(1990年総選挙前のスー・チーさん さすがに若いです。右隣の男性は反政府コメディアンのPa Pa Lay 90年総選挙でNLDは485議席中の392議席(81%)を獲得しましたが、軍事政権側はこれを認めず、国民議会も開かずNLDの活動を禁止しました。勝ちすぎるのも怖い・・・。 “flickr”より By chacharzac http://www.flickr.com/photos/55554640@N05/5165687393/ )
【平和的な政治集会やデモを認める法案を可決】
3月に「民政移管」したテイン・セイン政権による変革の進展は、11月14日ブログ「ミャンマー スー・チーさん国会議員補選出馬の可能性も 政治犯釈放第2弾も予定」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111114)でも取り上げましたが、その後も変革は継続しているようです。
****ミャンマー:デモ認める、集会の自由も許容…法案可決****
ミャンマー国営紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ミャンマーの上下両院合同議会(連邦議会)は22日、市民に平和的な政治集会やデモを認める法案を可決した。テインセイン大統領の署名を経て成立する。旧軍事政権は学生が主導した88年の民主化運動や07年の反政府デモを武力で厳しく弾圧してきた。政治的な集会やデモの自由が公式に認められれば、民主化へ向け大きな進展となりそうだ。
議員の一人が24日、AFP通信に語ったところによると、法案では集会やデモを行う場合、5日前までに当局に報告する義務があると規定。参加者は旗や政党のシンボルマークを掲げることは許されるが、集会やデモの実施には政府機関や学校、病院、大使館を避けなければならない。
テインセイン政権は民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんとの対話に乗り出し、国内メディアへの検閲制度を緩和するなど、国民の政治的権利の確保に取り組む姿勢を強めている【11月24日 毎日】
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集会・デモへの規制はありますが、多くの国でそのあたりは大同小異であり、軍政時代に比べれば隔世の感もあります。
【ASEAN議長国 「この決定は、国内のさらなる政治改革を促すことになる」】
こうした政権側の変革へ向けた動きは、ミャンマーのASEAN議長国就任決定、スー・チーさんの国政選挙参加という変化を生みだしています。
ASEANの議長国は、1年ごとに加盟国がアルファベット順に就任するのが原則で、ミャンマーは06年に就任予定でしたが、民主化の停滞を欧米諸国が批判。外交上の混乱を回避するため、他の加盟国が辞退を促した経緯があります。
テイン・セイン政権にとっては国のイメージアップ・威信高揚につながる悲願のひとつですが、噂されていた政治犯釈放第2弾がまだ実施されていないなか、更なる民主化につながるか注目されています。
****ミャンマーの議長国就任を決定 ASEAN首脳会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は17日、インドネシア・バリ島のヌサドゥアで加盟国10カ国による首脳会議を開き、ミャンマー(ビルマ)を2014年の議長国とすることを正式に決定した。ミャンマーの議長国就任は、97年の加盟以来、初めて。(中略)今後、政治犯の釈放など一層の民主化の進展につながるか注目される。
議長国就任が決まったことについて、ミャンマーのチョー・サン情報相は同日、会場内で記者団に対し、「今回の決定をうれしく思う。ミャンマーは変わりつつある。議長国就任で民主化を一層進めていきたい」と話した。
■さらなる改革求める声
2014年のASEAN議長国就任決定で、3月に「民政移管」したテイン・セイン政権は、政権発足時からの目標の一つを実現させた。軍事政権下の「閉ざされた国」というイメージからの脱却を国内外に示す絶好の機会となるからだ。
さらに目標としているのは、欧米の経済制裁の解除を実現し外国投資の呼び込みにつなげることだ。だが、そのためには民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんや欧米諸国が求めてきた全政治犯の釈放の課題が残る。
政権は10月に政治犯約300人を釈放したが、スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は今も591人が獄中にいると主張し、米国のオバマ大統領も17日、オーストラリアでの演説でミャンマーの改革を認めた上で「人権侵害は今も続いている」と指摘。制裁と関与の両方で改革を促し続ける意向を示した。(中略)
一方、NLDの報道官ニャン・ウィン氏は17日、ロイター通信に「政府の改革の勢いに弾みをつける」と議長国就任を歓迎した。スー・チーさんは6月の段階では「国民生活の改善など他にやるべきことがある」と議長国就任に反対していた。
NLDが議長国就任を歓迎するのは、スー・チーさんとの協力姿勢やメディア規制緩和、NLDの政党再登録への道を開く政党登録法改正など政権側が改革を進める中で、「すべてに反対してもNLDに利益はない」(ヤンゴンの外交筋)との判断があるとみられる。
亡命ビルマ人でつくるメディア「ミジマ」のセイン・ウィン編集長は「民主化の完成を待って議長国になるのではなく、議長国になることが民主化を進展させることを期待している」と話す。【11月18日 朝日】
