信州が生んだ出版人、岩波茂雄のメッセージ
■ 今月4日の午後、松本のMウイングで中島岳志(北海道大学大学院准教授)さんの講演があった。
中島さんがNHKの週刊ブックレビューに出演したのは過去ログ(←クリック)によると、2008年1月のことだった。司会者の質問に理路整然と、そして簡潔に答える中島さん。スゴイ人だなと思った。
やはり、冗長なところがなく、しかも分かりやすい講演だった。講演時間は45分と短かったが内容は充実していた。講演はフランス革命やルソーの思想にまで及んだが、それらについて全く素養のない私でも内容は理解することができた(と思う)。
以下は私の備忘録。中島さんの講演の主旨から外れているかもしれないが、文責は私にあることは言うまでもない。
日清・日露、両戦争の間に青春時代を送った岩波茂雄。富国強兵という大きな国家目標が一応達成され、国家と個人とがものがたりを共有できなくなると、当時の青年たちの問題意識は個人の根本、個の内面へと向かった。ここでのキーワードは「煩悶」。
中島さんは司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』を挙げ、タイトルの意味からこの状況を説明していた。なるほど!と思った。
戦後のパラダイムが岩波茂雄を理解しにくくしているが、ナショナリズムはリベラリストから、リベラりズムはナショナリストから生まれるという左右一体のものだった。
「一君万民」、天皇を掲げた一君万民のナショナリズムこそリベラルであるという思想が茂雄にはあった。これは尊王精神に基づく万民の平等という吉田松陰の根本思想に依拠するものだった。
中身の真の姿を知るべき、知って欲しい。だから、右でも左でも基礎となる哲学・思想書は出す。岩波書店のこの出版姿勢は茂雄の寛容なこころ、ふところの深さに因る。
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講演の後、岩波書店社長・岡本 厚さんとの対談が行われた。対談の中でだったか、その後の会場の質問に答えてだったか、記憶にないが、中島さんは秋葉原事件の犯人の「現実は建前、ネットは本音」ということばが、近代人は外観と内面が分断されていると捉えたルソーの思想に通底していると指摘していた。そういう見方があるとは・・・。
広く社会の深層を探ることで見えてくる時代の本質、実相。
中島さんの『秋葉原事件』朝日文庫を読んでみよう。