(アサド大統領支持者 地方の保守的なイスラム勢力を中心とする反政府デモに対し、ダマスカスなど都市部の世俗的若者層にはアサド支持も強いとも聞いていますが、現状はどうなのでしょうか? “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6340814822/ )
【アラブ連盟調停案合意は「政権側の時間稼ぎ」?】
「アラブの春」を受けた反政府デモに対する厳しい弾圧が続くシリア醸成については、8月16日ブログ「シリア 反政府行動弾圧の手を緩めないアサド政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110816)で取り上げて以来ですが、なかなか事態が好転する気配がなく、犠牲者数だけが増えていきます。
国連人権高等弁務官事務所は11月8日、シリアのアサド政権による民主化運動への武力弾圧の死者が3500人を超えたと発表しています。
この発表に先立つ2日には、アラブ連盟の調停で暴力行為の中止と反体制派との対話に合意したシリアですが、弾圧は止んでいません。
****シリア、反体制派との対話など調停案受諾****
アラブ連盟(22か国・機構)は2日、反政府デモに対する弾圧を続けるシリアのアサド政権が、暴力停止や反体制派との対話などを盛り込んだ調停案を受諾したと発表した。
しかし、反体制派には「政権側の時間稼ぎ」といった懐疑的な見方が強く、事態収拾につながるかどうかは不透明だ。
調停案は、〈1〉戦車や治安部隊の市街地からの撤収〈2〉反政府デモに関与したとして拘束された市民の釈放〈3〉2週間以内に反体制派との対話開始――が柱。
しかし、AFP通信が人権団体の話として伝えたところによると、シリア中部ホムスでは3日も当局の弾圧で3人が死亡するなど、国内の緊張は続いている。(後略)【11月3日 読売】
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シリア政府は5日、イスラム教の犠牲祭に合わせた恩赦として、反政府デモで当局に拘束された市民553人を釈放しました。
2日に受諾したアラブ連盟調停案の内容を実行しているとアピールする狙いがあるとみられていますが、肝心のデモ弾圧が調停案合意後も続いています。【11月12日 毎日】によれば、報道時点において“11月だけで約250人が死亡”している状況です。
【「人が死にすぎた。もはや武力を通じてしか圧政は倒せない」】
一方で、シリア政府は反体制派に武器放棄を求めています。
****シリア政府「1週間内に武器放棄なら恩赦」 反体制派に****
シリア内務省は4日、倒閣デモを続ける反体制派に対し、「5日から1週間以内に武器を放棄すれば、恩赦を与えて訴追しない」と発表した。シリア国営テレビなどが伝えた。だが、反体制派の大部分は非暴力デモを続けていると見られ、「問題のすり替え」と反発を招く可能性が高い。
シリアは、アサド大統領の即時辞任を求めるデモを、「武装テロ集団の反逆」とみなして軍を動員して弾圧。これまでに3千人を超える死者が出ている。シリアは暴力の停止や軍の撤退などを求めるアラブ連盟の仲介案を2日に受諾しており、反体制派側に「そちらも武器を置け」と要求したかたちだ。(後略)【11月5日 朝日】
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犠牲者の増加に対し、反体制派内部では、デモ活動の限界を訴える一部グループが武装闘争路線に転換したとの情報もあります。
****シリア デモ活動に限界…内戦突入の恐れ 反体制派、武装闘争転換の兆し****
バッシャール・アサド政権による弾圧を受けるシリアの反体制派で、デモ中心の活動に限界を訴える一部グループが武装闘争路線に転換したもようだ。幹部の1人が証言した。
ただ、在外反体制派組織「シリア国民評議会(SNC)」はあくまで「平和的な政権打倒」を目指すとし、現時点では強硬路線から距離を置く。武装闘争に参集した勢力の規模など不透明な部分も多い。(後略)【10月14日 産経】
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【アラブ連盟 シリアの加盟資格停止を決定】
