孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  「政治家離れ」のテクノクラート内閣で危機回避できるか?

2011-11-28 22:45:46 | 欧州情勢

(11月17日 モンティ首相の「銀行家内閣」を批判して警官隊と衝突するデモ隊 “flickr”より By Vale Valentin http://www.flickr.com/photos/valex_5d/6358005567/

異例の救国キャンペーン
欧州の財政・金融不安の問題は、イタリア・ギリシャなど一部財政悪化国だけの問題ではなく、欧州経済全体への不安感に拡大しており、財政状態が健全な欧州の大黒柱、ドイツが新たに出した国債が、買い手がつかない「札割れ」の状態にもなっています。
ドイツ国債の札割れは、過去にもありますが、“23日の入札では、投資家に買ってもらえなかった分が全体の4割にのぼり、その大きさが目立った”【11月25日 朝日】とのことです。

そうしたなかで、もしユーロ圏3位の経済大国イタリアの財政が破たんすればユーロ圏全体の経済が崩壊、EU統合も頓挫する・・・との危機感では、独仏も共通認識があります。

****伊破綻で「ユーロも終わり」=仏独首脳が危機感****
イタリアが破綻すればユーロも終わる―。仏ストラスブールで24日行われた仏独伊首脳会談で、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相がイタリアの債務問題に強い危機感を示していたことが25日、伊首相府が公表した閣議報告で分かった。

モンティ首相は25日の閣議で首脳会談の内容を説明。仏独首脳はモンティ新政権に全幅の信頼を寄せる一方で、イタリアが破綻すればユーロが崩壊するのは避けられず、欧州統合プロセスも頓挫すると、強い懸念を表明したことを明らかにした。【11月26日 時事】
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先週末25日の欧州債券市場は財政危機の行方に対する懸念から主要国債が売られ、イタリア国債(10年物)の流通利回りは一時、前日比0・2%高い年7・3%台まで上昇しました。
週明け28日午前の欧州金融市場では、欧州各国の国債利回りの上昇(価格の下落)が一服、イタリアの10年物国債利回りは7.1%台で推移しています。いずれにしても、IMFなどからの支援に追い込まれる危険水域とされる7%を超える水準にとどまっています。

市場には、モンティ新政権の政治的基盤の弱さを危惧して、イタリアの財政再建を不安視する見方が広がっているようです。
そのイタリアでは、国民にイタリア国債購入を呼び掛ける異例の救国キャンペーンも行われています。

****債務危機、救国精神で克服へ=伊が国債購入キャンペーン*****
債務危機で国債価格急落に見舞われている事態を憂慮し、イタリア銀行協会(ABI)は25日までに、11月28日と12月12日を「国債デー」と銘打ち、国民にイタリア国債購入を呼び掛ける異例の救国キャンペーンを始めた。国民の買い支えで相場の値崩れを防ぎ、国債の信頼性を少しでも高める狙いだ。

キャンペーンには約100の金融機関が参加。一般市民や企業など幅広い投資家に11月28日は既発債、12月12日は新発債の購入を促す。通常の国債購入時にかかる銀行手数料は無料にする。
イタリア国債は、巨額の政府債務残高を背景とした返済懸念から売り圧力が強まっている。ABIは「前例のないキャンペーンだが、厳しい状況にあるイタリアが国債を管理できることを国民全体で示したい」としている。【11月26日 時事】
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個人主義的な気質が強いようにみえるイタリア国民がこうした“救国キャンペーン”にどれだけ乗ってくるか・・・?

【「私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」】
一方、財政危機の責任をとらされたベルルスコーニ前首相は地元紙に「私が辞めても金利は高いままだ。私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」と、新政権を批判しているそうです。

****ベルルスコーニ前首相が新政権批判 国債金利高止まりで*****
イタリア国債の金利が「危険水準」とされる7%前後で高止まりしている。辞任したばかりのベルルスコーニ前首相が新政権への批判を展開する一方、イタリア銀行協会は「国債を買って国を救おう」というキャンペーンを始めた。

