映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「アウシュヴィッツの生還者」 ベンフォスター& バリーレヴィンソン

2023-08-14 17:54:26 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「アウシュヴィッツからの生還者」を映画館で観てきました。


映画「アウシュヴィッツの生還者」は第二次世界大戦の最中、ナチスのアウシュヴィッツ収容所にいたユダヤ人男性が収容所でのむごい話を振り返り、戦後アメリカでボクサーとなった後の人生までをたどる物語である。最近多いナチス統治時代を描いた映画はめったに観ないけど、先日「ナチスに仕掛けたチェスゲームは観た。イマイチだった。今回はスルーの気分だったけど、監督がアカデミー賞作品「レインマン」バリーレヴィンソンだと気づくと同時にボクシング界では伝説的存在である無敗のチャンピオンロッキーマルシアノと対戦する場面があると確認して考えを変え映画館に向かう。

1949年、ナチスの強制収容所から生還したハリーハフト(ベンフォスター)は、アメリカに渡りボクサーになる一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。自分の生存を伝える意味もあって、アウシュヴィッツ収容所帰りのハフトを記事にしようとしていたアンダーソン記者(ピーター・サースガード)の取材に応じた。


ナチスの軍人が仕切る賭けボクシングで、ユダヤ人捕虜と生き残りの試合をしていた過去があった事実を記者に告白する。記事となり世間の話題になっても期待していたレアからの反応はなかった。ハリーはレアを探すことで知り合った公務員のミリアム(ヴィッキークリーブス)と結婚する。しかし、トラウマで悪夢に襲われることが多くなる。

重い作品だけど完成度は高い。見応えがある。
ダスティンホフマンの「レインマン」、ロバートレッドフォードの「ナチュラル」など歴史的傑作を生んできただけあって、80歳を超えてもバリーレヴィンソン監督の伝記物での手腕を感じさせる。正直忘れていた存在だったけど、題材に恵まれ力量を発揮した。戦時中のモノクロ映像と戦後のカラー映像とを巧みに使い分け、時代背景も的確で構成力にも優れる作品だ。

収容所生活を描くモノクロ映像は悲惨である。
28キロ減量したというベンフォスターガリガリの身体だ。悲惨なアウシュヴィッツの収容所生活を表現するために体当たりで取り組む。これまでボクシング映画で思いっきり減量した俳優はいたけど、ベンフォスターのいかにも中年太り姿とのギャップに凄さがわかる。ベンフォスターの役づくりには感動する。しかも、多難な事象に接した時の心の揺れを表情で示す演技も味がある。


たまたま、ドイツ兵に反抗したユダヤ人捕虜ハフトが、あるドイツ軍将校に別室に連れて行かれる。そこで、ユダヤ人捕虜同士が立てなくなるまで闘う賭けボクシングの話を聞く。結局命令されてリングに上がることになる。負けた方は銃殺だ。まさにサバイバルゲームである。ハフトも最初はユダヤ人同胞を倒すことに躊躇する。でも、そんなことは言ってられない。必死に生き延びようとするエピソードをいくつも映し出す。卑劣である。

クエンティンタランチーノ「ジャンゴ」レオナルドデカプリオ演じる領主が奴隷同士を殺し合いと思しき真剣勝負で闘わせるシーンがあった。それを思い出した。その時も凄えむごいシーンだと思ったけど、視線は奴隷からではない。ここではやっている張本人から見てどう感じるかを捉える。欧米では権力者がずっとこんなことさせて遊んできたのかと思うとつらい。


1949年と1963年のハウトをカラーで映し出す
この映画の根底に流れるのは、収容所に入る前に生き別れになった恋人レアとの純愛だ。サバイバルゲームに耐え、ようやく一般社会に戻れてアメリカに移住しても連絡がつかない。最後に収容所にいたのは確認できている。でも、その後はわからない。彼女探しでお世話になったミリアムに接近する。


ボクサーになっていたハフトが自分が生きていることをレアに示すために、当時チャンピオンになる道を歩んでいる連戦連勝のロッキーマルシアノへの挑戦をジムで宣言する。でも、直近で負け続きのハフトとはやるはずがない。そこで、以前からアウシュヴィッツ収容所での様子を取材したいという記者の取材を受けて、生き残るための賭けボクシングについて語る。そうすれば、記事を見てレアから反応があると思ったのだ。でも連絡がなかった。ただ、世間の話題になった後でロッキーマルシアノとの対戦が成立することになった。

ボクシングの歴史を知っている人からすれば、無敗の世界チャンピオンだったロッキーマルシアノはあまりにも飛び抜けた存在だ。もちろん勝てるわけもない。話題になればきっとレアに会えるという思いだけなのだ。何気にロッキーマルシアノの戦歴を見ると、確かにハリーハフトと戦っている記録がある。その後、マルシアノは世界チャンピオンとなり、無敗のまま引退するのだ。


この映画の題材は盛りだくさんだ。エピソードが多い。
アウシュヴィッツ収容所での残虐なエピソードに加えて、ロッキーマルシアノとの対決に備えてのトレーニングに励む姿や試合の模様、もともとの純愛の行方など波乱の人生をハリーハフトがいかに送ったかを映像で追う。久々登場の怪優ダニーデヴィートの存在も効果的で、妻になったヴィッキークリーブスの優しさあふれる姿にも心ひかれる。


話のネタに欠くことがなく実に見応えがある映画になっている。
直近でいちばんのおすすめだ。
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Netflix映画「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」

2023-08-06 08:23:09 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
Netflixドキュメンタリー映画「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」は2000年に起こった英国人ルーシーブラックマンさん行方不明の全容を当時のニュース映像で振り返りながら、元警視庁捜査一課の腕利き刑事たちが犯人に迫る捜査活動をインタビュー形式で追っていく映像である。TVのワイドショーでは連日六本木の高級クラブで働いていた元客室乗務員のホステスが行方不明になったことを連日伝えていたのは記憶に新しい。


この事件の犯人とされるOは、他の事件で無期懲役となっているが結果的にこのルーシーブラックマン事件では無罪となっている。この映画では多数の警察OBおよびOGがインタビューに答えている。裁判の結果に不満を持ち、稀代の性犯罪者だったOが卑劣な行為をしたことを改めて訴えるために出演に応じている印象を持った。この警察関係者の捜査活動については改めて敬意を表したい。今でも遺体の見つかった場所にお参りに行っているらしい。


よくできたドキュメンタリーでNetflix会員は必見であろう。
金持ちには自己顕示欲の強い自慢話が好きな連中がいる一方で、ネットへの露出がないように周到に自分の存在を目立たなくする人もいる。どんな検索ワードを使ってもほとんど出てこない。でもリッチ。こういう人って意外に多い気がする。Oはその手の類だ。三浦半島にある自分の別宅で繰り広げた行為は凄まじかったのではないかということが、捜査員の証言でよくわかる。

でも、この映画ってNetflixだからできたのであって、日本では作れなかったのではないだろうか?例えば、ある意味天皇を冒涜した部分も感じられる「太陽」などもそうだろう。「ラストサムライ」でも明治天皇を気の弱い若者として描いている。水俣病患者を描いたジョニーデップ主演「ミナマタ」でも、チッソ社との軋轢が描かれる。チッソの当時の社長は雅子皇后の実の祖父である。

こういったことと同じような雰囲気を感じる。外国製作ということでか警察OBも思いっきり本当のことを話している感じだ。日本でつくっていたら色んな方面から映画製作者に圧力がかかって潰されたかもしれない。ただ、この犯人の信じられないような残虐さをともかく訴えたい一心だったかもしれない。


