【原文】
甲香は、ほら貝のやうなるが、小さくて、口のほどの細長にさし出いでたる貝の蓋なり。
武蔵国金沢といふ浦にありしを、所の者は、「へなだりと申し侍はべる」とぞ言ひし
武蔵国金沢といふ浦にありしを、所の者は、「へなだりと申し侍はべる」とぞ言ひし
【現代語訳】
甲香というのは、法螺貝に似た小さな貝の細い先端に付いている蓋のことだ。
金沢文庫の入り江にたくさん転がっていて、土着の者が「へなだりと言うんだよ」と言っていた。
金沢文庫の入り江にたくさん転がっていて、土着の者が「へなだりと言うんだよ」と言っていた。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。