孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  タクシン元首相をも対象に含む恩赦令 首相不在で急きょ決定 詳細は「秘密」

2011-11-18 22:24:12 | 東南アジア

(10月27日 インラック首相 “記者団に「大量の水を海に至急流すことと、早期の復興計画作りが必要だ」と一般的な方針を述べた。声は震え、目にうっすらと涙がにじむ。記者団に泣いているのかと聞かれ、「泣いていないし、これからも泣かない」と反論したが、国民には、未曽有の危機に対処できる指導者の姿には映らなかった。”【10月27日 読売】)

【「11月第1週にヤマを越えた」】
洪水が続くタイ・バンコクですが、タイ政府は「すでにヤマを越え、12月第1週までにバンコクのすべての主要道路から水を取り除ける」と発表しています。

****バンコク大洪水はヤマ越えた」…政府対策本部****
タイ政府洪水対策本部のアノン・サニットウォン作業部会事務局長は15日、本紙とのインタビューで、バンコクの大洪水は「11月第1週にヤマを越えた」と述べた。
そして首都の商業地区や金融街、日本人が多く住むスクンビット地区などは冠水を回避できるとの見通しを示した。

政府はバンコクに100台以上のポンプを設置し排水を続けており、アノン氏は「12月の第1週までにバンコクのすべての主要道路から水を取り除ける」と述べた。
水はバンコク中心部に向かい南進しており、政府は運河などを通じ水を東西方向に分散させて海に流している。アノン氏は、バンコク東部に位置し、多くの日系企業が入るバンチャン工業団地周辺が新たに冠水する恐れもあると、指摘した。【11月15日 読売】
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住民利害対立で爆弾騒ぎも
これまで二転三転してきた政府の洪水見通しですが、発表されたように収束に向かってほしいものです。
ただ、いまだに多くの地域が浸水しており、その被害状況には地域差があります。
タイ・バンコクに限らず、およそ洪水対策というものは、どこかの地域が犠牲になれば、他の地域が助かる・・・という地域間の利害対立を刺激する性格があります。日本の身近な河川の対策でも同様です。

今回のバンコク大洪水でも、都心部を守るために犠牲になった感もある郊外貧困層には大きな不満が募っています。
これまでも、犠牲になっている地域の住民が堤防を破壊しようとする・・・といったことは報じられてきましたが、ついに爆弾騒ぎにもなったようです。

****土嚢補修中に爆弾、6人けが バンコク、住民利害対立か****
洪水被害が続くタイの首都バンコクで17日夜、都心の浸水を食い止めている土嚢(どのう)の壁を補修していた住民に向かって、何者かが爆弾を爆発させ、少なくとも6人が負傷した。土嚢設置をめぐる上流と下流の住民利害の対立が背景にあるとみられている。

地元警察当局などによると、現場は首都北部サイマイ地区と北隣のパトゥムタニ県の間に作られた大型の土嚢壁。北から南へ流れる水を食い止め、北側では水位が高い状態が続いていた。不満を募らせていた北側の住民約300人は17日朝から、70メートルにわたって土嚢を破壊。その後、南側の住民約100人が土嚢壁の補修を始めたところ、手製爆弾が投げ込まれた。

北側の住民による土嚢壁の破壊はほかにも数カ所で起きている。地元当局は住民への説得を続ける一方、治安部隊を配置して警戒を強めている。【11月18日 朝日】
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インラック首相「知らない」】
「ヤマは越えた」とは言え、洪水被害がまだ続いており、その復興作業はすべてこれからという混乱の状況で、長年のタイ政局混乱の根本原因ともなっている海外逃亡中のタクシン元首相も対象となる恩赦令が承認されたという驚きのニュースがありました。
インラック首相不在時に、秘密裏に決定がなされたとか・・・。

タクシン元首相は01年に政権に就きましたが、脱税疑惑などが浮上。軍のクーデターによって06年に亡命しました。本人不在のまま08年に汚職の罪で有罪判決を受けていますが、その後も収監を避けて帰国せず、欧州や中東を転々としているとされています。

タクシン元首相には金権体質・強権的手法への批判がありますが、それまでの既得権益層に対抗して地方貧困層を重視した施策も行っています。(“ばらまき”との批判もありますが)

このため、タクシン元首相亡命後も、タクシン元首相を支持する勢力(主に東北部・北部農民層や都市貧困層)とタクシン元首相に批判的な勢力(主に都市中間層と産業界・軍・警察・司法・王室側近の既得権益層)が激しく対立し、司法クーデターとも言えるような司法的な強硬措置とか街頭での実力行使で相手政権を追い込むといった政治混乱が続いています。
そして、その政治混乱が本格的な治水対策をなおざりにする結果となり、今回の大洪水を招いたとの指摘もあります。

前回総選挙では、タクシン元首相の実の妹インラック氏が、政治的経験が全くないにもかかわらず、逆に“ブーム”を起こす形で首相の座を獲得したことは周知のところです。
当然、兄タクシン元首相の処遇が関心を呼びますが、これまでインラック首相は「(恩赦を)家族のために行うことはしない」とする一方で、「恩赦は国民和解の手段にもなる」と述べ、第三者機関の意見を聞いたうえで判断するとしていました。