(余計な話だけど)
Oは自分の学校の先輩にあたる。それなので、この事件に関する週刊誌を読んだし、本も読んだ。すごいことする奴だなあと思っていた。ところが、ある時今も飲み付き合いのある先輩Tからすごい話を聞いた。その先輩Tは最近話題の猿之助と同じ学校ルートを歩んだ人だ。たまたま同じクラスにTと同じ高校の奴がいて麻雀をきっかけにTと親しくなった。酒も飲むようになった。九段にあるTの高校の側に名門女子校があり、Tの学校とは親しい間柄でそのお嬢さん学校出身の美女たちとも知り合う機会ができた。

もともと家柄もよく清楚なかわいい子が多い学校だが、一緒に飲みに行く中に2歳年上で長身の凄え美人の先輩がいた。雰囲気は萬田久子をもっときれいにした感じだ。話をするとざっくばらんでいい人なんだけど、どう見ても自分にはムリ目で遠い存在な方だった。その人にはポルシェに乗る田園調布に住む彼氏がいるといううわさだった。Tも田園調布居住だったけど、どうもレベルが違うらしい。

ある時、六本木のジャズバーに行った時にその美女が彼と一緒にいるのを偶然見つけた。値の高いボトルで飲んでいた。その後出ていくので、好奇心でお見送りに外へ出たら、ポルシェが来て去っていった。自分とは異次元の世界だと思っていた。


事件が判明してしばらくたってTはその件を思い出すが如く、あの時の男ってOだよという話がでて驚いた。確かに田園調布に住むポルシェに乗る男とプロフィールは一致する。ルーシーブラックマンさんは175cmの長身だったという。そういう長身系美女をはべらせて、自分の住処に連れだし、いいように扱ったのだろうか?自分の先輩はあの時どうだったんだろうか?警察関係者の証言にあるようなことはなかったのか?そんなことを考えていた。
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映画「コンサート・フォー・ジョージ」エリック・クラプトン&ポールマッカートニー 

2023-07-31 21:28:28 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「コンサートフォージョージ」を映画館で観てきました。


映画「コンサート・フォー・ジョージ」は2002年11月ジョージハリスンの追悼コンサートの映像を映画化したものである。21年の歳月を経て、日本で一般公開された。盟友エリッククラプトンが協賛するミュージシャンを集めてロンドンのロイヤルアルバートホールで開催された。ポールマッカートニーとリンゴスターのビートルズメンバーに加えて、後期の準メンバーといえるビリープレストンやジョージが傾倒したインド音楽のラヴィシャンカール父娘も参加している。

感動しました。
すごすぎる映像だらけである。
恥ずかしながら、こんなすごいコンサートが開かれていたことを知らなかった。1971年バングラディシュ救済のためのコンサートをジョージハリスンが主宰してマジソンスクエアガーデンで開催された時、輸入盤のLPをすり切れるくらい聴いたものだ。ジョージを除いたメンバーは似たようなメンバーだけど、今回はエリッククラプトンが仕切る。音はかなり洗練されている。

⒈ビートルズ中期のジョージ
まずはビートルズ時代の曲からスタート。
ラバーソウルの「恋をするなら If I Needed Someone」はビートルズが1966年に来日して東京公演した時のセットリストの一曲である。TV放映した時、長い長い前座があってからスタートしたわけだが、小学校低学年の自分はビートルズが登場する時には寝てしまった。父がオープンリールのテープレコーダーに録音して何度も何度も聴いていた。自分には良さがまったくわからなかった。

それから3年ほどたって本格的に聴くようになって、テープレコーダーをもう一度聴き直した時、「恋をするなら」が耳に焼きついた。今回はエリッククラプトンが歌う。


⒉タックスマン
自分が普通の人と違うビートルズへの目覚め方をした曲である。小学校の同級生でお兄さんがいるビートルズを聴いている奴がいた。彼が住む社宅に行ったら「タックスマン」を勧めてくれた。当時よくあった4曲入りのEPだ。リズミカルなテンポで、父が聴いているテープの曲よりもよく感じた。ウルトラシリーズがリアルに全盛な時で「バットマン」と同じような感覚で「タックスマン」ってキャラクターだと本気で思っていた。

家で親にねだったら、「タックスマンって税務署員だぞ。とんでもない。」と父に言われた。この衝撃は57年たった今でも忘れられない。自営業の経営者だった父にとっては税務署は敵だ。税務調査でいつも絞られていたのだ。でも、買った後一番聴いたのは父かもしれない。


⒊リンゴスター
バングラデシュ救済のコンサートにも参加している。全米ヒットチャートNo.1の「想い出のフォトグラフ」はまだ発売されていないので、「明日への願い」を歌っていた。ビルボードではトップにはならなかったが、キャッシュボックスでトップになった。もう一曲は「ハニードント」だ。だいたいLPに一曲くらいリンゴスターがリードボーカルの曲がある。

カールパーキンスの正統派ロックンロールである。ジョージハリスンのギターが印象的な曲だ。いかにもリンゴスターらしいスッとボケたボーカルだ。この後、リンゴスターは数々の名曲に合わせて後ろの席でドラムを叩きつづけるのが印象的だ。


⒋ヒア・カムズ・ザ・サン
「アビーロード」に入っているアコースティックギターの名曲だ。ジョーブラウンがギター片手にさわやかに歌う。実はジョーブラウンのことはあまり知らない。もともとビートルズより先のデビューでヒット曲を出していた。ジョージハリスンがジョーブラウンの歌をコピーしていたようだ。最後にウクレレ片手に「夢で逢えたら」を歌う。


⒌ラヴィ・シャンカール
映画が始まってすぐ凄いインド美人が出てくる。いったい誰なんだろうと思っていたら、ラヴィシャンカールとくっついてインタビューを受ける。こんな若い美人と一緒になるなんて凄いなと思ったけど、娘のアヌーシュカ・シャンカールだということがわかる。高齢になったラヴィ・シャンカールは今回は演奏せずに娘に任せる。いかにもインドの音楽にエリッククラプトンがギターの音色を合わせるのが素敵だ。


艶福家のラヴィシャンカールはこの美女の前に歌手ノラジョーンズをこの世に送り込んでいる。異母姉妹の共演をやっていること自体で凄いと感じる。

⒍ポールマッカートニー
コンサートの中では一番の格上だ。登場した時の拍手も大きい。得意の左ききスタイルでアコースティックギターを持って「フォーユーブルー」を歌うが、いかにもジャムセッション的な曲である。その後でウクレレを持ってジョージハリスンの代表曲「サムシング」を歌う。これはすばらしい!

