
(ホノルルでのAPECを議長国として仕切ったアメリカ・オバマ大統領夫妻と、中国・胡錦濤国家主席夫妻 “”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6339010833/)
【米国は「太平洋国家であり、ここにとどまる」】
アフガニスタンとイラクからの米軍撤退を踏まえたアメリカの世界戦略・・・という、いささか大仰な話。
オバマ大統領は、今後の安全保障政策でアジア太平洋地域を「最優先」に位置づけると宣言しています。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)で行われた今話題のTPP交渉も、「太平洋国家」たらんとするアメリカにとっては、そうした世界戦略の一環ということになります。
また、アジア太平洋地域重視の戦略は、アジア太平洋地域で台頭する中国を牽制し、中国包囲網を形成する狙いもあります。
****米大統領「アジア太平洋が最優先」 安全保障の軸足移す****
オバマ米大統領は17日、オーストラリアの首都キャンベラの同国議会で、アジア太平洋政策の重要演説を行った。アフガニスタンとイラクからの米軍撤退を踏まえ、今後の安全保障政策でアジア太平洋地域を「最優先」に位置づけると宣言し、地域の秩序作りを主導する決意を表明した。
大統領は、米国は「太平洋国家であり、ここにとどまる」と強調した。
財政難で国防費の大幅削減を迫られる中、経済の浮沈を握るアジア太平洋では影響力を維持・向上させる姿勢を明確にした。台頭する中国を軍事面で牽制(けんせい)する意味合いもある。アフガン、イラクの二つの戦争に軸足を置いてきた米国の安保政策に転換点を刻んだ。
大統領は、世界経済の過半を占める存在となったアジアが「雇用と機会の創出という私の最優先課題の達成にとって、決定的に重要だ」と強調。多くの核保有国と世界人口の約半数を抱えるこの地域が「今世紀の特徴が紛争か、協調かを大きく決定づける」との基本認識を示した。そのうえで、この地域で「より大きく長期的な役割を果たすとの計画的、戦略的な決定をした」と表明した。
さらに、政権の安保政策責任者たちに「アジア太平洋地域における米軍の展開と任務を最優先するよう指示した」と明かし、地域での「強固な兵力配置を維持するのに必要な資源を割り当てる」と確約した。具体的には、在日米軍と在韓米軍については「強固な兵力展開を維持」、東南アジアでは「強化する」と表明した。「同盟国の防衛義務を含む約束は守る」と強調し、中国の台頭に地域の国々が抱く懸念に応える姿勢を示した。
中国については「協力的関係を築く努力を続ける」としつつ「国際秩序の順守や中国国民の普遍的な人権を尊重する重要性を率直に話し続ける」と警告した。
経済面では、環太平洋経済連携協定(TPP)を「地域全体のモデルになり得る」と指摘。19日に初参加する東アジアサミットでは、南シナ海などでの「海洋の安全保障」を取り上げる方針を示した。【11月17日 朝日】
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【米国はアジア太平洋地域全体への関与を強化している】
アジア太平洋地域重視の戦略に沿う形で、オバマ大統領はオーストラリアを訪問し、南太平洋に面したオーストラリア北部のダーウィンに米海兵隊を駐留させることでギラード豪首相と合意したことを明らかにしています。
****米海兵隊:オーストラリア駐留で合意 オバマ大統領訪問*****
オバマ米大統領は16日、09年1月の就任後初めてオーストラリアを訪問し、首都キャンベラでギラード首相と会談した。両首脳は会談後、共同記者会見に臨み、南太平洋に面した豪州北部のダーウィンに米海兵隊を駐留させることで合意したと明らかにした。米戦闘部隊の豪州への駐留は初めて。
今年は米・豪・ニュージーランド3カ国の安全保障条約「アンザス条約」の調印60周年に当たる。米政府高官は駐留の目的について「アジア太平洋地域の安全保障への投資」と明言。節目の年に合わせた駐留決定には、南シナ海を含む西太平洋で進出を加速する中国をにらみ、アジア・太平洋の安全保障を引き続き主導する決意を中国に示す米国の狙いが込められている。(中略)
オバマ大統領は共同会見で、海兵隊駐留について「米豪両国だけでなく、地域の安全保障にとって重要だ」と強調。そのうえで「中国を恐れる感情や排斥する考えは間違っている」と述べて中国脅威論を否定する一方、「我々は平和的な中国の台頭を歓迎する」とも述べ、軍事大国化する中国をけん制した。(中略)
