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(10月29日、来日したクリシュナ・インド外相と玄葉外務大臣 日印外相間戦略対話は、2007年以降,毎年日本とインドで交互に実施されています。 それにしても玄葉外務大臣は若いですね。玄葉大臣の主義・主張・資質は別にして、こうした若い人材が活躍するのは結構なことです。 写真は“外務省ホームページ” http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_gemba/india_1110.htmlより)
【10月末 クリシュナ外相訪日】
通常の外交交渉として、特別の関心は全く持ちませんでしたが、先月末、インドのクリシュナ外相が訪日して日本側と関係強化について話し合っています。
外務省ホームページによれば、クリシュナ外相と玄葉外務大臣の会談内容はおおよそ次のようなものでした。
****第5回日・インド外相間戦略対話(概要)*****
二国間関係
(1)政治・安全保障分野では,玄葉外務大臣より,東日本大震災でのインドからの支援や励ましに感謝の意を伝えるとともに,日インド両国は基本的価値と戦略的利益を共有し経済的にも相互補完関係にあり,インドの安定と発展が日本の国益にとっても大事である,両国間での首脳間及び外相間の定期的な往来が行われていることを評価し,本年は日本の総理がインドを訪問する順番である旨述べた。
また,閣僚級経済対話,局長級の日米印協議,及び次官級「2+2」対話を早期に実施することで両外相は一致した。また,両外相は,海賊対処等海上安全保障分野でも協力を強化することで一致し,クリシュナ外相からは,アントニ-国防大臣が近日中に訪日予定である旨述べつつ,海上自衛隊とインド海軍との二国間海上演習実施の提案があった。
(2)経済面では,両外相は,8月の包括的経済連携協定(CEPA)の発効を機に,両国間の貿易・投資等が飛躍的に拡大する期待を表明した他,インドにおけるインフラ整備,特に貨物専用鉄道建設計画(DFC),デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC),高速鉄道構想,再生可能エネルギーを含む環境技術面での協力を推進することで一致した。また,社会保障協定の早期妥結に向け努力することでも両外相間で一致した。
(3)日インド原子力協定交渉については,クリシュナ外相から改めて交渉を進めていきたいとの要望があり,両外相間で交渉を進展させることで一致した。また,玄葉外務大臣から,福島第一原発の事故原因の調査状況や原子力安全への取組について透明性を持って情報提供していく旨述べるとともに,唯一の戦争被爆国として日本の核軍縮・不拡散に対する強い思いに理解を求めた。
(4)レアアースの共同開発については,日本の企業とインディアン・レアアース社との共同事業が前進するよう政府として後押しすることで両外相間で一致した。(後略)【外務省】
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【中国の台頭があろうとなかろうと、日本とインドはどのみち、お互いをパートナーに選んでいたに違いない】
この会談について、日本とインドの接近を示すものだとの記事がNewsweekにありました。
****中国に負けられない インドと日本が急接近****
日印関係 市場が欲しい日本とインフラ技術が欲しいインド 2国が互いをパートナーに選ぶのは当然の成り行きだ 【ラジーブ・シャルマ(ジャーナリスト)】
10月末にインドのS・M・クリシュナ外相が訪日した際、彼が持参したメッセージは明らかだった―インド政府は対日関係の強化を望んでいる、というものだ。
10月29日に行われたクリシュナと玄葉光一郎外相との日印外相聞戦略対話で、アジアの2大国はいくつかの点で合意に達したようだ。両国のパートナーシップの枠組みにアメリカが加わるというのもその1つ。しかしそれ以上に興味深いのは、アジアで2番目と3番目の経済大国の軍事協力強化という提案だ。
軍事協力についての具体的な詰めはまだこれからだが、日本とインドのこうした会談に中国の政策当局は心穏やかではいられないだろう。
クリシュナと玄葉の会談は、軍事協力強化に期待を抱かせるだけにとどまらない。日本とインドはレアアース(希土類)の共同開発推進に向けて協力することでも合意した。インドには、日本のハイテク産業にとって極めて重要なレアアースが豊富にある。 J