ジョージハリスンウクレレが好きだったという。それを意識してか左利き持ちのウクレレでサムシングをじんわりと歌う。途中からエリッククラプトンにヴォーカルを交代するが、実に味がある。映画の大画面に映るポールとエリックを見て、こんなすばらしい組み合わせってあるかしら?と思う。これには感動して涙がでてきた。このコンサートのヤマであろう。

「サムシング」の原曲でポールマッカートニーが弾くベースのメロディラインは歴史的名演で、本当はウクレレからテンポが変わるときに左利きベースで弾いてほしかった。

「ホワイルマイギタージェントリーウイープス」ではホワイトアルバムと同様にピアノのイントロをポールマッカートニーが弾く。裏でリンゴスターはドラムスを叩くし、リードギターはエリッククラプトンだ。まったくの再現である。

⒎ビリープレストン
「レットイットビー」や「アビーロード」の頃は実質5人目のメンバー的活躍をしている。ゲットバックのエレクトリックピアノのソロがいちばん際立つ。ジョージハリスンがLP「オールシングスマストパス」から「マイスウィートロード」をシングルカットしたけど、最初にシングルを出したのはビリープレストンである。

いかにもアフリカ系の声で清々しく歌う。いい感じだ。個人的にはヒットしたインストメンタルの曲「アウタスペース」がすばらしいと感じる。ロックとソウルとジャズの混合に大きく貢献した曲だ。でも、コンサートの4年後若くして亡くなってしまう。残念である。


⒏エリッククラプトン
リーダーとしてコンサートを仕切る。20年以上前のコンサートとはいえ、改めてエリッククラプトンの凄さを再認識した。今回逆に感心したのはリードギターでオリジナルから逸脱したアドリブを演奏していないこと。エリッククラプトンも長髪のバングラディシュの頃はジョージハリスンのヴォーカルの後ろでギターに専心している。ジョージもギターを合わせるけどアドリブが若干ちぐはぐ。今回の方が泣きが入っているね熟練の味だ。すばらしい!!


エリッククラプトンはほとんど登場しているけど、地味な曲でもバングラデシュでもやった3枚組ファーストアルバムに入っている何故か自分が好きな「ビウェア・オブ・ダークネス」が良かった。


それにしてもジョージハリスンのセガレは父親に容姿も声もそっくりだよね。コンサートでやったのに何で「ギブミーラブ」入っていないんだろう。それだけ不思議??
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映画「ミッションインポッシブル デッドレコニング part1」トム・クルーズ

2023-07-22 19:06:57 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「ミッションインポッシブル デッドレコニング」を映画館で観てきました。


映画「ミッションインポッシブル デッドレコニング part one」は言わずとしれたトムクルーズの新作である。監督はシリーズ3作目のクリストファー・マッカリーだ。映画館で予告編を何度も観ていたので、アクションシーンの予想はできていた。映画の醍醐味を味わいに早速映画館に向かう。最初に潜水艦がAI操作で自爆してしまうシーンからスタートした後に、我々にはTV「スパイ大作戦」時代からおなじみのテーマソングが流れる。正直なところ「トップガン」のスタートでケニーロギンスの声を聞いた時の方が衝撃が強かったが、ここでも背筋がゾクっとしてしまう。

頭の整理がつかず、いつものようにストーリーの要旨が書けない。単純ではない。重要な鍵2本を見つけるのに、諜報部員やCIA、アメリカとか色んな利害関係が絡むというのはうっすらわかるけど、よくわからない。「トップガン」の方がはるかに理解しやすい。つい先ごろのインディジョーンズの時も世界中をかけめくって海外旅行がなかなかできない自分の視覚を楽しませてくれた。ここでも砂漠のアブダビ、ローマ、ベニス、アルプスの山間部で凄いアクションを連発する。

話のディテイルがわからなくても十分堪能できた。
3時間近い長時間の作品だけどあきない日本の長時間映画だと、不必要な長回しで妙に時間稼ぎしている感じがするのに対して、適切なカット割で数多くのアクションを見せる。しかも、盛りだくさんだ。いくつかの映画のオマージュを感じさせるが、これだけ予算がないと日本映画では無理だ。イーサンハントことトムクルーズのやることが何もかもうまくいくわけでない。ドジを踏むこともある。「トップガン」同様完璧なキャラクターでないのもいい。おなじみ手を大きく振る「トムクルーズ走り」も3回ほど見せてくれてうれしい。


ローマの街を走るカーチェイスってすごすぎる。
インディジョーンズのモロッコのカーチェイスも十分楽しめたけど、ローマって世界中から観光で集まるところだよね。しかも、セットには見えない。コロシアムもスペイン広場もでてくる。むちゃくちゃな運転をするヘイリー・アトウェルフィアットを走らせる。ローマの休日のアクション版だ。いったいどうやって撮ったの?それがベネチアの路地にまで続いてしまう。


そして、4人の美女が勢ぞろい。前回同様に謎の女としてヴァネッサカービーが登場する。味方なのか敵なのかわからない。ここのところ連続ででているレベッカファーガソンも中東で死んだふりして生き残る元Mi6の女ででてくる。最初に観た時に格闘能力のすごさで度肝を抜かれたけど今回は残念なことにもなる。

主力は女スリで各国でお尋ね者になっているヘイリー・アトウェルでなかなかいい女だ。最後までトムクルーズのアクションに付き合う。映画「戦場にかける橋」のように橋が爆破される。その後続車両に乗っている2人の脱出劇で息を呑む。


アジア系の冷徹な殺人鬼としてポム・クレメンティエフを登場させる。サトエリこと佐藤 江梨子そっくりで途中までまさかの登場かと疑った。カナダ生まれのフランス人のようだが、母親はコリアン系だそうだ。それで納得。

そして、予告編で誰もがすごいと思う断崖からバイクですっ飛ぶシーンだ。これって本当にリアルでやっちゃうの?と思っていたら、準備にも相当時間をかけて決行したようだ。何でこんなことするのかと思っていたら、暴走するオリエント急行に乗り込むためだという。パラシュートで地上に飛び降りるシーンの映像もある。こんなとことやっちゃうの?トムクルーズはさすが千両役者だ
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映画「君たちはどう生きるか」宮崎駿

2023-07-15 20:09:56 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「君たちはどう生きるか」を映画館で観てきました。


映画「君たちはどう生きるか」は一度は引退を表明していた宮崎駿監督の復帰作品だ。予告編もなく、事前に情報が何もない。徹底した秘密主義である。吉野源三郎「君たちはどう生きるか」との関係がどうなっているのか?すでに80を越えた宮崎駿の創作意欲を確認するために映画館に向かう。さすがに広い映画館内も満席である。声優たちのメンバーリストを見て、超豪華なので驚く。

第二次世界大戦の東京への空襲で母親が入院している病院が爆撃されて牧眞人(山時 聡真)は母を失う。その後、眞人の父親(木村拓哉)が経営する航空機部品工場のある田舎に疎開する。同時に父親は母の妹夏子(木村佳乃)と再婚して、大勢いる使用人のばあやたち(大竹しのぶ、竹下景子、風吹ジュン、阿川佐和子)と大きなお屋敷に住むことになる。そこには鳥のアオサギ(菅田将暉)が何度も眞人にちょっかいをだしてくる。しかし、地方の生活に慣れない眞人が自傷的行為を起こして、イジメではないかと父親がヤキモキする中で夏子が姿を消す。眞人は夏子を探しに、ばあや1人を連れて森に入っていく。アオサギの誘導で入った古い屋敷で奇想天外な世界に巻き込まれる。

ここからは宮崎駿のファンタジーワールドの世界に導かれる。

上質なファンタジー映画である。
吉野源三郎の本に影響されている内容かと想像したが、さほどでもない。亡くなった母のおすすめの本というだけだ。個人的には村上春樹の小説を読んでいる時と似たような感覚を味わった。村上春樹の小説では誰かが突然いなくなることが多い。ここでも同様な展開になる。このファンタジーな世界では生と死の境目を彷徨う。こういうことかと解釈は一通りにはならない。観客それぞれに何かを感じればいいのではないか。眠りに誘われることなく時間を忘れてあきずに観れる。

