子供の頃、布団のなかで目を覚ますと、台所からコトコトと葱を刻む音。
やがて味噌の匂いがプーンとしてきました。一日の始まりでした。
この時が、葱との最初の出会いだったのでしょうか。
次に葱を意識したのは、大人になってお酒を飲むようになってから。
ぶつ切りにした葱と鶏肉をさした串料理。
あらためて葱って美味しいと感じたものです。
葱は、ほとんど毎日のように口にしていますが、食卓の主役にはなりません。
欠かせない脇役といったところでしょうか。
葱の句といえば永田耕衣の句。
夢の世に葱を作りて寂しさよ
この句、何回、読んでも変な句だなあと思います。
でも気になる句でもあります。
永田耕衣は、「観念的」な句をつくった人のようです。
此の世を夢の世という観念。形而上学。
それに組み合わせられたのが、まさに日常的な脇役の「葱」。
冬という季節感を持った形而下そのもの。
句では、形而上と形而下が取り合わされて、寂しさが詠まれています。
この句でも、葱は、名脇役のようですが、
夢の世と取り合わされた「葱」自身は、どう思っているんでしょうね。
蛇足
葱は、冬の季語で、冬のもの。
ユリ科の多年草で、寒いシベリアあたりが原産とか。
関東と関西では種類が違うのか、東では根の白いところを食べ、西では緑の葉も食べます。
葱を入れた味噌汁を根深汁といいます。
私の家では、根深汁とは言わなかったように記憶していますが、
皆さんの家ではどうですか?
定年や主任止まりの根深汁 (今朝の中日俳壇より)