孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  着実に体制を固める軍主導の暫定政権 明日、憲法改正国民投票

2014-01-13 21:47:16 | 北アフリカ

(「国民の要請があれば・・・」と、大統領選出馬を明らかにしたシーシ軍最高評議会議長兼国防相 写真は【12月31日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BU00120131231

ムスリム同胞団をテロ組織に指定
エジプト情勢を取り上げるのは、12月2日ブログ「エジプト暫定政権 強権的姿勢を強める アメリカは軍事支援で苦慮」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131202)以来と、久しぶりです。

この間、ドラスティックな展開こそないなかで、着実に軍部主導の体制固めが進行しています。

****エジプトで衝突、17人死亡****
エジプトで3日、失脚したモルシー前大統領の復権を求めるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団などのデモ隊と治安部隊が衝突し、保健省によると全土で少なくとも17人が死亡、50人以上が負傷した。
内務省は同日、デモ参加者250人以上を逮捕したと発表した。【1月5日 産経】
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上記のようなムスリム同胞団支持者と軍主導の暫定政権の衝突は相変わらずですが、暫定政権側の締め付けは更に厳しくなっています。

****エジプト:ムスリム同胞団を「テロ組織に指定」 暫定政権****
エジプト軍主導の暫定政権は(12月)25日、7月の軍事クーデターで追放されたモルシ前大統領の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団を「テロ組織に指定した」と発表した。

暫定政権は同胞団への弾圧をさらに強める可能性が高い。ただ、同胞団がテロに関与した明確な証拠は示していない。同胞団はテロへの関与を否定しており、今後もクーデターへの抗議活動を続ける方針だ。

暫定政権は、同胞団のテロ組織指定について、北部マンスーラの警察施設で24日に発生した爆弾テロ事件を受けた措置だと説明した。

事件で警察官ら16人が死亡。東部シナイ半島を拠点とするイスラム過激派組織「エルサレムの支持者」が犯行を認める声明を発表した。同胞団は関与を否定しているが、暫定政権は以前から両組織が連携しているとの見方を示していた。

暫定政権はクーデター後、同胞団幹部を軒並み拘束し、非政府組織(NGO)登録を取り消すなど、同胞団の弱体化を図ってきた。

今後はデモなどの抗議活動も一切認めない構えで、同胞団員や支援者に対する弾圧をさらに強めるとみられる。同胞団が貧困層向けに運営してきた学校や病院にも影響が出そうだ。

ただ、強権的な抑圧策をとる暫定政権に対し、同胞団に批判的だったリベラル派からも懸念の声が高まっており、今回の措置で暫定政権への批判が強まる可能性もある。

政府系紙アルアハラム(電子版)によると、外務省は25日、同胞団の拠点がある他のアラブ諸国に対し、同様の措置をとるよう求めた。同胞団は、シリア内戦で反体制派としてアサド政権と戦っている。また、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)も同胞団が反王制的だとして警戒している。

同胞団は1928年、イスラム教に基づく統治の実現を目指してエジプトで設立された。
50年代以降は歴代政権の弾圧を受けたが、2011年の革命後の選挙で圧勝し、モルシ氏が12年6月に大統領に就いた。緩やかなイスラム化を志向しており、テロを頻発させるイスラム過激派とは一線を画してきた。【12月26日 毎日】
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8日に予定されていた、デモ参加者殺害を扇動した罪に問われたムスリム同胞団出身のモルシ前大統領の裁判は、2月1日に延期されました。
延期理由について内務省は、モルシ前大統領暗殺計画があったためだとしています。【1月10日 朝日より】

軍主導の“民政移行” 強まる軍の権限
暫定政権側は、体制固めのひとつの区切りとなる憲法改正案の賛否を問う国民投票を明日14日に行います。
憲法修正案では、クーデターを主導した軍や、裁判所の権限が強化されたほか、男女平等や宗教政党の禁止などが明記されています。

