透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「駅をデザインする」

2015-02-24 | A 読書日記


『駅をデザインする』赤瀬達三/ちくま新書

 不特定多数が利用する公共空間はとにかく分かりやすいことが肝心、だが分かりにくい。病院然り、庁舎然り、そして駅はその最たるもの。日本の駅はとにかく分かりにくい。出口までの行き方が分からない、乗り換えホームまでの行き方が分からない・・・。渋谷駅は迷路そのものだ。 

著者は渋谷駅について**本来ここに地下都市を建設するというなら、地下であっても広場と呼べるような〈集合点〉を設け、それを遠くから望めるような〈街路〉を構築する必要があった。そうした展望もなくつくられた狭隘な地下通路を、ただ表示にしたがって歩けというのは、人間の本性を無視した対策としか言いようがない。**(221頁)と書いている。

本書で著者は駅の空間構成と案内サインの両面から駅を分かりやすくするための方法について論じている。単にその理論だけでなく、実践事例も紹介しているので分かりやすい。

本書の章立ては以下の通り。

第1章 駅デザインとは何か
第2章 案内サイン
第3章 空間構成
第4章 海外の駅デザイン
第5章 日本の駅デザイン
第6章 これからの駅デザイン

分かりやすさを論じている本だけあって本書の構成も明快で分かりやすい。

著者は分かりやすい空間構成の方策として自然光を採り入れる、外の景色を見えるようにする、地下駅では地上と連続していることを感じられるようにすることなどを挙げている(第6章)。要は空間を外と繋げる、ということだ。

この考え方を仙台市の地下鉄で実践しようと、ガラスの屋根(筆者注:ガラスのピラミッド)で覆って光を地下広場まで落とし込むといった案を示したところ、仙台交通局は大いに関心を示したものの、**建設省(現、国土交通省)から「こんな遊びごとをするなら補助金をカットする」と言われて、結局建設を断念することになった。**(88、9頁)そうだ。

このことについて著者は**わが国行政の想像力の欠如と公共意識の貧困さの証左ではなかったか。**(89頁)と手厳しい。また、ルーブル美術館の例のガラスのピラミッドの計画が発表されたのは、仙台の提案の1年後だったというエピソードも紹介している。

いろんな制約があって、実現するのが難しいということも、本書で分かる。海外の駅の優れた空間構成やサインデザインとの差はどうやらデザイナーの力量の差ということではなさそうだ。


改札出口のサインは黄色の地になっていること、改札入口への誘導サインは緑色の地になっていることに本書を読むまで気がつかなかった。



でも、避難口誘導灯が緑だから、改札出口誘導サインが緑で、改札入口誘導サインが黄色の方がイメージが統一できてよかったのではないかな・・・。


 


525 松本市神林梶海渡の火の見櫓

2015-02-24 | A 火の見櫓っておもしろい


525 松本市神林梶海渡の火の見櫓 撮影日150222

 前稿に載せた火の見櫓を見てから集落内の生活道路を更に進むとこの火の見櫓が立っていた。この美しいフォルムを見た瞬間に分かった、これはかつて小野にあった大橋鐵工所の「作品」だと。帰宅して資料を確認して、昭和31年3月に竣工した火の見櫓だと分かった。なだらかな曲線を描く柱がつくる末広がりの櫓が美しい。



反りのついた屋根、避雷針の飾りの形、大きい蕨手。見張り台の手すりの○とハートを逆さにしたような飾り。床面の梯子貫通部の円い縁取り。どれも大橋鐵工所のデザインの特徴だ。


理想的な美脚

きちんとコンクリート基礎までトラスが達している脚部。美しいし、構造的にも合理的だ。

踊り場まで架けた外梯子には手すりが付いている。丸鋼を2本並べた梯子段は足を掛けた時、1本とはかなり違うはず。このような気配りに製作者の人柄が窺えるように思う。

松本市の隣村、山形にも大橋鐵工所の「作品」(私が確認できたのは3基)があったが、残念なことに撤去されてしまった。辛うじて山形小学校の前庭に見張り台から上の部分のみ残されている。

   
左:神林南荒井の火の見櫓(117)撮影日150222  右:神林寺家の火の見櫓(448)撮影日130609

実は大橋鐵工所では神林地区で3基の火の見櫓を同時に一括受注している。それが梶海渡と南荒井、寺家の3基。共に昭和31年3月に竣工している。

梶海渡の火の見櫓の高さを押さえるために梯子段のピッチ(間隔)を測ると37センチメートルだった。南荒井もピッタリ同じ、37センチメートルだった。寺家の火の見櫓は測っていないが、同じではないかと思う。

神林三兄弟、いや三姉妹だから櫓の姿・形も屋根も見張り台もそして脚もよく似ていて、美しい。  


過去ログ  ←やはり大橋鐵工所で造られた火の見櫓


鐵工所を実名で記すことについて了解を得ています。