孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  財政危機による公共サービス削減・格差拡大 国防費削減によるアジア・パワーバランス変化

2011-11-06 22:02:55 | アメリカ

(G20では“外野席”で影が薄かったオバマ大統領 左はファンロンパイEU大統領 “flickr”より By President of the European Council http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/6312136025/

【“沈みゆく社会”の「砂時計経済」】
景気が上向かず高い失業率が続くアメリカでは、連邦政府だけでなく、地方自治体も大きな負債を抱え、公共サービスの削減を迫られています。オバマ大統領の雇用対策法も共和党の反対で止まっています。
“オバマ大統領は先月下旬、最重要課題の雇用対策法案の中で真っ先に、自治体が予算を管理している警察官や消防士、教員ら28万人の解雇防止に350億ドル(約2兆7300億円)を投じる法案を民主党を通じて議会にかけたが、野党・共和党の反対で葬られた。”【11月6日 朝日】

上記朝日記事は、“沈みゆく社会”という見出しをつけ、そんなアメリカ社会の現状をリポートしています。
自治体破産が相次ぎ、カリフォルニア州バレホ市は警察官を4割削減。住民は自警団を組織して治安維持にあたっています。ロードアイランド州セントラルフォールズ市ではコミュニティーセンターが閉鎖に追い込まれ、子どもに人気のプール、独り暮らしのお年寄りや貧困世帯への食料提供、学童保育、健康診断、すべて打ち切られました。100年の歴史を誇る図書館も閉鎖を余儀なくされています。

「ウォール街を占拠しよう」という反格差抗議行動に見られる、「(国民の)1%が富を独占している。残りの99%の声を集めよう」という格差への不満も大きくなっています。公共サービスが削減を余儀なくされるなか、社会的弱者の困窮は深まっています。

****拡大する貧富の差 アメリカン・ドリームどこへ****
自治体が社会を支える力が弱る中、貧富の格差は広がる。「なんでもいいから仕事がほしい」。
ニューヨークの反格差デモに加わるアマンダ・サベッジさん(23)は、ニューヨークの貧しい地区で育った。料理学校を出て高級料理店に就職したが、3カ月前に解雇。毎週50通ほど履歴書を送り続けているが、声がかからない。離婚した元夫は養育費を払わず、4歳の娘は実家に連れて行かれた。手元に残るのは1万3千ドル(約101万円)の学費ローンだけ。「いま、陸軍に入る手続きを取っている。それしか道がないんです」
(中略)
いま、米国では「砂時計経済」という言葉が語られる。中間層がしぼみ、富裕層と貧困層相手のビジネスが成長しているからだ。
ニューヨーク五番街。高級宝飾店の女性従業員は「この夏に5千万ドル(約39億円)のダイヤの指輪が売れた」と話す。一方、貧困地区に多く、100円ショップにも似た雰囲気のスーパーチェーン「ダラー・ゼネラル」は、この5年間で1千店以上増やした。

問題は、格差が親から子へ引き継がれることだ。ウェークフォレスト大学のデイビッド・コーツ教授は、低所得者層の子が上位5%の所得層に入る可能性は1%なのに、高額所得者層の場合は22%だと指摘する。
努力すれば報われる。親の世代よりも豊かになれるという希望が、アメリカン・ドリームだった。だが、ある調査では、18歳から34歳の半数が、悲観的な考えを持っているという。

処方箋(せん)をめぐり、政治は両極化するばかりだ。オバマ氏は富裕層に増税し、雇用対策に充てると主張。共和党は「米経済が苦境の時に増税とはひどい」と強く反発している。【11月6日 朝日】
**************************

大きな負債に苦しむ政府・地方公共団体は別にアメリカだけの話ではありませんし、生活に苦しむ住民の存在、経済格差の拡大、格差の世代間の固定化といった問題も、日本を含め、今や全世界的に見られる現象です。
ただ、これまで世界をリードしてきアメリカン・ドリームの国における“沈みゆく社会”というのはちょっと印象的でした。

