【まくら】
江戸時代は声色の芸がプロアマ問わず、たいへん盛んだった。
なんといっても歌舞伎の影響である。
江戸時代の初期から、お座敷では幇間が歌舞伎役者の声色をやって客を喜ばせていた。
もっと多くの人々の眼にふれたのは、芝居小屋の木戸口で呼び込みを行う木戸芸者である。
彼らは木戸上の台上で、毎日その日の役者の声色で芝居のせりふを聞かせ、扇子で客を招いた。通りがかりの客はその面白さについ、木戸口をくぐってしまうのである。
芝居好きの中には声色好きも身振り好きもいるが、『鸚鵡石(おうむせき)』という歌舞伎の名ぜりふ集が江戸でも大坂でもおおいに売れていて、これは声色でせりふを語るための本であった。
やはり声色好きの方が、圧倒的に多かったのだろう。
声色は、今で言えばカラオケみたいなものである。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
遊び好きの若旦那(銀之助)は返りが遅いから、いえ、帰ってこないから、どこに行くにも小言で送り出される。
風呂に行くと出てきたが、遊びに行きたくてしょうがない。
頼み事があって善公の家に出掛けて来た。
声色が上手いと評判で、ある時亀清で、「石町の旦那とお宅の旦那がいる所で、貴方の声色を使ったら本人と間違われた」。
親父が騙されたくらいだから上手さは分かるので、ひとつ相談に乗って欲しい、ときりだした。
「花魁の所に行って声色を使って騙して楽しむんでしょう。」、「そうじゃなくて、家に行って親父を安心させてほしいんだ。」、「一緒に行けるんじゃないですか。」、「いやなら、羽織と10円付けて他の奴に頼むから。」、「分かりましたよ。やりますよ。家に行きましょう」。
善公声色で「今帰りました。」、「お帰り。早く寝なさいよ」。完全に騙されている親父だった。一緒に行けない愚痴を言いながらも、若旦那を送り出して、コソコソと2階に上がってしまった。
下から親父が「今朝方いただいた干物は何の干物だった?」、そんな話は打ち合わせていないので、ドギマギする善公であった。「どこにしまったのだ」、「う~、、、干物箱です。」、「家にはそんな箱は無いよ。」、「では下駄箱でしょう。」、「おいおい、食べ物だよ」、「おやすみなさい」。
「なにか鼠が走っているようだ、見ておくれ」、「・・・」、「私がするから、イイ!」。わぁ~、羽織抱えて逃げ出したくなった善公であった。若旦那は今頃吉原で楽しんでいるだろうな、と思うとガッカリするだけであった。
まだ寝ることも出来ないので、花魁から来た手紙を盗み見ると、『・・・あの善公は嫌な奴で、こないだは汚き越中褌を忘れて行った。その褌は鼠のケマンのようで、(そう言えば、紐が丸まってほどけないので切ってしまい、布団の下に丸め込んでおいたんだ)翌日布団を上げると臭気甚だしく、仲の町まで匂い(そんなとこまで匂うか)角町・揚屋町まで大評判、衛生係が出張し、石炭酸もよほどの散財、嗚呼嫌な奴。』、「なんで褌忘れたぐらいでこんなに書かれなくてはいけないんだ。こっちは客だぞ!」と、つい声が大きくなる。
その騒ぎを聞いていた旦那は一人ではないと思い、2階に上がってきて、善公の身がばれてしまった。
「お~ぃ、善公。お~ぃ、忘れモンだよ。」ドンドンドン「お~ぃ、洋ダンスの引出し、紙入れ。紙入れ忘れたよ。放っておくれよ。善公。」、
「銀之助。どこをノソノソ歩いてる!」、
「あはは、善公は器用だな。親父そっくり」。
出典: 落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
仕込落ち(まくらや筋の中で、さり気なく説明をしておかないと、結末が理解されにくい落ち)
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『親のすね、かじる息子の歯の白さ』(独立することができず親のおかげで生活する人が、 返って身なりを小綺麗に飾って遊 び暮らす例が多いこと)
『傾城の恋はまことの恋ならで金持ってこいが本当のこいなり』
【語句豆辞典】
【亀清(かめせい)】現在も台東区柳橋にある料亭「亀清楼」
【石町(こくちょう)】日本橋本石町の略。
【華鬘(けまん)】仏前を荘厳にするために、仏堂内陣の欄間などにかける装飾。

【声色(こわいろ)】他人の声をまねて楽しむ事。またはその芸。
【この噺を得意とした落語家】
・八代目 桂 文楽
・三代目 古今亭志ん朝
・十代目 金原亭馬生
・四代目 桂 三木助
【落語豆知識】
【ドロ】演芸中に、幽霊が出てくる場面で入れる太鼓。

