孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ボリビア  政治的窮地のモラレス大統領、対米関係正常化へ

2011-11-13 21:02:47 | ラテンアメリカ

(インディオの民族衣装をまとったモラレス大統領(中央) 左はアルバロ・ガルシア副大統領 “flickr”より http://www.flickr.com/photos/highgateharridan/5585183470/ )

初の先住民大統領、悲願の高速道路建設で先住民と対立
きょうは南米ボリビアの話。
ボリビアは“北と東をブラジル、南をアルゼンチン、南東をパラグアイ、南西をチリ、北西をペルーに囲まれた内陸国”で、“ラテンアメリカでも最も開発が低い水準にある国の一つで、かつて「黄金の玉座に座る乞食」と形容されたほど豊かな天然資源を持つが貧しい国であり、現在もその構図は変わっていない”【ウィキペディア】という国です。

だいぶ前になりますが、07年12月24日ブログ「ボリビア  南米横断道路、天然ガス国有化そして東部4県の“自治”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071224)で取り上げたように、ボリビアは政治的には現在、ベネズエラ・チャベス大統領とも親交のある、アンデス先住民(インディオ)出身のモラレス大統領による反米左派政権ですが、白人系住民も多い豊かな東部と、西部山岳地帯の貧しい先住民を支持基盤とするモラレス政権との間には、資源国有化・富の分配なども含め、根深い確執があります。

従来からある東西の地域対立に加え、最近はモラレス大統領に対する先住民の反発も大きくなっています。
チリとの戦争に敗北して海を失ったボリビアは、高速道路の建設で東のブラジルと西の大平洋をつなごうとしていますが、この高速道路建設に大統領の支持基盤である先住民が反対、そのデモを力で排除したモラレス大統領は苦しい立場に追い込まれています。

****ボリビア:モラレス政権揺さぶる高速道路計画 先住民反発****
南米ボリビアで、高速道路の建設計画がモラレス政権を揺さぶっている。道路は大きな経済効果をもたらすが、先住民の居住区を貫くため、先住民が反発している。
ボリビア国民の6割は先住民。モラレス大統領自身、05年の大統領選に勝利して初の先住民大統領となり、先住民の権利拡大を進めてきただけに、高速道建設に伴う国益と、先住民の主張のどちらを優先するか、難しい判断を迫られた格好だ。

高速道は隣国のブラジルやペルー、チリと結ぶ計画だ。内陸国ボリビアにとり、ペルーなどの太平洋岸に抜ける高速道は悲願でもあり、流通面でも大きな経済効果が予測される。モラレス政権はブラジル政府の資金融資も受けて、自国内の高速道の整備に乗り出したい考えだ。
これに対し、道路が通過するボリビア北東部のベニ、コチャバンバ両県の先住民が居住区の環境破壊を理由に反対した。8月15日、約1500人がベニ県トリニダを出発、約400キロ先のラパスに向けて抗議のデモ行進を開始した。

デモ隊は9月24日、交渉のため訪れたチョケワンカ外相ら2人を拘束し、一緒に行進するよう強制した。「政府軍や警察、建設を支持する農民に襲われるのを防ぐためだ」と釈明したが、モラレス政権は「誘拐だ」と怒り、約1時間後に外相らが解放されるという騒動が起きた。
モラレス大統領は9月25日、警察にデモ隊の強制解散を指示。ベニ県内で数百人を拘束し、居住区に空輸しようとしたが、現地の先住民がデモ隊に同調して空港の滑走路を占拠し、妨害した。

こうした事態を受け、大統領の命令に反発するチャコン国防相、ジョレンティ内相が辞任。大統領は翌26日、拘束した先住民を釈放し、建設計画の一時凍結を発表。「計画を進めるかは住民投票の結果で決める」と述べた。住民投票の日時は未定で、デモ行進は今月に入って再開されており、情勢の先行きは不透明だ。
モラレス大統領は09年の大統領選で63%の高得票率で再選されたが、高速道を巡る住民との対立で今年9月の支持率は37%に低下している。【10月9日 毎日】
*********************************

結局、モラレス大統領は10月21日、隣国ブラジルの支援を受けながら進めていた高速道路建設計画について、白紙撤回することを明らかにしています。
経済的には好調にもかかわらず、こうした事態を受けて、モラレス大統領の政治的立場は苦しくなってきています。

****反米ボリビア左派政権が窮地****
ボリビアの反米左派モラレス政権が窮地に立たされている。経済は好調ながら内政でゴタゴタが続き、一時、約6割あった政権支持率が2割程度にまで激減。モラレス政権への事実上の「信任投票」ともいえる10月中旬の裁判官選挙でも手痛い敗北を喫した。

2006年1月、先住民初の大統領に就任したモラレス氏は09年に大差で再選を果たした。モラレス氏は、人口でわずか13%のヨーロッパ系住民に富が集中する現状を打破するため、「先住民主義」を掲げて諸改革に取り組み、国民一般からの人気も高かった。
しかし昨年末、世界的な燃料価格の高騰を受け、ガソリンの値上げを発表すると支持率は30%台に急落。ストライキが発生し大混乱が生じた。慌てたモラレス氏は数日後に方針を撤回したものの、支持率の大幅回復にはつながらなかった。