特に日本側は今回の合意を歓迎するだろう。中国への依存を減らせるかもしれないからだ。中国は昨年、レアアースの輸出をストップして、レアアースを外交の道具にする意思を平気で見せつけた。
伝えられるところによると、日本政府はインド企業7社をハイテク技術協力禁止の対象から外した。これにより、ゆくゆくは相当な量のレアアースがインドから日本に輸出されることになる。それだけでなく、両国間のハイテク貿易の急成長も促される可能性が高い。
もう1つの重要な問題は、昨年6月に始まった原子力協定交渉だ。噂によれば、3月の福島第一原子力発電所の事故を受けて交渉は中断し、今回の外相会談では議題に上ったものの、急進展は見られなかった。
クリシュナは報道陣に「玄葉外相と原子力協定の状況についても話し合った。この件では既に3回交渉している」と語り、「今日の会談を受けて、この件については楽観している」と述べた。一方、玄葉は交渉推進で合意したとしながらも、「被爆国である日本の核軍縮・不拡散への強い思いに理解を求めた」と述べた。
中国の「裏庭」でも連携
クリシュナの訪日のハイライトは、毎年日本とインドで交互に実施され、今回で5回目となる日印外相聞戦略対話だった。両国は戦略対話の名の下に、2国間の戦略パートナーシップを全面的に見直しただけでなく、優先すべき項目を洗い出した。
さらに11月2日にはA・K・アントニー国防相と一川保夫防衛相が会談し、南シナ海で中国が活動を活発化している状況や、アフリカのソマリア沖の海賊活動などを踏まえて、シーレーン(海上交通路)防衛の重要性を確認。その上で、12年に海上自衛隊とインド海軍が初めて2国間共同訓練を実施することで合意した。(中略)
ここ1年ほど中国が強硬姿勢を強めていることを警戒してきたアメリカも、インドと日本の関係強化を後押ししている。ただし、アメリカがアジアにおける中国の強硬姿勢に警戒を強めているのに対し、当の中国が注視しているのは、長いこと自国の外交の裏庭だったアフリカで日本とインドが手を組もうとしていることだ。
日本とインドはアメリカの後押しを受けて、アフリカについての対話をスタートさせている。米政府からアフリカヘの積極的な取り組みを促されて、両国は昨年10月の東京での対話を皮切りに、この件について既に2回
協議した。
内政面でもメリットが
一方、より広範な経済協力の原動力になっているのは、「日印特別経済パートナーシップ・イニシアチブ(SEPI)」だ。SEPIのプロジェクトには、インド総領事館の言う「戦略上重要な、注目度の高い主カプロジェクト」がいくっもある。貨物専用鉄道建設計画の西回廊(デリー~ムンバイ間)やデリー・ムンバイ同産業大動脈構想などだ。
どちらのプロジェクトにも日本はODA(政府開発援助)プログラムの下で相当な資金援助と技術協力を約束している。自国が財政難にあえいでいるにもかかわらず、対インドODAに力を入れているようだ。
結局のところ、日本とインドはお互いにとって「自然な同盟相手」のようだ。両国の外交イデオロギーはほぼ似通っていて、どちらも台頭する中国が不測の事態を招きかねないことを警戒している。
しかし日本とインドの接近は外交面ばかりでなく、両国の内政にとっても同じくらいプラスになる。高齢化が進み新たな市場を開拓しようと必死な日本にとって、若いインドは格好の市場になる。一方のインドも、日本のインフラ整備のノウハウを必要としている。
日本とインドが接近している背景には、確かに中国の台頭もあるかもしれない。しかし中国の台頭があろうとなかろうと、日本とインドはどのみち、お互いをパートナーに選んでいたに違いない。【11月16日 Newsweek日本版】
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タイトルの“急接近”という感は正直なところありませんが、記事にもあるように、“中国の台頭があろうとなかろうと”日本とインドが将来的により重要なパートナーとなるべき関係にあるのは間違いありません。
シーレーン(海上交通路)防衛などの“軍事協力強化”は、日本側に大きな制約があり、原子力協定交渉については、インド側に核不拡散条約(NPT)に参加していないというハードルがあります。
それでも、レアアース供給やインドの大規模プロジェクトは、日本にとって関心が高いところですし、何より、今後の世界市場の中核に位置するインド市場へのアプローチは日本にとっては死活問題とも言えます。
