孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  政局の混乱収束するも、強まる「ユーロ圏離脱不可避」 根深い社会的問題

2011-11-11 20:31:35 | 欧州情勢

(アテネ市街でのデモ・衝突・混乱もお馴染みの光景になりましたが、10月19日、20日に行われた緊縮策に抗議する48時間ゼネストでも、“一部の若者らが石や火炎瓶を投じ、これを抑えようと警官隊が放った催涙ガスが立ちこめる”という混乱に陥っています。 “flickr”より By odysseasgr http://www.flickr.com/photos/odysseasgr/6261381006/

喫緊の課題:緊縮策の必要性について国民を説得
ユーロ圏首脳会議が決めたギリシャに対する第2次支援策受け入れを巡り、パパンドレウ首相が国民投票を突然発表して起きた欧州全体を巻き込んだ大混乱は、国民投票の回避、パパンドレウ首相の辞任、次期首相の決定という形で、一応の収束はみせていますが、ギリシャ危機・欧州経済危機の問題の本質になんら変わりないのは言うまでもないといころです。

****ギリシャ:新首相にパパデモス氏…混乱ひとまず収束****
財政危機に陥っているギリシャの大統領府は10日、次期首相に欧州中央銀行のパパデモス前副総裁(64)が就任すると発表した。11日に新内閣の就任式が行われる予定だ。10月27日にユーロ圏首脳会議が決めたギリシャに対する第2次支援策(1300億ユーロ=13兆7500億円)受け入れを巡り、パパンドレウ首相が国民投票構想を突然発表して起きた大混乱は、ひとまず収束する。

新政権の発足は、パパンドレウ首相の国民投票構想発表により凍結されていた欧州連合(EU)などによる第1次支援の第6弾(80億ユーロ)実施の条件になっていた。このため12月にも予測されたギリシャの財政破綻は回避される。

パパデモス氏の最初の仕事は、財政再建に向け、まず第2次支援策に対する国会承認を取り付けることだ。
野党の大半は第2次支援策に基本合意しているが、最大野党「新民主主義党」(サマラス党首)の中には反対議員も少なくない。パパデモス氏はサマラス党首を介して意見の統一を図る。

また、これまでストを続けてきた労組や職場放棄の公務員をなだめ、支援策の条件である新不動産税の導入、公務員削減など緊縮策の必要性について国民を説得しなければならない。
ギリシャの今年の経済成長はマイナス5.5%となる見通しで、失業率(8月時点)も18.5%に上る。国民の不満が高まる中、デモや暴動、貧困の増大など社会不安を解消する大きな課題が待ち受けている。

新首相人事では、ユーロ支持者で国民の信頼が厚いパパデモス氏を望む声が当初から強かった。だが、パパンドレウ首相は自らが党首を務める与党「全ギリシャ社会主義運動」の重鎮、ペツァルニコス国会議長を強く推した。
これに対し、野党だけでなく与党の約50議員が「国会議長は首相の操り人形」「首相は辞任後も次期政権に強い影響を残そうとしている」と猛反発。首相選びが迷走した揚げ句、パパンドレウ首相が折れた形となった。【11月11日 毎日】
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【「遅かれ早かれ、ユーロ圏を離脱せざるをえなくなる」】
イタリアのベルルスコーニ首相辞任発表、イタリア10年物国債利回りが危険水準とされる7%を上回るという形で、危機の火の手が“本命イタリア”に及ぶ状況で、ギリシャの安定化への道筋はまったく見えていません。
強制的なデフォルト・ユーロ離脱もやむなし・・・という見方が強まっているようです。
ただ、その場合、ユーロ圏全体の存続にも危険が及びます。

****ギリシャのユーロ離脱、不可避****
ギリシャは大連立による暫定政権作りに動いています。ユーロ圏離脱は避けられますか。
(ジョージ・マグナスUBS上級経済顧問)「ギリシャはいずれ政府の債務(借金)を削減するために債務不履行(デフォルト)になるだろう。問題は、経済の競争力を取り戻すには、それだけでなく通貨の価値を下げることが必要だということだ。だが、ユーロ圏にとどまるとすれば、ギリシャの都合だけで通貨を下げることはできない。通貨下落と同じ効果を生み出すには、賃金と物価を下げる以外にない。これは非常に危険なことだし、難しいことだ。遅かれ早かれ、ユーロ圏を離脱せざるをえなくなる」

その場合は、ギリシャからお金が逃げ出し、大変なことになるのでは。
「非常に危険な状態になるだろう。ギリシャがユーロ圏を離脱しそうだとなれば、ギリシャだけでなく、財政が不安視されているイタリアやポルトガルからも資金が国外に逃げ出す。欧州はこうした事態に備えなければいけない」(後略)【11月11日 朝日】
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ドイツなどが推す改革に、南欧が素直に従えない一つの理由は、制度、慣習の違い
こうした文字どおり危機的状況にあるギリシャ社会の実情に関する、いくつかの記事が目にとまりました。
ギリシャ社会は、ドン(パトロン)が村人(クライアント)の面倒をみると同時に、搾取もする・・・そういう構造があるそうです。イタリア・マフィアの映画“ゴッド・ファーザー”をイメージさせる話です。

****ギリシャ:混乱の背景に南欧の習慣 ドン同士「領域」争い****
ギリシャ政局の混乱は、パパンドレウ首相の辞任と、サマラス党首率いる「新民主主義党」との連立政権樹立の合意で一応の収束をみた。ギリシャ政治を考える上で鍵になるのは、「パトロン(後援者)とクライアント(従者、顧客)」という言葉だ。

