映画とライフデザイン

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映画「アウシュヴィッツの生還者」 ベンフォスター& バリーレヴィンソン

2023-08-14 17:54:26 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「アウシュヴィッツからの生還者」を映画館で観てきました。


映画「アウシュヴィッツの生還者」は第二次世界大戦の最中、ナチスのアウシュヴィッツ収容所にいたユダヤ人男性が収容所でのむごい話を振り返り、戦後アメリカでボクサーとなった後の人生までをたどる物語である。最近多いナチス統治時代を描いた映画はめったに観ないけど、先日「ナチスに仕掛けたチェスゲームは観た。イマイチだった。今回はスルーの気分だったけど、監督がアカデミー賞作品「レインマン」バリーレヴィンソンだと気づくと同時にボクシング界では伝説的存在である無敗のチャンピオンロッキーマルシアノと対戦する場面があると確認して考えを変え映画館に向かう。

1949年、ナチスの強制収容所から生還したハリーハフト(ベンフォスター)は、アメリカに渡りボクサーになる一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。自分の生存を伝える意味もあって、アウシュヴィッツ収容所帰りのハフトを記事にしようとしていたアンダーソン記者(ピーター・サースガード)の取材に応じた。


ナチスの軍人が仕切る賭けボクシングで、ユダヤ人捕虜と生き残りの試合をしていた過去があった事実を記者に告白する。記事となり世間の話題になっても期待していたレアからの反応はなかった。ハリーはレアを探すことで知り合った公務員のミリアム(ヴィッキークリーブス)と結婚する。しかし、トラウマで悪夢に襲われることが多くなる。

重い作品だけど完成度は高い。見応えがある。
ダスティンホフマンの「レインマン」、ロバートレッドフォードの「ナチュラル」など歴史的傑作を生んできただけあって、80歳を超えてもバリーレヴィンソン監督の伝記物での手腕を感じさせる。正直忘れていた存在だったけど、題材に恵まれ力量を発揮した。戦時中のモノクロ映像と戦後のカラー映像とを巧みに使い分け、時代背景も的確で構成力にも優れる作品だ。

収容所生活を描くモノクロ映像は悲惨である。
28キロ減量したというベンフォスターガリガリの身体だ。悲惨なアウシュヴィッツの収容所生活を表現するために体当たりで取り組む。これまでボクシング映画で思いっきり減量した俳優はいたけど、ベンフォスターのいかにも中年太り姿とのギャップに凄さがわかる。ベンフォスターの役づくりには感動する。しかも、多難な事象に接した時の心の揺れを表情で示す演技も味がある。


たまたま、ドイツ兵に反抗したユダヤ人捕虜ハフトが、あるドイツ軍将校に別室に連れて行かれる。そこで、ユダヤ人捕虜同士が立てなくなるまで闘う賭けボクシングの話を聞く。結局命令されてリングに上がることになる。負けた方は銃殺だ。まさにサバイバルゲームである。ハフトも最初はユダヤ人同胞を倒すことに躊躇する。でも、そんなことは言ってられない。必死に生き延びようとするエピソードをいくつも映し出す。卑劣である。

クエンティンタランチーノ「ジャンゴ」レオナルドデカプリオ演じる領主が奴隷同士を殺し合いと思しき真剣勝負で闘わせるシーンがあった。それを思い出した。その時も凄えむごいシーンだと思ったけど、視線は奴隷からではない。ここではやっている張本人から見てどう感じるかを捉える。欧米では権力者がずっとこんなことさせて遊んできたのかと思うとつらい。


1949年と1963年のハウトをカラーで映し出す
この映画の根底に流れるのは、収容所に入る前に生き別れになった恋人レアとの純愛だ。サバイバルゲームに耐え、ようやく一般社会に戻れてアメリカに移住しても連絡がつかない。最後に収容所にいたのは確認できている。でも、その後はわからない。彼女探しでお世話になったミリアムに接近する。


ボクサーになっていたハフトが自分が生きていることをレアに示すために、当時チャンピオンになる道を歩んでいる連戦連勝のロッキーマルシアノへの挑戦をジムで宣言する。でも、直近で負け続きのハフトとはやるはずがない。そこで、以前からアウシュヴィッツ収容所での様子を取材したいという記者の取材を受けて、生き残るための賭けボクシングについて語る。そうすれば、記事を見てレアから反応があると思ったのだ。でも連絡がなかった。ただ、世間の話題になった後でロッキーマルシアノとの対戦が成立することになった。

ボクシングの歴史を知っている人からすれば、無敗の世界チャンピオンだったロッキーマルシアノはあまりにも飛び抜けた存在だ。もちろん勝てるわけもない。話題になればきっとレアに会えるという思いだけなのだ。何気にロッキーマルシアノの戦歴を見ると、確かにハリーハフトと戦っている記録がある。その後、マルシアノは世界チャンピオンとなり、無敗のまま引退するのだ。


この映画の題材は盛りだくさんだ。エピソードが多い。
アウシュヴィッツ収容所での残虐なエピソードに加えて、ロッキーマルシアノとの対決に備えてのトレーニングに励む姿や試合の模様、もともとの純愛の行方など波乱の人生をハリーハフトがいかに送ったかを映像で追う。久々登場の怪優ダニーデヴィートの存在も効果的で、妻になったヴィッキークリーブスの優しさあふれる姿にも心ひかれる。


話のネタに欠くことがなく実に見応えがある映画になっている。
直近でいちばんのおすすめだ。
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