透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「36 男はつらいよ 柴又より愛をこめて」

2021-01-09 | E 週末には映画を観よう

 毎年映画館で4、5本映画を観てきたが、昨年(2020年)は1月に『男はつらいよ お帰り 寅さん』を観ただけだった。コロナ禍、映画館に行くのは躊躇われた。年末年始の休み中にDVDで邦画を2本観た。

『復活の日』は小松左京の同名のSF小説が原作の大作。原作の終盤を読む前に映画を観た。人類が滅亡してしまった後、草刈正雄が演じる主人公は、なんとワシントンから南アメリカ大陸の南端まで歩いて行く。こんなこと、いくらなんでも無理でしょ、できるわけない・・・、このシーンを観ていて思った。食料はどうした?宿はどうした?

映画を観た後、原作を読むと、6年がかりで歩いたことがエピローグで分かる。で、南極で一緒だったある女性(オリビア・ハッセ―)との再会を果たす。(他省略)


昔はお盆と正月には映画館で寅さんを観たものだ。DVDで久しぶりの寅さん。観たのは1985年の暮れに公開された第36作『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』。マドンナは式根島の小学校の先生(栗原小巻)。なんで寅さんが式根島まで行くことになったのか・・・。タコ社長の娘・あけみ(美保 純)が疾走、じゃなかった、失踪。寅さんが下田まで迎えに行くも、あけみに帰りたくないとダダをこねられ、彼女に付き合って式根に渡ったのだった。で、マドンナ先生と出会い、寅さんはいつものように恋をする。

寅さん映画を観ると、やはり人と人の直接的な繋がりが社会の基本なんだな~と思う。そういえば同じ山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」も「絆」を描いた映画だった。この映画にも寅さん、じゃなかった、渥美清が警察官役で出ていたっけ。


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『寅さん大全』井上ひさし監修(筑摩書房1996年初版第5刷)






一寸の光陰 軽んずべからず

2021-01-09 | A あれこれ


我が家の床の間にはずいぶん昔に買い求めた掛け軸をずっと掛けてある。

少年老い易く 学成り難し
一寸の光陰 軽んずべからず
未だ覚めず 池塘春草の夢
階前の梧葉 已に秋声

この漢詩を知ったのは随分昔のことだった。中学生の頃だったと思う。

「一寸の光陰軽んずべからず」 時間を無駄にするな、無為に過ごすなという意味だが、当時は全く実感が無く、人生なんて途方もなく長いものだろうと思っていた・・・。でもこの歳になって、人生の総体というものが実感できるようになった。

この漢詩の戒めに従い、無為に過ごす時間をできるだけ少なくするように努めなくては、と思う。となると、飲酒して酔っ払うなんてもってのほか、ということになるだろう。だが・・・。


2011.12.30 改稿、再掲


「細胞とはなんだろう」

2021-01-07 | A 読書日記

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 『細胞とはなんだろう』武村政春(講談社ブルーバックス2020年発行)を読み終えた。前稿に書いたように生物学に関する基礎知識がほとんどないために内容の理解度は極めて低い。

読んでいて、「へ~、そうなのか」と思ったところが何か所(*1)もあったが、その内の1か所を記録しておきたい。

「第3章 ミトコンドリア」から。**細胞内共生説とは、すなわち「ミトコンドリアは、ほんまはバクテリアやったんやで」という学説で、それが真核生物(*2)の祖先となった細胞(おそらくは嫌気性のアーキアの祖先だと考えられている)に共生し(当時はもしかすると、単なる「感染」だったかもしれない)、その結果、「なんやしらん、ミトコンドリアになってもうたがな」というものである。**(127頁) 

細胞のレベルで起きた進化によって、細胞の総体としての生物は進化してきたということ(当然か)。上掲した件(くだり)に続けて、植物細胞が持っている「緑葉体」も「シアノバクテリア」が真核生物の祖先の細胞に共生(感染)して進化したと考えられるということが紹介されている。

真核生物は異なる生物どうしが共生した結果として誕生した、という考え方。

朝食の目玉焼きにトッピングしてあるウインナーがミトコンドリアに見えてきた・・・。

知らないことを知るということは楽しい。


*1 ヶ所、か所、カ所 などの表記があり、いつも迷う。
*2 真核生物:細胞核が細胞内に存在する生物

リボソーム:タンパク質合成装置 **ウイルスだってタンパク質が必要である。でもウイルスは、タンパク質を自分の力だけではつくることができないので、僕たち生物の細胞に感染することでそれを達成しようとする。**(89頁)


今年初の朝カフェ読書「細胞とはなんだろう」

2021-01-05 | A 読書日記

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 我が家の菩提寺の宗派は真言宗だが、寺の檀信徒総代を務めた3年間は真言宗の開祖空海について書かれた本を何冊か読んだ(過去ログ)。樋口一葉が5千円札の肖像になった時は一葉関連本を読んだ(過去ログ)。新型コロナウイルスの感染確認者数は増え続けている。で、この際、ウイルスや細胞について書かれた本を読んでみようと思う。そもそも細胞とは一体なんだろう、ウイルスとはなんだろう・・・。

