(1月13日 バンコク 反政府派によって踏みつけられるインラック首相のプラカード “flickr”より By nicolas metraux stephanie... http://www.flickr.com/photos/46424642@N02/11930281164/in/photolist-jbeNWQ-jcgLoK-jc594S-jivRaK-jixExY-jdEdev-jbmMCz-jbmLTP-jcVeuq-jcQSNx-jbiicx-jbmVBv-jbpgCC-jbijQ2-jbr5Nu-jcT3vn-jbkDdu-jcSmkH-jbifUg-jbohuD-jcQQyH-jbp7Eh-jbigxv-jcTctU-jbiiat-jcT4QN-jbidCT-jbkv9d-jbpitb-jcV5yE-jbpdFq-jbr7nG-jbjJKx-jcV8Wb-jdEzSd-jgpWV6-jebCtT-jetSaM-je5Cmo-jebQmd-jedW39-je3STw-je5KR3-jebX3B-jgdhHX-jed349-jebuDz-jecvk3-jebzLE-jed94U-jedgCJ)
【「首都封鎖」でも比較的混乱は小さい市民生活】
タイでは、総選挙拒否・インラック首相退陣を求める反タクシン派による「首都封鎖」が行われていますが、市民の“慣れ”と対応によって、市民生活にはさほどの影響は出ていないとの報道があります。
****渋滞のタイ、「首都封鎖」で大混雑にならなかったワケ****
タイの首都バンコクの道路は普段からひどい渋滞で知られ、ラッシュ時は車で30分程度の距離に1時間半かかるのが当たり前だ。
反政府デモ隊が主要交差点を占拠する「首都封鎖」初日の13日は大混雑を覚悟した。だが、幹線道路の車の流れは拍子抜けするほどスムーズだった。交通量が減る週末よりもすいていた。
デモ隊が封鎖する交差点や道路の情報を事前周知していたこともあり、多くのドライバーが迂回(うかい)路を使ったり、運転を控えたりしたようだ。
公害管理局によると、バンコクの大気中の粒子状物質は首都封鎖後に全域で低下して基準値を下回り、大気汚染も改善した。
盛り上がりを欠く首都封鎖を見定めたように、バンコクの人々は徐々に日常生活を取り戻している。臨時休校していた日本人学校も、3日目の15日に時間を短縮して授業を再開した。
登下校では3千人近くの生徒が何台ものスクールバスに分乗するが、再開初日の下校時間帯のバス路線が、デモ隊の行進と鉢合わせすることが判明した。心配になって見に行ったが、バスの運転手たちは、脇道を巧みに使ってデモ隊を避け、子供たちを安全に送り届けていた。
繰り返されるデモと渋滞に鍛えられたバンコクのドライバーたちの対応力に、たくましさを感じた。【1月20日 産経】
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総選挙で活路を開きたいタクシン元首相の妹であるインラック首相、不利な総選挙を避けて、社会混乱を拡大する圧力をかけて退陣を迫るステープ元首相率いる反タクシン派の攻防については、最近では1月11日ブログ「タイ 反政府派「首都封鎖」 軍部・司法のクーデターの憶測も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140111)でも取り上げたところですので、その背景等の詳細は省略します。
【暴力激化の懸念】
“盛り上がりを欠く首都封鎖”であっても、インラック首相がこのまま政権を維持し、総選挙を実施できるか・・・ということになるといくつか問題が出てきています。
ひとつは、17日と19日に反政府デモに手投げ弾が投げ込まれ多数の負傷者が出ているように、事態が暴力的な状況に陥り混乱が一気に加速する恐れもあります。
****暴力激化を懸念=「首都封鎖」1週間―タイ*****
タイの反タクシン元首相派が主要交差点を占拠する「バンコク封鎖」を開始してから20日で1週間。政府機能をまひさせてインラック政権を退陣に追い込むのが狙いだが、双方互いに譲らず、こう着状態が続いている。「封鎖」の長期化とともに暴力のエスカレートが懸念されている。