ここで凄みを感じたのが色彩設計だ。色合いの豊かさに魅了される。生と死をさまよう内容でも明るい色が基調だ。アオサギだけでなく、インコなどいろんな鳥が美しい色でみられる。あとは映像にぴったり合う久石譲の音楽だ。これが近来の映画にないすばらしい音色だ。ここぞという場面にやさしいピアノが基調の音楽が流れる。沈黙の場面も効果的に浮き彫りにする。映画音楽としてこれほどマッチングして、観ている我々の感覚を揺さぶる音楽はないだろう。


改めて、宮崎駿の履歴を見ていると、父親が航空機部品の製造会社の役員だったのだ。宇都宮に疎開したことや若き日に母親を亡くしたことなどこの映画に共通する履歴がある。疎開した先の学校でイジメを受けたことなども実体験としてあったのかもしれないし、大勢のばあやもいたのかもしれない。キムタク演じる父親の気が強い性格もそのまま受け継いでいるのだろう。宮崎駿監督にとっての自叙伝的要素をストーリーの根底においた感じがした。必見だと思う。
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映画「1秒先の彼」岡田将生&清原果耶

2023-07-09 18:43:35 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「1秒先の彼」を映画館で観てきました。


映画「1秒先の彼」は2021年の台湾映画「1秒先の彼女(記事)」のリメイクである。オリジナルの「1秒先の彼女」ファンタジー的要素が含まれていて、コメディ的要素もありよくできたラブコメディだった。宮藤官九郎脚本で山下敦弘監督の起用と期待できるスタッフを使って、男女の立場を逆転させるという発想のもとに岡田将生と清原果耶のW主演で日本版をつくった。これは楽しみだ。この作品は途中からファンタジーの世界にはいるネタバレが厳禁の映画だ。必要最小限だけストーリーを紹介する。

京都洛中の郵便局に勤務するハジメ(岡田将生)は何をするにも1秒早い。写真はいつも目をつぶったまま。容姿はいいのでファンもいるが、彼女には恵まれていない。鴨川沿いでストリートライブをしている桜子にアプローチをしたら好感触で実家のある宇治の花火大会に一緒に行こうと意気込んでいた。

ところが、気がつくと1日飛んでいて日曜日のつもりが月曜日だ。街を歩くと、写真館に日焼けした自分の写真がある。アルバイトに来ていたレイカ(清原果耶)が写したとわかる。毎日のように郵便局に切手を買いにくる女の子だ。一体どうなっているのか?



よくできたリメイクだ。
リメイクしようと考えたのは監督の山下敦弘のようだけど、脚本に宮藤官九郎を起用したのが大正解だ。原作のもつコミカルなムードを増長させる。京都を舞台にしたのも正解だ。原作には空白の1日に海辺に向かうシーンがある。天橋立という格好の場所を選んで京都とセットにしたのも成功している。ネタバレ気味の話であるが、この映画では一斉に時間が止まってしまう。そのシーンを観光客が戻ってきた京都で撮ったというのもすごい。よく撮れたなあと感心する。


岡田将生の身動きがいつもよりコミカルだ。台湾版「1秒先の彼女」では慶應義塾の中室牧子教授にそっくりなリー・ペイユーのコミカルな女性主人公が笑いを誘った。ここでも、男前の岡田将生がモテそうでモテない三枚目的動きをするのがいい。ラジオの人生相談にハマっていて、DJの笑福亭笑瓶と掛け合うシーンにコテコテ関西といった感じの母親役羽野晶紀をからませるのはおもしろみがある。


清原果耶は次から次へと主演級で登場するけど、自分には成田凌と組んだ『まともじゃないのは君も一緒』積極的な女子高生を演じたのが印象に残る。今回は真逆で何をやるにもワンテンポ遅い設定で、自分の考えをはっきり言い出せないタイプだ。途中までは存在自体が地味なのに、ある場面を転機に清原果耶がクローズアップされる。ここではバスの運転手荒川良々を清原に絡める。山下敦弘と宮藤官九郎作品の常連だ。


清原果耶はいろんな性格の人物を演じることで演技の幅がひろがっているなという印象を受ける。


以前阿部サダヲ「舞妓Haaan」の映画を撮っているので、宮藤官九郎京都はよく知っている場所だろう。洛中でないと京都ではないなんて語って京都そのものを脚本にうまく活用しているし、「なぜにあなたは京都に行くの」なんて久々に聞いた京都っぽい歌も奏でられる。大学でロケをしたり、学生の協力も得ているようだ。

それなのに京都の街に学生が多いのを皮肉ったり、郵便局でせこい大学教授が悪態をつくシーンがあるのは宮藤官九郎に京都の大学にいいイメージがないからなのかな?

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映画「インディジョーンズ 運命のダイヤル」 ハリソンフォード

2023-07-03 06:00:39 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「インディジョーンズ 運命のダイヤル」を映画館で観てきました。


映画「インディジョーンズ 運命のダイヤル」ハリソンフォードの人気シリーズの新作だ。前作から15年ぶりになる。「ブレードランナー」の続編を2017年に公開した時と同様に今や80歳になるハリソンフォードが,現役最後を意識してかの登場である。これは見逃せない。

インディジョーンズシリーズはこれまでスティーヴン・スピルバーグがメガホンを持っていたが,今回は「フォード&フェラーリ」「ナイト&デイ」等でスリリングなアクション映画を作っているジェームズ・マンゴールド監督に交代してスピルバーグはプロデュースに回る。ジョンウィリアムズのおなじみのテーマソングが鳴るだけでリアルタイムで観てきた自分はワクワクしてしまう。ディズニーシーのアトラクションに行った時にしか聞けない曲だったのに、映画館の大画面を見ながら体感するのは快感だ。

1945年の映像からスタートする。ナチスドイツが世界大戦に敗れてヒトラーが自ら命を絶った後、ナチスの残党たちがアルプスを走る列車に乗って戦果品として奪った骨董品を持って逃走している。そこにはドイツの物理学者フォラー博士(マッツミケルセン)が乗り合わせていた。考古学者のバジル(トビージョーンズ)とインディジョーンズ(ハリソンフォード)はナチス残党にいいように奪われまいとする。そこで運命のダイアルの一部を持ち去る。

冒頭いきなりのアクションシーンである。例によっての活劇的躍動感を感じる。ナチス残党を相手にインディジョーンズはこれでもかとピンチに見舞われる。おそらくはCG処理されたと思われる昔の顔でハリソン・フォードが登場する。ジョン・ウィリアムスの音楽がうるさすぎる位に高らかに流れ、ハラハラドキドキの興奮を増長させる。


時代はアポロ計画で月面着陸に成功した1969年に移る。インディジョーンズは大学の考古学の教授になっていた。学生たちのやる気のなさに嫌気がさしてそろそろ辞職しようとしていた時、講義でジョーンズの質問に答える女子学生がいた。旧友ですでに亡くなっていたバジルの娘ヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)だった。倉庫にあった運命のダイアルを旧友の娘とついつい気を許してしまいカネに強欲なヘレナに持ち逃げされる。

世界の各地にロケ地を移してくれて視覚的に楽しく観れた。
ディズニーとパラマウント映画が組んで、いかにもカネがかかっている作品ですべてに余裕を感じられる。モロッコ、ギリシャエーゲ海、シチリアと場所を移す。いきなり映る列車の上での逃走劇は、同じようなアクション映画で観てきたようなものと文法的に同じで既視感がある。それでも楽しい。