年越し本で読んだ『復活の日』にはウイルスに関して例えば次のような記述があった。**(前略)生きた細胞に寄生し、その増殖メカニズムを利用することによってはじめて存在しうるような生物(*1)は、生きた細胞がまず存在しなければ発生し得ない。つまりウイルスは、原生生物発生後、その核染色体の異常から二次的に発生したとする“ウイルス細胞発生説”と、もともと初期の原基生物――原始的な単細胞生物が発生した時に、平行的に一種の遺伝物質の鬼子として発生したとする“ウイルス進化説”と二つあるんですが、(後略)**(196頁)

小松左京がウイルス関係の本を読みまくって書いたというこのSF小説は1964年、いまから60年近く前に発表されているから、上掲の二つの説は決着がついているのかもしれない。

今年初の朝カフェ読書(4日)で『細胞とはなんだろう 「生命が宿る最小単位」のからくり』武村政春(講談社ブルーバックス2020年第1刷発行)を読み始めた。 

生物学に関する基礎知識の欠如が内容の理解を困難にしている。高校の生物の参考書で勉強するか・・・。


*1 ウイルスは生物ではないとされている。


正月読書「新型コロナから見えた日本の弱点」

2021-01-04 | A 読書日記

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 『新型コロナから見えた日本の弱点 国防としての感染症』村中璃子(光文社新書2020年初版1刷)を読んだ。巣ごもり読書記録として載せておきたい。

**世界の多くの国にとって、新興・再興感染症対策は国防の要である。それは危険な感染症から国民を守るという意味だけでなく、生物兵器によるテロへの備え、ワクチン新薬の開発とそれを用いた外交、諜報や情報防衛も含む。(後略)** 以上カバー折り返しの本書紹介文からの引用。なるほど、こういう観点から新型コロナ禍を捉えることも必要なのか・・・。

コロナ禍が終息した時(って、いつになるのか分からないが、数年後には終息しているだろう)、世界各国が採った対応を様々な観点から詳細に比較検討することで将来への備えとすることは重要だと思うが、各国で情報を共有するなどということは到底無理だということが本書でよく分かった。まあ、国情もそれぞれ異なることだし。

せめてこの国の新型コロナ感染症の記録をちゃんと残しておいて欲しい、と思う。国(各省庁)対応、各都道府県の対応、医療機関の対応、メディアの対応・・・。無理か。


「予言の自己成就」


正月読書「午後の曳航」

2021-01-02 | A 読書日記

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 年末年始は巣ごもり読書、と決めていた。で、何年も続けてきた善光寺への初詣も今年は見送った。

今日(2日)は三島由紀夫の『午後の曳航』(新潮文庫)を読んだ。奥付を見ると1968年(昭和43年)の発行で、2019年(令和元年)82刷となっている。長年読み継がれているということは名作の証ということだろう。だが、再読して、この作品がなぜ名作だとか傑作とかいう評価を得ているのか、全くわからなかった。ここでぼくは王様が裸であることを正直に指摘した少年を可としたい。だが、体だけでなく、感性も老いてしまったようだ、と逃げを打っておこう。

主人公は父親を亡くし、母親と暮らす13歳の少年。ストーリーは単純だがそれをトレースすることにそれ程意味があるとは思えないので省略する。

**五号は、目隠しの布と猿轡用の手拭を用意して来てくれ。
それから各自、好みの刃物を持って来てよろしい。ナイフでも錐でも好きなものを。**(176頁) ラスト、少年は仲間と共に猟奇的な殺人をする。

三島由紀夫の作品、ぼくは『金閣寺』(過去ログ)だけでいいなぁ。


 


正月読書「残業禁止」

2021-01-02 | A 読書日記

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 新年の挨拶を本のタイトルでする。この課題で難しいのは濁音で始まるタイトルの本が少ないということ。「ざ」で始まるタイトルの本を昨年末書店で探し、『残業禁止』荒木 源(角川文庫2019年)を買い求めた。昨日(元日)、隙間時間で読んだ。

小説の舞台はホテルの建設現場。場所は横浜、規模は15階建て。主人公はこの建設工事の現場代理人(小説では現場事務所長と表現されている)成瀬。彼は46歳、妻と二人の娘がいる。現場担当技術者の作業量は多く、残業が常態化していて、時には泊まりこみも。労務部から突然出された残業禁止(正確には残業時間制限)令。だが、工期延長は認められない。

定時退社するイクメン社員、助っ人で来たのは仕事ができない新人君。設計変更、近隣住民からの苦情。過労で倒れる者。自ら命を断とうとする者。次々起こる現場のトラブル・・・。成瀬の閑職への左遷、現場代理人の交代。タワークレーン倒壊。

