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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界の貧困に関する3つの誤解―ビル&メリンダ・ゲイツ夫妻

2014-01-23 21:43:06 | 国際情勢

(“flickr”より By Gates Foundation http://www.flickr.com/photos/48639212@N02/5794388155/in/photolist-9Q2KJ4-9th1QW-9wcc7X-9wfdCC-birv92-birv6v-aACSR6-9hcomw-ap5nVF-9EDWAN-8zD3AP-admXJp-9EAXRD-9EAX5H-9EDU3E-br47MB-9EAZNt-9EEcmN-9h9fdv-cva69J-92sEDW-bxzPR4-9EB1He-8LvrmY-8LsnrX-bjzNzr-8JAyyq-8HcJ5Y-8HcJ5E-9JkVjY-9EDULb-9EBhXD-9EDSko-9EEdbN-dejDLP-9EEcpE-9EAWFk-dUAbp7-9EBhVF-dWBSAr-9EViSi-dzAS3y-bvNTfg-8JAyeW-8Lsnrc-9kP8EE-8LsnrF-8H9AnX-9EBh4F-8HcJ6E-8H9Aoc)

貧しい国々はそうあり続ける運命にある?】
マイクロソフト会長のビル・ゲイツ及び妻メリンダが出資して2000年に創設した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、その後、ゲイツに次いで世界第3位の富豪であったウォーレン・バフェットも出資し、世界最大の慈善基金団体として、世界における病気・貧困をなくす活動を行っています。

「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」については、都市伝説的な奇妙な噂もあるようですが、そのことは別にして、下記記事はビル&メリンダ・ゲイツ夫妻が世界の貧困に関する人々の誤解を指摘したものです。

夫妻は3点を指摘しています。長い記事ですので、それぞれに区切って紹介していきます。

****世界の貧困に関する3つの誤解―ビル&メリンダ・ゲイツ夫妻****
ほぼどんな基準に照らしても、世界の人々の暮らしぶりはかつてないほど良くなっている。過去25年間で極度の貧困は半減し、乳幼児死亡率は大きく低下。長く外国の援助に依存してきた多くの国々は今や自立している。それでも、状況が悪化していると考えている人はかなり多いようだ。その理由の大部分は、あまりにも多くの人々が世界の貧困と発展に関する3つの誤った通念にとらわれているからである。そうしたものにだまされてはいけない。

誤った通念その1:貧しい国々はそうあり続ける運命にある
実際にはそんなことはない。所得や全般的な福祉の水準は、アフリカを含むほぼすべての地域で向上している。
たとえばメキシコシティーについて考えてみよう。

1987年に私たちが最初にそこを訪れたとき、大半の世帯には水道が引かれておらず、水瓶を持った人々が徒歩で水を汲みに行くのをよく見かけた。それはアフリカの田舎のような光景だった。マイクロソフトのメキシコシティー支社の責任者は、健康診断のために自分の子供たちをよく米国に帰国させた。スモッグによる健康被害がないか確かめるためだった。

今日のメキシコシティーはショッキングなほど当時と異なっている。高層ビルがそびえ、空気は澄み、新しい道路や現代的な橋が建設されている。

貧困もまだ一部に残っているが、「すごい、ほとんどの人々が中流層になっている。なんという奇跡だろうか」と思ってしまう。同じような変貌ぶりはナイロビ、ニューデリー、上海をはじめとする世界中の多くの都市でも見られる。

私たちが生まれてからのわずかな期間で、世界の貧困地図は完全に塗り変えられた。トルコやチリの1人当たり所得は、1960年の米国と同じ水準に達した。マレーシアやガボンもそれに近づいている。

1960年以来、中国の1人当たり実質所得は8倍に拡大している。インドは4倍、ブラジルは5倍近く、そして鉱物資源をうまく管理した小国ボツワナは30倍にもなった。50年前にはほとんど存在していなかった新たな中所得諸国には、世界の人口の半分以上が暮らしている。

