
(次期首相と目されているマリオ・モンティ元欧州委員 国外からは財政再建に向け「大なた」をふるうことが期待されていますが、その痛みと出血にイタリア社会が耐えられるか・・・ “flickr”より By aeneastudio http://www.flickr.com/photos/aeneastudio/6334039005/ )
【テフロン宰相、ついに辞任】
昨日のギリシャに続いて、今日は“本命”イタリアの話題。
ギリシャ救済で混乱していた欧州財政・金融危機は、欧州第3位、世界第7位の経済規模のイタリアに飛び火し、“未成年者相手の賀春から汚職まで、数え切れないほどのスキャンダルや訴訟に見舞われながらもほぼ18年にわたって政権の座に就いてきた”【11月16日 Newsweek日本版】テフロン加工並みの打たれ強さを誇ってきた「テフロン宰相」ことベルルスコーニ首相が遂に辞任を余儀なくされることになっています。
****大衆迎合で築いたベルルスコーニ長期政権****
イタリアのベルルスコーニ首相(75)の辞任表明をローマ市民は9日、おおむね歓迎した模様だが、先行きへの不安も広がった。
身一つから「メディア王」に上りつめ、1994年の政界入り後は中道右派の盟主として君臨。カネと女性に絡む醜聞にまみれながらも、在任期間を歴代最長の計9年余りに伸ばした首相の時代は終わりつつある。(中略)
首相は94年、既存政党に飽いた国民の前へ新星のように登場した。巧みな弁舌に加え、豊富な資産と自ら経営するテレビ局などをフル稼働させ、「事業家出身の新進政治家」のイメージを演出。中道右派勢力を結集し、かつてない安定政権を築いた。
「女性は大好き」と公言し、売春婦とパーティーに浮かれた。少女買春、汚職・脱税などの疑惑で法廷闘争を逃れるため、首相の訴追免除などの立法を試み、野党や司法当局と激しく争い、議会を空転させた。
そんな首相が政権に居座った最大の要因は大衆迎合路線だ。2001年に相続税率を引き下げ、03年には有力企業の法人税率も期間限定で下げた。傍らでメディア関連法を頻繁に変え、自らのメディア経営に役立てた。「庶民の懐には手を突っ込まない」。こう減税を吹聴する首相に庶民も財界も甘かった。【11月10日 読売】
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ベルルスコーニ首相は“ブンガブンガ”などのセックス・スキャンダル以外にも、多くの失言・放言でマスメディアを賑わせてきました。
オバマ米大統領の肌の色を指して「日焼けした人」と嘲る失言は有名ですが、最近では、電話でドイツのメルケル首相のことを「色気のかけらもないデブ」と呼んでいたことが盗聴テープで明らかになっています。
経済危機を切り抜けるため、イタリアが喉から手が出るほどドイツの支援を必要としている時だけに、大問題になったとか。【11月16日 Newsweek日本版より】
もっとも、馬鹿にしているのはお互い様で、先月末、ブリュッセルで開かれたG20前の独仏首脳会談後の記者会見で、記者からベルルスコーニの経済政策と能力について聞かれたメルケルとサルコジ仏大統領が、互いに顔を見合わせ思わず苦笑した場面は印象的でした。
【イタリア国債利回り、一時7%超えの「危険水準」に】
まあ、この際、ベルルスコーニ首相のことはどうでもいいことです。
問題はこれからのイタリア財政の再建です。
イタリアの政府債務(借金)残高は国内総生産(GDP)比で約120%あり、先進国では日本の約200%に次いで悪い状態です。(では、断トツで一番悪い日本はどうなるのだ?という問題はさておきます)
後述のように、イタリア上院が財政安定法案を可決したことを受け、11日にはイタリア10年債利回りは6.57%に大幅低下していますが、今週に入って一時7.5%に急上昇しました。
資金調達コストである国債利回りの“7%”という値は、これを越えると現実的に資金調達が困難となり、財政運営が難しくなる「危険水準」と考えられています。実際、これまでギリシャやアイルランド、ポルトガルが7%を超えた段階で、EUや国際通貨基金(IMF)が資金支援に向けて動き出しています。
しかし資金支援とは言っても、経済規模が大きいだけに、これまでのギリシャやアイルランド、ポルトガルとは異なる世界経済へのインパクトがあります。
****イタリア国債の金利7%超 財政が危険水準に****
9日の欧州金融市場で、イタリア政府が借金のために発行している国債の価格が急落し、1999年に欧州通貨「ユーロ」ができてから最も安くなった。国債の価格が下がった分、金利は上がるため、一時、年7%を超える高金利をつけ、財政運営が難しくなる「危険水準」になった。(中略)
今月4日にはベルルスコーニ首相がIMFやEUの監視を受けて財政を切りつめていく方針を示した。だが、「政権基盤がしっかりせず、実行できない」との不信感は消えず、8日には辞意表明に追い込まれた。
