先週の聖金曜日にきいた、アーノンクールによる「ヨハネ受難曲」(記事は「『ヨハネ受難曲』 BWV245 [2]」)。これはアーノンクール2度目となる1985年の録音(録画)で、1度目の録音と同じように、できるかぎりバッハの響きを再現しようとするものでした。つまり、オーケストラはピリオド楽器のそれ(ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスはやや不徹底ですが)、そしてソプラノ、アルトのパートは少年で編成するというものです。
オーケストラの編成は、フルート=2、オーボエ=2(オーボエ・ダモーレ/オーボエ・ダ・カッチャ=2持ち替え)、ヴァイオリン2部=各6(ヴィオラ・ダモーレ=2持ち替え)、ヴィオラ=3、チェロ=2(ヴィオラ・ダ・ガンバ=1持ち替え)、ヴィオローネ=2、ファゴット=1、オルガン=1、リュート=1というもの。合唱の編成は、ソプラノ=11、アルト=7、テノール=7、バス=6です(数字はいずれも映像をみて数えたので誤りがあるかも)。
アリアを歌っている少年は、第9曲と第35曲をヘルムート・ヴィッテク(ソプラノ/1973年生)、第7曲をクリスティアン・イムラー(アルト/1971年生)、第30曲をパニト・イコノモウ(アルト/1971年生)の3人(曲番号は新全集)。なお、アルト2人はパロットのロ短調ミサ曲(記事は「パロットによるロ短調ミサ曲」)にも参加しています。また、イムラーはバス歌手としてミンコフスキのロ短調ミサ曲の録音に参加しています(記事は「ミンコフスキによるロ短調ミサ曲」)。
こうした編成での「ヨハネ受難曲」の演奏は、同受難曲の膨大な録音のなかでも、きわめて少数派です。同じような演奏様式での録音には、
- LP:シュナイト指揮レーゲンスブルク大聖堂聖歌隊/コレギウム聖エメラム(第2稿の異稿5曲が付録)
- CD:ヒギンボトム指揮オックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団/コレギウム・ノーヴム※
- CD/DVD:クレオバリー指揮キングス・カレッジ合唱団/ブランデンブルク・コンソート(第2稿)※※
があります。ただし、※はソプラノのみ少年。※※もソプラノのみ少年でソプラノのアリアは成人女性。ともにアルトはカウンターテナーです。
ほかにもあるかも知れませんが、少年を起用しての録音、とくにソロまで歌わせることは、それだけむずかしいということかもしれません。しかし、アーノンクールの演奏では、歌唱技術も高い水準にあるといえ、ソロを歌う少年たちもすぐれています。ライブでこれだけの水準ならば、もっと録音をのぞみたいところですが、指揮者の芸術的要求にこたえきれる少年はわずかでしょうし、変声という問題があって困難なのかもしれません。
ところで、このDVDのききどころをあげるとすれば、それはやはり最後のコラール(第40曲)でしょう。第39曲の合唱でおわってもよいところを(じっさい第3稿では削除)、バッハはコラールで結び、アーノンクールはこれを力まずに爽快な味で歌わせており、とても感動的な終結になっています。同じ感動的ながらも、「ジョン・エリオット・ガーディナーのバッハ」で紹介した、ガーディナーの「ヨハネ」とはずいぶん対照的です。