****エジプト、軍靴の響き 憲法改正案、14日に国民投票 民間人を裁く権限明示****
昨年7月の軍クーデターでイスラム系政権が倒されたエジプトで14日、憲法改正案の賛否を問う国民投票が行われる。

軍主導の暫定政権下で審議された改正案は、女性の権利などを新たに盛り込む一方、民間人を軍事法廷で裁く規定など軍の権限を明示し、憲法で裏づけた。軍総司令官のシーシ国防相兼副首相の大統領就任に向けた布石との見方も出ている。

エジプトでは突然、身に覚えのない罪で軍事法廷にかけられるケースが後を絶たない。(中略)

エジプト革命後の12年に採択された憲法は、市民が軍事法廷にかけられる罪を漠然と規定。軍主導の暫定政権による今回の改正案では、細かく規定された。
憲法起草委員会のアムル・ムーサ委員長は「軍に対する犯罪が、軍施設や軍人への攻撃などに限定された」と胸を張る。

だが、在カイロの人権団体のイスハク・イブラヒムさん(37)は「軍事法廷は不透明で、情報は外に出ない。改正案は犯罪の対象を限定したように見えるが、軍の意向でいかようにも解釈できる」と懸念する。

同国ではこれまで、様々な分野に軍が広く力を及ぼしてきた。13年の調査では、11年以降少なくとも約1万2千人の市民が軍事法廷にかけられたとの結果が出たが、実数ははるかに多いとされている。
(中略)
国民が憲法改正案に賛成すれば、軍は自らが描く民政移行の筋書きが承認され、軍の権力に「お墨付き」が与えられたと判断。エジプト革命前まで続いた軍を柱とする体制の復権を進める可能性がある。(後略)【1月13日 朝日】
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今回憲法改正案は、憲法委員会の委員の大多数を占める世俗・リベラル派の意向が反映されたものでもあり、軍が勝手に作ったものではありませんが、軍による文民統制を強めるものともなっています。

****エジプト:宗教政党禁止の憲法修正案****
エジプトの憲法修正について審議していた憲法委員会は1日、宗教政党の禁止などを盛り込んだ修正案をまとめた。修正案には委員の大多数を占める世俗・リベラル派の意向が反映された。

1月にも行われる国民投票で修正案が承認されれば、クーデター後に弾圧されたモルシ前大統領の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団の政治的復権はさらに困難になる。

憲法委員会は政界、宗教界、労働者、市民団体などの代表者50人で構成され、ムスリム同胞団は参加していない。

修正案では「宗教に基づく政党の設立」は禁止される。人民議会解散時に立法を担うシューラ評議会は廃止される。宗教政党の廃止について、昨年6月に人民議会が解散されるまで同胞団系政党に次ぐ第2のイスラム政党だったヌール党の委員は反発したが、多数決で決まった。

ヌール党は「他宗教の出身者も受け入れている」として禁止規定の対象にならないと主張しているが、存続が難しくなる可能性もある。

一方、クーデターを主導した軍を巡って、国防相は軍側が選んだ候補者の中から選任される規定が新たに盛り込まれた。国防相人事を巡っては、モルシ前大統領が昨年8月、軍側の意向に反して国防相を交代させた経緯がある。軍予算が国会の審議対象外となる条項も継続されており、修正案が承認されれば、軍に対する文民統制がさらに弱まる。

現行憲法は11年のムバラク政権崩壊後、イスラム勢力が多数派を占める憲法起草委員会が草案を策定し、12年12月の国民投票で承認、施行されたが、今年7月のクーデターで効力が停止されていた。【12月2日 毎日】
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軍の実権が強化されれば、憲法の文言にかかわらず、その解釈はいかようにもできることはエジプトだけの話ではありません。“民政”も、軍の意向に反しない限りにおいて・・・というものでしょう。

憲法改正案が国民投票で承認されれば、数カ月後には大統領選や議会選が行われる見通しです。
現在、大統領選で唯一の有力候補に取りざたされているのが、軍トップのシーシ軍最高評議会議長兼国防相・副首相です。