干物箱(三代目古今亭志ん朝)Part1of3
干物箱(三代目古今亭志ん朝)Part2of3
干物箱(三代目古今亭志ん朝)Part3of3
江戸時代は声色の芸がプロアマ問わず、たいへん盛んだった。
なんといっても歌舞伎の影響である。
江戸時代の初期から、お座敷では幇間が歌舞伎役者の声色をやって客を喜ばせていた。
もっと多くの人々の眼にふれたのは、芝居小屋の木戸口で呼び込みを行う木戸芸者である。
彼らは木戸上の台上で、毎日その日の役者の声色で芝居のせりふを聞かせ、扇子で客を招いた。通りがかりの客はその面白さについ、木戸口をくぐってしまうのである。
芝居好きの中には声色好きも身振り好きもいるが、『鸚鵡石(おうむせき)』という歌舞伎の名ぜりふ集が江戸でも大坂でもおおいに売れていて、これは声色でせりふを語るための本であった。
やはり声色好きの方が、圧倒的に多かったのだろう。
声色は、今で言えばカラオケみたいなものである。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
遊び好きの若旦那(銀之助)は返りが遅いから、いえ、帰ってこないから、どこに行くにも小言で送り出される。
風呂に行くと出てきたが、遊びに行きたくてしょうがない。
頼み事があって善公の家に出掛けて来た。
声色が上手いと評判で、ある時亀清で、「石町の旦那とお宅の旦那がいる所で、貴方の声色を使ったら本人と間違われた」。
親父が騙されたくらいだから上手さは分かるので、ひとつ相談に乗って欲しい、ときりだした。
「花魁の所に行って声色を使って騙して楽しむんでしょう。」、「そうじゃなくて、家に行って親父を安心させてほしいんだ。」、「一緒に行けるんじゃないですか。」、「いやなら、羽織と10円付けて他の奴に頼むから。」、「分かりましたよ。やりますよ。家に行きましょう」。
善公声色で「今帰りました。」、「お帰り。早く寝なさいよ」。完全に騙されている親父だった。一緒に行けない愚痴を言いながらも、若旦那を送り出して、コソコソと2階に上がってしまった。
下から親父が「今朝方いただいた干物は何の干物だった?」、そんな話は打ち合わせていないので、ドギマギする善公であった。「どこにしまったのだ」、「う~、、、干物箱です。」、「家にはそんな箱は無いよ。」、「では下駄箱でしょう。」、「おいおい、食べ物だよ」、「おやすみなさい」。
「なにか鼠が走っているようだ、見ておくれ」、「・・・」、「私がするから、イイ!」。わぁ~、羽織抱えて逃げ出したくなった善公であった。若旦那は今頃吉原で楽しんでいるだろうな、と思うとガッカリするだけであった。
まだ寝ることも出来ないので、花魁から来た手紙を盗み見ると、『・・・あの善公は嫌な奴で、こないだは汚き越中褌を忘れて行った。その褌は鼠のケマンのようで、(そう言えば、紐が丸まってほどけないので切ってしまい、布団の下に丸め込んでおいたんだ)翌日布団を上げると臭気甚だしく、仲の町まで匂い(そんなとこまで匂うか)角町・揚屋町まで大評判、衛生係が出張し、石炭酸もよほどの散財、嗚呼嫌な奴。』、「なんで褌忘れたぐらいでこんなに書かれなくてはいけないんだ。こっちは客だぞ!」と、つい声が大きくなる。
その騒ぎを聞いていた旦那は一人ではないと思い、2階に上がってきて、善公の身がばれてしまった。
「お~ぃ、善公。お~ぃ、忘れモンだよ。」ドンドンドン「お~ぃ、洋ダンスの引出し、紙入れ。紙入れ忘れたよ。放っておくれよ。善公。」、
「銀之助。どこをノソノソ歩いてる!」、
「あはは、善公は器用だな。親父そっくり」。
出典: 落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
仕込落ち(まくらや筋の中で、さり気なく説明をしておかないと、結末が理解されにくい落ち)
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『親のすね、かじる息子の歯の白さ』(独立することができず親のおかげで生活する人が、 返って身なりを小綺麗に飾って遊 び暮らす例が多いこと)
『傾城の恋はまことの恋ならで金持ってこいが本当のこいなり』
【語句豆辞典】
【亀清(かめせい)】現在も台東区柳橋にある料亭「亀清楼」
【石町(こくちょう)】日本橋本石町の略。
【華鬘(けまん)】仏前を荘厳にするために、仏堂内陣の欄間などにかける装飾。

【声色(こわいろ)】他人の声をまねて楽しむ事。またはその芸。
【この噺を得意とした落語家】
・八代目 桂 文楽
・三代目 古今亭志ん朝
・十代目 金原亭馬生
・四代目 桂 三木助
【落語豆知識】
【ドロ】演芸中に、幽霊が出てくる場面で入れる太鼓。



干物箱(三代目古今亭志ん朝)Part1of3
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