ただ、現実問題としては、日本企業がインドに進出しようとすると、関税やインフラの問題以外にも、複雑な税制・法体系、汚職の温床、古い因習などの問題があって非常に難しいとも言われています。
日印首脳の交渉で、そうした環境面の整備が進めば、今後両国関係は非常に重要なものになっていくものと思われます。
【「21世紀のパートナー国の典型」】
アメリカも、中国牽制やアフガニスタン戦略から、インド重視姿勢を強めています。
***米国:インド重視を明示 軍事協力報告書を発表****
米国防総省は1日、初めての「米印軍事協力に関する報告書」を発表した。インドを「21世紀のパートナー国の典型」と位置づけ、重視する姿勢を明示。今後5年間で、「軍事協力を強化するために必要な枠組みを構築する」と表明した。
報告書は、米印軍事関係について、「なじみのない国同士の初期的関係」から「アジアで卓越した2国による戦略的なパートナーシップに発展した」と強調した。具体的な協力分野としては、海洋進出を続ける中国海軍を念頭に、米印海軍の共同訓練の機会を増やし、海上安全の分野から関係を強化する方向性を打ち出した。
また、対テロ作戦でも、情報共有を進め、相互の能力向上を目指すとした。パキスタンと関係がぎくしゃくしていることや、アフガニスタンからの米軍撤退を視野に、インドとの関係強化がこの地域の安定にとって不可欠との米側の姿勢を強調したものとみられる。【11月2日 毎日】
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【ルックイースト政策】
なお、インドは90年代より、アジア重視の“ルックイースト政策”をとっています。
****「ルックイースト政策」を深めるインド****
・・・・インドは1990年代に初めてルックイースト政策を打ち出した。これは現在までに2つの発展段階を経てきた。
第1段階は東南アジア諸国との関係を修復し、アジアNIEsの経済急行に相乗りすることに重点が置かれた。10年近くの努力を経てインドはベトナム、カンボジアとの伝統的な戦略関係を強化するとともに、冷戦時代に異なる陣営に属したことから疎遠になっていた他の東南アジア諸国との関係も全面的に修復し、1996年にはASEAN地域フォーラム(ARF)にも加盟した。
21世紀に入るとインドは経済回復と核実験の成功を土台に「大国としての台頭」を追求し始め、ルックイーストの取り組みを強化し、その第二段階に入った。これには以下の3つの大きな特徴がある。
(1)範囲の拡大、東南アジアから東アジア全体へと目標を拡大。インドは日本、韓国とそれぞれ戦略的パートナーシップを構築。対モンゴル外交を着実に発展させ、重点援助の対象とするのみならず、国防・原子力協力も積極的に推進している。対中関係についてインド政府は「ルックイースト政策の重要な構成部分」と繰り返し強調している。
(2)分野の拡大、経済協力と安全保障協力を並行推進。経済面ではASEANとの自由貿易協定交渉で重要な進展を遂げた。物品自由貿易協定は2010年1月1日に発効し、サービス貿易・投資自由化交渉も現在積極的に進められている。安全保障面では、ベトナム、シンガポール、インドネシア、マレーシア、カンボジア、日本、モンゴルなど多くの国々と二国間国防協力合意を締結。人材育成、合同軍事演習、海上安全保障協力などに重点を置いている。
(3)形式の多様化、二国間・多国間協力の並行発展。近年インドは東アジア統合にさらに熱を入れている。2002年には「ASEANプラス1」体制を発足し、2005年には東アジアサミットの原参加国となった。シン首相はASEAN、中国、日本、韓国、インドが共同市場を構築する「アジア経済共同体」構想も打ち出した。(後略)【「人民網日本語版」2011年2月11日】
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日本としては、注目のTPPにみられる環太平洋地域ももちろん、西のインドにもこれまで以上に目を向ける必要があります。
日本を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。そうした変化のなかで生き抜くには、日本自身が変化することが必要で、旧来の枠組みを維持しようというだけでは無理があります。
また、変化には痛みを伴うのも必然です。痛みを避けるための議論ではなく、どのように痛みを克服していくかという議論が望まれます。