孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ミンダナオ島  最終的な和平協定に向けて前進

2014-01-27 21:28:36 | 東南アジア

(マレーシアの首都クアラルンプールのホテルで行われた記者会見の席上、合意文書を交換するフィリピン政府のミリアム・コーネル・フェレール主席交渉官(左)とイスラム武装勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のモハグハ・イクバル交渉団長(2014年1月25日撮影)。(c)AFP/KAMAL SELLEHUDDIN 【1月26日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3007284?pid=12999393)

政府側交渉官:2月か3月にも「包括合意文書」に調印できるとの見通し
40年以上にわたって続いているフィリピン南部ミンダナオ島のイスラム系住民の反政府闘争について、フィリピン政府とミンダナオ島を拠点とする反政府武装勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)は、2012年10月7日、既存の「ムスリム・ミンダナオ自治区」(ARMM)の領域拡大を認め、2016年までに新自治政府へ移行し、「移行委員会」を設置して新自治政府の統治機構と「基本法」を策定することが柱とする、和平の枠組みに合意しました。
(2012年10月8日ブログ「フィリピ ミンダナオ島反政府勢力との和平枠組み合意が成立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121008

当初は2013年3月にも包括合意が・・・との見通しもありましたが、その後の具体的な交渉は難航しました。
そして2013年7月13日に、資源利権の配分を巡って、税収や鉱物などの資源は75%を新自治政府に配分、石油などエネルギー資源は50%ずつ分け合うことで合意しました。

しかし、2013年9月には、政府とMILFの和平交渉に反対する反政府勢力「モロ民族解放戦線(MNLF)」の指導者ヌル・ミスアリ氏を支持するグループがミンダナオ島にある商業都市サンボアンガを襲うという事件も起きました。
(2013年9月9日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島  和平交渉進展を妨害する襲撃事件」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130909

こうした紆余曲折はあったものの、フィリピン政府と「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)は、最後の障害となっていた武装解除問題についてもようやく合意に至り、包括合意に向けて動き出しています。

****比政府とモロ・イスラム解放戦線、武装解除で合意****
フィリピン政府と同国南部のミンダナオ島を拠点とする主要反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」は26日、1996年から継続してきた和平交渉で最後の障害となっていたMILFの武装解除に関する問題で合意に達したことから、向こう数週間以内に最終的な和平協定に調印できる見通しになったと明らかにした。

政府のミリアム・コーネル・フェレール首席交渉官は、2月か3月にも「包括合意文書」に調印できるとの見通しを示した。
双方はこの前日の25日、MILFの武装解除やミンダナオ島内に作られる予定の新しいイスラム自治区の治安部隊創設に関する詳細を定めた「正常化」協定に合意したと発表していた。

すでに双方は、自治区における権限の分担や税制、統治について合意し、協定に調印している。しかしMILFは、同国南部のMILF以外の反政府勢力が武装解除されないかぎり、武装解除には応じないと主張してきたことから、この問題は慎重な対応を必要とする最後の問題となっていた。

包括合意が調印されれば、ベニグノ・アキノ大統領はイスラム教徒による新自治区の創設に向けた基本法案に署名し、この法案は議会に送付された後に国民投票にかけられることになる。大統領は6年間の任期が終わる2016年までに新自治区の実現にこぎ着けたい考えだ。

総勢約1万2000人のMILFはフィリピン政府との間で、ミンダナオ地域における紛争の終結を目指して和平交渉を続けてきた。同地域で1970年代から続いた紛争による死者は、合わせて15万人に上ったとみられている。

武装勢力の長年にわたる反政府活動により、この地域では不安定な情勢が続いてきたため、無許可の小火器が政府との和平協議に反対している国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系の過激派や、武装勢力の分派の間に広がっている。

