■ 夏目漱石の作品は手元に文庫で23冊ある。その中から1冊を挙げるなら、私は『吾輩は猫である』だ。
『吾輩は猫である』夏目漱石(角川文庫 左:1966年18版 右:2016年改版121版)
猫という第三の眼を設定して漱石自身をほかの友人たちと同列に置き、客観的に自己観察している点がこの小説、漱石のすごいところ。
この作品は漱石38歳の時のデビュー作。ストーリーらしいストーリーがあるわけではなく、苦沙弥先生の自宅を訪ねてくる友人たち(迷亭、寒月、東風、独仙ら)を猫が観察し、彼らが交わすさまざまな会話を論評するという趣向。彼らの会話にはユーモアがあるし、単なる与太話ではもちろんない。この作品の魅力は彼ら知識人の会話そのもの。