映画とライフデザイン

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映画「にっぽん昆虫記」 今村昌平&左幸子

2015-08-06 07:36:19 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「にっぽん昆虫記」は1963年(昭和38年)公開の今村昌平監督作品だ。
名画座で見てきました。


今村昌平が助監督から監督昇格した後、女のバイタリティを描いた初期の傑作だ。農家に生まれた一人の女性を力強い昆虫にたとえる。父親との近親相姦まがいの関係をもったあとに、製紙工場の女工、組合活動家、新興宗教の信者、売春婦を経て売春組織を仕切る元締になっていく。最後は娘との強烈な葛藤の場面まで用意されている。

昭和38年のキネマ旬報1位となっており、3億3000万円の興行収入も断然邦画でトップという怪作である。ここですごいのはキネマ旬報2位が黒澤明監督「天国と地獄」であることだ。1位にあげている選者は「天国と地獄」の方が多いけど、総合点数で逆転している。私自身の日本映画のトップは断然「天国と地獄」だ。それを抑えてのトップとは別の感覚を感じるが、こうして大画面であらためてみてみるとやっぱりすごい。

大正7年の冬、主人公とめは、母親の松木えん(佐々木すみ江)が少し頭の弱い忠次(北村和夫)を婿にもらって二カ月目に生まれた。自宅の中で力む妻えんの出産間近の姿を観ながら、虫次は自分の子だと舞い上がっていた。母は別の男と乱れた関係があり、本当に父母は夫婦かと疑問に思いながらとめは育っていった。
とめ(左幸子)は成人して製紙工場の女工となったが日本軍がシンガポールを落した日、とめは父危篤の電報で実家に呼び返された。危篤ではなく本当は借金のある地主の本田家に足入れするため呼ばれた。そこでは出征する本田家の息子俊三(露口茂)に無理矢理抱かれ懐妊する。

昭和18年、とめは生まれた子が女の子なので始末するかと言われたが、生かせてくれといい信子と名付けた。農作業の合間、赤ん坊の信子に乳を与えていたとめは、赤ん坊があまり飲まぬので、乳が張って仕方がないと、側にいた父親忠次に吸ってもらうのだった。


本田の家に信子を預け再び製糸工場に戻った。そこで係長の松波(長門裕之)と肉体関係を結び終戦を迎えた。工場は閉鎖となり実家に帰ったが、弟の沢吉(小池朝雄)夫婦も同居していた。地主たちが集まっている。アメリカは日本を農地改革するらしいなどと噂している。
松波に誘われ、とめは再開した製糸工場に戻り、とめは組合活動を始めた。同時に松波とこっそり逢引きをしていた。ところが課長代理に昇進した松波からは邪魔とされた。やがて会社を辞め退職金を5000円もらい、とめは七歳になった信子を行くなとごねる忠次に預け単身上京した。

とめは、朝鮮戦争で軍曹になったと言うアメリカ軍人ジョージのオンリー谷みどり(春川ますみ)の家で、メイドとして働いていた。混血の娘はある日、とめが目を離している隙に台所で火にかけていた鍋をひっくり返してしまい、全身火傷で死亡してしまう。
懺悔のためにとめは正心浄土会と言う新興宗教に入信する事になる。全ての過去を懺悔しろと班長(殿山泰司)から迫られたとめは、かつての製糸工場での不倫や、メイド先で娘を死なせてしまい、今は化粧品のセールスをしている事を告白する。

その正真浄土会で知り合った女将蟹江スマ(北林谷栄)に誘われ、とめはその女将の店「ラブラブ」の女中として働くようになったが、女将にいきなり売春を強要させられた。こんなことをやりたくないと言うが金に目がくらみ、その道に足を踏み込むようになった。マジメに勤めて、正真浄土会で幹部になる女将は信頼できるのはとめしかいないと仕事を手伝わせるようになる。
その後基地にいたみどりに再会する。けんちゃん(小沢昭一)と言う朝鮮人がヒモとしてくっついていた。とめはみどりと一緒に外で客をとるようになった。信子(吉村実子)への送金を増すためであった。問屋の主人唐沢がとめの面倒をみてやろうと言い出してきた。店が警察の摘発を受け、女将は警察に連行されてしまう。 とめは、署内で女将から、何も言うなと目で合図されるが、何もかも全部打ち明けてしまう。そして、仲間の女たちに、逃げるなら今だ、客の名簿は自分が持っているから、今後は、コールガール組織にしようと提案する。

1.今村昌平
日経新聞「私の履歴書」の中では、今村昌平の著述は本当におもしろいと思えたものの1つである。読んでかなりの衝撃を受け、切り抜きをした記事が今でも残っている。失踪した男を探すというドキュメンタリータッチにした「人間蒸発」で題材となった女性のことを書いた部分のおもしろさには鳥肌がたった。
脚本家の長谷部慶次と一緒に、以前売春斡旋業をしていた南千住の旅館女将に綿密な実地調査をして今回の作品をつくった。しかも、売春婦と斡旋業者との関係を聞くだけで大学ノート3冊になったという。素朴な田舎娘がすさみ、非人間的なやり手の女になっていく過程を、頭の中で考えたストーリーにない厳しいリアリズムで切り取ったら、現代人の気質の形成過程が浮かび上がるのではないかと思った。(私の履歴書より引用)


2.左幸子
映画会社からは主人公には岸田今日子をと言われたが、今村自身が左幸子を強く推したようだ。都会育ちの岸田よりも富山出身で逆境に打ちのめされない強靭さをもっているので、描こうとしている女にぴったりと感じたからと「私の履歴書」に記述されている。でも当時左幸子は妊娠していて、羽生未央を身ごもっていた。体調を崩した時には村の保健婦さんに「おらの方の嫁はこんなことでは休まねえ」といわれたとか。ともかくは乳を吸われぱなしですごい熱演である。のちの「飢餓海峡」の情念のこもった殺され役もいいけど、「にっぽん昆虫記」が彼女のベストだろう。

3.北村和夫
今村昌平とは東京府女子師範付属小学校の同級生である。昔も今と同じでお育ちのいい子が通っていたのであろう。それでも2人はスカートめくりをして遊んでいたらしい。性を描くと天下一品の今村のルーツだ。しかし、ここでの北村和夫の怪演には驚く。少し頭の悪いオヤジということであるが、ここまで自分を落とした役柄を彼が演じるのは見たことがない。左幸子の豊満な乳房をむさぼりつくという役得もある。これは当時うらやましがられたであろうなあ。

(参考作品)
NIKKATSU COLLECTION にっぽん昆虫記
左幸子の怪演
コメント (1)
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