国債金利の急上昇で辞任に追い込まれたベルルスコーニ氏は地元紙に「私が辞めても金利は高いままだ。私たちの政権が間違ってなかったことは明らかだ」と語った。野党に転じた北部同盟のボッシ党首も「即席のひどい政権だ」「(任期の)2013年まで持たない」と批判している。(後略)【11月28日 朝日】
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イタリアの財政問題は、3回の政権で9年を超える長期にわたり首相の座にあったベルルスコーニ前首相に最大の責任があることは言うまでもなく、現在の国債利回り上昇も、ベルルスコーニ前首相辞任前後の政治的混乱を背景としたものですから、ベルルスコーニ前首相の言い草はいいささか悪い冗談ではあります。

ベルルスコーニ前首相の責任は、経済・財政政策のレベルだけでなく、「ベルルスコーニ首相の時代にイタリアのメンタリティーは堕落した。家族や仕事が軽視され、今さえ楽しければいいという風潮が強まった」といった社会全般にもたらした影響があります。もともとイタリア人はそういう気質なのかもしれませんが・・・。

“「女性は大好き」と公言し、売春婦とパーティーに浮かれた。少女買春、汚職・脱税などの疑惑で法廷闘争を逃れるため、首相の訴追免除などの立法を試み、野党や司法当局と激しく争い、議会を空転させた。
そんな首相が政権に居座った最大の要因は大衆迎合路線だ。2001年に相続税率を引き下げ、03年には有力企業の法人税率も期間限定で下げた。傍らでメディア関連法を頻繁に変え、自らのメディア経営に役立てた。「庶民の懐には手を突っ込まない」。こう減税を吹聴する首相に庶民も財界も甘かった”【11月10日 読売】

政治家は場外へ逃げ、テクノクラート内閣
後を継いだマリオ・モンティ新首相は、“ミラノにあるボッコーニ大学より経済と経営の学位を得た。イェール大学では後にノーベル経済学賞を受賞することになる経済学者、ジェームズ・トービンの元で大学院研究を終えた”“2期連続で欧州委員会委員を務め、ボッコーニ大学の学長及び総長を務めた”【ウィキペディア】という経済テクノクラートで、その内閣は、新内閣18人全員が非民選の民間人で、多くは「教授」の肩書を持つ学者や官僚出身という、政治家を排した陣容です。

モンティ首相は財政再建とともに構造改革を進めたいとの方針を示しており、政治的な思惑に左右されにくい内閣として、痛みをともなう緊縮策などを進めていく構えです。
しかし、政治家抜きで、痛みを伴う施策を国民に受け入れてもらえるか・・・懸念もあります。

****政治家は場外へ逃げた****
イタリアでは93年以降、専門家中心の政権が2度あったが、政治家が一人も入らないのは戦後初めてだ。「私自身が政治家になる」と語るモンティ氏の試みは、大きな政治実験となる。

だが、政治家の不参加はモンティ氏の狙いというより、実は各政党の事情が反映した側面が強かった。当初、ベルルスコーニ氏が率いる与党「自由国民」の重鎮、レッタ前官房長官や最大野党「民主党」のアマート元首相を閣内に招く案があり、モンティ氏も12日の就任会見では「政治家の力を借りる」と述べていたからだ。

これに対し、野党側が「ベルルスコーニ氏に近すぎる」とレッタ氏の入閣に反対。結局は両党が手を引いたのだが、その背景について、ローマのイル・テンポ紙のガッロ副編集長は「市場不安という難しい局面で、各党はモンティ氏と責任を分かつのを嫌い、場外に逃げた」と分析する。【11月17日 毎日】
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妥協することを批判する世論、そして世論に迎合するだけの政治家がもたらした民主主義の混迷については、11月22日ブログ「韓国(催涙弾のなかの対米FTA批准案強行採決)、アメリカ(財政赤字削減協議決裂)に見る衆愚政治」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111122)でも取り上げたところです。
そうした政治の危機的状況へのひとつの対応が、イタリアやギリシャのテクノクラート首相・内閣でしょうか。

【「政治家離れ」は両刃の剣
一方、国民の側には「モンティ氏は私たちが選んだ指導者じゃない」といった反発もあります。
“世論調査によると、新内閣の支持率は53%だが、ミラノやトリノなど各都市で数千人の学生が「モンティ内閣は解決策ではない」と抗議活動を展開、警官隊と衝突した”【11月18日 産経】

