(パレスチナのヨルダン川西岸地区にあるベツレヘムの生誕教会 今年2月、パレスチナ自治政府は、イエス・キリスト生誕の地とされる生誕教会を世界遺産として登録するようユネスコに申請したことを明らかにしています。その際、自治政府のデイベス観光・遺跡担当相は「これはイスラエルの占領を終結させ、国家を樹立する計画の一部だ」と語っています。ユネスコは来年半ばまでに結論を出すと報じられていました。
生誕教会は約1700年前に建立され、キリスト教徒にとってはエルサレム旧市街の聖墳墓教会と並ぶ聖地ですから、第1級の世界遺産には間違いありません。
今回のパレスチナのユネスコ加盟で、この世界遺産申請も動きが出てくるのではないでしょうか。そしてまた論議を呼びそうです。
写真は“flickr”より By betta design http://www.flickr.com/photos/betta_design/3132175842/ )
【「パレスチナが権利を一部取り戻す、まさに歴史的瞬間だ」】
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は31日の総会で、パレスチナの正式加盟を賛成多数で可決しました。
パレスチナは9月に国連に正式加盟を申請していますが、拒否権を持つ米国の反対で難航しており、ユネスコ加盟によって打開策を探る意向と見られています。
国連加盟国ではない国が今回と同様の方法でユネスコに正式加盟した例としては、太平洋のクック諸島などがあるそうです。
****パレスチナがユネスコ加盟=総会が賛成多数で可決―米国は反発、資金拠出凍結へ****
国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)は31日の総会で、パレスチナの正式加盟を賛成多数で可決した。これによりオブザーバーだったパレスチナが、195番目の「加盟国」としてユネスコに加わることが決まった。7月に独立したばかりの南スーダンに続く新メンバーとなった。
AFP通信などによると、採決では107カ国が賛成、米国、ドイツ、イスラエルなど14カ国が反対し、日英など52カ国が棄権した。可決には欠席や棄権を除いて3分の2の賛成が必要だったが、これを大きく上回った。
パレスチナは9月23日に国連加盟を申請。拒否権を持つ米国の反対で加盟は容易でないとみられるが、パレスチナ側はユネスコ加盟実現をてこに、国連加盟に弾みをつけたい考えとみられる。
総会に出席したパレスチナ自治政府のマルキ外相は、加盟決定を「パレスチナが権利を一部取り戻す、まさに歴史的瞬間だ」と歓迎するとともに、ユネスコの運営に全面的に協力していく方針を表明。賛成票を投じた各国に、アッバス自治政府議長が電話で謝意を伝えたことを明らかにした。
ユネスコ執行委員会は今月5日、58カ国中40カ国の賛成でパレスチナ加盟推薦を決めた。米国やフランスは総会での採決見送りを要求していたが、アラブ諸国などが押し切った。【10月31日 時事】
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【「存在しない国を承認するような採決はまるで推理小説だ」】
アメリカは、パレスチナが国連加盟を申請した9月の国連総会に続いて国際社会の多数派と対立することになり、アメリカ外交の孤立が再び際立つ形になっています。
****中国・ロシア、フランスも賛成 ****
賛成107、棄権52、反対14――。投票結果が読み上げられると、パレスチナ自治政府のマルキ外相は両手を高々と掲げ、会場からわき起こった拍手に応えた。パレスチナが195番目の国連教育科学文化機関(ユネスコ)加盟国として承認された瞬間だった。
マルキ外相は投票に先立ち、「パレスチナの民衆に対する不正義を少しでも是正するための投票だ。加盟国は歴史的責任を負っている」と演説。投票は194のすべての現加盟国の名が呼ばれ、それに応える形で各国代表が賛成、棄権、反対を口頭で述べた。米国代表が「ノー」と表明すると会場からため息が漏れ、イスラエル代表の「ノー」の際は笑い声が上がった。