欧州危機に傍観者の立場
今、世界経済はギリシャの連立政権工作、イタリアのIMFによる監視など、欧州財政・金融危機をめぐって大きく揺らいでいますが、今回の混乱で印象的なのはアメリカの存在が全く見えないことです。
先のG20閉幕を受けて、オバマ大統領は「欧州は危機を解決できると確信している」と表明、対策実行が軌道に乗っているとの見方を示した上で、「依然として作業が残っている」と語っています。

殆んど“外野席の傍観者”の立場です。
良きにつけ悪しきにつけ、これまで世界中の有事にリーダーシップを取ろうとしてきたアメリカが、最大の同盟国地域である欧州の危機を傍観しているというのは・・・。

欧州金融安定化基金(EFSF)のレグリング最高経営責任者(CEO)がユーロ圏首脳会議直後に北京を訪れ、中国の財務省と中国人民銀行(中央銀行)の担当者と協議、資金供給を依頼したように、中国へ注がれる熱い視線とは好対照です。

アメリカは国内で巨額の公的債務を巡って国論が二分しており、共和党主導の議会と対立して有効策が打てないアメリカ・オバマ政権は、とても欧州経済危機のような国外の危機に対応する余裕も資金的能力がないのが現実です。

【「ノー。自分の頭を撃つようなものだ」】
財政削減が急務となっているアメリカでは、巨額の国防費も削減の対象となっていますが、アメリカの国防費削減による軍事的プレゼンスの低下は、日本を含めたアジアのパワーバランスに大きく影響してくるとが指摘されています。

****国防費削減の大き過ぎるツケ****
財政赤字に苦しむ米政府は軍事費を大幅削減するがアジアのパワーバランスが崩れれば、結局はアメリカが損をする  J・ランディ・フォーブス(米下院軍事委員会・即応性小委員会委員長)

19世紀から20世紀にかけて、世界史の主役はヨーロッパだった。だが、21世紀の主役は間違いなくアジア太平洋地域だろう。この地域は40年間にわたりほぼ一貫して経済成長を続け、民主主義を拡大させてきた結果、歴史的に見ても特筆すべき平和と繁栄、統合を手に入れた。

アメリカはアジアの成功に最も深く関与した国の1つだ。私たちは新しい市場を獲得し、地域の安定を担保する同盟を深化させ、苛烈な独裁体制から民主主義への転換を見守ってきた。
だがアメリカの軍事力と同盟関係が果たした役割については、あまり注目されていない。この2つは第二次大戦後の地域安全保障を支え、経済的成功の前提となる安定をつくり上げた要素であるにもかかわらず、だ。

アメリカは来年度の予算案で国防予算の大幅削減に踏み込んだ。この予算案の成立次第で、アジア太平洋地域の状況は一変する可能性がある。しかもアメリカが軍事力を弱体化させようとしている一方で、中国は軍備の近代化を急ピッチで進めている。

地域のパワーバランスに変化が生じる可能性が高まった結果、中国の周辺諸国の間で警戒心が強まり、安全保障に対するアメリカの長期的関与を疑問視する声が上がっている。つまり、これ以上の国防費削減はアジア太平洋地域の将来の繁栄と安定を危険にさらすことになる公算が大きい。

今後のアメリカにとって、この地域で最も重要な国益上の課題は2つある。まず、自由な貿易の流れを死守することだ。
アジア太平洋地域の経済発展によって、日本、台湾、韓国、中国、シンガポールといった国々はアメリカと世界の重要な貿易パートナーとなった。だが地理的要因のため、この地域では域内貿易も海上輸送に頼ることが多く、多くの物資が重要な交通の要衝を通過する。

例えばマレー半島とスマトラ島の間のマラッカ海峡には、世界の貿易量の40%が集中している。こうした海上交通の安全を確保する力を保ち、船舶の自由な航行を維持することは、民間の商船にとっても軍の艦艇にとっても死活的に重要だ。