しかも、これはアフリカにも当てはまる。アフリカの1人当たり所得は、1998年以降、3分の2ほど増加している。当時は1300ドル強だった所得が、現在では2200ドル近くになっている。過去5年間の経済成長率では、上位10カ国のうち7カ国がアフリカ諸国である。

私たちは次のように予測している。2035年には、世界に貧困国はほとんど残っていないだろう。確かに、戦争、政治情勢(北朝鮮など)、地理的条件(中央アフリカ地域の内陸諸国など)によって開発が進まない不幸な国もいくつかあるだろう。

それでも、南米、アジア、中米(ハイチは除くべきかもしれない)のすべての国々、アフリカの沿岸諸国のほぼすべてが中所得国になるだろう。70%以上の国々の1人当たり所得は、今日の中国を上回るはずだ。【1月22日 WSJ】
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確かに、世界各国の所得水準が年々向上しているのは事実であり、貧困や飢餓に関する報道から定着しがちなネガティブなイメージを払しょくし、“世界は変わる、前進する”というポジティブな考えに立つことが重要でしょう。

ただ、“2035年には、世界に貧困国はほとんど残っていないだろう”というのはどうでしょうか?
貧困国の定義にもよりますが、かなり楽観的な予測にも思えます。

問題のひとつは、“戦争、政治情勢(北朝鮮など)、地理的条件(中央アフリカ地域の内陸諸国など)によって開発が進まない不幸な国”の存在です。

昨日の中央アフリカた南スーダンを取り上げたブログでも書いたように、政治が混乱し、武力で政治的対立を解決しようという風潮が残存する限り、経済的な成長は期待できません。
残念なことは、そうした“不幸な国”が少なからず存在することです。

もうひとつの問題は、全体としての所得水準が向上しても、その過程で貧富の差が拡大する現象が往々にして見られ、マクロ的な数字が人々の生活実感を必ずしも反映していないことが多いことです。

安倍首相が基調演説を行った「ダボス会議」が開催されていますが、会議に向けてローマ法王は、貧困がなかなか解消されないことに関する政財界エリートの努力を促しています。怠慢への叱責と言ってもいいでしょう。

****ダボス会議のエリートへ「その力量を貧困層のために」ローマ法王****
ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は21日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席する政財界エリートへ向けて、その起業家精神を、世界の強烈な貧困を緩和するために用いるべきだと呼び掛けた。

スイス・ダボスの開会式で読み上げられたメッセージの中で、フランシスコ法王は「イノベーティブな存在たる才能を示し、創意工夫と専門知識によって多くの人々の生活を向上させる能力を示してきた者はそのスキルを、今も極貧に暮らす人々のために生かすことでさらに貢献ができる」と述べた。

また大量の食料が無駄になっているにもかかわらず、世界にいまだ飢餓がはびこっているのは「容認できない」ことだとも述べた。

25日までの日程で開催されるダボス会議に先駆け、国際NGOのオックスファム(Oxfam)は、世界の経済格差は制御できる範囲を超えており、世界で最も裕福な85人の資産は、世界人口の半分の資産合計に匹敵すると指摘する報告書を発表している。

フランシスコ法王はこの報告書についても「私たちの時代の大多数の男女が、いまだ日常的に生活不安を体験しており、大抵は悲劇的な結果に至っている」と発言した。

今年のダボス会議には、世界中から40人の元首と閣僚や産業界のリーダーなど政財界の有力者の他、ノーベル賞受賞者やアーティスト、著名人ら2500人が出席する。【1月22日 AFP】
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「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、まさに世界でも最も裕福な個人が、国家に期待せず、個人として世界の貧困に立ち向かっている活動です。