それよりも映画の中でもっとも興奮したのは、宇宙飛行士の歓迎パレードで馬に乗るハリソンフォードのシーンとモロッコの街角でのカーチェイスだ。これには度肝を抜かれる。

⒈度肝を抜かれるシーン
ナチスのロケット開発に携わっていたことで、戦後アメリカの宇宙計画のために引っ張られたフォラー博士(マッツミケルセン)は月面着陸の功績で大統領に招かれていたにもかかわらず、「運命のダイアル」を奪いとるのを優先する。月面着陸に成功した宇宙飛行士を歓迎するパレードのど真ん中で、インディジョーンズは馬を走らせて逃げまくる。地下鉄の線路の中で馬を走らせるシーンはスタントを使ったり、VFXで調整したりしていてもすごい。

あとはモロッコのタンジェの細い道を追いかけっこするシーンは実に痛快で、撮影の難易度は高い。モロッコのカーチェイスも「007シリーズ」や「ボーンシリーズ」での既視感はあってもすごい。ドキドキするというより思わず吹き出してしまう。モロッコは映画界に開放的な国で、別の中東の国を舞台にした設定でも多くのアクション映画がモロッコで撮られている。懐の深さを感じる。


⒉豪華な脇役
デンマークの名優マッツミケルセンは007のカジノロワイヤルで名を売ってから、メジャー映画から声が掛かるようになった。でも、昔ほど得体のしれない怖さが半減しているので、この映画でも悪役的凄みが弱いのが残念。スペインのアントニオバンテラスをエーゲ海の海底の秘宝を探るダイバーとして登場させた。「え!これだけ」という登場の仕方にしたのはぜいたくな金の使い方としかいいようにない。ミケルセンもバンテラスはいずれも母国映画では主演しかない存在だ。

⒊元ナチスでアポロ計画を仕切った科学者
今回アポロ計画でフォラー教授が協力していたというストーリーになっている。これって大丈夫なの?と思ってしまう。アポロが月面着陸した翌年1970年の大阪万博では月の石をみるために小学生だった自分も大行列に並んだ。むろん月面着陸のTV放送は家族そろってどこの家でも見ていたし当時の日本では大騒ぎだった。


当時の少年向けの雑誌では、戦前ナチスドイツでV2ロケットを開発したブラウン博士が、その能力をかわれてアメリカに行きアポロ計画に大きく関与した記事が取り上げられていた。ドイツ人のブラウン博士のおかげで月面着陸できたのは当時の日本人で知っている人は少なくないはずだ。明らかなモデルがいるのに、悪者にしてしまって大丈夫かと思うのである。

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映画「カードカウンター」 オスカーアイザック&ポールシュレイダー

2023-06-25 20:06:25 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「カードカウンター」を映画館で観てきました。


映画「カードカウンター」は「タクシードライバー」の脚本で知られるポールシュレイダー監督オスカーアイザック主演で孤独なギャンブラーの偶像を描いた作品だ。カードプレイヤーを描いた映画というと、マットデイモン「ラウンダーズ」などの名作がある。この作品も同じようにギャンブラーの浮き沈みを描くものだと思っていた。でも、オバマ元大統領が選ぶ2021年のベスト映画の一つに入っている。意外にもオバマもギャンブルに興味があるのか?そんなことを思いながら映画館に向かう。

ウィリアムテル(オスカーアイザック)は長年の刑務所生活でカードゲームを覚えて、日々カジノ周りで暮らしていた。ある日、ギャンブルブローカーのラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)と出会い、ウィリアムの腕前を見てポーカーの世界大会への参加を持ちかけられる。その直後、かつて上等兵だった時の上司ジョン・ゴード(ウィレム・デフォー)とウィリアムにゴードへの復讐を持ちかける若者カーク(タイ・シェリダン)と出会う。世界大会に参加することになったウィリアムとカークは車でカジノまわりをすることになる。


予想外に重い展開の映画であった。
一度観ただけでは、自分の理解度の拙さもあるけど、理解できずに進む場面も多い。でも、オバマ元大統領が推すという意味がわかった。イラクの刑務所で収容した捕虜を自白させるために拷問したことがあったらしい。オバマは拷問しないと政権公約している。ビンラディン殺害計画の映画「ゼロ・ダーク・サーティ」でも捕虜の拷問は取り上げられていた。ウィリアムは刑務所で虐待した罪で長期の収監をされた。ところが、指示をしたその上司が問題なく生きていることに憤りを感じるのだ。ウィリアムたちのしたことはハンナアーレントが言うナチス党員の「悪の凡庸」の話に通じる。


カードゲームのプレイそのもので、相手との心理戦をする闘いの映像は少ない。ウィリアムがボード上で結果的にゲームに勝つ映像はあるけど過程は見せていない。身を隠すように生きているギャンブラーのウィリアムは目立つことを好まない。それがこれまでのギャンブル映画と違う。阿佐田哲也(色川武大)が目指す生き方だ。カードカウンティングの手法を露骨に使うとカジノから締め出しをくらう。ウィリアムは大勝ちはせずにカジノをまわっていく。宿泊も高級ホテルではなくモーテルを選び、部屋の中も異様な感じで整理する。ひっそりとカジノを巡る旅まわりのギャンブラーってこんな感じなのであろう。

ブラックジャックのカードカウンティングの話は有名なエドワードソープの「ディーラーをやっつけろ」などの本で読んでいるし、映画「ラスベガスをぶっつぶせ」も観ている。カジノにも日本の競馬よりは少ないながらも控除率があり、長期で賭けると大数の法則で絶対にカジノが優位になる仕組みだ。その控除率を乗り越えて賭ける方を優位にするのがカードカウンティングだ。でたカードが優位な時に大きく賭けることで、長期的に優位に進められる。あからさまにやっているのがわかれば出禁になるが、大きく儲けるわけでなければ見過ごされるはずだ。ウィリアムもそのスタイルだ。


映画「レインマン」で、弟のトムクルーズに無理やり連れていかれたカジノで自閉症の兄ダスティンホフマンカジノで大勝ちする痛快な名場面がある。これは、でたカードを全部暗記してしまうサヴァン症候群の特殊能力によるものだ。2人は何か悪いことやっているのではないかとカジノを追い出される。カードカウンティングは容易ではない。


オスカーアイザックはクールなギャンブラーを巧みに演じた。主演作を観るのは3作目だ。ギャンブラーのウィリアムに注目した黒人女性のギャンブルブローカーとの恋も語られる。相手役のティファニー・ハディッシュにはどっしりした存在感がある。白人と黒人の恋というのも時代を感じさせる。脱ぐかと思ったが、寸止めだった。


ティファニー演じるラ・リンダがギャンブラーの1人をファッツとして紹介する場面ではポールニューマンの名作「ハスラー」でライバルだったビリヤードの名手ミネソタファッツを意識していた。ベテラン映画人ポールシュレイダーならではの登場だと思うけど、今の人は知らないよね。なぜか今日の日経新聞で自分が敬愛する芝山幹郎ポールシュレイダー「ローリングサンダー」を取りあげたのにはビックリだ。
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映画「逃げ切れた夢」 光石研

2023-06-10 18:15:42 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「逃げ切れた夢」を映画館で観てきました。


映画「逃げ切れた夢」は名バイプレイヤー光石研主演で少しボケが入った定時制高校の教員を演じる新作である。光石研の地元北九州市が舞台だ。つい先日も「波紋」失踪した後ガンになって戻ってきた男を演じたばかりである。彼の履歴を見ると、半分以上の作品は観に行っている。見た目まじめそうだけど、どこか抜けていてとんでもない間違いを起こす役が目立つ。「由宇子の天秤」教え子をハラませた塾講師を演じた時もそんな役柄だ。