****エジプト軍トップのシシ議長、大統領選出馬の意欲を示す****
エジプト軍トップのアブデルファタフ・サイード・シシ軍最高評議会議長兼国防相は11日、「国民の要請があれば選挙に立候補する」と述べ、多方面から予測されている大統領選への出馬に意欲を示した。

政府系日刊紙アルアハラムが報じたところによると、シシ議長は政府関係者などが参加した集会で「もし私が立候補するとしたら、国民の要請と軍の委任が必要だ」と述べたという。

シシ議長は、昨年7月にイスラム組織出身のムハンマド・モルシ前大統領が軍によって解任された後では最も人気のある指導者だ。複数の軍関係者がAFPに語ったところによると、軍内部では今年行われる予定の大統領選へのシシ議長の立候補が支持されているという。

エジプトは、新憲法についての国民投票を数日後に控えている。軍が主導する暫定政府はこの国民投票を、モルシ氏解任後のエジプトに選挙を通じた統治を復活させる最初の選挙と位置付けている。【1月12日 AFP】
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続く混乱から、安定を求める国民
国民の間にはモルシ政権とその崩壊後の政治・社会混乱を嫌気する空気が強く、暫定政権による「混乱はテロ組織・ムスリム同胞団によるもの」というアピールが奏功しているようです。

****混乱収まらぬエジプト、観光地ルクソールの悲鳴****
古代ファラオの遺跡で有名なエジプトのルクソールはかつて観光客であふれていた。だが同国の政治情勢の激変により、観光客の姿は消えてしまった。

エジプトの政情不安は2011年、長年独裁を敷いてきたホスニ・ムバラク元大統領を退陣に追い込んだ民衆蜂起から始まった。2013年7月には軍の事実上のクーデターによりムハンマド・モルシ前大統領が解任。その間も暴動や混乱は続き、同国の経済を支える観光産業は大きな痛手を負っている。

ルクソールで観光案内の仕事をするサラーハさん(51)の馬車には、この何か月間も客が乗っていない。「以前は月に2000~3000エジプト・ポンド(約3~4万5000円)を稼いでいたが、今ではポケットに10ポンド(約150円)あればいいほうだ」という。4人の子供がいて、末っ子はまだ18か月だ。

エジプト南部、ナイル川の岸に位置する人口約50万のルクソール市。同国最大の観光地の一つだが、過去3年にわたる政変の影響をもろに受けている。

市民の大半はサラーハさんのように観光業で生計を立てている。観光はエジプトのGDP(国内総生産)の11%以上を占め、最近まで400万人以上の雇用を維持していた。

■市内はゴーストタウン化
しかし、ルクソールに毎日約1万人もの観光客が訪れる日々は過ぎ去ってしまった。「馬をもう1頭持っていたんだが、売ってしまった」とサラーハさんはいう。「子供と馬2頭、どちらを養っていくかの選択だった」。
サラーハさんのように馬車による観光ガイドはルクソールで340件が営業しているが、うち20件の馬が餓死したという。

かつては潤っていたルクソールは、今やゴーストタウンと化している。空港に人影はなく、ホテルの前に停まっているタクシーに乗り込む客もほとんどいない。

エジプトではモルシ退陣後も、軍主導の暫定政府によるモルシ支持派の弾圧は続き、暴力をともなう衝突で1000人以上が死亡した。治安が悪化する中、諸外国政府はエジプト渡航に注意を喚起しており、観光業が回復する見込みも立たない。

ルクソールではこれまで暴動は起きていないが、観光業に携わる人たちはモルシ前大統領とその出身母体であるイスラム組織「ムスリム同胞団」に非難の矛先を向けている。

再び安定を取り戻すため、ルクソールの住民は、暫定政府が約束通り民主的な政権移行を迅速に実行することを求めている。今月には新憲法案の是非を問う国民投票が実施される予定で、今年半ばまでに議会選と大統領選挙も行われる見込みだ。【1月8 日 AFP】
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従って、ムスリム同胞団の反対・「投票拒否」の訴えにもかかわらず、国民投票は賛成多数で承認されるものと思われます。
都市部から農村部まで張り巡らされた草の根ネットワークを持ち、福祉・慈善活動などによって国民の2~3割程度の支持を得ているとされていたムスリム同胞団ですが、投票率が注目されます。