****タイ:タクシン元首相恩赦か インラック首相「知らない*****
タイ地元紙は16日一斉に、インラック政権が15日に首相不在のまま閣議を開き、インラック首相の実兄で汚職罪で有罪判決を受け海外逃亡中のタクシン元首相を対象に含む恩赦令を承認したと報じた。

7月の総選挙でタクシン元首相派が圧勝しインラック政権が発足した後、政権が恩赦を行いタクシン氏は年内にも帰国するとの見方が出ていた。しかしバンコクを襲った洪水が完全に収束しない中で政権がタクシン氏帰国へ向けた動きを本格化させれば、反タクシン派のみならず一般国民からも反発が強まる可能性もある。タクシン氏の帰国へ向けた動きは今後、曲折をたどるとみられる。

英字紙「バンコク・ポスト」などによると、承認された恩赦令は60歳以上で禁錮3年以下の有罪判決を受けた人物が対象。約2万6000人に適用される。
恩赦は毎年12月5日の国王誕生日に発表される。これまでは刑務所に収監されている受刑者が対象で、汚職罪の受刑者には適用されなかったが、今回はこの条項が削除されているという。今後さらに法的に精査され、プミポン国王の諮問機関である枢密院での協議を経て国王が恩赦実施の是非を最終判断する。

閣議は毎週火曜朝に定例開催されるが、地元紙によると15日は首相が不在でチャレム副首相が招集した。閣僚随行の職員らは全員退席させられ、恩赦令は約10分間討議しただけで承認されたという。インラック首相は15日、恩赦令について地元記者団に「知らない」と述べた。副首相は16日、恩赦令について協議したことは認めたが「秘密事項であり詳細は話せない」とした。

臆測を呼ぶのは首相の動向だ。インラック首相は前日の14日、洪水被災地のタイ中部シンブリ県に視察に出向いたが、「ヘリコプターのレーダーが夜間に機能しない」との理由で同日中に戻ることを断念。バンコクに戻ったのは15日午前の閣議終了後だった。

政権は国民の人気が高い首相が批判の矢面に立つのを防ぐため、首相不在の恩赦令承認を演出した疑いがある。しかしタクシン氏帰国につながる重要決定が首相不在で行われれば「兄の操り人形」と皮肉られたインラック氏への批判がさらに強まるのは確実で、政権の真の意図は不明だ。

インラック氏は総選挙勝利後、「家族のために(恩赦を)行うことはない」とタクシン氏を対象にした恩赦には慎重姿勢を示した。総選挙で敗れ退陣した反タクシンの民主党のアピシット前首相は16日、「恩赦令はタクシン氏のためで、法の支配を崩すものだ」と強く批判した。【11月16日 毎日】
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洪水被害のどさくさ紛れに・・・ということでしょうか。
当然、そうした批判は受けますが、タクシン元首相を帰国させようとするなら、どんな方法をとろうが、いつだろうが、どうしても激しい反対は避けられません。なら、いっそのことこの際・・・というのは、ひとつの現実的判断かもしれません。あくまでもタクシン元首相を呼び戻そうとする立場にたてばの話ですが。

政治的経験が全くないにもかかわらず、就任早々未曾有の大洪水に襲われ、その対策の責任を負わされたインラック首相の立場には個人的には同情もします。
ただ、記者会見などで涙ぐむ様子や、被災地視察の様子などには、いささか問題もありそうです。

“インラック首相は午後2時半ごろ、いつものパンツスーツ、パンプス姿でプラナコン地区の堤防に現れた。前夜の浸水でぬかるみになった場所が残っていたが、軍が事前に厚い板を敷き、首相が歩く範囲は乾いていた。
軍による堤防設置状況などの説明に首相は笑顔を見せながら、「状況は昨日よりよくなっているようだ」と楽観的に語り、足早に立ち去った。視察場所からわずか200メートル離れた川沿いの商店街がすでにくるぶしまで水浸しになっていたことには、気づいていない様子だった。”【10月27日 毎日】

こうしたインラック首相へのタイ国民の評価等については、ブログ「インドへGO! 58才のチャレンジ」の11月10日“タイ洪水 インラク首相 「わたしは辞めない!」”(http://jaofkai2007-new.at.webry.info/201111/article_13.html)に詳しく紹介されています。

また、15日の秘密閣議についても、インッラク首相が使用したヘリは実際には夜間飛行できるレーダーが装備されていたとか、その気になれば陸路車での移動もできた(バンコクとの距離は142km)・・・といったことも、上記ブログに地元バンコクポスト紙の記事として紹介されています。

どういう事情があれ、国民和解にむけた最大問題であるタクシン元首相の処遇について「知らない」では済まされないのは言うまでもないことです。
それを承知で、強引に押し通そうということでしょうか。そんな“力技”がインラック首相に可能でしょうか?


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