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「川端康成」を読む

2024-06-03 | A 読書日記


■  『川端康成』十重田裕一(岩波新書2023年)を読んだ。

副題は「孤独を駆ける」。それから帯には、**メディアの時代を駆け抜けた、しなやかな孤独**とある。また、カバー折り返しの文章には**二〇世紀文学に大きな足跡を残した川端康成は、その孤独の精神を源泉に、他者とのつながりをもたらすメディアへの関心を生涯にわたって持ち続けた。(後略)と書かれている。共通する孤独という言葉。

この本を読み進めると、「孤独」がキーワードとしてしばしば出てくる。川端康成は2歳の時に父親を、3歳の時に母親を亡くし、祖父母に引き取られる。その祖父母も川端康成が15歳の時までに亡くなっている。巻末の年表を見ると、7歳の時に祖母が亡くなり、以後祖父とふたりで暮らしたことが分かる。

著者の十重田さんはこのことに触れて、**天涯孤独となった川端の、いわゆる孤児の感情は、彼の文学の特色を考えるうえで逸することのできないものである。**(8頁)と説き、このことが「伊豆の踊子」や「葬式の名人」、「孤児の感情」など多くの小説の重要なモチーフとなっていると指摘している。

この本に紹介されている「伊豆の踊子」のくだりの一部を載せる。**二十歳の私は自分の性質が孤児根性で歪んでゐると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に堪へ切れれないで伊豆の旅に出て来てゐるのだつた。**(62頁) なるほど、孤児根性という言葉が出ている。

私は川端康成について知っていることは少なく、川端が映画製作に関わったことがあったこと、文芸時評で多くの若い作家を見出すことに貢献したことなど、この本を読んで初めて知ることも少なくなかった。

また、この本には「雪国」など代表作の読み解きなど、興味深い内容が密度濃く綴られている。巻末の主要参考文献は9頁に及び、川端康成著作目録も、きっちり8頁。関連年表も掲載されていて、川端康成のことだけでなく、歴史的・文化的事項も載っている。

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ここで問題、川端康成と光源氏には共通点がある。それは何? 

答えは川端康成も光源氏も3歳の時に母親を亡くしているということ。→ 過去ログ

亡き母への追慕の念断ち難く、光源氏は母に似ている女性はもちろんのこと、多くの女性に恋をした。川端康成はその気持ちを小説に表現したのではないか・・・。

『川端康成』で十重田裕一さんは「孤独」をキーワードに挙げたが、この本を読むまで私は「母への追慕の念」を川端作品を読み解く鍵だと思っていた。まあ、この二つの言葉は同じ意味合いだと解釈するが。

だから、いくらアルコールなブログだったとは言え、「眠れる美女」を好色爺さんの女体観察記などと書いてはいけなかったと、過去に書いた記事を反省する。これは幼子が母親と一緒に寝るという体験に乏しい川端康成の幼児体験願望ではないのか・・・。この解釈は案外いけるかも。 

「伊豆の踊子」を再読しよう。新たに気がつくことがあるかもしれない。二十歳の一高生の私と踊子との間に芽生えるほのかな恋心、この淡い恋物語を中高生が読む小説などと決めつけてはいけない。


 



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