その先にあるのはシーシ大統領ですが、2011年のエジプト革命直後、軍が政権運営の表に立ち、反軍政デモを招いたとの反省から、慎重にことを運んでいるようです。

許されない軍批判
軍部主導の流れに対し、かつてのムバラク政権以上に抑圧的だとの批判もあります。

****エジプト、強まる言論統制 「現政権、ムバラク時代よりひどい****
エジプトで7月に軍主導のクーデターでイスラム系のムルシ政権が排除されて暫定政権ができてから、言論統制が強まっている。

人気コメディアンの政治風刺番組が打ち切りとなり、記者への圧力や拘束が相次ぐ。北部ではデモに参加した女性らが逮捕され、一時は長期刑が言い渡された。

 ■放送中止命令、相次ぐ
コメディアンのバセム・ユーセフさん(39)は2011年のエジプト革命後、テレビの政治風刺番組で人気を集めるようになった。

ところが、度重なる圧力にさらされた。12年に政権に就いたムルシ前大統領を皮肉り、今年3月に一時拘束された。10月下旬、クーデターでムルシ氏を排除したシーシ国防相を風刺すると、今度は番組が打ち切りとなった。(中略)

政治記者サブリさんは「ムバラク時代でも批判の余地はあり、ムルシ時代にそれが広がった。だが今、ゼロになった」と話す。

7月以降、デモを取材していた記者や写真家ら少なくとも8人が死亡。「軍の空爆で市民が負傷」と報じた記者が「誤報を流した」として軍事法廷で訴追されるなど、数十人が拘束された。

軍の行動を批判的に報じたカタールの衛星放送アルジャジーラのエジプト国内ニュース専門局や、同胞団系のニュース局など10以上の放送局が「社会の平穏を脅かす」などの理由で放送中止命令を受けた。

 ■デモ規制も強
デモに対する圧力や規制も強まっている。

「禁錮11年1カ月の刑を言い渡す」
11月27日、北部アレクサンドリアの裁判所が女性14人に判決を言い渡した。さらに、15~17歳の少女7人を少年院送致と決めた。

21人は10月末、アレクサンドリアで軍部を批判するデモに参加し、「テロ組織」に所属して警官を襲ったりしたとして起訴された。「テロ組織」とは、ムルシ前大統領の出身母体ムスリム同胞団を指す。

これに対し、21人の弁護を担当するアフマド・ハムラウィ弁護士(58)は「21人のほとんどは同胞団員ではない」と反論する。(中略)

一連の経緯には、国内外の人権団体などから強い批判が出た。裁判所は今月7日、14人への判決を執行猶予付きの禁錮1年に、未成年者は保護観察に減刑。21人は全員、その日のうちに釈放された。

暫定政権は11月下旬にデモを規制する法律を制定。事前に届け出のないデモを取り締まりの対象とし、参加者の逮捕、拘束をより容易にした。

ヤスミン・ホサム弁護士(26)によると、7月以降、推計で7万5千人が拘束されたといい、刑務所は定員を超えているという。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのタマラ・リファイさんは「前例のない数の人々が逮捕されている」と語り、同法の下で人権状況が悪化する恐れがあると警告する。

一方、暫定政権のベブラウィ首相はテレビ取材などに「法律はデモの権利を認めている。安全を脅かす行為や暴力を規制しているだけだ」と反論。

メディアの状況について「批判の自由は必要だがメディアは偽情報であふれている。より客観的な事実の報道が必要だ」と述べている。【12月13日 朝日】
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こうした批判はあるものの、おそらく国民が今求めているのは“安定”でしょう。その結果は・・・?
結局イスラム社会は原理主義を排しようとすれば強権支配しかないのか・・・・異なる者を認める寛容の精神とイスラム主義は相いれないのか・・・・中東世界を揺り動かした「アラブの春」の意味が改めて問われます。
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