(新党「一般人党」(AAP)の運動員 ボランティアやソーシャルメディアを活用したその運動は、カネまみれで、宗教やカーストに縛られたインド政治にあっては新鮮です。 ただ、そうした運動が首都圏以外でどこまで通用するのかは・・・・“flickr”より By New Delhices http://www.flickr.com/photos/90547847@N06/9981594323/in/photolist-gd3heR-ib9kzf-gd3svA-iGJZgC-iUsnB1-ijdXA4-i42c42-i3w5FE-iGHWyg-e67MeV-e6dr2b-iHws4B-iHA8P3-iDAUPB-ixwZ4n-iMJUmP-dWLuvC-icjUCJ-dWAPcv-iSxGM6-dWGpHY-iYaBAd-dWAL1p-iY8uKz-iY9KyD-iY8tX2-iYaB53-iYcou1-iYcnBE-dTJcux-dyzDrj-hhpr8u-hhqCLr-ib9mnX-dVwDRR-iGyBdS-ibMFTV-iBFZpv-ib9GSd-ib9MAG-ib9N44-ib9pDB-ib9uTL-ib9mhs-iyGNmA-iGKNs2-aK5VSe-aK5VXv-aK5Wec-aK5VN4-eD93VL)
【停滞感も漂うインド】
インド社会の“相変わらず”と“変化の兆し”については、年末12月28日ブログ「“変わるインド” “変わらぬインド”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131228)で取り上げました。
年が明けて、インド関連のニュースとしては、極低温液体燃料を使ったブースター技術を使用したロケット打ち上げに成功したという科学技術水準の高さを示すものもありましたが、相変わらずの性犯罪の横行、よく取り上げられる中国をしのぐ環境汚染、経済状態についても、新車販売台数に関して中国の“5年連続世界一 2000万台突破”という好調な数字に対し、リーマン・ショック以来の失速・・・と、あまり芳しくないものが並んでいます。(もっとも、インドに限らずニュースというのは“芳しくないもの”が殆どではありますが)
****インド、国産の最新型極低温ロケットで衛星打ち上げに成功****
インドは5日、国産のブースター技術を使用した同国初のロケットの打ち上げに成功した。過去数回のミッション失敗を経て、野心的な宇宙計画に新たな前進の一歩を踏み出した。(中略)
過冷却状態の液体燃料を使用するこの強力なブースター技術は、高利益率の世界の商業衛星打ち上げ市場におけるインドのシェア拡大を助ける手段として切望されていた。
これまで、極低温液体燃料を使ったブースター技術の開発に成功しているのは、米国、ロシア、フランス、日本、中国と欧州宇宙機関(European Space Agency、ESA)などのほんの一握りの国々に限られており、インドはこの複雑な技術を習得したエリート国家の仲間入りを目指してきた。(後略)【1月6日 AFP】
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****タクシー車内で子連れポーランド女性レイプ被害、インド****
女性への性的暴行事件が社会問題となっているインドで2日、2歳の娘を連れたポーランド人女性(33)が乗車したタクシーの運転手にレイプされる事件があった。デリー首都圏の警察当局が5日、AFPに明らかにした。
被害者の女性はインド北部ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州マトゥラー(Mathura)在住で、150キロ離れた首都ニューデリー(New Delhi)に向かうため、娘を連れてマトゥラーの主要道路でタクシーを拾った。しかし、車内で薬物の入ったスプレーを顔にかけられ、意識を失っている間に暴行されたとみられる。(後略)【1月6日 AFP】
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****インドもPM2.5深刻 空港視界ゼロ、空の便に乱れ****
インドの首都ニューデリーで、毎冬発生する微小粒子状物質「PM2・5」などによるスモッグのため、空の便が大幅に乱れている。今月6日未明から朝にかけて、デリー空港は視界がほぼゼロとなり、多くの便に欠航や遅れが出たほか、近郊の空港に目的地変更した旅客機がスモッグの中、着陸時に翼の一部を折るなど深刻な影響が出た。(中略)
米エール大が2012年に発表した研究結果によれば、健康に影響を及ぼす大気汚染はインドが中国より深刻な世界最悪の状況だった。(後略)【1月10日 産経】
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****インド新車販売失速9.1%減 リーマン以来5年ぶり減****
インド自動車工業会が9日発表した2013年の国内新車販売台数(商用車を含む)は、前年より9・1%減り、324万1209台だった。前年を下回るのはリーマン・ショックの影響を受けた2008年以来5年ぶり。インド経済を引っ張ってきた中間層の消費に陰りが出ていることを示している。(後略)【1月9日 朝日】
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【インドの心臓部で起きた「政変」】
そうしたなかにあって、インド社会の停滞を打破する可能性を秘めた政治動向として前回ブログの最後にとりあげた、デリー首都圏議会選挙で躍進した新党「一般人党」(AAP)のアービンド・ケジリワル党首(45)の話題です。
****インド政界に現れた「台風の眼」****
総選挙に向け躍進する「汚職撲滅党」
七億人を超える有権者を抱える「世界最大の民主主義国」インドが選挙の年を迎える。同国の選挙は「事前予想が絶対に当たらない」といわれる。