どうなるんだ、この現場。コーヒーはブラックに限るけれど、ブラックな職場は御免だ。

最後は「嵐」が去って、虹が出て・・・。


 


越年読書「復活の日」

2021-01-01 | A 読書日記

 年越し本のSF小説『復活の日』小松左京(ハルキ文庫2020年新装版第5刷)を今朝早くに読み終えた。

人類が生物化学兵器として開発されたMM-八八菌により滅亡する。更にダメを押すかのように、アメリカとソ連(小説での国名)の核ミサイルが発射されてしまう。このような状況では「復活」とはならないが、南極大陸で生き残った人々がいた・・・。

復活の日ではどうしようもなくなった人類を憂い、将来を案じている小松左京は、人類を滅亡させ、初めからやり直し、そう、リセットさせたかったのだろう。小説のラストで小松左京は次のように総括している。

**「いや――復活させるべき世界は、大災厄以前と同様な世界であってはなるまい。とりわけ“ねたみの神” “憎しみと復讐の神”を復活させてはならないだろう。しかし、それとて・・・・・何百年後になればわからないことだ。あの“知性”というものが、確率的にしかはたらかず、人間同士無限回衝突したすえにようやく、集団の中に理性らしきものの姿があらわれるといった、きわめて効率の悪いやり方をふたたびくりかえすことになるかも知れない。(後略)**(434、5頁) 

巻末に掲載されているインタビュー記事で小松左京は『ウイルス』東 昇(講談社ブルーバックス)が出てから、ウイルス関係の本を読みまくったと答えている。いろんな分野について知的好奇心旺盛な作家だったと改めて思う。

小松左京はこの作品を発表してから何年後かに『日本沈没』を発表する(*1)。『日本沈没』で書きたかったことは「国土なき後の日本人」のことだ。国土を失って日本人というアイデンティティはどうなるのか・・・。そもそも国家とはなにか、民族とはなにか、日本人とはなにか。

『復活の日』と『日本沈没』。ともに小松左京の実に壮大なスケールの「思考実験」だ。


『復活の日』1964年
『日本沈没』1973年

読売新聞の読書委員の宮部みゆきさんが、2020年の3冊に『復活の日』を挙げていた。


2021年 あけましておめでとうございます

2021-01-01 | A 読書日記



 『あ、火の見櫓!』 平林勇一/プラルト
 『建国神話の社会史』 古川隆久/中公選書
 『「間取り」で楽しむ住宅読本』内田青蔵/光文社新書
 『新幹線を運行する技術』 梅原 淳/SBビジュアル選書
 『鉄道でゆく凸凹地形の旅』 今尾恵介/朝日選書

 『おもかげ』 浅田次郎/講談社文庫
 『メディア・モンスター』 曲沼美恵/草思社
 『であいの旅』 山根基世/毎日新聞社
 『東京文学画帖』 小針美男/創林社
 『「馬」が動かした日本史』 蓮池明弘/文春新書

 『午後の曳航』 三島由紀夫/新潮文庫
 『ザ・藤森照信』 エスナレッジムック
 『いっしょに暮らす。』 長山靖生/ちくま新書
 『万延元年のフットボール』 大江健三郎/講談社
 『水都 東京』 陣内秀信/ちくま新書


11回目(*1)の書名による新年の挨拶です。

あけましておめでとうございますという挨拶には、で、ご、ざ、3つの濁音が入っています。これらの濁音で始まる書名はあまり多くないようです。「で」はデザインという言葉で始まる本があるので、探すのはそれほど大変ではありませんが、10回目ともなると、過去に使った書名と重なってしまうことになりかねません。

「で」『であいの旅』は元NHKアナウンサーの山根元世さん初のエッセイ集(1988年)。

「ご」三島由紀夫の小説はずいぶん昔、高校生の頃読みました。新潮文庫他で何冊かありましたが、昨年の春にすべて処分してしまっています。昨年の11月でしたか、FMラジオの「パナソニック・メロディアス・ライブラリー」という番組で作家の小川洋子さんが『午後の曳航』
を取り上げていました。その番組を聞いて、再読したいなと思い年末に買い求めていました。よかったです。この本がなかったら、過去に使った松本清張の『誤差』などの書名を再度使わなければなりませんでした。


「ざ」も少ないです。少しだけTHEで始まる洋書があり、過去に使ったことがありますができれば使いたくありません。『ザ・藤森照信』は偶々書棚に残してあった雑誌です。藤森さんには不思議な、としか形容できないような建築作品が何作もあります。それらの作品も好きですが、ぼくは藤森さんの書く文章が好きで、よく読んでいます。

今年はどんな本との出会いがあるのか、楽しみです。


皆さんにとって良いことがたくさんありますように。
本年もよろしくお願い致します。 

2021年1月1日 透明タペストリー工房  U1


*1 書名による新年の挨拶 2007 2008 2009 2010 2011 2012 * 2014 2015 2016 * * 2019 * 2021