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ミャンマーのコー・コー・フライン大統領首席顧問はメディアとのインタビューで議長国就任や政治犯釈放について次のように語っています。
****初の議長、国の誇り ミャンマー大統領首席政治顧問*****
【東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国】
1997年の加盟以来、初めて議長を務めることは国にとっての誇りだ。ミャンマーが国際社会で重要な役割を果たす責任と能力があると認められたことはうれしい。この決定は、国内のさらなる政治改革を促すことになる。
【政治犯の釈放】
政治犯が罪を問われたのは前政権時代。新たな憲法のもとで発足した政権が釈放を決めることはさして難しくない。すでに一部については家族の住む所に近い刑務所に移送した。追加の釈放は毎週開かれている政府安保会議が治安情勢などを勘案し、判断する。おそらく近く実現するだろう。
今後は集会やデモなども法律を守る限り、認められる。米ニューヨークのウォール街の集会を見ても、法を破れば検挙される。どこの国でも同じだ。(後略)【11月19日 朝日】
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【「選挙参加は私の尊厳を損なうと考える人がいるが、政治を志す人は尊厳など考えていてはいけない」】
民主化運動の象徴でもあるスー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は昨年3月、当時の軍事政権が制定したスーチーさんの政党参加を拒む政党登録法に反発して総選挙参加拒否を決め、法の規定で解党処分となっていました。
テインセイン政権は、スーチーさんやNLDを体制内野党に取り込む狙いで、登録法からスーチーさんの参加を拒否する条文を削除する形で10月27日に登録法を改正し、スーチーさん側に再登録を求めていましたが、スー・チーさん側はこれに応じて、NLDは政党登録を行っています。
****政党登録を届け出=NLDが選管に―ミャンマー*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は25日、首都ネピドーで政党登録の届け出をした。NLD幹部が明らかにした。手続き完了までには1週間程度かかる見通しで、昨年5月の解党以来、約1年半ぶりに合法政党として政治活動が可能となる。
NLDの代表者が同日午前、ネピドーの選挙管理委員会を訪問し、書類を提出した。NLDは近く行われる国会補欠選で48の選挙区すべてに候補を立てる予定。スー・チーさんも党幹部に対して出馬の意向を示している。 【11月25日 時事】
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上記記事にもあるように、スー・チーさん自身も出馬を意向を示しています。
****ミャンマー:スーチーさん、選挙出馬の意向…NLD報道官****
ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん率いる民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)のニャンウィン報道官は21日、AFP通信に「スーチーさんは選挙に参加するつもりだと述べた」と語った。
近く実施される国会補欠選挙にスーチーさん自らが立候補する意向を固めたとみられる。国民和解や、米欧などによる経済制裁解除に向けた動きが加速する可能性がある。
(中略)再登録に関してはNLD内部で「前回90年総選挙でNLDが圧勝したにもかかわらず、結果受け入れを拒否した当時の軍事政権の横暴を認めることにつながる」との懸念があったが、スーチーさんは「選挙参加は私の尊厳を損なうと考える人がいるが、政治を志す人は尊厳など考えていてはいけない」と話していたという。
国会補選は総選挙当選者の閣僚就任などに伴い、欠員となっている48議席について争われる見込み。【11月21日 毎日】
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【「国の発展のため力を合わせたい」】
テイン・セイン大統領も、スー・チーさんの国政参加に期待を示しています。
****スー・チーさんの復帰に期待 ミャンマー大統領が初会見****
ミャンマー(ビルマ)のテイン・セイン大統領は19日、インドネシア・バリ島のホテルで、朝日新聞など国内外の一部メディアと会見し、前日に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる政党が国政参加を決めたことについて「大変喜ばしいことだ。国民は彼女が選挙で選ばれることを望んでいる」と述べ、スー・チーさんの国政参加に期待を示した。
大統領は8月にスー・チーさんに「国の発展のため力を合わせたい」と協力を呼び掛け、同意を得ていたことを明らかにした。
またオバマ米政権がミャンマーの民主化の進展があると言及したことを「歓迎する」と述べ、来月のクリントン米国務長官の訪問などを通じて、米国との関係改善に意欲を示した。
日本との関係では、途上国援助(ODA)の再開決定を歓迎するとともに「今後、投資が増えることを期待している」と述べた。
テイン・セイン大統領が国内外のメディアと会見するのは初めて。【11月20日 朝日】
