(今年1月4日 独立記念日のスー・チーさんとNLD幹部 “flickr”より freeyouth99 http://www.flickr.com/photos/68877352@N08/6257362209/ )
【テイン・セイン大統領、政党登録法の一部改正を承認】
ミャンマーでは、民政移行後のテイン・セイン政権による、民主化運動指導者スー・チーさんとのトップ会談、メディア規制の緩和、人権侵害の批判を受けてきたダム工事の5年間凍結、政治犯などを含む恩赦といった“民主化”の動きが相次いでいることは、10月25日ブログ「ミャンマー 政治犯釈放への評価と不満 日本はODA再開表明」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111025)でも取り上げたところです。
もちろん、国会議員の4分の1は軍人枠で、残りの8割も軍政が母体の連邦団結発展党(USDP)が占めるといったように、テイン・セイン政権が基本的に軍事政権の枠組みを引き継ぐものであることは言うまでもないことですが、ミャンマーのASEAN議長国就任や経済制裁緩和を目指していると評される一連の“変化”は想像以上のものがあります。
更に、テイン・セイン大統領は、服役囚に党員資格を与えないとした条項の削除を含む政党登録法の一部改正を承認しました。これは、スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)の求めに沿う内容で、総選挙をボイコットして解党されたNLDが政党として再登録する可能性が出てきました。
スー・チーさん側の反応については、“スー・チーさんは再登録の可能性について、「法律が正式に施行された後に党として検討する」と述べていた。ただ、改正に当たってはスー・チーさんと政府側で事前に意見交換があったとみられており、何らかの形でNLDが国政に参加することになりそうだ。”【11月5日 毎日】と報じられていました。
NLDは18日の全国会議で対応を決定する方針です。
****ミャンマー:NLD、18日に全国会議 政党再登録を議論****
ミャンマーの民主化指導者アウンサンスーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)は8日、政党としての再登録や国会参加に応じるかを決めるため、今月18日に全国から100人以上の党中央委員会メンバーを集めて会議を開くことを決めた。
改正政党登録法が今月成立したのを受け、NLDは8日、最高幹部である中央執行委員が対応を協議。一度はボイコットした国会への参加には一般党員らの反対論も根強く、決定には全国の党幹部の意思統一を図る必要があると判断した模様だ。【11月8日 毎日】
****************************
NLDが政党再登録し、スー・チーさん自身が年内にも行われる国会の補選に出馬する公算が大きいとも報じられています。
****スー・チーさん出馬の公算=補選でNLD広報担当者―ミャンマー****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)が政党として再登録した上、スー・チーさん自身が年内にも行われる国会の補選に出馬する公算が大きいことが12日、分かった。NLDの広報担当者が認めた。NLDは18日に全体会議を開いて正式決定する。
17日から19日にかけ、インドネシアのバリ島でオバマ米大統領も出席する東アジアサミット(EAS)など一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が開かれる。その期間中にNLDが再登録とスー・チーさん自身の出馬を発表すれば、国際社会にミャンマーの民主化進展を強く印象づけることになりそうだ。【11月12日 時事】
****************************
こうした形で政権側の枠組みに取り込まれることを警戒する意見もあるようですが、やはり国会で主張することができるのであれば、たとえ大きな制約はあるにせよ、敢えてその道を自らふさぐことはないように思われます。
【ASEAN議長就任、経済制裁緩和に国際社会も前向き】
国際社会もテイン・セイン政権の変化を概ね好意的に受け止めています。
現在のASEAN議長国であるインドネシアの外相も、ミャンマーの14年議長国就任に肯定的な姿勢を見せています。
****ASEAN:インドネシア外相 ミャンマーの民主化を評価****
東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国インドネシアのマルティ外相は8日、バリ島で来週開かれるASEAN首脳会議を前に、毎日新聞などとジャカルタで会見した。2014年の議長国就任を目指すミャンマーについて、外相は「(民主化の)進展は著しい」と評価し、議長国就任に肯定的な姿勢を改めて強調した。
マルティ外相は会見で、政治囚釈放や民主化勢力との対話、政党登録法の改正などミャンマー政府による一連の措置を歓迎しながら「時期尚早との意見もあるかもしれないが、議長国就任が改革継続の動機を生み出すとの意見もある」と話し、議長国就任がミャンマー民主化の後押しにつながるとの見方を示した。
インドネシアなどASEAN各国がこの問題の解決を急ぐ背景には、15年のASEAN共同体構築がある。民主化や経済発展でのミャンマーの遅れは政治・経済統合を進める上での障害であり、人権状況を理由に米欧が科す経済制裁はASEANにとっても懸念材料となっている。
ミャンマーの議長国就任は今年5月のASEAN首脳会議で議論され、加盟国で合意されていたが、米国の反発を考慮して決定は先送りされた。今月のASEAN首脳会議を前に、ミャンマーの民主化進展をアピールするため、マルティ外相は先月末にミャンマーを訪問し、議長国就任に反対していた民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんから一定の理解を引き出すことにも成功した。一方、米国は国務省高官がミャンマー訪問を繰り返すなど、民主化への関与を強めている。