予告編で定年前なのに認知症の気が出てきた教員を演じていることがわかる。今までの光石研との長い縁?と「孤独のグルメ」松重豊の登場で早々に映画館に向かう。

定時制高校で教頭をしている末永(光石研)はお人好しで面倒見がいい先生だ。ある日、教え子の南(吉本実憂)が勤める定食屋で勘定し忘れて、店を出てから南に呼び止められ最近物忘れが激しいとカミングアウトする。家では妻(坂井真紀)との関係は最悪で、一人娘からも相手にされない。旧友のバイク店店主(松重豊)と杯を交わすと自分勝手と言われる始末で、教員生活を終えようと思っている。


光石研のワンマンショーだ。
本当は校長になりたかったが、教頭であと一年で教員生活は終了だ。年齢は58くらいだろう。学校でも常に周囲に声かけして、校舎の周りの掃除もする。一見気のいい男だ。そんな真面目な男も家でも嫌われている。妻は浮気もしているかもしれない。しかも、物忘れが激しくなって、アルツハイマーの疑いで医師の治療も受ける。でも、年老いた父親には時々面会に行っている。似たような人って世の中にいるかもしれない。

そんなキャラを光石研は巧みに演じる。11年ぶりの主役だという。前の主演作「あぜ道のダンディ」も観ている。怒りっぽい不器用な妻を亡くしたがんこ親父を演じた。いずれも名作である「ヒミズ」「共喰い」のように暴力を振るう親父役なんて作品もあった。その後、光石研は官僚的な県警本部長の役もやったし、元ヤクザの親分の死刑囚も演じられる器用な役者である。どちらかというと、近年の「由宇子の天秤」「波紋」のようにどこか抜けている男の方がうまい。


この作品は俳優としても数々の作品にでている二ノ宮隆太郎監督作品で、カンヌ映画祭ACID部門にも出品している。光石研の故郷北九州での全面ロケで、何と光石研の実父まで出演している。座敷のある居酒屋や古い商店街や喫茶店など地方都市を感じさせるバックに映る北九州の光景の肌合いは良い。ロケハンには成功している。そんな場所で、地元の言葉で光石研も松重豊も言葉を交わす。それ自体は好感がもてる。


直近でブログアップした「新夫婦善哉」の記事で、同じ長回しでも森繁久彌と淡島千景の笑いを呼ぶ掛け合いに圧倒されるとする一方で、最近の日本映画は不必要に長い沈黙が多いという苦言を述べた。そんな話をした後で、この映画を観てまさにそのパターンだと思った。

定食屋で勘定の支払いを忘れて食い逃げまがいに店を出た時の店員である教え子の女の子との会話をクライマックスに持っていく。定食屋の店員を辞めて中洲で働くと彼女がいうのに付き合うのであるが、さすがにこれだけではストーリーの中身が薄い。それまでの家庭での会話などあっても明らかに物語としてネタ不足だと思う。まあ、色んな作品で楽しませて頂いている光石研の主演なので全て許せるけどね。


それにしても、最後の場面で主人公が2人で会う女の子が娘なのか定食屋の女の子かしばらくわからなかった。作品情報のプロフィール写真で違うのはわかるけど、小さな真四角の画面ではわからない。最近の女の子はみんなキレイだけど同じように見える子が多い。中洲で50万円の収入保証って彼女言っていたけど、何かな?
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映画「アフターサン」

2023-06-07 18:41:25 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「アフターサン」を映画館で観てきました。

映画「アフターサン」はある女性が20年前11歳の時にトルコのリゾート地で父親と2人で過ごした時の想い出を描いた作品である。監督はスコットランド出身の女性監督シャーロットウェルズだ。父親役のポール・メスカルがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる。父娘の交情を描く映画ってついつい観てしまう。

細かく説明しているわけでないけど、2人は別々に暮らしているようだ。父親は30過ぎて間もないようで、ずいぶんと若い時の子だ。娘のソフィーはやさしい父親が大好きで、ビデオカメラでリゾートで暮らす一部始終を記録している。そんな記録を30過ぎたソフィがビデオを見ながら回顧する。


2人は海辺のホテルで過ごす。プールがあって、そこではしゃぐ。近くの遊戯場で娘のソフィは同世代の少年と知り合ったり、カップルでリゾート地に遊びに来ている若者たちとも知り合う。思春期の少女が目覚めていくきっかけもできる。11歳というと日本でいえば小学生6年生だ。うちの娘はその頃どうだったんだろうか?ふと思う。こういったゆったりとした余暇の一部始終を観るのは悪くはない。バックに流れる音楽のセンスは抜群だ。


ただ、感想が書きづらい映画だ。両親が離婚で別れてしまうので、最後の記念旅行だったのであろうか?特には語られないが、そんな気配はある。ずっと、父親の挙動がおかしい。何か困っているように見受けられる。お金もなさそうだ。何か起きるんだろうかと思いながら、最後まで追っていく。後半戦は父親の動きばかり気になる。いったいどうなるのか?いくつかの微妙なシーンがある。でも、この映画はどのように決着をつけようとしたのか?正直よくわからなかった。
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映画「怪物」 是枝裕和&坂元裕二

2023-06-04 17:35:12 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「怪物」を映画館で観てきました。


映画「怪物」は是枝裕和監督の新作で、今年のカンヌ映画祭で坂元裕二が脚本賞を受賞した作品である。それ相応の出来は期待できる。予告編では安藤サクラがモンスターペアレントのように学校で文句を言うシーンがクローズアップされる。一方で、教員が謝る場面があって子供の喧嘩がきっかけなのに何で先生が悪いの?という印象を受ける。いずれにせよ、何かしらのトラブルがあるのだろう。そんな先入観で映画館に向かう。実際には、予想とは違う展開で進む。


シングルマザー早織(安藤サクラ)の小学5年生の息子湊の様子が泥だらけのくつを履いていたりして何かおかしい。誰かにいじめられているのではと問い詰めると、保利先生(永山瑛太)に暴言を吐かれて、暴力も振るわれたと告白し、早織は学校に怒鳴り込む。校長(田中裕子)と他の先生が対応する。結局担任は謝っているが、どこかおかしい。

上記場面が展開した後で、保利先生とその彼女にカメラのフォーカスをあてて、クラス内外で起きたいくつかの事実と職員室内部でのやりとりを追いかけていく。実は保利先生もはめられていたのだ。


構成力に優れた作品である。
予告編では子ども同士のケンカがきっかけとなっている。でも、その場面はしばらくは出てこない。息子の様子が変なので、母親が問い詰めて先生のせいだと告白する場面で安藤サクラがエスカレートする。怒鳴り込む母親に謝る教師たちがオタオタしている。でも、何かおかしい。真実は別にありそうだ。


黒澤明の映画「羅生門」を連想するというコメントもあったが、若干違う。「羅生門」のように真相に対して、それぞれの立場で証言を述べるということではない。三船敏郎や京マチ子、森雅之の証言にはウソも混じった部分がある。ここでは、母親と担任の先生それぞれの視線に近い立場から淡々と真実を追っていくだけだ。ウソを言っている人はいる。先生の立場で教育委員会を気にする発言もある。でも映像自体は真実だ。

起きた事実を視線を変えてゆったりと映画の中で追っていく。時間軸をかえて物語の焦点を少しずつずらすのがうまい脚本だ。坂元裕二の脚本には観客に別のことを想像させようとする巧みさがある。