ドイツなど欧州勢の一部が反対に傾くなか、国連安保理常任理事国の中国とロシアが賛成。米国と同盟関係にある英国は棄権、旧植民地のアフリカ諸国などに棄権するよう促していたフランスさえも土壇場で賛成に転じ、パレスチナ加盟を封じこめる米国などの試みは挫折した。
投票後、途上国代表などから加盟を歓迎する声明が相次いだが、米国代表は沈痛な表情で「本日の投票はユネスコに協力する我々の能力を発揮することを難しくする」と述べ、分担金の凍結を示唆。イスラエル代表は「存在しない国を承認するような採決はまるで推理小説だ」と吐き捨てるように言った。【11月1日 朝日】
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採決見送りを要求していたフランスが土壇場で賛成に転じたあたりは、機を見るにつけ敏なフランス外交らしい対応です。
これによって、アメリカは、パレスチナ解放機構(PLO)に正式な加盟資格を与える国連機関への資金の拠出を禁じている国内法に基づき、ユネスコへの分担金の拠出停止を決定しています。
ユネスコから脱退はしない方針ですが、アメリカはユネスコ年間予算の約22%の約8000万ドル(約62億円)を拠出しており、今後のユネスコの事業に支障が出ることが懸念されています。
なお、この法律に則した拠出禁止は、大統領でも変更する権限がないそうです。拠出にはアメリカ議会の法改正が必要で、その可能性は低いとされています。【11月1日 朝日より】
【ファタハへの支持のつなぎとめの内部事情】
パレスチナの意図は、先述のように今回決定で難航する国連加盟を動かしたいというものですが、イスラエルとハマスの捕虜交換によって高まるハマス支持への対抗策という内部事情の側面もあるようです。
****「国家」承認へアピール狙う ****
パレスチナにとって、ユネスコへの正式加盟は国際社会が「パレスチナ国家」の承認を後押ししていると強くアピールする狙いがある。同時にパレスチナの内部事情も今回の加盟申請の背景として指摘される。
自治政府のアッバス議長は9月23日、国連総会でパレスチナの国連正式加盟を申請し、求心力を一気に高めたが、審議の長期化に伴い、市民の関心はしだいに薄れつつある。
さらに、自治政府の主体ファタハと対立関係にあるガザのイスラム組織ハマスが10月中旬、イスラエル兵1人の解放と引き換えに1027人のパレスチナ人受刑者を釈放する取引に成功。ハマスへの支持が高まった。アッバス議長はユネスコ加盟という成果をあげることで、ファタハへの支持のつなぎとめを図ったとの見方も出ている。
また、和平交渉をめぐっては、イスラエルが占領地で新たな入植活動を始めるなどしているため、パレスチナ側は交渉進展の環境にはないと判断。ユネスコ加盟で国際世論のお墨付きを得て、イスラエルを擁護し続ける米国を牽制(けんせい)する狙いもあるようだ。
一方、イスラエルは、パレスチナが占領地ヨルダン川西岸の遺跡を「自国」の世界遺産として申請すれば、占領政策の不当性に焦点が当たりかねないことを警戒している。イスラエル外務省は10月31日、「一方的なパレスチナの策略であり、和平合意の可能性をなくすものだ。和平交渉の前進に向けた国際社会の努力を拒絶したに等しい」との非難声明を発表した。【11月1日 朝日】
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“パレスチナが占領地ヨルダン川西岸の遺跡を「自国」の世界遺産として申請”というのは、イスラエルにとっては痛手であり、その時点でまた大きな論議を呼びそうです。
【「安保理が申請承認という形で責任を負うべき時だ」】
本筋の国連正式加盟問題については、パレスチナ側が安保理に早期に結論を出すように要請しています。
****安保理に結論求める=国連加盟申請でパレスチナ大使****
パレスチナのマンスール国連大使は24日の安保理会合で演説し、安保理がパレスチナの国連加盟申請の対応を始めてから1カ月近くがたったと指摘した上で、「検討を尽くすには十分(な時間)だ」と述べ、「安保理が申請承認という形で責任を負うべき時だ」と訴えた。