米豪は今後、新たな駐留など軍事プレゼンスの強化で中国をけん制する一方、中国との軍事交流を同時追求する硬軟織り交ぜた安全保障戦略を発展させていくとみられる。(後略)【11月16日 毎日】
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オバマ大統領は、今回のオーストラリア訪問と米豪両軍の連携はどちらも域内の同盟国に向けた明確なメッセージだと述べ、「(米豪)両国は太平洋に面する2国だ。この地域にわたしが訪問することによって、米国はアジア太平洋地域全体への関与を強化しているという点をはっきり示したい」と語っています。【11月17日 AFPより】
太平洋だけでなく、西太平洋からインド洋への進出を図る中国への対抗策として、インドとの連携も強め、アメリカ・オーストラリア・インド3国による経済・安全保障協力についてもギラード首相と協議されたと思われます。
オバマ大統領訪問を前に、ギラード首相は15日、インドへのウラン禁輸措置を見直すべきだとの考えを明らかにしており、インドのクリシュナ外相は同日、歓迎する声明を出しています。
当然ながら中国はこうした動きを警戒しており、中国外務省の劉為民報道官は、「軍事同盟を強化・拡大することが時宜にかなったものか、地域の国々の利益になるのか、議論の余地がある」と述べ、強い反発を示しています。
【東アジアサミットで米中対立鮮明化】
オバマ大統領は19日の東アジアサミット(インドネシア・バリ島)では、中国の影響力拡大が著しい南シナ海の「航行の自由」問題を取り上げて集中討議する構えで、米中対立はより鮮明になると予想されています。
****米国:中国包囲の戦略顕在化*****
オバマ米大統領はアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて行った13日の中国の胡錦濤国家主席との会談で、人民元切り上げなどの改革に取り組むよう強い調子で迫った。大統領は19日の東アジアサミット(インドネシア・バリ島)では、中国の影響力拡大が著しい南シナ海の「航行の自由」問題を取り上げ、集中討議する構え。米中対立はより鮮明になりそうだ。
大統領の今回のアジア・太平洋歴訪では、中国との決定的対立を回避する一方、アジアでの覇権維持に向けて静かに中国を「包囲」する米国の戦略が顕在化している。
米国が18年ぶりに議長国となった今回のAPECで、米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の発足を主導し、中国を「蚊帳の外」に置いた。さらに大統領は議長の立場を存分に活用し、中国批判のメッセージを国内外に発信し続けた。
「ルール違反があれば非難し、行動を起こす場合もある」。APECに合わせて財界人を集めた12日の最高経営責任者(CEO)サミットでの演説で、大統領は中国との経済関係について、中国の対応次第で制裁を発動する可能性を示唆した。
首脳会議後の記者会見で発言の真意を問われた大統領は「中国が成長して経済的影響力が拡大すれば、世界経済の責任あるリーダーとして振る舞うと、地域の国々は思うだろう。米国はそうしてきた」と述べた。裏を返せば、現在の中国は経済規模が大きいだけで、リーダーとしての立ち振る舞いからは程遠いという痛烈な皮肉だった。
(中略)
さらに米国が狙うのは、米軍の力と外交を組み合わせ、中国の南シナ海への進出にタガをはめることだ。オバマ大統領は中国軍に脅威を抱く東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国をTPP交渉への参加などを通じて味方に取り込む一方、米大統領として初めて出席する東アジアサミットで「航行の自由の原則」を主張し、中国をけん制する見通しだ。(後略)【11月14日 毎日】
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米中の主導権争いは激化しており、東アジアサミットに先立ち、クリントン米国務長官は、フィリピン・タイとの連携強化を図っています。
****米イージス艦、タイ派遣 米中間でアジア太平洋地域の主導権争い活発化****
東アジアサミット(EAS)が19日開かれるのを前に、米中間でアジア太平洋地域の主導権争いが活発化している。米国は、海洋覇権を拡大する中国に、海洋の安全保障問題を突きつける一方、中国は米国の関与を嫌い、南シナ海問題を討議することを拒否。地域の枠組み論議とも密接に絡みながら展開されている。
クリントン米国務長官は16日、マニラ湾に停泊した米ミサイル駆逐艦フィッツジェラルドの甲板上で、フィリピンとの同盟関係を、中国の海洋覇権拡大という「新たな挑戦」に適合、深化させると表明。「領海防衛と(主権侵害の)阻止能力」の強化に協力すると強調し、フィリピン側は、南シナ海問題における「中国への強い警告」(ロサリオ外相)と、受け止めている。
