■ 『まとまりの景観デザイン 形の規制誘導から関係性の作法へ』 小浦久子/学芸出版社 読了。
著者の研究論文をベースにしたものだろう。まえがきは論文の梗概のようなもので、本書も「はじめに」を精読すれば、著者の景観に関する問題意識も、問題の解決への見解というかみちすじも分かる。
以下、「はじめに」をもとに稿を書きたい。
景観はまちの姿で、まちを構成する要素相互の関係から説明されるとし、景観の計画は構成要素とその関係性のデザインだと著者は書いている。関係性はサブタイトルにもあるように、まとまりとともに本書のキーワードだ。
景観にはまちの歴史や地形との呼応といったコンテクスト(文脈)だけでなく、経済活動や暮らしの文化が反映されていて、このような背景をも踏まえなければならないと指摘している。
工学系の研究でありながらこのような模糊とした領域まで含めて考察しなければならないことに、景観に関わる要素が多様なこと、そして景観の難しさが表れている。
歴史的に見ればまちは空間秩序の解体と再構築を繰り返してきたことが分かるが、今日の経済的、文化的選択はまちのコンテクストを継承していない、と問題点指摘している。その一方で、今なお地形風土の制約、地域に限定された材料、集まって暮らすための相互の配慮など、その地域で継続的に、安全に暮らすための空間秩序がある集落もあることも指摘している。
なるほど確かに近在のまちに見られる宅地開発などには、まちを構成している既存の要素との関係性を無視したものが少なくない。結果、景観上の秩序が乱れる。
**景観をとらえることは、まちのあり方や地域環境の特徴をとらえることであり、その計画は都市を構成する様々な計画に対して持続可能な地域環境のあり方を示す可能性を持つ。そこにふつうのまちの景観まちづくりの意味がある。
景観のまとまりから、まちの空間構成を理解し、景観を計画することにより、地域の環境資源や空間コンテクストにもとづき空間を構成する道や建築物の関係性をデザインする。そこにふつうのまちの変化を前提とした景観まちづくりをつなぐ計画の可能性がある。 **(6頁)と説いている。
このようないわば景観計画に関する出発点とも思われる理論を実践の場にまで落とし込むことにはいくつも越えなければならないハードルが並んでいる。やはり景観は難しい。
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