ミャンマーの議長国就任について、インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)のリザール・スクマ所長は「一種の賭けであり、議長国になった途端、ミャンマーが民主化を逆行させるようなことがあればASEANの評価に傷がつく」と指摘。「民主化の状況を監視し、いったん決定しても逆行させる動きを取れば、来年7月の首脳会議での議長国取り消しもあり得る、などの条件を付けるべきだ」と話す。【11月8日 毎日】
*********************************
アメリカも「変革は始まっている」(ポズナー米国務次官補(民主主義・人権・労働担当))との発言のように、経済制裁の緩和に向けた流れにあることを表明しています。
****米国務次官補、ミャンマーの改革路線を評価****
ミャンマーを訪問したマイケル・ポズナー米国務次官補(民主主義・人権・労働担当)は4日、ヤンゴンで記者会見し、テイン・セイン政権による政治経済改革路線について、「変革は始まっている」と評価した。
その上で、「改革前進が確認できれば、我々の関係は大きく改善する」と述べ、今後、政治犯釈放問題などで前進があれば、経済制裁の緩和も含めた関係改善策で応じていく考えを示した。
ポズナー氏のミャンマー訪問は初。デレク・ミッチェル米政府ミャンマー担当特別代表・政策調整官も同行し、米国が求める全ての政治犯の釈放などについて、ワナ・マウン・ルウィン外相らと協議した。【11月6日 読売】
*****************************
【10月に続き、2度目の政治犯釈放】
前回10月の恩赦では政治囚200人以上を含む6359人が恩赦されましたが、80年代から民主化運動に取り組んできた「88年世代グループ」の指導者など主要な政治囚は含まれておらず、「明るい兆候」(ミッチェル米政府ミャンマー担当特別代表)と述べる一方で、現在の釈放規模では不十分だとして、すべての政治囚を無条件で釈放するよう求めていました。
この不十分とも評価されている恩赦第2弾が実施されます。
****ミャンマー政治犯ら、14日にさらに釈放へ 政府筋****
ミャンマー(ビルマ)の政府筋は13日、政治犯を含む受刑者を14日に釈放する見通しを明らかにした。政治犯の釈放が実現すれば、先月12日に続き2度目。
政治犯釈放は、ミャンマーが目指すとする民主改革路線の証しとして国際社会が強く実施を求めている。
ミャンマーは2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国就任を目指しており、17日からインドネシア・バリ島で開かれる同首脳会議で合意を取り付けたい考え。政治犯の追加釈放は、それをにらんでの動きと見られる。
13日付の国営各紙は、国家人権委員会が政治犯の新たな釈放を求める公開書簡をテイン・セイン大統領に12日送ったと報じ、その内容を掲載した。それによると、政府は同委に対し、500人の「良心の囚人」がおり、前回の釈放後、300人が現在も獄中にいることを明らかにしたという。【11月14日 朝日】
*****************************
なお、NLDは10月、政治囚の人数は「精査の結果、約600人とわかった」として、従来の「2000人以上」との見解を修正しています。
NLD政党再登録、スー・チーさんの議員補選出馬、政治犯解放・・・ということになれば、国際社会もこれを一定に評価すべきでしょう。
“本質は変わっていない”云々に固執していては、一歩の前進も望めません。
“賭け”の要素はありますが、政権側の動きをASEAN議長国や経済制裁緩和で具体的に評価することが、政権側の変化を確実にし、後戻りを防ぐことにもなります。
個人であれ、国家であれ、褒められれば悪い気はしませんし、努力をけなされると意固地にもなります。
【追記】
スーチーさんの自宅軟禁から解放後1年の記者会見での発言が報じられていま。
記事のタイトルは政権に対する不信感のようにもとれますが、発言内容は政権側への“より一層の努力を促した”ものととれます。少数民族と政府の仲介云々も、今後とも政権側とパイプを持っていく意向ともとれます。
朝日の記事では“関係者の話によると、スー・チーさんは自身が立候補する意思を固めているという”とあります。
****スーチーさん:「民主化進展 確信持てない」*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウンサンスーチーさんが14日、自宅軟禁から解放後1年に合わせ、ヤンゴン市内の民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)本部で記者会見した。スーチーさんは政権が政治囚の釈放を進めていることについて、「今後新たに政治犯として(民主化活動家らが)拘束されないとの保証はない」と述べ、法の支配の確立が重要だと訴えた。
インドネシアで17日に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で14年のミャンマーの議長国就任問題が主要議題となっており、「民主化」をアピールして米欧の経済解除などを狙う政府に対し、より一層の努力を促した形だ。
スーチーさんは会見で、いまだ解放されていない政治囚の人数について、NLDの集計として計591人と明かす一方、「(民主的な)法の原則がなければ、(民主化の)進展が持続すると確信を持つことは絶対にできない」と述べた。
また、中国やタイの国境近くの少数民族と政府軍との衝突が続いていることにも触れ、「両者の和平交渉の仲介役を務める用意がある」と話した。
一方、国営紙は13日、政府の「国家人権委員会」がテインセイン大統領に対し、政治囚を含む服役囚の恩赦を求める書簡を送ったと報道。10月の釈放に続き、政治囚が一両日中にも釈放されるとの見方が広がっている。【11月14日 毎日】
****************************
なお、政治犯釈放については、“14日に政府が新たに釈放するとの情報があったが、釈放しなかったもようだ。AFP通信は、政府当局者が「延期された」と述べたと報じた”【11月14日 朝日】とのことです。