対外援助は大きな無駄である?】
夫妻が指摘している二つ目の“誤解”は、援助が現地の汚職などで無駄になっているという通念です。

****誤った通念その2:対外援助は大きな無駄である*****
実際は素晴らしい投資である。海外からの援助は人々の命を救うばかりか、長期にわたって継続する経済発展の下地も作る。

多くの人々は富裕国の予算に占める対外援助の割合を大きいと考えている。世論調査会社が米国民に予算のどれぐらいが援助に割かれているかと質問すると、「25%」が最も一般的な回答だという。ところが、実際には1%にも満たない(世界で最も気前の良い国、ノルウェーでさえ3%未満である)。米国政府は海外への医療支援予算の倍額以上を農業助成金に費やしている。防衛費にはその60倍以上を注ぎ込んでいる。

対外援助に関するよくある不満の1つに、その一部が汚職のせいで無駄になるという議論がある。もちろんそうだろう。ところが、われわれがよく耳にするひどい話――援助は独裁者が新しい宮殿を建てる資金の足しになるだけ――のほとんどは、人々の生活を改善するための援助ではなく、冷戦時代に同盟関係を築くために行われた援助に関するものだ。

今日、そうした問題はかなり小さくなっている。政府高官が出張費を水増し請求するといった小規模な腐敗は援助に課される非効率な税金なのだ。それを減らす努力はすべきだが、それを完全になくすことはできない。

すべての政府プログラム、さらに言えばすべての企業から無駄をなくせないのと同じである。仮に1人の命を救うのに、小規模な腐敗の税金が2%かかるとしよう。われわれはその税金を撤廃しようとすべきだが、撤廃できないからといって救命活動をあきらめるべきだろうか。

1ドルでも腐敗が見つかると、多くの人々が援助プログラムの停止を声高に求めてきた。だが、それは理にかなっていない。過去7人のイリノイ州知事のうち4人が汚職で有罪になったが、イリノイ州の学校や幹線道路の閉鎖を要求する人などいないではないか。

対外援助を受ける国々は外国の好意に依存し続けてしまうという不満を口にする人々もいる。
しかしこれは、今も自立できずに苦しんでいる最も困難な国々のみに当てはまる主張だ。

ブラジル、メキシコ、チリ、コスタリカ、ペルー、タイ、モーリシャス、ボツワナ、モロッコ、シンガポール、マレーシアなどはかつて巨額の援助を受けていたが、その後に急成長を遂げ、今ではほとんど援助を必要としていない。

対外援助は長期的な成長と強い相関関係がある医療、農業、インフラの改善も促進する。
1960年に生まれた赤ん坊が5歳の誕生日までに死ぬ確率は18%だった。今日ではその確率が5%未満になっている。2035年には1.6%になるだろう。対外援助が無駄だというのはとんでもない話である。【1月22日 WSJ】
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これも、かなり楽観的な見方ではありますが、程度問題、ケース・バイ・ケースの問題でもあります。

予算に占める援助割合に関するアメリカ国民の「25%」という回答は、アメリカ国民の国際社会に対する無知と無関心を示すものでしょう。
日本や欧州にあっては、そこまでひどくないのでは・・・とも思われます。

“小規模な腐敗は援助に課される非効率な税金なのだ。それを減らす努力はすべきだが、それを完全になくすことはできない”というのは、現実的な発想です。

多少の腐敗があるからと言って、援助による救命をあきらめるべきでない・・・・そのとおりです。

ただ、現実世界には“見過ごせない”ような腐敗の横行があるのも事実です。
アフガニスタンへの巨額の援助が一体どこへ消えているのか?
一向に改善しない国民生活の一方で、政治指導者などが巨額の蓄財をするという現実もあります。

南スーダンやハイチなど、“援助慣れ”して、一向に自立できない国もあります。

援助に群がるNGOにも怪しいものが多くあるようです。

ゲイツ夫妻とは比べ物にもならないわずかな収入から拠出される税金が、砂地に水を撒くような感じで消えていくことに関しては、援助国納税者には抵抗感があります。

多少の腐敗はつきもの、それでも援助をあきらめるべきでない・・・そのとおりですが、腐敗をより少なくする努力・工夫が今以上に求められます。

日本について言えば、日本のODA拠出額は、政府予算のわずか1%に過ぎず、1997年をピークに過去14年間、右肩下がりを続けています。
その額は、年間約1.3兆円(158億ドル)。国民総所得との比率では、主要先進国23カ国中、第21位にまで落ち込んでいるという現状があります。