モラレス政権は9月、国の中央部からブラジル方面へと伸びる高速道路(全長約300キロ、総工費約4億2千万ドル)の建設に反対する地元先住民のデモを、治安部隊約500人を投入して粉砕。支持率は20%台へと低下し、追い込まれたモラレス氏は10月21日、建設計画の撤回を発表した。

10月16日には最高裁判事などの選挙が行われ、野党側が無効票の投票を呼びかけた。結果、政権与党が多数派を占める国会が選出した判事候補に対し、有権者の投じた無効票(白票を含む)が約6割に上り、政権への不支持が裏付けられた。

人口約1千万人のボリビアは、世界最大規模のリチウム埋蔵量を有し、昨年の経済成長率は約4%と好調を維持した。だが、モラレス氏が内政の諸問題解決に向け力を発揮できない場合、3選をうかがう14年の大統領選にも微妙な陰を落としそうだ。【10月31日 産経】
*******************************

対米関係改善という苦肉の策に頼らざるを得ない状況
自身の支持率低下に加え、中南米反米急進派のリーダー的存在のベネズエラ・チャベス大統領のガンによる体調不良・求心力低下もあって、モラレス大統領は従来の反米路線の修正を余儀なくされているようです。

****ボリビア反米一転、関係正常化 ベネズエラ大統領の求心力低下響く****
南米ボリビア政府は、米大使を追放するなどして悪化していた米国との関係を正常化させることで米側と合意したと発表した。双方は大使を早期に派遣し、ボリビアで栽培される植物コカを原料とするコカインの生産・密輸の摘発を同国内で共同で実施する方針だ。

反米のモラレス大統領が方針転換するのは、政権を支持率低迷から浮揚させたいとの思惑があるほか、反米で共闘するベネズエラのチャベス大統領が体調不良で求心力を失いつつあることが背景にありそうだ。

7日に発表された「合意文書」が強調しているのは、ボリビア国内での両国当局によるコカインの生産や密輸の摘発だ。
コカインの原料であるコカの葉は、高山病の緩和や疲労回復に効き目があるとされ、ボリビアでは葉をかんだり、茶として飲用したりする風習がある。だが、同国にはメキシコやコロンビアから麻薬密売組織が流入し、違法なコカインが秘密裏に大量生産されている。ボリビアはこのためペルーやコロンビアに次ぎ世界3位のコカイン生産国となっており、米国は早急に摘発に乗り出したい意向だった。

米国とボリビアの関係は、モラレス大統領が2008年9月、国内で発生した大規模な反政府デモを米国が操っているとして、米大使に退去を命じたことで悪化。米国は、駐米ボリビア大使を退去させて報復した。ボリビア政府はこの後、米麻薬取締局(DEA)によるボリビアでの活動を全面的に禁止した。

モラレス大統領は今回、対米関係を見直すことで激減した投資を呼び込み、雇用増を狙う。ペルーやコロンビア、ボリビアは1990年代から麻薬撲滅に向けた米国の取り組みに協調する見返りに、米国から通商面で特別待遇を受けてきたが、ボリビアは米大使追放後、その対象から外されていた。

一時は6割あった政権支持率は、内政のゴタゴタで2割程度にまで低下しており、大統領は、対米関係改善という苦肉の策に頼らざるを得ない状況にある。【11月11日 産経】
*****************************

変わるラテンアメリカ反米政権
一方、チェベス大統領の同盟国で、革命の本家キューバでも、政治引退したフィデル・カストロ前国家評議会議長の弟であるラウル・カストロ議長のもとで、市場経済導入が進んでいます。

****キューバ:不動産売買を解禁 1959年の革命以来初****
キューバ政府は3日、個人が資産として不動産を所有することを認め、1959年の革命以来初めて売買を自由化すると発表した。慢性的な危機状態にある経済の活性化を目指し、市場原理を部分的に導入するラウル・カストロ政権による改革の柱の一つで、9月に発表された自動車売買解禁に続く措置。

売買する双方から価格の4%ずつ税金を徴収することも決め、税収増にもつなげる狙いだが、フィデル・カストロ前国家評議会議長が革命の理想として掲げた「平等主義」は大きく後退することになり、貧富の格差が拡大する恐れもはらんでいる。

政府公報によると、今月10日からキューバ在住の同国民と永住権を持つ外国人に限って売買が認められる。所有できる物件は1人2件まで。
これまでは、新たな住居を求める人は、複雑な手続きを経て等価値の不動産を交換したり、闇市場で実勢価格を支払ったりして住居を調達してきた。AP通信によると、不動産の名義を書き換えるための偽装結婚もはびこっていた。

キューバ共産党は今年4月の党大会で、政府職員を大幅に削減して支出を減らし、自営業者を増やすなど新たな経済政策を導入することを承認。不動産売買解禁の方針も盛り込まれていた。【11月4日 毎日】
**************************

ボリビア・モラレス大統領の対米関係正常化、ベネズエラ・チャベス大統領の体調不良、キューバで進む市場経済導入・・・ラテンアメリカの反米左派政権も次第に変化を求められているようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする