孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カラシニコフ氏の苦悩  「武器貿易条約」(ATT)のその後

2014-01-14 23:26:16 | 国際情勢

(AK-47(多分)を手にしたシリア自由軍兵士 “flickr”より By Nish Nalbandian http://www.flickr.com/photos/53294072@N02/9926642016/in/photolist-g8bCQh-g8c1Pf-g8cXt4-g8c387-g8cFXe-g8cxQc-g8dmHv-g7MvRy-g8cfJv-g7Npq2-g8cYH8-g7MU5i-g8cfXs-g7MaX5-g8cDnL-g7NjvH-g8cgrH-g7Mkjt-g8cWyt-g8cvHh-g8d2G4-g8cvZ9-g7M323-g7LMT4-g8bPMg-iswTyz-g7LU7h-g8co6q-isxLxg-g8bNnd-g7LT4K-g7MeAW-g8cbT3-g7MYch-g7LLB7-g8ceXR-agE8ud-dthYiv-dQqha9-dx3DmX-dthnmL-dwG74v)

【「一体彼らはどうやってこの武器を手にしたのだろうか?」】
世界各地で頻発している紛争・武力衝突で一番多くの生命を奪っている兵器は、核兵器でもミサイルでも化学兵器でも最新兵器でもなく、自動小銃でしょう。

その自動小銃を代表するのが、通常“カラシニコフ”と呼ばれるAK-47(「1947年式カラシニコフ自動小銃」の意)です。

“AK-47は信頼性が高いことが最大の特徴であり、扱いが多少乱暴でも確実に動作する。これはミハイル・カラシニコフが設計の段階で変化に富んだソ連の気候を想定し、部品同士のクリアランスを大きめに取り、多少の泥や砂、高温または寒冷地における金属の変形、生産時の技術不足による部品精度の低下が起きても、問題なく動作するよう考慮したためである。故に極寒地や砂漠地帯の兵士からも信頼が寄せられている。特に機関部は、内側に泥や砂などが入っても、軽く水洗いすれば射撃できるほどである。”【ウィキペディア】

また、射撃後の分解掃除や故障時の対処が非常に簡便で、銃の扱いの経験が少ない者でも使用できるのも大きな特徴です。

そのため、世界中の武装組織・民兵などに愛用され、不正規品・バリエーションを含めたAKの総数は1億丁を超えるのではないかと推測されています。

このAK-47の設計者であるカラシニコフ氏が亡くなりました。
同氏は、自分が生み出した銃の優秀さが故の深刻な問題に悩んでいたようです。

****心の痛み耐え難い」カラシニコフ氏、手紙に****
13日付のロシア紙イズベスチヤ(電子版)によると、旧ソ連のカラシニコフ自動小銃AK―47の設計者で、昨年12月に94歳で死去したミハイル・カラシニコフ氏が生前、「心の痛みは耐え難い」などと、自分が開発した銃で多数の人々が命を落としたことに心を痛め、ざんげする手紙を書いていたことが分かった。

同氏が昨年4月、ロシア正教会の最高権威キリル総主教に向けて書いた。同銃は世界の紛争地で最も多く使われたといい、手紙では「私の自動小銃が人々の生命を奪ったことは、たとえ敵の死であったとしても、私に罪があるのではないか」と心情を吐露した。

キリル総主教の報道担当者は同紙に対し、正教会の立場は「武器が祖国のために使われたならば、その設計者と軍人を支持する」と説明。手紙を受け取った総主教は、「愛国主義の手本で、国に対する正しい行いだ」と返答したという。【1月14日 読売】
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“毎年、何千人もの人々がこのAK-47によって殺害されている”という現実にあって、どうして彼らはその銃を入手したのだろうか?銃を含む武器取引が管理されていれば、こんなにも世界中で紛争が起きないだろうに・・・というのは素朴な感想ですが、カラシニコフ氏も同様な心境だったようです。

****規制のための運動【ウィキペディア】*****
「AK-47は、無秩序な武器貿易を象徴しており、人々の生命や生活を破壊している。武器を製造する人とそれを誰に売るかを規制する国際的な規制によってのみ、不正な武器の流通を防ぐことができるだろう」と、アムネスティ・インターナショナル事務総長のアイリーン・カーンは語った。

「(他の銃や軽兵器のように)AK-47が無秩序に拡散することは、特に一部の最貧国で、何百万もの死と大規模な被害をもたらす。次に小型武器に関する国連会議が開かれるのは5年後である。もしも各国政府が、銃の不正な移転を防止するためのこの機会を逃せば、次の機会までにさらに180万人の人々が銃によって殺害されるだろう」と、IANSA事務総長のレベッカ・ピーターズは語った。

AK-47の発明者であるミハイル・カラフシニコフも(/ですら)、より厳しい規制を求めている。ミハイル・カラフシニコフは「コントロール・アームズ」キャンペーンに寄せて次のように述べた。