イタリアはGDPがユーロ圏3位の経済大国だ。本格的な支援をすることになれば、ギリシャや金融機関への支援などと合わせて総額2兆ユーロ(約210兆円)が必要になるとも言われる。ユーロ圏各国は財政危機の国に資金支援する「欧州金融安定化基金」(EFSF)を実質約1兆ユーロにする方針だが、さらに増額を迫られる可能性もある。
また、世界の金融機関の多くが資金運用のためにイタリア国債を持っている。価格が下がれば損が出て経営が苦しくなり、金融危機につながるおそれもある。
イタリア政府向けの投融資(国債含む)は昨年末で、同国の大手銀行ウニクレディトが474億ユーロ(約5兆円)、フランスの大手銀行BNPパリバが241億ユーロ(約2.5兆円)など巨額にのぼる。
日本では、三菱UFJフィナンシャル・グループが約2600億円(今年6月末)、損保大手のNKSJホールディングスが335億円(同7月末)のイタリア国債を持っている。【11月10日 朝日】
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みずほ総合研究所によると、日本の銀行がイタリア向けの融資や国債の保有などで抱える債権は約442億ドルで、ギリシャ向けの30倍以上だとのことです。
【信頼回復へ「大なた」を振るうことが期待されているモンティ次期首相】
イタリアが資金救済を必要とする状況になると、ユーロ圏全体・欧州経済全体が引きずられることにもなりかねません。
「ユーロ圏の債務危機は新たな局面に入った」「これから先は未知の領域だ」と、ブリュッセルを拠点とするシンクタンク「ブリューゲル」の上級フェロー、ニコラ・ベロンは米ニューヨーク・タイムズ紙に語っています。【11月10日 Newsweek】
****EUの命運、伊次期政権に=大胆な改革に期待****
イタリアのベルルスコーニ首相が12日、退陣する見通しとなった。今後は、次期政権が信用不安の拡大を食い止めるため、どこまで大胆、着実に改革を実行できるかが焦点となる。
欧州連合(EU)は、次期首相として有力視されるモンティ元欧州委員が国内で盤石の支持を得て、信頼回復へ「大なた」を振るうことに期待している。
ベルルスコーニ氏は先月のユーロ圏首脳会議で財政再建の決意を表明。しかし、具体的な実行計画が乏しかったため、不安になったユーロ圏諸国は本気度を問いただすため、イタリアに質問状を送らざるを得なかった。
次期政権が構造改革などに最優先で取り組み、財政赤字の解消を目指す不断の努力を示せば、同国は失った信頼を取り戻すチャンスがある。【11月12日 時事】
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世界の注目がイタリアの動向に集まるなか、先述のように、11日、イタリア上院(議員数322人)は債務危機回避の成否を握る財政再建法案を賛成多数で可決しました。賛成156、反対12、棄権1で、野党議員は欠席しました。
12日に下院を通過し法案成立後、13日にもベルルスコーニ首相が退陣し、ナポリターノ大統領が経済政策通のマリオ・モンティ元欧州委員に対し、同氏を首班とする新内閣の組閣を命じる方向と報じられています。
次期首相に決まったモンティ元欧州委員は、政争を極力抑えて財政再建に集中できる連立政権の樹立を目指していると言われています
****伊上院、財政再建法案を可決…新内閣組閣へ****
・・・・モンティ氏は、すでに組閣に着手しているとされ、ベルルスコーニ首相の右腕とされるジャンニ・レッタ官房長官、側近のフランコ・フラティニ外相らが留任、中道左派の野党・民主党幹部のエンリコ・レッタ氏が副首相に就任するなどの人事が取り沙汰されている。モンティ氏の下での暫定政権は、与野党の大連立の色彩が濃くなる模様だ。【11月11日 読売】
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なお、ベルルスコーニ首相は、“終日、ローマの首相官邸にこもった。首相は依然、来年2月の総選挙実施を求めているが、「自由国民」内部からも「財政問題のめどがつくまで選挙は控えるべきだ」(フラティニ外相)との声が上がり、自らの復権も含め、新たな戦略を練っているとみられる”【11月11日 毎日】とのことです。
“これまでは、首相の免責特権で刑事訴追を免れた罪状もあった。一国の指導者として「正当かつ緊急」の務めがある場合には、裁判所への出廷を見合わせることもできた。しかし政権が崩壊すれば、ベルルスコーニはもはや刑事訴追を免れられなくなる。それこそが必死で首相の座にしがみつく理由だというのが、大方の見方だ”【11月16日 Newsweek日本版】とのことで、復権もそうした狙いでしょうか。
ただ、欧州をはじめ世界経済全体がベルルスコーニ氏の復権など望んでいません。