【まくら】
江戸期の官立医療施設としては、貧しい人々も治療を受けられる「小石川養生所」があるのみだった。
それを補っていたのが多くの漢方・蘭方の医者である。
江戸の町にはたくさんの医者がいた。
身分にかかわらず開業することのできる職業で、さらに資格試験もなかったからである。
クチコミで評判が広がり、人気を集めるというのが唯一の宣伝方法だったようだ。そのため流行り医者ともなると、玄関先の待合室に「薬取り」を多勢待たせておくのが常道だった。
流行っていることを目立たせたのだ。
診察料や薬代が決まったのは、幕末の蘭方医からである。
ただどんな医者も江戸の三大疾病といわれる「疱瘡」「麻疹」「脚気」などが流行した場合は、当時の医学ではなす術もなく、まじないや神仏の力にすがるというのが実状だった。
これらの病は江戸の人にとって、死神も同様だったであろう。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
お金の算段も出来ず、女房に悪態をつかれて家を飛び出してきた。
女房に言われたとおり、「死んじゃおうか」と思い始めていた。
「死に方を教えてあげようか」と死神が現れた。
昔からの因縁があるので、金儲けの方法を教えてやる、と言う。
医者になって、病人を診れば必ず死神が付いている。
死神を見えるようにしておいたから、その死神が病人の足元に付いていれば助かる、枕元に座っていたら寿命だから助からない。
足元の死神は呪文を唱えれば消えて居なくなり、病人は助かる。
その呪文を教えてもらって、自宅に蒲鉾板に『いしゃ』の看板を出した。
まもなく、日本橋越前屋から使いが来て病人を診てほしいと頼まれた。
あまりにも小汚く医者らしくないので、病人を見るだけで、触らせなければいいだろうと言う事で、病人の前に出された。
足元に死神が座っていたので、呪文を唱えて全快となった。
この噂を聞いた人達が頼みに来ると、良い塩梅に死神は足元にいて治してやった。頭の方に座っていると「寿命です」と言って家を出ると、亡くなるので生き神様ではないかと評判が立った。
お陰で、裏長屋から表に出て、生活も豊かになった。
女を囲うようになって、女房、子供に金を付けて追い出してしまった。
女に上方を見たいと言われ、家屋敷を処分して、豪遊に出た。
しかし、金は使えば無くなるもので、いつの間にか女は居なくなってしまった。
ぼんやり戻ってきたが、どこからも診療の依頼が来なかった。
行っても、頭の方に死神が居て、仕事にならなかった。
麹町三丁目伊勢屋伝右衛門から使者が来た。
行くと、頭の方に死神が座っていて、寿命だと言った。
そこを、三千両出すからなんとか・・・。
では、一月だけでもなんとかなれば一万両出す、と言われて考え込んでしまった。
気が利いて力持ちの若者4人を寝床の四隅に座らせた。
合図をしたら布団をくるっと回して、頭は足元に、足は枕元になるようにしてくれと頼んだ。
夜になると死神は目をランランと輝かせ活動していたが、陽が昇り死神も疲れたとみえて、コックリをし始めた。
ここぞとばかり合図を送り、布団を回し呪文を唱えた。
驚いた死神は飛び上がって消えてしまった。
病人はウソのように全快して、お金を貰って帰ってきた。
久しぶりに一杯引っかけて、上機嫌で歩いていると死神が声を掛けた。
死神は男と一緒に洞窟のような所に連れて行った。
そこには燃えている蝋燭が沢山あった。蝋燭1本1本が人間の寿命で、くすぶっているのは病人、長いのは寿命があり、短いのは寿命が短いのだと言う。
長くて元気に燃えているのは息子で、半分の長さは前の女房であった。
隣にある蝋燭は今にも消えそうであった。
聞くと自分の寿命だという。
死神は男の寿命がまだまだ有ると言ったが、それは、お金に目がくらんで患者と蝋燭を交換してしまった為だと言う。
「金を返すから何とかして」と懇願したが「一度交換したものは出来ない」とつれない返事であった。
「昔、因縁があったのでしょう、だったら何とかして・・・」、「では、燃えさしがあるから、これを繋いでみな」。
上手く繋がれば命が延びるという。
「何でそんなに震えて居るんだ。震えると消ぇるよ。消ぇると死ぬよ」、「そんな事言わないで~」、「震えると消ぇるよ。へへへ・・・消ぇるよ。・・・消ぇるよ。・・・ほらほら・・・ 、消ぇた」。(バッタッと円生舞台に突っ伏す)
出典: 落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
仕草落ち(言葉に出さず、動作や表情などで見せる落ち)
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『四百四病の病より貧ほど辛いものはない』
『袖すり合うも他生の縁、つまずく石も縁の端』
『偽りのある世なりけり神無月、貧乏神は身をも離れず』
『下がっちゃ怖いよ柳のお化け』
【この噺を得意とした落語家】
・三代目 三遊亭金馬
・五代目 古今亭今輔
・六代目 三遊亭圓生
・十代目 柳家小三治
・立川志の輔
【落語豆知識】