「武器売買に関する国際的な規制が欠如しているため、小型武器は容易に世界に拡散し、国防のためだけでなく、侵略者やテロリストなどあらゆる犯罪者によって使用されている。私は、テレビで犯罪者がカラシニコフを手にしているのを見る時、一体彼らはどうやってこの武器を手にしたのだろうか?」と、自問している。

女性、学童、あるいは教育を受けていない者でも数時間-数日の教習で扱えるよう設計されている点はほかの小銃にない特徴であり、世界中で殺人に使われ、また、人々を不具にするために使われてしまい、紛争の長期化をもたらし、貧しい人々をさらに貧しくする、といった様々な悪影響を世界中にもたらしている。

毎年、何千人もの人々がこのAK-47によって殺害されている。AK-47の製造・売買・使用に関する国際的な規制がほとんどないため、このような事態を招いている、と報告書AK-47:The World's Favourite Killing Machine(「AK-47:世界最強の殺人機器」)は指摘している。

同報告書によると、現在、世界には推計1億丁ほどのAK-47とそのバリエーションが存在する。AK-47は、少なくとも82ヶ国の兵器庫で発見されており、少なめに見積もっても14ヶ国で製造される状態になってしまっており、さらに(今まで北米・南米では製造されていなかったのに)最近、南米のベネズエラまでがAK-47の現地製造工場に関する契約を結んだので、さらに状況が悪化すると見られている。

AK-47のような悪影響の大きい銃をいかに効果的に規制するか、ということが問題になっており、それが銃が世界中にもたらしている不幸を減らすためのひとつの鍵となると考えられているのである。
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国連総会でATT採択 注目されるアメリカの動向
現在はバナナ取引ほどの規制もなされていないという野放し状態にある自動小銃を含む通常兵器の取引ですが、この武器貿易を国際的に規制していこうという動きが、昨年3月30日ブログ「「武器貿易条約(ATT)」採択見送り 今後は国連総会で採決の見通し」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130330)で取り上げた武器貿易条約(ATT)です。

対象となるのは、大型武器7種類(戦車・装甲戦闘車両・大口径火砲・軍用艦艇・攻撃用ヘリコプター・戦闘用航空機・ミサイルおよびミサイル発射装置)および小型兵器・軽兵器の8種類です。

前回ブログでは、全会一致方式の国連会議は北朝鮮やシリア、イランの反対で決裂し、今後は国連総会へ付託される見込み・・・というところまででしたが、その後、4月2日に国連総会において賛成多数で採択されました。

****武器貿易条約:国連総会で採択 通常兵器に初規制*****
国連総会は2日、通常兵器が虐殺などに使われることの予防を目指した武器貿易条約(ATT)の採決を行い、賛成154、反対3、棄権23の賛成多数で採択した。

「年間50万人の命を奪う」と言われながら、核兵器や化学兵器と違い「野放し状態」(国連)だった通常兵器の国際的な取引に、世界共通の法的拘束力を持つ規制が初めて導入されることになる。条約を批准した国が50カ国に達してから90日後に発効する。

ATTは、通常兵器の非合法市場への流出を防ぎ、戦争犯罪やテロ行為など非人道的な行為を予防するのが目的。対象範囲として、戦車や戦闘機、装甲戦闘車両や攻撃ヘリコプターなど大型兵器7種類と、自動小銃などの小型武器の計8項目を明示。武器取引の可否を判断する際の基準を設けた。

最も厳格に規制されるのは、国連安全保障理事会決議に基づく禁輸措置違反や、大量虐殺や「人道に対する罪」、民間人の直接攻撃に使われると分かっている場合だ。輸出入だけでなく、通過、積み替え、仲介といった「あらゆる移転」が禁止となる。

また、国際人道法や国際人権法の重大な違反、テロや国際組織犯罪に関連する協定違反につながる危険性がある場合は、輸出を許可しないことを義務化。武器の非合法市場への流出防止措置をとることも義務とされた。

焦点の一つで、規制推進派国や国際NGOなどが強い措置を求めていた弾薬の移転は、一定の規制を受けるものの流出防止の対象外となるなど、条約の運用の際に議論となりそうな項目も多い。

条約への正式参加には各国議会などによる批准が必要。しかし、条約導入に政府は前向きながら、国内に強硬な武器規制反対派を抱える世界最大の武器輸出国・米国で、批准が実現するかどうかには不安定要素がある。

米国が不参加となれば、ロシアや中国など他の主要武器生産国も消極的になる可能性も出てくる。また、密輸による紛争地への武器供給などを効果的に規制できるかも、今後の運用次第だが、各国の裁量に任されている部分も少なくない。

ATTを巡る交渉は、英国や日本、オーストラリアなど7カ国が共同提案した06年の国連総会決議を受けて開始。昨年7月の国連会議は時間切れで決裂し、先月28日まで行われた再交渉会議ではイラン、北朝鮮、シリアの3カ国の反対で合意による採択に失敗。多数決で採択できる国連総会に持ち込まれた。【2,013年4月3日 毎日】
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対応が注目されているアメリカは、6月3日の署名式での署名を“条約文の国連公用語(英語など6カ国語)への翻訳が終了した後、署名する”(ケリー国務長官)として見送りましたが、9月25日に署名に至っています。
ただ、批准に必要な上院の承認が得られるかどうかは定かではありません。