同盟国の信頼が揺らぐ
第2に、この地域の安定は今後もアメリカの政治にとって最優先課題であり続ける。台湾海峡や朝鮮半島の有事は、米軍兵士を危険にさらすだけでなく、この地域の外交と経済に大混乱を引き起こす可能性が高い。場合によっては世界経済全体が麻痺しかねない。

さらに韓国や台湾、ベトナム、日本といった国々がアメリカの軍事的関与が後退しつつあると判断した場合、比較的安価な抑止力として核兵器の保有に向かう可能性がある。そうなれば、この地域と国際社会は今よりはるかに危険な場所になる。 

中国は「平和的台頭」を目指し、地域の覇権は求めないと主張している。それが本当であれば問題はないが、中国の将来を占う材料として検証可能な判断基準は、今のところ軍事力の増強だけだ。残念ながら、そこから中国の善意は見えてこない。(中略)

もしアメリカが中国軍のこうした動きに対抗措置を取らなければ、アジア太平洋地域の国々の米軍に対する信頼が揺らぐ。既にオーストラリア、日本、シンガポールでは、中国の台頭に対する懸念と同時に、米軍の長期的プレゼンスに対する疑問の声が出始めている。

にもかかわらず、アメリカ議会は今後10年間で国防費を4650億ドル削減する決定を下した。この削減によって、中国との軍事バランスを維持するために必要な新しい兵器システムの調達は大幅に減らされる。老朽化した兵器の即応態勢を維持するための予算も削られる可能性が高い。

米政府の覚悟が問われる
この秋、アメリカの国防体制はさらに大きな打撃を受けるかもしれない。もし議会が超党派特別委員会の勧告を受け入れなければ、国防費は債務上限引き上げ法の規定により、自動的に6000億ドルが追加削減されることになる。

これはどの大幅削減は自分の足を撃つようなものではないか、という質問に対してレオン・パネッタ国防長官は即答した。「ノー。自分の頭を撃つようなものだ」
ワシントンで国防費のさらなる削減が検討されている今こそ、私たちは長期的な戦略上の課題をあらためて意識すべきだ。もし米軍に適切な予算を配分しなければ、抑止力は弱まり、紛争が発生する可能性は高まる。アジア太平洋地域の決定的重要性を考えれば、この紛争にアメリカが巻き込まれることは避けられない。
いま国防費を削減すれば、将来にとてつもなく大きなツケが回ってくる。そのツケを支払う余裕は米軍にもアメリカにもない。【11月9日 Newsweek日本版】
****************************

【「ウィー・キャント・ウエート(もう待てない)」】
次期大統領選挙を1年後に控えて、支持率低下に苦しむオバマ大統領は、これまでの共和党への慎重姿勢・協調を捨てて、「もはや議会を待つわけにはいかない。彼らが動かないなら、私が動く」と反転攻勢をかけています。

***米大統領選:共和党を「抵抗勢力」に オバマ氏が反転攻勢****
・・・・支持率が40%台半ばで低迷する大統領は先月下旬から、住宅・学生ローンの負担軽減や退役軍人支援などを矢継ぎ早に発表している。決まり文句が「ウィー・キャント・ウエート(もう待てない)」だ。08年大統領選のキャッチフレーズ「イエス・ウィー・キャン」にリズムを合わせたもので、オバマ政権の雇用促進法案の採決をかたくなに拒み続けている議会共和党を批判するために考案された。

「オバマ再選阻止」を最優先課題と位置づける議会共和党の「サボタージュ」を逆手に取り、国民のために働くのは大統領だけだとアピールするのが狙い。発表する政策が小粒なのは、議会に予算承認を得る必要がない大統領令の範囲で打ち出しているためだ。経済効果は大きくないが、国民にオバマ政権の活動的な印象を与える政治キャンペーンだ。(後略)【11月6日 毎日】
*****************************
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする