(こちらは“すし詰め”ですが、座席はそのままのようです “flickr”より By Shawn's Cool Photos http://www.flickr.com/photos/37751392@N06/3478915946/ )
【多くが出稼ぎ「留守児童」 より良い教育を求めて黙認】
中国社会が、著しい経済成長の一方で、格差・腐敗・人権軽視・政治的抑圧などの多くの問題を抱えていることは、今更言うまでもないことです。
安全性を無視した7月・浙江省温州市における高速鉄道事故の記憶もまだ新しいところですが、10月29日ブログ「中国 「文化強国」実現を目指す党中央委員会 2歳女児ひき逃げ事件に見る“倫理観なき社会”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111029)で取り上げた“2歳児ひき逃げ事件”は、被害者を18人の通行人が放置したとして、倫理観なき“冷漠社会”が中国国内でも大きな反響を呼びました。
中国社会のゆがみを象徴する事件として現在話題になっているのは、改造して後部座席が取り外された9人乗りの車に62人の幼稚園児が立ち乗り状態だった幼稚園の送迎バスが大型トラックと衝突、園児18人を含む計20人が死亡した16日の事故です。
****中国:子供の命軽く 「定員7倍」幼稚園バス事故*****
9人乗りなのに幼児ら64人が押し込まれた送迎車による中国甘粛省の死亡事故。
警察当局などのその後の調べで、人員超過に加え、送迎車の対向車線走行や速度超過、路面の劣化など、ずさんな安全管理の実態が浮き彫りになった。中国では近年、同種の事故が頻発しており、高速鉄道などとともに幼少児の送迎車の安全対策も迫られそうだ。
「子供が多く乗っていることは分かっていたが、幼稚園に通わせるには乗せなければならず、仕方なかった」。中鉄20局中心病院で治療を受ける女児、于丹ちゃん(5)のおばは毎日新聞の取材にこう悔やんだ。于丹ちゃんは依然、昏睡(こんすい)状態が続いているという。
事故は16日午前9時40分ごろ甘粛省慶陽市正寧県で発生。石炭を運ぶトラックと、地域で最大の幼稚園「小博士幼稚園」(園児737人)の園児62人(3~6歳)と運転手、女性職員の計64人が乗った送迎車が正面衝突した。園児19人と運転手ら計21人が死亡。園児のほとんどが頭や腹などを強打し、治療を受けている。
中国メディアによると、事故当時は霧で視界が悪く、送迎車は対向車線を走っていた。時速60キロの制限速度だったが、送迎車の速度は80キロだった。現場周辺は近年、石炭鉱山の開発が進み、運搬車の重さによる路面劣化なども問題となっていた。
一方、送迎車の車内は改造されて座席は取り除かれ、細長い椅子が縦に3列並べられていた。幼児たちはこの中にすし詰め状態で乗せられていた。
正寧県の90%以上の幼児が幼稚園に通っておらず、経済的に恵まれ、通園圏内に住む幼児が事故に巻き込まれた。多くが両親が出稼ぎなどで家を空ける中で育てられている「留守児童」で、子供により良い教育をさせようと、過剰な人数を黙認して通学させていたとみられる。
中国では送迎車の事故頻発を受けて昨年7月に送迎車の安全基準が制定され、乗車定員を上回らないよう呼びかけられていた。今回の事故発生を受け、地元政府は正寧県の幹部4人を停職処分とし、教育省は安全確保を徹底させる通知を出した。
中国の国際情報紙「環球時報」は17日、「甘粛省の小都市は長期的に(教育費の)資金が欠乏している」と指摘。北京紙「新京報」も「中国の送迎車は農業用の三輪車や小型バスなどさまざま」と記した。
一方、中国版ツイッター「微博」などでは「宇宙船を飛ばす研究をするなら、時間と資金を送迎車の安全対策に回したらどうか」「(共産党幹部の)公用車を廃止し、送迎車を配ろう」などの声が書き込まれている。【11月19日 毎日】
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【頻発する送迎バス事故】
幼稚園には737人の園児がいますが、送迎車は4台のみだったそうです。
園児の親たちは地元紙に対し、幼稚園は少なくとも3年前から子供を車に詰め込んで送迎していたと証言しています。
上記【毎日】によれば、こうした送迎バスの事故は今回に限った話ではないようで、当事者の安全意識だけの問題にとどまらない構造的な背景が窺えます。
****近年の中国での主な送迎車事故****
06年11月 黒竜江省で26人乗りの車に小学生約50人が乗車し、横転。8人死亡
09年10月 湖南省で11人乗りの車に幼稚園児30人余りを乗せ池に落下。4人死亡
11年7月 陝西省西安市で7席の椅子に17人が乗った車が事故。幼稚園児4人が負傷
11年9月 山東省で子供20人以上が乗った車が横転。約20人負傷【同上】
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【「(共産党幹部の)公用車を廃止し、送迎車を配ろう」】
中国版ツイッター「微博」などでの「宇宙船を飛ばす研究をするなら、時間と資金を送迎車の安全対策に回したらどうか」「(共産党幹部の)公用車を廃止し、送迎車を配ろう」といった意見はもっともですが、中国当局もこうした批判に危機感を感じたようで、高級公用車禁止を素早く決定しています。
****高級公用車を禁止=幼稚園バス事故で「特権」に批判―中国****
19日の中国メディアによると、中国政府はこのほど共産党・政府機関の公用車に関する規則を策定、一般公用車や公安・司法の車両は排気量1800cc以下とし、価格も18万元(約220万円)以下に抑えるよう通知を出した。高級車の公用車としての使用を禁止した形だ。
中国では幹部公用車としてドイツの高級車アウディなどが使われ、庶民から「特権車」として批判が強まっていた。公用車の購入費用は年間800億元(約9700億円)に達し、維持費を合わせるとその数倍に上るとされる。
16日には甘粛省慶陽市で幼稚園の送迎バスが大型トラックと衝突、園児19人を含む計21人が死亡した。定員9人のバスに64人の園児らが乗せられていたことから、インターネットや新聞では、幹部の公用車を減らし、安全なスクールバスを配備するよう改革を求める声が高まっている。【11月19日 時事】
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高級公用車禁止は結構な措置ですが、社会全体に横溢する「安全より利益」の風潮、更には、こうした送迎が黙認される歪んだ教育熱など、メスを入れるべき問題は根深いものがあります。
もっとも、日本の通勤電車だってあきらかに定員オーバーでしょう。
安全確認についても、昔は“順法闘争”なんて言葉がありましたが、逆に言えば、普段は違法運転しているということだったのでしょう。
いつも言うように、この種の話はひとり中国の問題だけではありません。中国で目立つというだけのことです。
他山の石といったところでしょう。