****米国務長官:「武器貿易条約」に署名 焦点の上院批准****
ケリー米国務長官は25日、国連本部で、通常兵器の国際取引を規制する国際ルール「武器貿易条約」(ATT)に署名した。

世界最大の武器輸出国・米国の署名は条約発効に向けた前進だが、米国内には消極論もあり上院での批准手続きが焦点となる。

同条約は批准国50カ国で発効する。国連によると、25日夕方までの署名国数は108。発効確実と見られるが、米国が不参加だと条約の実効性に疑問符がつく。
国連総会での採決で棄権したロシアや中国も消極姿勢を強める可能性が高い。米国では批准に上院出席議員の3分の2の賛成が必要だ。

武器規制に反対する強力なロビー団体の全米ライフル協会(NRA)は、米国での武器売買・保有の権利を制限すると条約に反対。武器所有を市民の権利として認めた米憲法修正第2条との関係が焦点だ。

ケリー長官は署名式で「この条約は誰の自由も狭めない」と憲法上の問題は生じないと強調し、理解を求めた。

同条約の規制対象は、戦車や攻撃用ヘリコプター、自動小銃などの小型武器。大量虐殺やテロなど非人道的な使われ方をする危険性が高い場合は輸出を禁じるほか、輸出入の条約事務局への報告を義務づけ通常兵器がテロや犯罪などに使われないようにする。【2013年9月26日 毎日】
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一方、ロシアのリャプコフ外務次官は9月26日、「武器貿易条約」には「欠陥」があるとして、ロシアはまだ加盟しないとの立場を明らかにしています。
ロシアは国連会議においても、条約が「非国家組織への武器供給を禁じていない」ことを理由の一つとして棄権しています。国内のチェチェン独立派武装勢力の存在が念頭にあるとみられています。【2013年04月03日 毎日より】

ただ、おそらくそれは表向きの理由で、実際は武器貿易の規制自体を望んでいないのでしょう。
ソ連崩壊・冷戦終結後の90年代、ロシアやウクライナなどの備蓄武器が大量にアフリカに流出したことが、アフリカの内戦・混乱の一因とされています。

昨年9月のアメリカの署名で、108の国が条約に署名したことになりますが、昨年10月時点で批准したのは7ヶ国です。

12月6日には、日本を含む武器貿易条約原提案国(日本以外では,アルゼンチン,豪,コスタリカ,フィンランド,ケニア,英)が提出した、各国に対し早期の署名及び締結を呼びかける武器貿易条約決議案が圧倒的多数で採択されました。

日本が批准したという話はまだ聞きませんが、原提案国ですから批准し、アメリカなどへの働きかけを行うのでしょう。
ただ、国内銃規制でつまずいたアメリカはどうでしょうか?オバマ大統領の指導力も低下しているようですし、難しい情勢です。

米中ロ抜きでも今後の流れをつくるという意味で一定に効果はありますが、やはりアメリカの参加・不参加は当面の実効性に大きく影響します。

武器輸出三原則
なお、日本はこれまで武器輸出三原則という規制がありましたが、政府はこれを撤廃する意向です。

ただ、公明党は「武器の輸出は抑制的かつ限定的でなければならず、一定の歯止めをかけるための仕組みが不十分だ」などと懸念を示しており、武器輸出を巡る新たな原則の策定に向けた政府・与党内の調整は今後、手間取ることも予想されます。【1月8日 NHKより】

****武器禁輸原則、撤廃へ 「安全保障に資すれば」 政府原案****
安倍政権は5日、武器輸出を原則として禁ずる武器輸出三原則に代わり、新たな武器輸出管理原則を作ることを決め、原案を与党に示した。

原則として、武器輸出を禁止してきた従来の方針を撤廃する内容だ。政府は年内の決定を目指すが、新原則は政府方針の大転換になる。

武器輸出三原則は1967年、佐藤内閣が(1)共産圏(2)国連安保理決議により武器輸出が禁止されている国(3)国際紛争の当事国またはそのおそれのある国――のケースで武器輸出を禁止。

三木内閣が76年、三原則以外の国にも原則、輸出禁止を決めた。ただ、米国への武器技術供与などは個別に官房長官談話を出して「例外」を設けてきた。

政権が示した原案では「我が国の安全保障に資する場合」は輸出できるなど、幅広く解釈できる文言を新しく設ける。ただ、(2)と(3)の禁止条項は維持する。輸出の審査・管理基準も設けるが、三木内閣の原則禁止の方針は撤廃の方向だ。武器輸出の品目や地域が大幅に広がる可能性がある。

新原則が決まれば、輸出の可否は外交・安保政策の「司令塔」となる国家安全保障会議(日本版NSC)などでの協議を経て判断される。【12月6日 朝日】
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