ギリシャやイタリアでは、総領などと訳されるドン(パトロン)が村人(クライアント)の面倒をみると同時に、搾取もする社会を表現するのに使われる。村人の中にはドンに反発する者もいるが、誰もが金銭や就職、トラブル解消で世話になっている。

ドイツは南欧の年金生活者が優遇され過ぎていると非難する。借金を返すため年金を改めろと言われると、ギリシャもイタリアも抵抗する。
例えば、イタリアの元閣僚は月に3万4000ユーロ(約360万円)の年金を受ける。なぜこんな高額になるのか。その疑問を解くのが「パトロンとクライアント」だ。ドンである元閣僚がクライアントの友人、知人、配下、故郷の縁者を食わさなければならないからだ。こうした一見無駄に見えるシステムで金が末端にまで回る。
「地中海圏の共通点はまともな福祉がなく、その穴を年金で賄っていること」(イタリア国立研究会議の社会学者、エンリコ・プリエーゼ教授)
福祉を充実させたドイツのように、メルケル独首相に命じられるまま年金を抑えれば、ギリシャもイタリアも困る人が出てくる。

ドイツなどが推す改革に、南欧が素直に従えない一つの理由は、制度、慣習の違いだ。それを変えるには時間がかかる。市場の変化に比べ、習慣変更のテンポは格段に遅く、その差がユーロ危機の要因となっている。
では、市場の速さを緩められるのか。それとも、南の慣習を変えるべきなのか。

10月31日に始まったギリシャの政治混乱は、結局のところ何を見たのか。パパンドレウ対サマラス。2人のドンの「領域」争いだ。
パパンドレウ家は政治家の名門で、日本で言えば鳩山家。国民は首相を「宇宙人」とみており、デモクラシー紙の見出しに「UFOと共に去りぬ」とあった。一方、サマラス家はペロポネソス半島南西部のエリート一族出身で、政策は金持ち優遇だ。その2人が意地で闘う。
「非常時なのだからまずは挙国一致を」とそばの者はじりじりするが、彼らは後々の取り分、そしてドンとしての名誉もあり、簡単には引けない。2人のドンの争いは、地中海圏政治の典型と言えるのだ。【11月7日 毎日】
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脱税、汚職などの闇経済は、ギリシャのGDPの3割以上
ギリシャにおける納税意識の低さ・脱税の横行もしばしば取り上げられる話題です。

****ギリシャの富裕層「税金ほとんど払っていない****
政治的混乱の続くギリシャで6日、財政再建に向けた新政権の発足が確実となったことで、ギリシャの財政破綻は当面回避される見通しとなった。
しかし、財政再建の決め手となる税制には不備が目立ち、脱税の悪習にも改善の兆しは見られない。国に見切りを付け、青年層を中心に多くの人々が出国している。

アテネ中心部の企業団体幹部の自宅居間の床は、ピカピカに磨かれた大理石が敷き詰められ、棚には40種類の高級酒がずらりと並んでいた。裕福な家庭はプール付きの家や高級車などを持ち、優雅な生活を楽しんでいる。「しかも、税金はほとんど払っていない」と専門家たちは指摘する。

独ウェルト紙によると、財務省の脱税摘発部署が、高級住宅地で有名なアテネ近郊のエカリ地区で、高所得を示すものとして自宅プールの有無を申告するよう求めたところ、324件の申告があった。航空写真で確認したところ50倍以上の約1万7000のプールが確認できたという。

国家が補足できない脱税、汚職などの闇経済は、ギリシャの国内総生産(GDP)の3割以上を占めるといわれる。脱税が横行する背景について、アテネの会計士バゲリス・アベリョティスさん(55)は、「課税関連法規が無数にあり、手続きが複雑な上、数年ごとに改定される。このため合法的に脱税できる抜け道が多い。徴税作業も専ら手作業に頼るため作業が追いつかない」と構造的な問題を指摘する。【11月7日 読売】
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年金不正受給額がEU支援額に匹敵
税をなるべき納めず、一方で、公的な資金を不正に利用するというのは、一部富裕層だけでなく社会全体に蔓延した風潮です。
日本でもすでに死亡した者に係る年金を不正受給していたことが問題になりましたが、ギリシャも同様で、その総額はEUなどからの支援額に相当する規模になっているそうです。

****ギリシャ、年金誤払い8千億円 過去10年分****
「年金の不適正な支給が、過去10年で最大80億ユーロ(約8500億円)あった」。ギリシャの公的年金基金が、こんな調査をまとめた。10日に就任が決まったパパディモス新首相には、財政の立て直しに向け、年金支給など実務の引き締めも課題となる。地元メディアが報じた。

ずさんな運営が明らかになったのは、ギリシャ最大の「社会保障基金」。巨額債務(借金)が問題化した後、政権が調べていた。
基金のスピロプロス局長によると、今年8月、生存が確認できなかった90歳以上の高齢者約1500人への年金支給を止めた。こうした人たちを含め、支払う必要がなかった10年間の額を見積もった。国家破綻(はたん)を防ぐため欧州連合(EU)などから11月に受け取る予定の融資、80億ユーロに匹敵する大きさだった。【11月11日 朝日】
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“ドイツのメルケル首相率いる政権与党がユーロ加盟国の離脱を認める提案を検討していると地元紙で報じられた”【11月10日 Newsweek】そうですが、上記のようなギリシャ社会の実態を並べると、ドイツ・メルケル首相ならずとも、この先ギリシャがユーロ圏でやっていくのは難しそうだ・・・という感があります。
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