フェレール氏は、武装勢力による攻撃の可能性を排除するため、新自治区創設までの移行期間中はMILFの戦闘員と政府の治安要員から成る合同治安組織に治安維持にあたらせる方針だと述べた。【1月26日 AFP】
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今回の合意の背景としては、“ミンダナオ島ではMILF以外のイスラム系武装勢力や私兵集団の活動が依然として活発で、安全保障の観点から、武装解除の交渉は難航するとみられていた。しかし、16年に任期を終えるアキノ政権の期間内に自治政府設立を間に合わせるため、MILFも折り合いを付けたとみられる。”【1月25日 時事】と報じられています。

合意に反対する武装勢力の存在
今後は自治基本法の制定などのプロセスが控えていますが、反対勢力の妨害も予想されています。

反対勢力のひとつは、MILF以外の政府との合意に反対する武装勢力です。
自治・独立に関する理念の問題もあるでしょうが、枠組みから排除され権益・権限を主張・行使できなくなるという現実的利害の問題もあるでしょう。

****比国軍と解放戦線分派、ミンダナオ島で戦闘****
フィリピン国軍によると、同国南部ミンダナオ島で27日、国軍とイスラム武装勢力「バンサモロ・イスラム自由戦士」の間で戦闘が発生した。

この武装勢力は、25日にフィリピン政府との間で武装解除に合意した「モロ・イスラム解放戦線」の分派で、政府との和平に反対する強硬派とされる。

国軍報道官によると、国軍と国家警察は27日朝、住民の殺害を繰り返したなどとして、「自由戦士」幹部25人の逮捕に乗り出した。「自由戦士」がこれに反発、戦闘が起こった可能性がある。双方に死傷者が出ているかどうかは不明。

同報道官は、「モロ・イスラム解放戦線」が国軍を支援し、戦闘地域で住民保護にあたっていると話した。【1月27日 読売】
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今のところは、政府・国軍とMILFは協調行動をとっているようです。

既得権益層の反対 憲法問題も
想定される反対勢力のもうひとつは、キリスト教勢力を含めた既得権益を持つ有力氏族や反大統領勢力です。

****反対勢力の妨害も=自治基本法制定が焦点―ミンダナオ和平****
・・・・今後は双方で設置した移行委員会が「3~4月に基本法案をまとめ、遅くても5月までに議会提出」(外交筋)を目指す運びだが、同筋は法案審議をめぐり「キリスト教勢力を含めた既得権益を持ち、和平を好まない勢力の立法府、司法を巻き込んだ妨害が必ずある」と指摘する。

実際にアロヨ前政権とMILFは08年に自治権拡大などで大筋合意したが、反発するキリスト教徒らの提訴を受け、最高裁が和平合意を違憲と判断、紛争が再燃したことがある。【1月25日 時事】
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憲法判断をクリアするためには最終的には改憲が必要ではないかと見られていますが、そのあたりの段取り・見通しは政府側にもないようです。

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・・・・前アロヨ政権時代に一度は認めた自治政府設立がその後の最高裁で現行憲法に『違反』するとの判決が下された経緯があって、MILFの望むような形では、再び最高裁による違憲判決が出る可能性がある。

改憲に対しては根強い反対論が議会、カトリック宗教界、世論の中にあって1992年~1998年のラモス政権以来、議論は止まったままである。

これに対してアキノ政権は柔軟に対応すれば改憲をしなくても合意履行は可能と当てのない楽観論を展開するのみで実現性の薄さに危惧を持たれている。・・・・【2012年11月12日 フィリピン・インサイドニュース】
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アキノ大統領も同じ失敗を繰り返すつもりもないとは思いますが・・・・どうでしょうか。

いずれにせよ、15万人とも言われる犠牲者を出している紛争に出口が提示されたことは、歓迎すべきことです。
あのシリアですら、3年というミンダナオに比べたら短期間ではありますが、その犠牲者は13万人と言われていますので、ミンダナオにおける犠牲者の多さがわかります。

世界にはこうした国際的にはあまり目立たない紛争、“忘れられた紛争”が多く存在するのでしょう。
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