映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「37セカンズ」

2021-03-07 17:46:29 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「37セカンズ」は2020年公開の日本映画

傑作である。
たぶん昨年ロードショーで見たら、間違いなく日本映画のベストと評価したであろう。情報不足を悔いた。


日本の映画賞ではキネマ旬報ベスト10が最も権威があるが、その一方で雑誌「映画芸術」のベスト10もある。脚本家の荒井晴彦の主宰する雑誌であるが、若干ひねくれていて、素直に?いかない部分もある。2020年のキネマ旬報の1位は「スパイの妻」であるが、映画芸術ではワースト1位である。確かに「スパイの妻」には途中から個人的にはアレ?ちょっと疑問と思う部分も多々あり、ある程度言えている部分もあると考える。

そういう対比するベスト10の中で、両方の雑誌でベスト10に入る作品は、これまでも自分も支持する素直に良くできた作品であることが多い。「37セカンズ」キネマ旬報6位で映画芸術2位となりその類の作品である。

名画座で観るチャンスを逃しているなと思ったところ、Netflixのラインナップに入ってきた。これはラッキーと思い見てみるとこれが実に良かった。気がつくと、我が涙腺を激しく刺激していた。ここまで自宅で泣ける映画は少ない。


脳性麻痺の障害を持ち、車椅子生活を送る主人公貴田ユマ(佳山明)は売れっ子漫画家の実質ゴーストライターというべきアシスタントをしている。独立して漫画家になることを夢見るが、雑誌社にエロ漫画を描こうとすると実体験がないと言われ、体験すべく夜の街を徘徊して右往左往するという話である。最初は障がい者のセックスが題材だけの映画に見えた。でも、そんな浅はかな映画ではなかった。奥が深い。思わず主人公を応援したくなるストーリー展開で、胸にしみるシーンがたくさん用意されている。

⒈エロ漫画への道と探究心
ミーハーなルックスで人気漫画家になっているサヤカのアシスタントになっているが、実際にはゴーストライターのようなものである。サヤカは自分一人で描いていると公表しているのがウソ。サイン会に主人公ユマが寄っても素っ気ない。それでも、漫画家を夢見て、サヤカに出入りの雑誌社の編集者に売り込むが相手にされない。そこで、自分で電話してエロ漫画の雑誌社に向かい、編集長(板谷由夏)に会う。


作品はいいが、リアル感がないと言われ、当然実体験がないユマはガッカリ。ここから自力で動き始める。ネット検索で、出会い系サイトで相手も探すがうまくいかない。約束をすっぽかされ、気がつくとディープな新宿の風俗街に入り込み男を買おうとするのであるが。。。


この後も妙な話が続く。なんか悲しい。これだけでは障害者セックスのつらさを訴える映画に見えるがそれだけではない。たまたま、夜の世界で1人のホテトル嬢(渡辺真起子)と知り合う。それが意外なつながりができていくのだ。ネットワーク理論はやっぱり言えている。

⒉母親からの自立心
娘が障がい者になった母親(神野三鈴)の苦しみはよくわかる。外から見たら、過保護に見えるが、実際にその立場になると例外なくそうなっていくのは何人も見てきた。でも、娘から見たらやっぱり過保護なのだ。お風呂も一緒に入ってという生活を23才になるまでずっとしているが、本人からしてみると自立心があるし、自分でできるのである。他の人には逆らえることができなくても、身内の母親には逆らう場面も出てくる。お母さんがこうだからお父さんが出て行ったという一言がキツい。


夜の新宿に1人車椅子で飛び出して、たまたま知り合って仲良くなった仲間と大はしゃぎ。家では母親が心配という構図である。

自分のように長く人生を生きていると、似たようなケースを身近に見ることもある。それなので、人ごとに見れない。しかも、この映画は偶然が偶然を呼び思いがけない展開になっていく。それがまた泣けてくる。母親役も好演。意図的でなく、明らかに演技を超越した実感がこもった涙を見せていてこちらも泣けてきた。

それでも、障がい者の映画という暗さでない後味の良さが得られた。必見であろう。


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映画「女妖」山本富士子&船越英二&三隅研次

2021-03-07 08:31:34 | 映画(日本 昭和35年~49年)
映画「女妖」を名画座で観てきました。


「女妖」は昭和35年(1960年)の大映映画だ。名画座の三隅研次特集で初めて出会う映画である。売れっ子作家をめぐる3つの独立したストーリーが描かれるオムニバス形式である。京マチ子、山本富士子、若尾文子という当時の大映看板女優で制作した女経はブログにもアップしているが、なかなか面白い。似たような題名の「女妖」にも惹かれて映画館に向かう。3人の美人女優ということでは同じだが、男性側は売れっ子作家の船越英二1人である。

