私は信州の片田舎を歩いていた。よく晴れた秋の日の午後のことだった。
既に紅葉が始まっていた。
山際の民家の庭先で小さな子どもが遊んでいるのを見かけた。
「オジちゃん、それなに」
好奇心に満ちた顔でその子が私に訊ねてきた。
「これ? カメラだよ」
「ずいぶんちっちゃいね」
その子が私のカメラを手にして言った。
「そうだ、坊やを撮ってあげよう」
私はカメラを子どもから受け取って、数枚撮った。
笑顔が印象的な子だ、ファインダーを覗きながらそう思った。
「坊や、いくつ」
「ふたつ」
指でVサインをつくって私の方に差し出しながら答えてくれた。
その時だった。家の中からその子を呼ぶ声がした。
私と同じ名前だった。
私はそっとその場を離れた。
辺りには道祖神が何体かあった。高遠の石工が彫ったものだと聞いている。
松本行きのバスの時間が迫っていた。
道祖神や板葺きの民家の写真を撮りながら近くのバス停に向かった。
あれから、何年経つだろう・・・。
坊やの写真はあのとき撮った民家の写真と一緒にプリントして保存してある。
あの子は今どうしているだろう・・・。
たまたま私と同じ名前だったこともあって、ふと思い出すことがある。
古い写真を久しぶりに取り出してみた。
初掲載2006.07.16
毎日楽しみに読ませていただいております
すてきな一葉ですね♪
たしかに、時が流れましたね(^^v
すてきな時を重ねてこられたのですね
セピアの時代にしばし耽りました
しみじみしてしまいました
昨日のハーフマラソンのひどい激痛だった左足も
普段の運動のせいか、今日は筋肉痛程度になりました
私の亡き父も昔、カメラにこっていまして、
今でも、それだけは残しています。
現像機?もあるのですが、使い方も解らないし
どこに行ったか解らなくなってしまいました。
デジカメも写メも便利でキレイに写る時代ですが、
古さが残る昔ながらの写真っていいですよね。
emumuさんの美しい写真、いつも拝見しております。
そうですか、よかったですね。
この一週間、禁酒です。
(お互いのコメント欄を使って、チャットしているような・・・)