ヨットはすぐに転覆してしまうので危険きわまりないと思っている人がいます。
しかしヨットには2種類あって、「すぐに転覆するヨット」と「絶対に転覆しないヨット」があります。前者はキャビン(客室)の無い小型ヨットでディンギーと言い、後者はキャビンがあり、クルーザー・ヨットと言います。
ディンギーは公園の池などでよく見かける手漕ぎボートのような舟にマストを立てた構造で、長さも普通5m以下です。
一方、クルーザー・ヨットは長さが普通6m以上で、屋根のついた気密なキャビンを持っています。そして船底に転覆防止のために重い鉄板が水中へ突き出ています。この重い鉄板のことをキールと言います。
キールは丁度、釣りのとき使う「浮き」の下にある「重り」と同じ役目をしています。その重りのお陰で、浮きがどんなに傾いても直ぐに起き上がります。
ですから「ヨットはすぐに転覆する」という理解はディンギーに関しては正しく、クルーザー・ヨットに関しては大きな誤解なのです。
それでは写真に従ってもう少し分かり易く説明いたします。
下の写真はディンギーを2人の若者が、舟が右側に倒れないようにマストからのロープを左方向へ引っ張りながら走っています。帆を3枚上げているのでロープを引っ張る若者達は必死です。風が突然これ以上左から吹けば、ヨットは右側に転覆します。風前の灯のような状態です。危険だからスリルがあって楽しいのです。
私は50歳になってからヨットを始めました。江の島にあったヨットスクールへ何度も通い、ディンギーの帆走方法を習いました。
沖に出ます。快調に帆走していると、突風が襲うことがあります。転覆します。横倒しになったヨットの舷側や底に掴まります。
すると教官がモーターボートの上から「ヨットは自分の力で起こすものだあ!」と怒鳴ります。その通りで自分の力で起こせます。しかし転覆する時は強風なのです。波も荒れています。せっかく起こしたヨットが今度は反対側へ倒れます。50歳の中年過ぎの男にとってこの作業は厳し過ぎます。葉山のディンギー倶楽部に2年位通って帆走を習いましたが、かなり上手になっても横倒しになります。
そこで絶対に転覆しない構造のクルーザーヨットの中古を購入したのです。
クルーザーには23年間乗りましたが一度も横倒しになりませんでした。転覆もしませんでした。
下の写真は突風にあおわれて慌てている様子です。見っともない状態ですが、家内が陸上から撮った写真です。
上の状態を立てなおして正常な姿で港の外に出て行こうとしている姿が下の写真です。
右からの風を2枚のセールに受けて、快速で走っています。
ヨットには独りで乗ります。時々家内が一緒に乗って、帆走を手伝いますが、基本的には独りで帆走します。どんな強風が来てもクルーザー・ヨットは横倒しになりません。安心です。とても安全な乗り物なのです。
クルーザー・ヨットが絶対に沈まない巧妙な構造をもう少し説明致します。
2つの巧妙な構造があるのです。一つは重いキールが下についていることです。もう一つは横倒しになっても、真っ逆さまになっても水が入らない気密なキャビンがあることです。下の絵をご覧下さい。船底から下に突き出ているのがキールです。部厚い、丈夫な鉄板が船底にシッカリ固定してあるのです。そしてキールの重さは舟の全重量の3割から4割もあるのです。
舟の甲板の下は全て気密な空間になっていて、幾つかの船室になっています。中央の船室をメイン・キャビンと言います。前部をバウ・キャビン、後部をスターン・キャビンと言います。その他に水洗トイレの小部屋があります。ロッカーもついています。炊事用のコンロや流しも付いています。要するに生活出来るような構造になっているのです。後ろの出入り口さえ閉めてしまえば、この生活空間には絶対に水が入らないような気密構造になっているのです。
凄く荒れる海では波が逆巻いて大きなヨットを回転させます。運が悪いと真っ逆さまのまま動きを停止することがあります。本で読んだことですが、この場合でも暫く辛抱していると次の大波でヨットは再び起き上がるそうです。水さえキャビンに入らなければ絶対に沈まないそうです。
霞ヶ浦のような平水では逆巻く大波はめったに起きません。怖いのは強風だけです。しかし強風になりヨットが傾き、マストが水面につきそうになると風はセイルの上を吹きぬけて行きます。セイルに風の力が加わらない状態になるのです。ですから横倒し近くなっても暫く辛抱しているとヨットがひとりで起き上がります。起きあがったら、すかさずセイルを下ろして、エンジンをかけて帰港するば良いのです。
こういう怖い経験を何度かしました。スリル満点で後から愉快になります。
ヨットの趣味は危険ではありません。安全な構造になっているのです。
したがって中年になってから始める方へは、クルーザー・ヨットを是非お薦め致します。
尚、ディンギー・ヨットとかクルーザー・ヨットという呼び方は日本だけのようです。
アメリカでは両方をまとめてセイリング・ボートと呼びます。キャビンがありますか?長さ何フィートですかなどと聞かれます。
モーターボートはアメリカではパワー・ボートと言います。
ヨットとは本来、遊びの為に使う個人所有の船の総称です。ですからパワーボートもセイリング・ボートも含みます。それ以上に大きな個人所有の汽船も、3本マストの帆船もヨットと呼ぶ場合もあるようです。日本へ欧米文化が輸入されるときしばしば起きる言葉の変化の一例です。
それはそれとして、これからセイリング・ボートを自分の趣味にしようとする方々の参考になれば嬉しく思います。(終り)
それにしても、江ノ島のヨットスクール(○田急?)はひどいところですね。家族も職もある50歳以上は、無理しないセーリングを心がけるべきで、強風時に出ること事態、ばかげています。
風のある日は、出航しないで、マリーナでくつろぐ。これもセーリングの楽しみです。
コメント有難う御座います。
おほめ頂き嬉しいです。
ところで私が通っていたヨットスクールは「レッツ・ゴー・セイリング」という野蛮なものでした。ジブシートもメインシートも一切留める金具がついていなくて、何時も手に持てと教えていました。
転覆したヨットを起こすのも訓練科目でした。
時代に合わなくなったのか、現在は無くなりました。
小田急ヨットは現在でも経営を続けています。
有難う御座いました。
敬具、後藤和弘
洋上生活を何年もという方もいらっしゃるのでしょうね。わかりやすい解説、ありがとうございました。
今はヨットの運転を教えてくれる人を探しているのですが、どなたか紹介して頂けませんか。