その流れは極めて自然で、脚本の順番は完璧に構成されている。ベースに流れるものは深い。でも、いちばんのポイントはイジメだ。このイジメにも迷彩がほどこされている。いじめられている子と親しいのを隠そうとする行為である。気の合う奴なんだけど、みんなにはそう見られたくない。個人的葛藤が起こる。目線を一気に小中学生時代まで落とすとこんなことあったのかもと思う。映画を観ながら、すっかり忘れていた小中学校生活を思い出した。


安藤サクラがクレジットトップだが、田中裕子含めてさすがの芸達者もこの映画では特筆すべきところがない。あくまで主演は少年2人だ。特に背の小さい子役柊木陽太に好感をもった。いじめられッ子だ。素直な感じがいい。

構成力にはすぐれている作品でも、廃線になった車両で子ども2人だけが遊ぶ時若干長めで緩慢にしすぎと感じた場面もあり、最後に向けてのツメが甘い気もした。これでおしまいと納得できる感じがしない。冒頭にあった火事というのはいくつかの映像で伏線を回収したということなのか?疑いの火の粉は中途半端では?さすがに、カンヌのパルムドールとまでは及ばないとの自分なりの感触を持つ。故坂本龍一の音楽は胸にジーンと響く素晴らしい曲だった。
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映画「渇水」 生田斗真

2023-06-02 20:50:43 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「渇水」を映画館で観てきました。


映画「渇水」は生田斗真が水道料金の滞納者に取り立てをする水道局の職員を演じる新作である。作家河林満の原作「渇水」をもとに白石和彌監督が初プロデュースを手がける。助監督を務めてきた高橋正弥の初監督作品だ。予告編で気になったのと、好きな門脇麦と尾野真千子が出ているので早速観にいく。

市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田(磯村勇斗)とともに水道料金が滞納する家庭を訪ね、支払わない時は水道を停めて回っていた。岩切は妻(尾野真千子)や子供とは別居生活で家庭はうまくいっていなかった。暑い夏で県内全域で給水制限が発令される中、岩切が行った先はシングルマザーで姉妹を育てる母(門脇麦)の家で、水道料滞納が続いていた。2人の娘を見て期限付きで水道を止めるのを延ばしたが、その後母親も男のところへ転がり込み家を出てしまう。結局水道をとめざるを得ないことになる話だ。


主人公の仕事は料金を払わない家の水道を冷酷に停める因果な仕事である。
群馬県が舞台だ。回収にまわるのはまさに下層社会を象徴するような家庭ばかりである。事前に支払わないと水道停めるよと通知はしている。でも、直談判で支払わないのでいきなり水道を停めると唖然とする。

いくつかの貧困家庭が出てくる中で、門脇麦が母親役の家庭をクローズアップする。中卒でまともな仕事に就けないので、マッチングアプリで男をつり売春まがいの行為で子どもを養おうとしている。周囲に問い合わせがいってはダメと生活保護は受けない。稼ぎが少ないので、結局水道料金も滞納してしまう。


子供にはギリギリの生活をさせる。幼い妹は父親さえ帰って来ればいい生活が過ごせると思っている。でも父親が帰ってくるわけがない。こんな女に言いよってくる男がいる。そこにもぐり込み、幼い子たちが取り残されて2人で暮らす。水道をとめられて、町の公園に姉妹で立水栓から水をくみにいく。姉はスーパーで万引きをする。水道局の職員2人も見るに見かねてという感じだが、冷酷にならざるをえない。ところが、岩切が予想を超えた行動をする。ただ、ちょっと唐突かな?


ビックリするような物語の展開はない。ひたすら下層社会を追っていくだけである。まあこんな家庭って現実にあるのかもしれない。映画としては普通。でも、門脇麦はどうにもならない貧困家庭の女を演じている。「あの子は貴族」の真逆だ。ひいき目かもしれないけど、なぜかいつもよりよく見えた。自分が最近観た3作連続で磯村勇斗が出てきたのには驚く。
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映画「クリード 過去の逆襲」マイケル・B・ジョーダン

2023-05-28 08:17:41 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「クリード 過去の逆襲」を映画館で観てきました。


映画「クリード 過去の逆襲」は「ロッキー」シリーズのアポロの息子「クリード」をフィーチャーしたシリーズ第3作目である。今回、前2作で登場したシルベスタースターローンはプロデューサーの1人としてクレジットに残るが出演していない。主演の「クリード」マイケルBジョーダン自らメガホンをもつ。ロッキーのトレーナーとしての復活は実に衝撃的だった。2作目「クリード炎の宿敵」もロッキーにとっての強敵ドラゴの息子を引っ張り出して、1作目「クリード」ほどの感動はなかったが、水準は高かった。さて3作目はどうなる?予告編では幼なじみと対決するとなっているが。

引退試合と決めた世界タイトル戦に辛うじて勝ったアドニスクリード(マイケル・B・ジョーダン)は、後進の指導とプロモートに専念しようとしていた。ある日、少年鑑別所で一緒だったデイミアン(ジョナサン・メジャース)がアドニスのところに突然来訪する。18年の刑務所暮らしを終えて出所してきたのだ。デイミアンが長いお勤めをするきっかけにはアドニスも絡んでいた。その昔はアドニスにボクシングを教えていたデイミアンがボクシングをしたいというので、ジムを紹介する。ケンカまがいのボクシングスタイルに周囲は困惑する話だ。


予告編では両者の対決が前面に出ているので、ストーリーの展開は予想外だった。バックストーリーがあり、そこでは少年の時にクリードの起こした行為がきっかけでデイミアンが刑務所に長くいたのだ。そのことでデイミアンはクリードを恨んでいない。もともとお互いに対決するつもりもない。ところが、シャバに戻って徐々にエスカレートするデイミアンの行為に奮い立たされるのだ。

ボクシングファイトの迫力はすごかった。クリードのライバルにジョナサン・メジャースを起用したことでこの映画は成功している。
スポーツを題材にした映画には主役をくってしまうほどの強いライバルの登場が必要だ。マイクタイソンを思わせる刑務所上がりの強面が登場する。まずは人相が違う。どう見てもワルだ。不良あがりのケンカファイトをするという映画の設定にジョナサン・メジャースの起用はこれほど適切な配役はないだろう。


もともと第1作目でクリードは少年鑑別所上がりという設定だった。とはいえ、ハングリー精神あふれるという感じが徐々に薄れていく。マイケル・B・ジョーダンエリートの役柄もできる雰囲気をもつ。「黒い司法 0%からの奇跡」で実際に弁護士役をらしく演じている。いい映画だった。ジョナサン・メジャースはどう見ても無理だろう。こんな奴が周りにいたら危ないと観客のわれわれに感じさせる怖さがある。

見どころはボクシングシーンだ。これでもかとハードパンチのシーンが次から次へと出てくる。同時にスピード感もすごい。「あしたのジョー」を思わせるクロスカウンターもきまっている。ボクシングシーンにそれなりの編集はあったとしても、その技術自体もすごいと感じさせる。


「ケイコ 目を澄まして」が昨年のキネマ旬報ベストテン1位をはじめとして映画賞を次々受賞した。三浦友和の悲哀のこもったジムの会長役も含めて人間ドラマとしては良かったと思う。でも、自分は過大評価だと思っている。ボクシングシーンは極めて貧相だった。岸井ゆきのが繰り出すあのパンチでは誰も倒せないし勝てそうに見えない安藤サクラ「百円の恋」ではシェイプアップして颯爽とパンチを繰り出す安藤サクラの役づくりに感動した。試合に勝っても当然と思わせる。ボクシング映画はファイト場面に迫力がないとダメだ