【地域寄席】定席ではないが、定期的に蕎麦屋や喫茶店などの場所を借りて行なわれる寄席。
江戸期の官立医療施設としては、貧しい人々も治療を受けられる「小石川養生所」があるのみだった。
それを補っていたのが多くの漢方・蘭方の医者である。
江戸の町にはたくさんの医者がいた。
身分にかかわらず開業することのできる職業で、さらに資格試験もなかったからである。
クチコミで評判が広がり、人気を集めるというのが唯一の宣伝方法だったようだ。そのため流行り医者ともなると、玄関先の待合室に「薬取り」を多勢待たせておくのが常道だった。
流行っていることを目立たせたのだ。
診察料や薬代が決まったのは、幕末の蘭方医からである。
ただどんな医者も江戸の三大疾病といわれる「疱瘡」「麻疹」「脚気」などが流行した場合は、当時の医学ではなす術もなく、まじないや神仏の力にすがるというのが実状だった。
これらの病は江戸の人にとって、死神も同様だったであろう。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
お金の算段も出来ず、女房に悪態をつかれて家を飛び出してきた。
女房に言われたとおり、「死んじゃおうか」と思い始めていた。
「死に方を教えてあげようか」と死神が現れた。
昔からの因縁があるので、金儲けの方法を教えてやる、と言う。
医者になって、病人を診れば必ず死神が付いている。
死神を見えるようにしておいたから、その死神が病人の足元に付いていれば助かる、枕元に座っていたら寿命だから助からない。
足元の死神は呪文を唱えれば消えて居なくなり、病人は助かる。
その呪文を教えてもらって、自宅に蒲鉾板に『いしゃ』の看板を出した。
まもなく、日本橋越前屋から使いが来て病人を診てほしいと頼まれた。
あまりにも小汚く医者らしくないので、病人を見るだけで、触らせなければいいだろうと言う事で、病人の前に出された。
足元に死神が座っていたので、呪文を唱えて全快となった。
この噂を聞いた人達が頼みに来ると、良い塩梅に死神は足元にいて治してやった。頭の方に座っていると「寿命です」と言って家を出ると、亡くなるので生き神様ではないかと評判が立った。
お陰で、裏長屋から表に出て、生活も豊かになった。
女を囲うようになって、女房、子供に金を付けて追い出してしまった。
女に上方を見たいと言われ、家屋敷を処分して、豪遊に出た。
しかし、金は使えば無くなるもので、いつの間にか女は居なくなってしまった。
ぼんやり戻ってきたが、どこからも診療の依頼が来なかった。
行っても、頭の方に死神が居て、仕事にならなかった。
麹町三丁目伊勢屋伝右衛門から使者が来た。
行くと、頭の方に死神が座っていて、寿命だと言った。
そこを、三千両出すからなんとか・・・。
では、一月だけでもなんとかなれば一万両出す、と言われて考え込んでしまった。
気が利いて力持ちの若者4人を寝床の四隅に座らせた。
合図をしたら布団をくるっと回して、頭は足元に、足は枕元になるようにしてくれと頼んだ。
夜になると死神は目をランランと輝かせ活動していたが、陽が昇り死神も疲れたとみえて、コックリをし始めた。
ここぞとばかり合図を送り、布団を回し呪文を唱えた。
驚いた死神は飛び上がって消えてしまった。
病人はウソのように全快して、お金を貰って帰ってきた。
久しぶりに一杯引っかけて、上機嫌で歩いていると死神が声を掛けた。
死神は男と一緒に洞窟のような所に連れて行った。
そこには燃えている蝋燭が沢山あった。蝋燭1本1本が人間の寿命で、くすぶっているのは病人、長いのは寿命があり、短いのは寿命が短いのだと言う。
長くて元気に燃えているのは息子で、半分の長さは前の女房であった。
隣にある蝋燭は今にも消えそうであった。
聞くと自分の寿命だという。
死神は男の寿命がまだまだ有ると言ったが、それは、お金に目がくらんで患者と蝋燭を交換してしまった為だと言う。
「金を返すから何とかして」と懇願したが「一度交換したものは出来ない」とつれない返事であった。
「昔、因縁があったのでしょう、だったら何とかして・・・」、「では、燃えさしがあるから、これを繋いでみな」。
上手く繋がれば命が延びるという。
「何でそんなに震えて居るんだ。震えると消ぇるよ。消ぇると死ぬよ」、「そんな事言わないで~」、「震えると消ぇるよ。へへへ・・・消ぇるよ。・・・消ぇるよ。・・・ほらほら・・・ 、消ぇた」。(バッタッと円生舞台に突っ伏す)
出典: 落語の舞台を歩く
【オチ・サゲ】
仕草落ち(言葉に出さず、動作や表情などで見せる落ち)
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『四百四病の病より貧ほど辛いものはない』
『袖すり合うも他生の縁、つまずく石も縁の端』
『偽りのある世なりけり神無月、貧乏神は身をも離れず』
『下がっちゃ怖いよ柳のお化け』
【この噺を得意とした落語家】
・三代目 三遊亭金馬
・五代目 古今亭今輔
・六代目 三遊亭圓生
・十代目 柳家小三治
・立川志の輔
【落語豆知識】
【地域寄席】定席ではないが、定期的に蕎麦屋や喫茶店などの場所を借りて行なわれる寄席。