****新政権は「銀行家内閣」=イタリア各地で反対デモ****
イタリアからの報道によると、北部ミラノやトリノ、ローマなど全国各地で17日、前日に事実上発足したモンティ新政権に対し「銀行家内閣」と反発するデモが発生、一部で警官隊が催涙ガスで対抗する騒ぎが起きた。
新首相に任命された経済学者のモンティ氏をはじめ、新内閣には元銀行経営者ら経済や金融のプロが入閣。学生らのデモ隊は、こうした専門家が金融や経済混乱を招いたと批判し、警官隊や銀行支店、税務署に石や爆竹、卵などを投げ付けた。【11月18日 時事】 
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イタリアのようなテクノクラート首相では危機は回避できない、必要なのは“有権者を説得して厳しい政策を受け入れさせるだけの気概と聡明さ、カリスマ性を備えた指導者だ”との指摘もあります。

****テクノクラート首相は国家を救えない*****
各国は危機回避のため実務型政治にシフトし始めた。だが厳密に計算された緊縮財政より重要なものがある

巨大な野獣・・・・アメリカ「建国の父」の1人で初代財務長官を務めたアレグザンダー・ハミルトンは、当時の米国民をそう評したという。国民は「騒がしくて落ち着きがない。正しい判断や決定はめったにしない」という発言も残っている。
現代ならハミルトンは高度な専門知識を持つテクノクラート(実務家)と呼ばれたはず。本音では、銀行家が世の中を動かし、金持ちが大衆を支配すればいいと考えていた。

今のヨーロッパも同じらしい。ギリシャとイタリアは深刻な財政危機を乗り切るため、政治家を見限って学者やビジネスマン、官僚に頼ろうとしている。
そうすることで市場を落ち着かせ、過熱気味の投機筋を抑え、各国の金融機関を安心させたいからだ。国民の機嫌を取るために予算をばらまき、国債を発行しまくった政治家は引っ込んでいろ、今は大衆に迎合する必要のないテクノクラートの出番だ、という次第である。

この変化は予想できた。金融危機が起こる前の07年、ルクセンブルクのジャンクロード・ユンケル首相は、自国の政治家が厳しい経済政策に賛同しない理由を簡潔に説明した。いわく、「なすべきことは分かっている。
しかし、それをやったら再選が危うくなるからだ」。
この「ユンケルの呪縛」の意味するところは明快だ。困難な時代には、有権者の意向を気にしないで済む実務家を呼び入れろ、である。(中略)      

しかし「政治家離れ」は両刃の剣だ。どんなに立派な財政・経済改革案も、政治家抜きでは死産になりかねない。
危機だからといって、「巨大な野獣」たる国民が静かになるわけではない。むしろ普段より凶暴で反抗的になる。テクノクラートが導き出した厳しい計算式を国民に受け入れさせるには、政治の力が必要だ。

欧州やアメリカをはじめ、多くの国が抱えている問題は、経済の帳尻が合わないことではない。有権者を説得して厳しい政策を受け入れさせるだけの気概と聡明さ、カリスマ性を備えた指導者がいないことだ。
(中略)
モンティの緊縮策が国民に支持されないことは確実だ。イタリアでは勤労者の推定20%が税金逃れをしているが、彼はこの部分への徴税強化を打ち出している。公務員の削減や、ベルルスコー二時代に廃止された財産税の復活もほのめかした。

こうした方法のすべてが、イタリア人の日常生活に直接的な打撃を与えるだろう。国民の多くは、選挙の洗礼を受けることなく、大統領による指名と議会の承認だけで生まれたモンティ政権に不満を抱いている。
「今の政府に国民の代表はいない」と、ローマでカフェを営むマリオ・パチェッリは言う。「国民はこの政府に距離を感じ、無視された気分でいる。私たちが投票で選んだ人間なら、間違いを犯せば次の選挙で責任をとらせてやる。でも今の内閣は、誰に対して責任をとるんだ?」

イタリアでも、民という名の「巨大な野獣」が暴れだすのは時間の問題だろう。【11月30日号 Newsweek日本版】
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ただ、“カリスマ性を備えた指導者”というのは、一歩間違うと“独裁者”にもなりうる危うさがあります。
別に、日本のどこかのダブル選挙の話をしている訳ではありませんが。
既存の政治システムは機能不全、テクノクラートでは国民を説得できない、カリスマ性を備えた指導者には危うさも・・・と言っていては解決策がありません。どれかを選ばないと・・・。

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