ただ、第1作目「クリード」の感動からは徐々に弱まる。2作目の時も、経済学の限界効用逓減の法則のように感動は薄らいだ。いったん引退した設定のクリードが再びリングに上がったが、もうネタ切れかもしれない。続編はむずかしいだろう。あとは聴覚障がいのある娘のボクサーとしての成長した姿を見せる以外はきびしいのでは?
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映画「最後まで行く」岡田准一&綾野剛

2023-05-20 07:59:46 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「最後まで行く」を映画館で観てきました。

映画「最後まで行く」は韓国の名作サスペンス「最後まで行く(ブログ記事)」の日本版リメイクである。監督は話題作を次々と生む藤井道人だ。韓国得意のクライムサスペンス映画の中でも,波状攻撃のようにハラハラドキドキさせられた作品であった。5分ごとに何かが起こり、窮地にさらされる。さすが韓国のサスペンスだと思った。どのようにリメイクされているか気になるので,公開早々に観に行く。

雨の中、亡くなった母親の病院に車で向かう刑事の工藤(岡田准一)は飲酒運転で運転している。警察署の課長から「暴力団との癒着のカネの問題で県警本部から監査が入る」という知らせが来て慌てているその時に人を轢き殺してしまうのだ。死体を自分の車のトランクに入れて移動すると、警察の検問がある。飲酒運転の工藤はそこで一悶着あるが、たまたま通りかかった県警本部の矢崎(綾野剛)が後で事情を聞くということで見過ごされて病院に向かう。

その後も工藤はひき殺した死体の処置や暴力団との癒着の話の問題で窮地にさらされながら、目撃者からのお前が殺したなという連絡が入りあわてる



登場人物を増やして内容を広げたリメイクであった。
直近で2015年に観た韓国の「最後まで行く」をとりあえず再見した。「パラサイト」の邸宅の主人役やシリーズもの「マイディアミスター」の主役で活躍したイソンギュンが刑事役で、得体の知れない警察官役をチョ・ジヌンが演じた。何せチョ・ジヌンが強烈に気味悪かったし、不死身で圧倒的に強い男だった。さすがにここまでは綾野剛は無理だろうと思ったが、設定を若干変えてそれなりには追いつく。岡田准一はそつなくこなした。

流れの基調は同じである。
飲酒運転中に何者かをひいてしまうこと。母親が亡くなったこと。裏金で監査が入ること。死体を母親の棺桶に入れてしまうことなどなど。5分ごとにハラハラさせる細かいネタは再現されている。日本では死体をそのまま土の中に埋めるなんてことはない。当然火葬する。そのあたりに変更は生じざるをえない。ただ、それだけでなくいくつか設定を変更している。


設定の変更
⒈主人公には妻がいない。妹とその家族の設定だった。離婚寸前の広末涼子の妻と娘がいる設定に変更
⒉裏金をプールという設定では変わらない。暴力団に情報を与えることでカネをもらってそれをプールしていることとした。そこで、柄本明の暴力団組長という設定をつくり強い存在感を与える。
⒊得体のしれない警察官が県警本部の本部長の娘と結婚することにして、本部長から政治家がらみの裏金を回収する特命を与えられていることにする。

話はかなり広がっている。特に政治家がらみの裏金がお寺にストックされている話は全くない。その金に暴力団組長や警察の本部長が目をつけるカネの問題をクローズアップする。ただ、どうしても話が不自然になってしまう気がする。前作にないカネの問題を取り上げてもその決着の仕方には疑問が残る。割とよくできていた「ヤクザと家族」を監督した藤井道人も少しやりすぎかも知れない。


あとはちょっとワルの警察本部長を登場させる。でも、警察本部長ってほぼエリート警察官僚で次々と全国を転勤する人たちだし、のちの天下り先までしっかり用意されている人だ。黒いカネには手を出さないだろう。ヤクザにことを頼ませるなんてことは昭和の昔ならともかく今はありえない。しかも、その地に家庭があって娘と地元の警察官と結婚させるなんてことはまずありえない。良かれと思って広げた話には欠点が多い。脚本家に世間常識の欠如を感じる。この本部長と結婚相手の話に伏線の回収がなされない。

話を広げてうまくいったつもりだろうけど、まとめ方は残念ながら原作の方がスッキリする。原作は得体の知れない警察官をしばらく映像に登場させないでわれわれの恐怖感をあおった。映画を観ている時に感じるハラハラ感は若干劣る気がする。でも、そんなことは考えずに初見の人はそれなりに楽しめるだろう。
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映画「アルマゲドン・タイム」

2023-05-14 07:46:57 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「アルマゲドンタイム」を映画館で観てきました。


映画「アルマゲドンタイム」はユダヤ系のある12歳の少年の思春期物語である。ジェームズグレイ監督自らの体験を織り込んで作品をつくりあげたようだ。アンソニーホプキンスやアンハサウェイなど一流どころの俳優が出演していて、おもしろそうかと選択する。

1980年代前半公立の学校に通う12歳のポールグラフ(バンクス・レペタ)は、教育熱心の母親(アンハサウェイ)と厳格な父親(ジェレミーストロング)と兄の4人家族だ。母方の祖父アーロン(アンソニーホプキンス)が心の拠り所だ。いたずら好きのポールは黒人の少年ジョニーと気が合いつるんでいる。ジョニーは祖母と暮らしているが、実質ホームレス状態だ。悪さががバレて大目玉。結局、兄が通う私立学校に転校することに。それでも、別の学校に移ってもジョニーとの腐れ縁が切れない。

退屈な映画だった。
一流の出演者がそろったので、それなりの水準かと感じた。でもがっかり。表だったクレジットにはないが、ジェシカチャステインも出演している。同じように少年時代の思い出を中心に青春を語ったスティーブンスピルバーグ監督「フェイブルマンズ」とは大違いだ。この主人公にはまったく感情移入できない。いたずら好きなのはわかる。でも、何をやっても懲りない少年だ。ここまでいくと単なるバカだ。そんな話には付き合いたくなくなる。

人種差別の問題が言及される。グラフ家もユダヤ系の家族だ。裕福であっても至るところで差別を受けている。それ以上に、黒人少年ジョニーとの落差がひどい。ジョニーもやる気がなく、落第している。この年齢での落第は日本ではありえない。ポールが私立学校に移った後でも、同級生から前の学校で一緒だった黒人と付き合っていることに呆れられる。80年代前半であっても、アメリカの人種差別のレベルはひどかったのであろう。ポールと一緒に悪さをしても、結局黒人少年のせいにされてしまう。


クレジットトップのアンハサウェイは活躍場面がなく終わってしまう。アンソニーホプキンスの祖父役は悪くない。でも、印象付けようとしたセリフは心に残らない。あとは、私立学校に多額の寄附をしたドナルドトランプの父親とトランプの姉がスピーチする場面がある。トランプの姉役はジェシカチャステインで驚く。社会的な優位性をかちとるスピーチだ。レーガン大統領の当選をTVで見てグレイ家では核戦争が始まるといっている。いずれも見どころのつもりだったろうけど、リベラル性を強調するジェームズグレイ監督の悪趣味だ。


結局つまらない話が続いて終了してしまう。
ちょっと選択をミスった。こういうこともあるだろう。
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