デモ弾圧の手を緩める気配のないシリア・アサド政権に対し、国際社会は苛立ちを強めています。
7日にはクリントン米国務長官が「銃を突き付けて(民主化の)将来を抑え込もうとする指導者は、余命いくばくもないことを知るべきだ」と批判しています。
****シリアの弾圧継続を非難=圧力強化と警告―米国務長官****
クリントン米国務長官は7日、ワシントン市内で中東情勢に関して講演し、シリアのアサド大統領が反体制デモ弾圧停止の合意に反し、暴力を続けているとして改めて退陣を要求するとともに、国際圧力を強化していく方針を示した。
クリントン長官は、アサド政権がアラブ連盟との間で、軍部隊の撤退などに合意した後も、弾圧を強めていると批判。「銃を突き付けて(民主化の)将来を抑え込もうとする指導者は、余命いくばくもないことを知るべきだ」と述べた。【11月8日 時事】
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調停案合意を無視された形のアラブ連盟は、12日に緊急外相会議を開き、シリアの加盟資格停止を決定しています。
****アラブ連盟、シリアの資格停止…制裁へ****
アラブ連盟(22か国・機構)は12日、緊急外相会議を開き、アサド政権が反政府デモ弾圧を続けるシリアの加盟資格停止を決定した。
アサド政権に対する政治・経済的な制裁を実施するほか、加盟国に駐シリア大使の召還も呼びかけた。欧米に加えアラブ諸国が強硬姿勢に転じたことは、アサド政権にとって大きな打撃だ。
会議後記者会見したカタールのハマド首相は、資格停止が16日から発効すると発表した。また、シリアの反体制派をカイロのアラブ連盟本部に招き、政権移行のあり方などについて協議する方針を示した。
アラブ連盟は11月2日、アサド政権が、暴力停止や、デモ参加で拘束された市民の釈放、反体制派との対話開始などを盛り込んだ調停案を受諾したと発表した。アサド政権はその後、拘束した市民ら約550人を釈放したが、一方で、中部ホムスなどで反体制派の弾圧を続けている。人権団体などによると調停案受諾発表後に100人以上が死亡している。【11月12日 読売】
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ジェフリー・フェルトマン米国務次官補(中東担当)は、9日に開かれた上院外交委員会のシリア反体制派弾圧に関する公聴会で、アラブ諸国がアサド大統領に対し亡命の受け入れ表明している旨を証言しています。
「一部のアラブ諸国は、アサド大統領を平和に、速やかに退陣させる努力の一環として、自国が安全な避難先だと大統領へのアピールを始めている。ほぼすべてのアラブ諸国の首脳は、アサド政権は末期で、シリアの変革は避けられないという点で一致している」【11月10日 AFPより】
【「シリアはリビアではない。リビアのシナリオが繰り返されることはない」】
今回のアラブ連盟決定にあたって、反対を表明したのはシリアの他は、シリア政府とつながるヒズボラが政権を担うレバノンと、シリア同様に反政府・民主化運動を弾圧するイエメンだったそうです。
会議でシリアのユセフ・アフマド連盟大使は、シリア政府はすでに合意案を実施していると主張。この決定が違法であると批判し、資格停止を指示したのはアメリカだと非難しています。また、アフマド大使は「(アラブ連盟が)リビアと同様に、シリアへの外国の介入を誘発させようとしている」と批判しています。【11月13日 AFPより】
また、ムアッリム外相は14日、アラブ連盟がシリアの加盟資格停止を決めたことについて、「危険な一歩だ」と激しく批判、また、「シリアはリビアではない。リビアのシナリオが繰り返されることはない」と強調しています。
一方、シリアの首都ダマスカスでは、12日夜、アラブ連盟がシリアの加盟資格停止などを決めたことに反発する市民数万人が抗議デモを展開し、一部が連盟加盟国のサウジアラビア、カタールと、トルコの大使館を襲撃しています。
****シリア大統領支持派、サウジなどの大使館襲撃****
シリアの首都ダマスカスで12日夜、アラブ連盟(22か国・機構)が同日、シリアの加盟資格停止などを決めたことに反発する市民数万人が抗議デモを展開し、AP通信などによると、一部が連盟加盟国のサウジアラビア、カタールと、トルコの大使館を襲撃した。