また、主要先進国ではODA全体の約15%を「保健医療」分野に投資している一方、日本ではわずか2%しか投資していない・・・という援助内容の問題もあります。
【ツタグラ「日本のODAはこれでいいのか?!」http://www.tsutagra.go.jp/blog/oda/ より】

命を救うことは人口過剰につながる?】
夫妻が指摘している三つ目の“誤解”は、いわゆる“マルサスの悪魔”的な発想です。

****誤った通念その3:命を救うことは人口過剰につながる****
人々は少なくともトーマス・マルサスが『人口論』を著した1798年から、食糧供給が人口増加に追いつかなくなるという世界滅亡のシナリオを心配してきた。

こうした考え方は世界に多大な迷惑をもたらした。世界の人口規模に関する心配には、それを構成する人間に対する心配よりもはるかに大きなものになるという危険な傾向がある。

あとで飢えることがないように、子供たちを今死なしてしまえという考え方は冷酷なだけではない。ありがたいことに、そううまくはいかない。

これは直観に反することかもしれないが、世界で最も多くの人が死ぬ国は、人口が最も急速に増加する国の1つでもある。そうした国の女性たちは最も多くの子供を生む傾向があるからだ。

より多くの子供が生き残れば、両親は多くの子供を産もうとはしない。タイはその好例である。
同国の乳幼児死亡率が低下し始めたのは1960年ごろだった。政府が家族計画政策を強力に推進した後の1970年前後、出生率が低下し始めた。その後わずか20年の間に、タイ女性の1人当たりの出産率は6人から2人に低下した。

今日、タイの乳幼児死亡率は米国のそれに近い低さで、タイ女性1人当たりの出産率は1.6人となっている。死亡率の低下に続いて出生率の低下が起こるというこのパターンは、世界の大多数の国にも当てはまる。

命を救うことは人口過剰につながらない。むしろその逆である。持続可能な世界を実現するには、人々が基本的な健康、それなりの豊かさ、基本的平等、避妊具へのアクセスを享受する社会を作り上げるしかない。

より多くの人々、特に政治リーダーらがこうした誤った通念の背後にある思い違いについて認識する必要がある。この問題を個人として見ても、政府として見ても、国際的に健康や開発を促進させるための貢献が驚くべきリターンをもたらすのは事実である。極度の貧困が普通ではなく例外である世界を作るチャンスはわれわれ全員が手にしている。
(本稿は近く発表されるビル&メリンダ・ゲイツ財団の年次レターから抜粋した。ビル・ゲイツ氏はマイクロソフトの会長)【1月22日 WSJ】
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“あとで飢えることがないように、子供たちを今死なしてしまえ”・・・そこまで冷酷な議論を表立って見ることはありません。

ただ、内戦・飢餓などによる多大な犠牲者について、「そういう国は放置するといたずらに人口が増えるので、内戦・飢餓は一種の人口調整メカニズムではないか・・・」というような本音を、個人的に聞くことはあります。

乳児死亡率を下げれば出生率も下がるという指摘(政府による家族計画政策も必要でしょうが)は、結果的に人口爆発(この言葉自体が“マルサスの悪魔”的なニュアンスがありますが)を抑制できる・・・という指摘はまっとうな考えでしょう。

“タイ女性1人当たりの出産率は1.6人となっている”といったタイの事例は知りませんでした。
ちょっと驚きです。

以上のゲイツ夫妻の指摘は、かなり楽観的な感もありますが、おおむね妥当なものでもあり、そうしたポジティブな信を持って貧困問題に立ち向かう必要があるということでしょう。
ネガティブな発想で何もしないのでは、世界はいつまでたっても変わりませんから。
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