同大使は加盟承認は「最も公正で適切な結論」と指摘し、審査の引き延ばしは受け入れられないとの立場を強調した。一方、ライス米国連大使はパレスチナの国連加盟申請は「(中東和平プロセスの)交渉による解決という見通しを狂わせるものだ」として、拒否権を行使する考えに変わりがないことをうかがわせた。【10月25日 時事】
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中東和平を仲介するアメリカ、ロシア、国連、EUの4者の、国境画定に関する動きも報じられていますが、4者が求めているパレスチナとイスラエルの直接交渉再開は困難とみられています。
****国境画定案、3カ月以内に提示=イスラエル・パレスチナ合意―中東和平4者****
中東和平を仲介する米国、ロシア、国連、欧州連合(EU)の4者の代表団は26日、エルサレムでイスラエル、パレスチナ側と個別に協議した。ロイター通信によると、双方は3カ月以内に、国境画定と治安問題について自らの案を提示することで合意した。
この日の合意は、4者が9月23日に発表した2012年末までの和平合意を目指す新たな行程表の「第2段階」を履行する方針を意味する。米国の反対を押し切って強行したパレスチナの国連加盟申請で危機に直面する和平プロセスの崩壊を辛うじて食い止めた形だ。
ただ、4者が求めている直接交渉の再開には困難が予想されている。【10月27日 時事】
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【イスラエル、ガザ空爆により武装組織を牽制】
一方、ユネスコ加盟問題の背景にあるパレスチナ側の内部事情にも挙げられているように、ハマスとイスラエルの捕虜交換はガザ地区などパレスチナでは歓迎されており、ファタハ・アッバス議長側の国連加盟申請で低下したハマス支持がまた一定に高まっています。
イスラエルとしては、こうした流れで対イスラエルテロが活性化するのは避けたいところです。
また、イスラエル国内においても、ハマスに宥和的な捕虜交換に対する保守派からの批判があって、そうした世論への対策としてパレスチナへの強硬姿勢を示す必要性もあるようです。
こうしたイスラエル側の事情で、イスラエルのガザ地区への攻撃が活発化しています。
****イスラエル軍、ガザ南部空爆 武装組織幹部ら10人死亡****
イスラエル軍は29日、パレスチナ自治区ガザ南部のラファにある武装組織イスラム聖戦の軍事施設などを複数回にわたり空爆し、現地からの情報によると、イスラム聖戦の幹部ら10人が死亡した。ガザからもロケット弾による報復攻撃があり、ロイター通信によると、イスラエル南部で50歳の一般男性が死亡した。
ガザを支配するイスラム組織ハマスの報道官は「イスラム聖戦幹部の暗殺は危険な動きであり、道徳に反する」と非難した。
イスラエルは今月中旬、イスラエル兵1人の解放と引き換えにパレスチナ囚人約1千人を釈放。国内からはテロを助長するとの批判が出ており、空爆によりガザの武装組織を牽制(けんせい)する狙いもあったとみられる。【10月30日 朝日】
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今回の攻撃対象は、イスラム原理主義組織「イスラム聖戦」ということで、このイスラム聖戦と他の武装勢力は報復としてイスラエル南部をロケット弾砲撃しています。
しかし、AP通信によると、“ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは攻撃に関与していないとみられる”【10月31日 読売】ということで、ハマスとしてもイスラエルと全面対立するのは望んでいないようです。
国連安保理・ユネスコを舞台にしたパレスチナとアメリカの外交戦、現地でのイスラエルとパレスチナの衝突、更にはパレスチナ内部のファタハとハマスの確執・・・と、いろんな要素が絡まっての展開です。
なお、パレスチナの国連加盟問題に関しては、10月17日ブログ「ボスニア・ヘルツェゴビナ パレスチナ国連加盟問題で難しい選択を迫られる」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111017)で取り上げたように、安保理の理事国ボスニア・ヘルツェゴビナの対応が注目されています。