(投票するアタムバエフ首相 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6297936182/ )
【初めて平和的に権力が移譲】
中央アジア・キルギスで30日実施された大統領選挙で、連立与党の社会民主党を率いるアルマズベク・アタムバエフ首相(55)が当選し、平和的な権限移譲が初めて実現しました。
過半数を制することはできず決選投票にもつれ込むのでは・・・との見方もありましたが、得票率は63.22%。次点候補との差は約50ポイント開いており、“昨年にバキエフ前大統領が追放された政変(4月)やキルギス系とウズベク系住民の大規模衝突(6月)など混乱が続いたことから、国民は「安定」を望んだ”【10月31日 毎日】と見られています。
****キルギス大統領選、現首相が大差で勝利*****
昨年の民衆抵抗で独裁的な前大統領が失脚したキルギスで10月30日、政変後初の大統領選があった。中央選挙管理委員会は31日、連立与党の一角、社会民主党党首で親ロシアのアタムバエフ首相(55)がほかの候補に大差をつけて当選したと発表した。
同日午後(日本時間同)の中間集計(開票率99.78%)によると、首相の得票率は63.22%。次点候補との差は約50ポイント開いている。次期大統領の任期は6年で1期のみ。
政変後に新政府を率いてきたオトゥンバエワ暫定大統領が今年末に任期満了を迎えるのに伴い、実施された。ソ連から独立後、キルギスでは2代続けて市民の抵抗運動で大統領が失脚しており、今回は初めて平和的に権力が移譲されることになる。
今回の選挙では、投票日直前に3人が立候補を取りやめ、最終的に残った候補者は16人だった。中央選管によると有権者数は約300万人で、投票率は60%を超えた。
キルギスは政変後、独裁的な大統領が居並ぶ中央アジアで初の議院内閣制に移行。憲法改正により、大統領権限の多くが首相や議会に移されるなどの政治改革が進められてきた。(ビシケク=関根和弘) 【10月31日 朝日】
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有力候補は、産業が集中する北部の出身のアタムバエフ首相、貧困層が多い南部を地盤とするマドゥマロフ、タシエフ候補でした。
バキエフ政権崩壊後、大統領権限を縮小して議会の裁量を拡大する政治改革が行われ、アタムバエフ首相はこの改革を引き継ぐ立場で、大統領選はその最終仕上げと位置づけられています。一方、対立候補のタシエフ氏らは大統領権限の拡大を訴えていました。【10月31日 産経より】
【「国民融和」へ向けた1歩ではあるが、融和実現は今後の課題】
選挙選は概ね公正・民主的に行われたようです。
アタムバエフ首相は首相職を休職して選挙戦に臨む形で、政府権力の不正行使が起きないように配慮しています。
なお、TVニュースによれば、有権者を登録する段階で、準備が不十分だったり、一部地域で恣意的な操作が行われ、国民の権利が十分に保証されなかった点はあったとのことです。
ウズベキスタンやタジキスタンなど独裁色の濃い国が多い中央アジアにおいて、民主的な選挙で平和的な権限移譲が実現できたことは大きな意義があります。
また、キルギスはアメリカ・ロシア両国が軍事拠点を有する中央アジアの要衝であり、アフガニスタンに近く麻薬の密輸ルートになっているともいわれており、キルギスが政治的に安定することは、この地域全体の安定化にも資すると思われます。
キルギスは従前より南北対立が根底にあり、先のバキエフ前大統領が追放された政変もそうした政治環境がありました。
また、南部地域を中心にキルギス系と少数派ウズベク系の民族対立も根深く存在しており、昨年6月の衝突では約470人の犠牲を出しています。
今回当選したアタムバエフ首相は「国民融和」を掲げているのに対し、対立候補は「キルギス人のキルギス」を掲げており、アタムバエフ首相の勝利は「国民融和」へ向けた1歩と評価することができます。
ただし、獲得票の中身を見ると、北部チュイ州出身のアタムバエフ首相が北部で圧倒的な支持を集め、南部でも少数派ウイグル系の票を獲得したのに対し、南部キルギス系住民の票は南部出身の対立候補に流れたようで、南北対立、キルギス系対ウイグル系の対立が解消されたものではありません。
今後のアタムバエフ新大統領の手腕によるところが大きいと言えます。
【プーチン首相が掲げる旧ソ連諸国の再結集を後押し】
アタムバエフ首相は、国際関係では“親ロシア”と見られています。
あの「ウラジーミル・プーチン峰」命名を主導した人物だそうです。
****親ロシアの現首相優勢 キルギス、政変後初の大統領選****
昨年の政変で独裁的な大統領が退陣し、中央アジア初の議会制共和国となったキルギスで30日、政変後初の大統領選がある。親ロシアのアタムバエフ首相(55)が優勢で、当選すればロシアのプーチン首相が掲げる旧ソ連諸国の再結集を後押しすることになる。(中略)
同氏は、重点公約としてロシアとの関係強化を掲げ、ロシア、カザフスタン、ベラルーシでつくる関税同盟への加盟を主張。アフガニスタンの対テロ作戦で米国が使用している空軍基地をめぐっては、3年後の返還を言明している。
首相就任直後に国内の山脈の一つを「ウラジーミル・プーチン峰」と名付ける動きを主導するなど、ロシア大統領への復帰が確実なプーチン氏とは特に親密な関係を構築してきた。プーチン氏は最近、旧ソ連諸国を経済的に再統合する「ユーラシア連合」構想を提唱しており、アタムバエフ氏が当選すれば、構想前進につながりそうだ。【10月29日 朝日】
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上記記事にもあるように、米軍がアフガニスタンへの輸送拠点として使用するマナス空軍基地については、「2014年以降、民間の航空拠点になる。いかなる軍事基地も置かない」と、14年で閉鎖することを明言しています。
なお、首都ビシケク近郊のカント基地にはロシア軍が長期駐留しています。
【立候補予定者全員にキルギス語の試験】
ただ、全体的にロシアの影響力が強いキルギスにおいては、キルギスのアイデンティティー維持も重視されており、今回選挙に際しても、候補者にキルギス語の試験が課されたそうです。
***候補予定者に国語試験 不合格5人 キルギス大統領選****
30日に投票があった中央アジア・キルギス大統領選では、立候補予定者全員に国語の試験を課している。ソ連崩壊から20年たった今でもロシア語が日常的に使われており、キルギス語を満足に話せない人がいるためだ。合格しなければ立候補できない仕組みで、今回は5人が不合格だった。
同国中央選管によると、憲法や選挙法は、キルギス語が使えることを大統領選立候補の条件としている。キルギス語委員会が作成した「読む、書く、話す」の試験が9月に行われ、文学作品の一節を音読させたり、選挙公約をキルギス語で書かせたりした。
試験の模様はテレビで中継された。同委員会12人が採点した結果、当時立候補を表明していた25人が受験、うち5人が不合格となり、立候補資格を失った。【10月31日 朝日】
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試験の模様はテレビで中継されたとのことですが、さぞかし面白い番組になったのでは・・・というのは部外者の無責任な感想です。