一方、決定を受けて、シリア政府は13日、アラブ連盟の緊急首脳会議開催を求めた。国営テレビが伝えた。
サウジ大使館では、アサド大統領を支持する市民のグループが建物に投石した後に敷地内に侵入し、略奪などを行った。サウジ外務省は13日、シリア当局が襲撃を阻止しなかったとしてアサド政権を非難した。トルコ政府は同日、一部館員や家族の退避を決めた。【11月14日 読売】
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EUは14日、アラブ連盟決定を支持し、武力弾圧を続けるシリアのアサド政権への制裁強化を決めています。
****EU、シリア制裁強化…資産凍結や渡航禁止****
欧州連合(EU)は14日、ブリュッセルで外相理事会を開き、反体制派への武力弾圧を続けるシリアのアサド政権への制裁強化を決めた。
弾圧に関与した18人を新たに制裁リストに追加、資産凍結や渡航禁止の制裁措置を科すとともに、欧州投資銀行によるシリア向け融資も停止する。追加制裁措置は15日に発効する。
EUは外相理事会で採択したシリアに関する合意文書で、シリアの加盟資格停止を決めたアラブ連盟への全面的な支持を表明、アサド大統領支持派による大使館襲撃を強く非難した。【11月14日 読売】
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こうしたなか、軍を離反した反体制派兵士らによる攻撃も報じられています。
****シリア:戦闘で40人死亡 軍車両を反体制派が襲撃****
ロイター通信によると、シリア南部ダルアー近郊で14日、軍を離反した反体制派兵士らが治安部隊のバスを襲撃、戦闘になり、反体制派兵士や市民ら20人と、政府側部隊の約20人が死亡した。地元の反体制活動家の情報という。
反体制デモが続くシリアでは最近、離反した兵士による政府側部隊へのゲリラ攻撃が増えているが、ダルアー周辺で大規模な攻撃があったのは初めて。(後略)【11月15日 毎日】
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【「シリアの問題は地域全体を炎上させる」】
シリア・アサド政権が弾圧を止めない背景としては、前回ブログでも触れたように、“アサド政権が弾圧を続ける理由について、アルアハラム戦略研究所(カイロ)のハッサン・アブタレブ副所長は、アサド一族を含む人口の1割のイスラム教アラウィ派が、多数派のスンニ派住民を統治する構造を指摘。「弾圧をやめれば多数派の報復を招きかねない。政権は弾圧を続けるしかない」と話す。 反体制派も強力な指導者がいるわけではなく、アサド政権には、「今のうちなら反乱の芽を潰せる」との判断も働いているようだ。”【8月16日 朝日】ということがあります。
また、シリアはイランや、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなどのイスラム過激派とのつながりがあり、欧米によるシリアへの軍事介入は、ただでさえ不安定な中東情勢を一気に危機的状況にすることが予想され、欧米としても非難はするが、手は出せない・・・という状況があります。アメリカなどは、本音では中東情勢のカギを握るアサド政権が崩壊することを望んでいないとも言われています。
アサド大統領は、「シリアは現在、地域のハブ(拠点)だ。シリアは断層線であり、その土地でたわむれるならば激震が起きるだろう。新たなアフガニスタン、あるいは新たな10のアフガニスタンを見たいかね?」と、サンデー・テレグラフ紙の記者に語っています。
更に、国際的に統一されたシリア非難にしても、ロシアや中国の反対があって難しいということもあります。
国連安保理は10月4日、シリア政府が反政府デモの弾圧をやめなければ対抗措置をとると警告する内容を含む決議案の採決を行いましたが、ロシアと中国が拒否権を行使したため決議案は否決されています。
国際社会が手を出せない状況で、デモ活動による犠牲者が更に増加するのか、先述【10月14日 産経】が報じているように、より激しい“内戦”に突入するのか、先が見通せません。