「封鎖」開始以降、バンコクでは連日のようにデモ隊への発砲や爆弾事件が発生。この1週間で1人が死亡、70人以上が負傷した。17日と19日に起きた爆弾事件で使用された手投げ弾は同一のタイプとされるが、これまで容疑者は捕まっておらず、背後関係は明らかになっていない。
反政府デモを主導するステープ元副首相は19日の爆弾事件後の演説で、「インラック(首相)はわれわれを攻撃するために番犬を送り込んだ」と述べ、デモ隊を狙った一連の事件に政府が関与していると主張した。政府機関を標的とした「封鎖」を今後全国に拡大するなど、対決姿勢をさらに強める意向を示している。【1月20日 時事】
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事態を暴力化させるメリットが政権側にあるようには思えませんが、単純に反政府勢力を疎ましく思うタクシン支持派による犯行の可能性ももちろんあります。
あるいは、敢えて混乱を拡大し、軍によるクーデターを誘おうとする反政府派の犯行の可能性もあります。
そこらは分かりませんが、事態が混乱するとインラック政権の対応は非常に難しくなります。
【司法クーデター的な動き】
政権側にとって、もうひとつの問題は、前回11日ブログでも取り上げたように、タクシン元首相に批判的な司法勢力による政権を追い込む動きが進んでいることです。
****タイ:「独立機関」が政権に圧力 汚職委や憲法裁など****
反タクシン元首相派による反政府デモが続くタイで、国家汚職追放委員会や憲法裁判所といった政治・行政をチェックする「独立機関」がインラック政権の不正を追及する姿勢を強めている。かつて憲法裁はタクシン派政権を微罪で退陣させたこともある。デモによる政権打倒が決め手を欠く中、こうした独立機関の包囲網が政権を追い詰める可能性がある。
専門家らで作る国家汚職追放委員会は16日、政府の「コメ買い取り制度」を巡る不正に関与したとして、タクシン派与党・タイ貢献党の元閣僚を含む15人を訴追。インラック首相についても「制度が国家に損失を与えることを知りながら対応しなかった」として、職務怠慢の罪で捜査する方針を明かした。
制度は事実上、コメを市場価格より高値で買い取るもので、現政権が自らの支持基盤である農家を支援するために始めた。
しかし、政府は大量の在庫と1兆円を超える損失を抱え、制度を巡る数々の汚職疑惑も浮上。
ただ、2月2日に総選挙を控える中での汚職委の動きに貢献党関係者は「選挙妨害だ。なぜ捜査公表を急ぐ必要があったのか」と、不信を募らせる。
汚職委など独立機関は今年に入り、政権に厳しい判断を相次いで下している。汚職委は7日、貢献党議員ら308人の罷免に向けた捜査を始めたと公表。
半数が任命制の上院議員を今後、全て民選とする与党連合の憲法改正案について、憲法裁は違憲判決を下し、捜査はこの憲法改正を支持した議員らを対象にしている。
また、憲法裁は8日、貢献党が推進した国際条約締結を巡る別の憲法改正案についても違憲判決を出した。
インラック政権はデモ収束を狙い、昨年12月に解散・総選挙に打って出た。デモ隊や最大野党民主党は選挙ボイコットで対抗するが、政権は退陣要求には応じず、2月の総選挙を予定通り行う構えだ。
しかし、汚職委の捜査が進み、貢献党に公民権停止や解党処分などの司法判断が出れば、総選挙で勝利しても政権運営は不可能となる。このため、独立機関の動きはじわじわ政権を追い詰める。
独立機関は、タクシン元首相をクーデターで追放した軍政が2007年に制定した憲法に基づき権限が強化された。タクシン政権時代、独立機関への政治介入が問題となったためだ。
憲法裁は08年、タクシン派のサマック首相(当時)が料理番組に出演したことを「兼業を禁じる憲法に違反した」と認定し、失職させた。後継のタクシン派政権も憲法裁判所が選挙違反を理由に与党に解党命令を出して崩壊。反タクシン派の民主党への政権交代につながった。【1月19日 毎日】