浅草六区で雑誌社のカメラマンに写真を撮られた山本富士子が写る記事を売れっ子作家の船越英二が見つける。雑誌社に自ら名乗り出たら3万円あげるという。その彼女を雷門の側で見つけた後に地下鉄の駅で見かける。その後、船越が馴染みの寿司屋にいたら、なんと富士子が入ってきて思わず声をかける。

雑誌で写っていた方ですねというと、自ら名乗り出るつもりはないという。そんな富士子と昼から飲んで意気投合し、深夜まで2人ではしご酒、そのままホテル直行する。しかし、そんな富士子の姿を街のチンピラがずっと追いかけている。やがて、夜半に外で音がすると、ヤクザの組長の高松英郎が撃たれホテルに飛び込んでくるのであるが。。。

箱根のロープウェイで売れっ子作家の船越英二は、鮮やかな黄色のワンピースに身を包んだ野添ひとみに声をかけられる。船越が作家だという身分を知った上で、ちょっかい出してくる。美人なのでついつい気が緩み、熱海に連れて行こうとするが連絡先だけ教えてその場を立ち去る。

その後、ひとみから手紙をもらい高井戸のアパートに行くが、ボロアパートであった。色目を使う野添に船越は抱きつこうとすると、自分は結核だと言って咳き込む。船越はこれで病院に行きなさいと小遣い銭を渡すが、もう先がないと薬を飲んで自殺未遂をする。慌てて救急車を呼ぶのであるが。。。


売れっ子作家の船越英二は、グランドキャバレーに行き、ホステス叶順子を探しに行く。その後、本人が船越の自宅にひょっこり現れる。お父さんでしょと順子が言う。戦前、上海にいたときに船越が付き合った女性がいた。戦中ということもあり別れたが、どうやら彼女との間にできた娘のようだ。母親はすでに亡くなっている。順子が母親の写真を見せると、本人に間違いない。船越は喜び、ご馳走したり一緒に日光に行ったりするのであるが。。。


⒈三隅研次監督
座頭市や眠狂四郎シリーズ、大菩薩峠などの大映時代劇でメガホンをとっている。大映の時代劇は、独特のムーディーな感じの照明効果を持つ夜の描写が自分のお気に入りだ。その中でも三隅は、市川雷蔵の妖気じみた雰囲気を出すのが天下一品である。そんな三隅研次には珍しい現代劇というなら気になって仕方ない。

誰もが、三隅研次の職人的腕前を知っているので、大映倒産後も映画版「子連れ狼」でメガホンをとっていたが、早く亡くなっているのは残念

⒉3人の美人女優
女経でも山本富士子船越英二とコンビを組んでいる。今のご時世、女は魔物なんていうものなら、女性蔑視でとんでもないパッシングを受ける。でも、1960年代に入るくらいは、生きていくのに精一杯の女たちが、男をたぶらかしながら生きていくという構図があるのであろう。

売れっ子作家がたまたま意気投合した美女山本富士子がヤクザの2代目だったという話、いつもながら着物のセンスが抜群に良く美しい。野添ひとみは昭和40年代も美人女優で活躍していたのでなじみがある。川口浩とのおしどり夫婦というのがむしろ売りだったかもしれない。小悪魔的ムードもあり、女詐欺師を演じるのは適役であろう。叶順子は昭和30年代には引退してしまったので、自分には縁が薄いが、いかにも人気女優らしく自由奔放なあっけらかんとした雰囲気がいい。父親が風呂に入っているのに、裸になって洗い場に入ってきて船越英二の父親が戸惑う。

⒊昭和35年の日本
昭和35年の浅草六区エリアが映る。映画館の周りに人が多い。自分が子供の頃昭和40年から50年代にかけてには浅草六区が落ちぶれていた時期がある。寂れた感じがしたものだが、ここでは往年の浅草が残る。東武浅草駅と松屋を映すが、その前の花川戸周辺の道路をトロリーバスが走る。自分が小さいときは地元五反田の近くも走っていた。逆の方向に向かうショットでは神谷バーも出てくる。

スシの折り詰めが400円、金魚すくい1回10円、連れ込みホテル泊まりで800円だ。これってイメージ10倍かな?3万円の賞金というのは今で言えば30万円ということなのか?

野添ひとみが出るシーンでは、箱根と小田原が映る。古い小田原駅が情緒ある。野添の住所が高井戸になっていて、駅が若干周囲の家より高い位置にあることから、おそらくは駅は高井戸駅で走る電車は旧型の井の頭線ではないだろうか?

叶順子と船越英二が親子だとわかって、一緒に日光に向かうシーンがある。華厳の滝と中禅寺湖畔、東照宮を映す。日光の華厳の滝自体は変わりようがない。でも、映画の大画面であの豪快な滝をアップで映すシーンって意外にないんじゃないだろうか?マリリンモンローの「ナイアガラ」もそうだが、大画面で見ると迫力があるもんだ。

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