クリントン長官はその後、タイに飛び、洪水被害を支援するため、米海軍横須賀基地配備のイージス駆逐艦ラッセンを派遣することを明らかにした。
こうした同盟深化の動きは、対中包囲網強化にほかならない。その上でオバマ米大統領は、米国が初参加するEASに乗り込み、海洋の安全保障問題で、中国と渡り合おうとしている。
米国の関与を嫌う中国は「アジア太平洋地域で米国は主導権を握ろうとしている」(国営新華社通信)と警戒し「他国の介入は、地域の平和的な発展を損なう」(劉振民外務次官補)と牽制(けんせい)した。(後略)【11月17日 産経】
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【中国はASEAN取り込みで主導権を狙う】
一方の中国側は、「ASEANプラス3(日中韓)」の枠組みでASEANを取り込み、主導権を握る狙いです。
****主導権争いで「攻勢」=ASEAN取り込み狙う―「主役」として米けん制・中国****
東南アジア諸国連合(ASEAN)をめぐる一連の会議や東アジアサミット(EAS)に出席するため、中国の温家宝首相が17日からインドネシア・バリ島を訪問する。米ハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、焦点の環太平洋連携協定(TPP)問題で米国に押され気味だった中国だが、影響力を発揮できるASEANを舞台に、地域の主導権争いで「攻勢」に乗り出し、「主役」として米国をけん制する戦略だ。
「中国はロシアと米国のEAS加入を歓迎する」―。中国の劉振民外務次官補は15日の記者会見でこう強調し、米国が地域の平和と発展に寄与することに期待感を示した。
しかし、中国は内心では「米国の影響力拡大を回避したい」(外交筋)。特に南シナ海問題を通じて米国がASEAN諸国や日本との連携を強めることを中国は嫌っており、劉次官補も「EASで南シナ海問題を討議することを望まない」と本音を漏らした。
中国としては、経済貿易問題を中心議題にすることで存在感を高め、一連の議論をリードしたいところだ。中国は「ASEANプラス3(日中韓)」の枠組みが「東アジア経済成長に貢献している」(劉次官補)と評価。対中貿易額で日本を抜くなど中国依存を強めるASEANを取り込めば、主導権を握ることができるとみている。【11月15日 時事】
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中国の立場は、米国が主導するTPP交渉が進展するなか、求心力を維持したいASEAN側の思惑とも一致する部分もあるようです。
***ASEAN:16カ国で新貿易圏構築へ 経済閣僚合意****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は16日、インドネシア・バリ島で経済閣僚会議を開き、ASEANプラス6(日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の計16カ国で新たな広域自由貿易圏の構築を目指すことで合意した。17日の首脳会談で正式決定される見通し。
米国が主導する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が進展するなか、求心力を維持したいASEANと、ASEANを核として新たな自由貿易圏をつくり米国に対抗したい中国の思惑が一致した形だ。
会議後、インドネシアのハッタ経済担当調整相は記者団に「ASEANは(域外6カ国と)新たな自由貿易圏の構築を進める」と述べた。
中国はこれまでアジアの広域自由貿易圏構想について、ASEANプラス3(日中韓)の13カ国による枠組みを強く主張。中国の影響力拡大を警戒する日本などは「プラス6」の枠組みを求めていた。
しかし、TPPではマレーシアやシンガポールなどASEANの4カ国を含む当初からの交渉参加9カ国による協議が進み、日本も新たに交渉への参加を表明。中国は米国主導でアジアの経済統合が進むことに危機感を強め、態度を軟化させたとみられる。【11月16日 毎日】
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TPP交渉は日本の交渉参加方針で世界的にもクローズアップされる形にもなりましたが、熾烈な世界戦略を中国と戦わせているアメリカにすれば、「言った、言わない」で揉めている日本は“困った国”にも見えるのかも。