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サマック首相のケースなどは、“司法クーデター”としか言い様がありませんが、今回もそうした動きが進行しています。
【限界に近い首相の精神状態】
もうひとつインラック政権の問題をあげれば、インラック首相の気力がどこまで持ちこたえられるか・・・ということでしょう。
政治に関しては全くの素人ながら、タクシン元首相の妹ということで政権の顔に担がれ、懸命に政権を維持してきた感があるインラック首相ですが、長引く反政府行動の圧力で精神的に相当にまいっているようです。
****インラック首相、辞任寸前だった?=土壇場で撤回―タイ紙****
14日付のタイ英字紙ネーションは関係筋の話として、インラック首相が反政府デモ隊の辞任要求に屈しそうになったが、土壇場で考え直したと伝えた。兄のタクシン元首相が職務を続けるよう求めたという。
同紙によると、インラック首相は反タクシン派デモ隊による「バンコク封鎖」開始前日の12日、プラユット陸軍司令官と電話で会話。政治的緊張に疲れたと述べ、助言を求めた。
プラユット司令官は、首相が決断することだとした上で、不測の事態が起きれば首相の責任になると伝えた。首相は12日午後4時までに回答すると応じ、首相が辞任を発表するとの見方が広がった。
首相がその後、タクシン氏と電話で話したところ、タクシン氏は、憲法上辞任は認められていないとし、辞任した場合、反タクシン派から職務を放棄した罪で訴えられ、禁錮刑に直面することになると警告。これを受け、辞任を思いとどまったという。【1月14日 時事】
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インラック首相の“やめたい”という思いは、これまでも報じられています。
****「やめたい」漏らしたタイ首相、首都離れ元気に****
タイのインラック首相(46)が、反政府デモの続く首都バンコクをほぼ半月以上離れ、ほとんどの時間を与党・タイ貢献党の地盤である北部や東北部で過ごしている。
首相は9日に下院解散を発表した後、11日以降は北部チェンマイなどをひんぱんに訪問。30日までに閣議などでバンコクに戻ったのは計5日間だけで、1月1日に南部ホアヒンで王室の新年行事に出た後は再びチェンマイに向かうという。
首相同行筋などによると、首相は反政府デモ隊が自身や兄・タクシン元首相以外の親族にも攻撃を強めることに傷つき、「政治家をやめたい」と周囲に漏らすこともあった。デモ隊は首相の自宅も度々包囲し、11歳の息子に警笛を吹き鳴らして威嚇することもあり、首相が記者会見で声を荒らげて抗議する場面もあった。
与党の人気が高い北部訪問は側近の勧めだったが、首相は温かい歓迎にすっかり元気を取り戻した様子だという。最近はチェンマイの国際会議場を事務所代わりに、執務しながらの滞在を続けている。
首相が長期間、首都を離れることには与党内でも批判があるが、党選対幹部は「選挙の顔である首相が倒れれば苦戦は免れない」として、リフレッシュのための北部滞在を支持しているという。【12月30日 読売】
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事態がこれ以上混乱すれば、首相の気力が持ちこたえれなくなることも想定できます。
その意味ではステープ元副首相らの反政府行動は大きな効果をあげています。
仮に総選挙を実施できても、汚職委の捜査や反政府派の行動によって、政権運営は厳しい情勢が続くことが予想されるなかで、精神的に限界が近いとも思われる首相がどこまで頑張れるか。
与党側からすれば、総選挙を乗り切れれば、国民和解のためにタクシン元首相の親族をはずすという意味でも、厳しい政治的圧力のなかで試験を維持していくうえでも、インラック首相の交代を考えたほうがいいのではないでしょうか。