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【新政権が進める改革の中で、存在意義が問われているNLD】
スー・チーさん側のこうした判断の背景には、“「民主的」な改革はテイン・セイン政権や国会から生まれ、議席を持たないNLDは活動の場が限られていた”という現実があります。
また、テイン・セイン政権としては、“NLDが補欠選挙で全議席をとったとしても、国会の大勢に影響はなく、スー・チーさんが議会に加わることで国会の正統性をアピールできるという利点がある”という“余裕の対応”のようです。
****スー・チーさん「再び活動」*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)が18日、国政参加へ向けてかじを切った。慎重な態度を示してきた米国も動きを見せ、半世紀ぶりに国務長官の派遣を決めるなど、後押しの姿勢を示す。一方日本は、野田佳彦首相がテイン・セイン大統領と会談。経済支援により影響力の強化をめざす。
「NLDは再び政党として活動すべきです」
スー・チーさんの演説に、全国の支部や青年部、女性部から集まった106人の参加者から何度も拍手が湧いた。ミャンマー最大都市ヤンゴンにあるNLD本部。再登録は、満場一致で決定した。
1990年の総選挙で8割の議席を獲得しながら、軍事政権によって結果を無視され、弾圧を受けてきたNLDにとって、昨年11月の総選挙とその結果に基づいて生まれた現在の国会は認められない存在だった。
それでも政治参加の道を選んだのは、新政権が進める改革の中で、存在意義が問われていたからだ。
メディア規制の緩和や批判が大きかったダム建設の凍結、平和的デモ集会法の承認……。「民主的」な改革はテイン・セイン政権や国会から生まれ、議席を持たないNLDは活動の場が限られていた。
建国の父である故アウン・サン将軍の娘で、89年から21年間のうち計3回15年にわたり軍政に拘束・軟禁されながらも民主化運動をやめなかったスー・チーさんのカリスマ的な人気は今も衰えていない。補欠選挙は約50議席で争われる。政府関係者が大部分の首都ネピドーや少数民族地域以外では「NLDが圧勝する」との声は大きい。
現政権の前身の軍事政権は、1年前の総選挙で20年前の「悪夢」の再現を避けるため、スー・チーさんを排除する規定を徹底的に積み重ね、最終的にはNLDのボイコットを引き出した。そこまで恐れたNLDの政治参加について、今回はむしろ余裕の構えを見せる。18日、朝日新聞の取材に応じたチョー・サン情報相は「互いの違いを乗り越えて、一致団結する時だ」と話した。
自信の背景には、NLDが補欠選挙で全議席をとったとしても、国会の大勢に影響はなく、スー・チーさんが議会に加わることで国会の正統性をアピールできるという利点がある。
また前日に承認された東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任と合わせ、国際社会に対し、民主化で大きく進展していることを大きく印象づけることができた。
だが軍政が長期化し、経済制裁などで国民や社会がじわじわと疲弊する中、新しい国造りに向けた構造的な改革は、ある意味、待ったなしの情勢だった。
その先には、日本や欧米諸国などによる開発援助(ODA)の再開や経済制裁の解除などが不可欠との認識がある。40年以上前には東南アジアの経済や文化の中心国だったミャンマーは、国際的な孤立を深めた結果、周辺国との経済格差が広がった。その差を縮めるためにも、民営化や市場開放を通じた外資導入による経済発展しか選択肢は残されていないという危機感がある。
これらは偶然、重なったわけではなく、周到に準備されてきた。テイン・セイン大統領をはじめ、政権側はスー・チーさんと会談を重ね、条件のすりあわせを続けてきたと見られる。閣僚の一人は18日、朝日新聞の取材に「NLDから非公式に政治復帰することを聞いている」と述べた。
双方ともに思惑を抱えながらの歩み寄りだが、すべてが解決したわけではない。数百人の政治犯は依然として拘留され、為替に代表される経済の諸制度の改革はまだ多くが手つかずだ。【11月19日 朝日】
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当然、テイン・セイン政権側にも思惑があっての変革ですが、単純素朴な話として、テイン・セイン大統領をはじめとする政権指導層に、前軍事政権時代とは異なる、ある程度の民主化を容認する姿勢・理解があってのことではないでしょうか。
ただ、3月とも言われる補選でほぼ全議席NLDが独占となったとき、本当に政権側が余裕を保てるのか・・・かなり心配ではあります。
【アメリカの経済制裁一部解除は?】
経済制裁については、ローズ米大統領副補佐官(戦略広報担当)は22日の記者会見で、クリントン国務長官のミャンマー訪問に関し、同国への制裁解除を検討するのは「時期尚早」との見方を示しています。
同副補佐官は「人権尊重や政治改革の動き、国民和解の流れの中での少数民族の尊重に向けた弾みを維持するのが目標だ」と強調。「制裁を解除する計画はない」と述べています。【11月23日 時事より】
そうは言っても、アメリカ国務長官としては56年ぶりとなるクリントン米国務長官のミャンマーを訪問で、制裁について具体的な前進が何もないというのも、テイン・セイン政権の変革に水を差すように思われます。
ここは、変革を後押しする施策が必要ではないでしょうか。