と書いている。( )内は私の追記。

一方福島第一原発事故については、
**技術者は、「最後の砦」たるICもしくはRCICが8時間ないし数十時間動くように設計していた。彼らはそれが止まったら、原子炉は制御不能になることを知っていた。経営者は、海水注入の意思決定をしなかった。彼らは、物理限界とは何かを知らなかった。**と書いている。(104頁) 

ここでのポイントは福島第一原発では全交流電源喪失後も無電源(または直流電源)で動く「最後の砦」、1号機のIC(非常用復水器)は8時間程度、2号機ではRCIC(原子炉隔離時冷却系)が約70時間、3号機では同じくRCICが約20時間稼働していて、原子炉が制御不能という事態に陥る前に海水注入で暴走を止めることが可能だったということだ。にもかかわらず、その決定を躊躇った・・・。この辺の事情を事故発生から約2ヶ月マスメディアは報じていなかった。なぜなら「最後の砦」の存在も意味も知らなかったし、問題にもしようとしなかったから。本書を読んで初めて知った事実だ。

なぜ経営陣は海水注入を拒んだのか。海水注入で廃炉にすることによる経済的な損失を避けたかったのだと、本書には書かれている。国民の安全は二の次だったということか・・・。


メモ
2号機 約70時間 3月11日14時50分から14日13時まで
3号機 約20時間 3月11日15時05分から12日11時36分まで


『JR福知山線事故の本質 企業の社会的責任を科学から捉える』
本稿で取り上げた第1章の執筆者、山口栄一氏の著書


「FUKUSHIMAレポート 原発事故の本質」

2012-02-25 | A 読書日記



 福島第一原発の大事故発生直後からいろんな対策検討会議が行われたが過半の会議の議事録が無い。一方、アメリカでは詳細な議事録が残されている。先日NHKのニュース7(夜7時からのニュース番組)でこのことをトップに報じていた。

木造3階建ての校舎の火災実験のことを取り上げると新聞で知って、同番組を見たのだった。ここに正確に書くことはできないが、アメリカでは委員が別の委員にだったか、委員長に対してだったか、疲れているようだから、少し休んだらどうかと進言したというような、会議の内容とは直接関係ないような発言まで記録されていることが紹介されていた。

ああ、この違い。事故の経緯や対応について詳細な記録を残すことは、当事国として全世界に対する義務ではないのか。それが記録が無いとは・・・、いや、あるけれど隠してるのだという見かたをする人もいる。どちらかは分からない。全て曖昧のままにする、白黒はっきりさせない、うやむやにするというのがこの国の体質なんだろうか。

上の議事録のことは既に書いた(過去ログ)。会議の開催場所も出席者も空欄の議事録。当初この議事録には場所も、20人くらいの出席者も記載されていたが、原発の事故発生後に消されてしまった。ネット上に公開している議事録ですら、こんなことを平気でするのだから、もう何でもありの状況ではないだろうか。一体いつからこんな国になり下がってしまったのだろう・・・。モラル、責任感、自尊心、こんな言葉はもはや死語かもしれないと嘆きたくもなる。

早朝から嘆いたところでこの本。



『FUKUSHIMAレポート 原発事故の本質』日経BP

この本を同僚から借りた。この週末に読んでみようと思う。章立を載せておく。

第1章 メルトダウンを防げなかった本当の理由 福島第一原子力発電所事故の核心
第2章 3.11に至るまでの原子力安全規制 国はなぜ「全交流電源喪失を考慮する必要はない」としたのか
第3章 日本の原子力政策 核兵器製造力とエネルギー自給を高速増殖炉に託す
第4章 原発が地域にもたらしたもの
第5章 風評被害を考える
第6章 電力事業における原子力発電の位置
第7章 原発普及の今後

以下本書のあとがきからの引用。

**福島第一原子力発電所の事故を、第三者の立場から調査、分析する。結果は書籍などを通じて発表し、そこから得られる教訓を後世に伝える。この目的で発足したのがFUKUSHIMAプロジェクトです。(中略) 委員は無給で活動を進め、書籍の印税も受けとらないことを決めました。出版元の日経BPコンサルティングも、利益は受け取りません。売り上げから書籍販売にかかわる諸経費や、レポートの内容を広く知っていただくための取り組み、すなわち海外での出版やシンポジウム、勉強会の開催などの活動費用を除き、なお余剰利益が発生した場合は、それを適切な団体などに寄付することにしております。**

この国に日はまた昇るかもしれない・・・。甘いかな~