透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

越年読書「復活の日」

2021-01-01 | A 読書日記

 年越し本のSF小説『復活の日』小松左京(ハルキ文庫2020年新装版第5刷)を今朝早くに読み終えた。

人類が生物化学兵器として開発されたMM-八八菌により滅亡する。更にダメを押すかのように、アメリカとソ連(小説での国名)の核ミサイルが発射されてしまう。このような状況では「復活」とはならないが、南極大陸で生き残った人々がいた・・・。

復活の日ではどうしようもなくなった人類を憂い、将来を案じている小松左京は、人類を滅亡させ、初めからやり直し、そう、リセットさせたかったのだろう。小説のラストで小松左京は次のように総括している。

**「いや――復活させるべき世界は、大災厄以前と同様な世界であってはなるまい。とりわけ“ねたみの神” “憎しみと復讐の神”を復活させてはならないだろう。しかし、それとて・・・・・何百年後になればわからないことだ。あの“知性”というものが、確率的にしかはたらかず、人間同士無限回衝突したすえにようやく、集団の中に理性らしきものの姿があらわれるといった、きわめて効率の悪いやり方をふたたびくりかえすことになるかも知れない。(後略)**(434、5頁) 

巻末に掲載されているインタビュー記事で小松左京は『ウイルス』東 昇(講談社ブルーバックス)が出てから、ウイルス関係の本を読みまくったと答えている。いろんな分野について知的好奇心旺盛な作家だったと改めて思う。

小松左京はこの作品を発表してから何年後かに『日本沈没』を発表する(*1)。『日本沈没』で書きたかったことは「国土なき後の日本人」のことだ。国土を失って日本人というアイデンティティはどうなるのか・・・。そもそも国家とはなにか、民族とはなにか、日本人とはなにか。

『復活の日』と『日本沈没』。ともに小松左京の実に壮大なスケールの「思考実験」だ。


『復活の日』1964年
『日本沈没』1973年

読売新聞の読書委員の宮部みゆきさんが、2020年の3冊に『復活の日』を挙げていた。


2021年 あけましておめでとうございます

2021-01-01 | A 読書日記



 『あ、火の見櫓!』 平林勇一/プラルト
 『建国神話の社会史』 古川隆久/中公選書
 『「間取り」で楽しむ住宅読本』内田青蔵/光文社新書
 『新幹線を運行する技術』 梅原 淳/SBビジュアル選書
 『鉄道でゆく凸凹地形の旅』 今尾恵介/朝日選書

 『おもかげ』 浅田次郎/講談社文庫
 『メディア・モンスター』 曲沼美恵/草思社
 『であいの旅』 山根基世/毎日新聞社
 『東京文学画帖』 小針美男/創林社
 『「馬」が動かした日本史』 蓮池明弘/文春新書

 『午後の曳航』 三島由紀夫/新潮文庫
 『ザ・藤森照信』 エスナレッジムック
 『いっしょに暮らす。』 長山靖生/ちくま新書
 『万延元年のフットボール』 大江健三郎/講談社
 『水都 東京』 陣内秀信/ちくま新書


11回目(*1)の書名による新年の挨拶です。

あけましておめでとうございますという挨拶には、で、ご、ざ、3つの濁音が入っています。これらの濁音で始まる書名はあまり多くないようです。「で」はデザインという言葉で始まる本があるので、探すのはそれほど大変ではありませんが、10回目ともなると、過去に使った書名と重なってしまうことになりかねません。

「で」『であいの旅』は元NHKアナウンサーの山根元世さん初のエッセイ集(1988年)。

「ご」三島由紀夫の小説はずいぶん昔、高校生の頃読みました。新潮文庫他で何冊かありましたが、昨年の春にすべて処分してしまっています。昨年の11月でしたか、FMラジオの「パナソニック・メロディアス・ライブラリー」という番組で作家の小川洋子さんが『午後の曳航』
を取り上げていました。その番組を聞いて、再読したいなと思い年末に買い求めていました。よかったです。この本がなかったら、過去に使った松本清張の『誤差』などの書名を再度使わなければなりませんでした。


「ざ」も少ないです。少しだけTHEで始まる洋書があり、過去に使ったことがありますができれば使いたくありません。『ザ・藤森照信』は偶々書棚に残してあった雑誌です。藤森さんには不思議な、としか形容できないような建築作品が何作もあります。それらの作品も好きですが、ぼくは藤森さんの書く文章が好きで、よく読んでいます。

今年はどんな本との出会いがあるのか、楽しみです。


皆さんにとって良いことがたくさんありますように。
本年もよろしくお願い致します。 

2021年1月1日 透明タペストリー工房  U1


*1 書名による新年の挨拶 2007 2008 2009 2010 2011 2012 * 2014 2015 2016 * * 2019 * 2021