野党インド人民党(BJP)の伸長と、与党国民会議派劣勢の流れは変わらないが、ここに「台風の眼」が現れた。 十二月八日に開票されたデリー首都圏議会選挙の結果は「インド政界に衝撃を与えた」(地元ジャーナリスト)。
二〇一四年四月から五月にかけて予定されている総選挙の前哨戦に位置づけられたこの選挙で、BJPは予想通り第一党となったが獲得議席は三十一議席にとどまり、定数七十の過半数に届かなかった。
一方国民会議派は八議席と大惨敗。代わりに第二党に躍り出たのは結党からわずか一年の「一般大衆党(AAP)」だ。同党は二十八議席を獲得してBJPに肉薄した。
十五年にわたってデリー首都圏首相を務めてきた国民会議派のシーラ・ディクシット氏は、ニューデリー選挙区でAAP党首の新人アルビンド・ケジリワル氏に敗北した。
AAPの候補者擁立はデリー首都圏だけだったが、インドの心臓部で起こした「政変」の波紋は大きい。すでにインド国内ではケジリワル氏を次期首相候補の一人とする声も上がっている。
ボランティアとSNS
(中略)歳入局の職員だったケジリワル氏は退官後、情報公開などで得た証拠を基に貧困層を巻き込んで汚職を追及してきた人物。〇六年にはアジアで社会貢献を果たした人物に与えられるマグサイサイ賞を受賞した、筋金入りの汚職ハンターだ。
同氏に政治経験はなく、AAP全体が素人集団だ。現地紙「インディアン・エクスプレス」(十二月十五日付)がAAP躍進の原動力を分析している。
それによれば、AAPはマニフェスト作りやメディア対策、ボランティア集めなどで必要に応じてプロのアドバイザーの意見を取り入れながら、自分たちの理念を妥協することなく追求した。
青臭さを感じさせる一方で、緻密な計画に基づいたビジネススクールのプロジェクトのような活動を積み重ねたという。
圧巻はボランティア集めだ。BJPや国民会議派など既存政党は、政治献金や汚職で集めたカネを使い、賃金を払って運動員を確保する。
AAPは、選挙運動員を完全に無償のボランティアとしてインターネット上で募集した。参加条件は「国を変える願望」。この呼びかけに国内外から十万人の応募があったばかりか、実際の選挙戦に一万五千人以上が集まり海外からも三百人が駆け付けた。
今回の選挙向けに集めた寄付の目標額はわずか二億ルピー(三億三千万円)。無償ボランティアのパワーの凄まじさがわかる。
大きな力となったのは、フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアだ。現時点では首都圏の地域政党に過ぎないAAPのツイッターのフォロワー数(約二十三万)は、BJPに匹敵する。
フェイスブック革命と呼ばれた「アラブの春」と同様の変化が、インドで起きようとしている。
AAPは今回の選挙で、七十の選挙区ごとにマニフェストを作成するという前代未聞の取り組みを行い、特に低カースト層に支持を訴えた。
選挙の時だけ集票のために利用されるインドの低カースト層にとって、自分たちの問題に直接取り組むAAPに投票しようというのは当然の成り行きだ。
ばらまき政策で低所得者層を取り込んできた国民会議派の完敗は、潮目の変化を表している。
勢いづくAAPは、総選挙でも躍進が予想される。ケジリワル氏の正式発表はまだだが、AAPは次期首相候補の最右翼であるBJPのナレンドラ・モディ氏が州首相を務める西部グジャラート州の全選挙区で候補者を立てるとみられている。
また、国民会議派の首相候補で名門ガンジー家の「プリンス」、ラルフ・ガンジー副総裁の選挙区がある北部ウッタル・プラデーシュ州でも、水道や電気といった有権者にとって身近な争点を掲げて選挙を戦うという。
順風満帆に見えるAAPにも不安要素はある。
「AAPは汚職対策という一つの問題だけを掲げたポピュリスト政党に過ぎない」インドの政治経済評論家の一人はこう語る。
AAPのマニフェストを見ると疑問点が多いのだ。「無償の水道や電気」を掲げながら、これをどう実現するかについては言及していない。
失業者対策として「空席になっている公的ポストの解消、工業インフラの向上、若手起業家への低利子融資」とあるのみでプロセスは不明だ。
また、外国企業の小売業への直接投資(FDI)に反対するなど、かつてインド経済を停滞させてきた社会主義的要因がちりばめられている。
BJPと国民会議派を天秤にかけてきた大財閥の支持は得られないという見方が出てきている。
また、地域政党が幅を利かせる地方州ではAAPは苦戦する。たとえば、南部タミルナド州は二つの金権体質の地元政党が台頭し、東部の西ベンガル州は共産党勢力と地域政党の一騎打ちに入り込む余地がない。
こうした地方州ではカネで票を買う金権選挙が根付いている。
キャスチングボートを握れるか
AAPにはBJPが大きな敵となる。ヒンドゥー至上主義を掲げ、原理主義者ともいわれるモディ氏を首相候補とするBJPは、AAPに支持層を奪われたことに危機感を持っている。
両者の支持者は特に若年層で重なっており、今後これを取り戻すために躍起になる。突如現れて躍進できた今回の選挙ほど勝利は容易でないのだ。
しかし、「長年続いてきた『BJP対国民会議派』という構図が『BJP対AAP』になる」(前出地元ジャーナリスト)こと自体が歴史的だ。これまでの二者択一に疲れた有権者、特に数億人規模の貧困層にとってAAPの登場は大きな意味を持つ。
二大政党が過半数を取ることがなく、十以上の政党で連立政権を立てることが多いインドの選挙では、AAPにとっては一定数の議席を得れば十分なのだ。
同党がキャスチングボートを握れば、汚職にまみれたインド社会に風穴があく。
過半数政党が出なかったデリー首都圏でAAPは既存二政党と手を組むことを拒否して独立路線を保ち、総選挙を虎視眈々と見据えている。「インドの春」の足音は着々と近づいている。【選択 1月号】
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“過半数政党が出なかったデリー首都圏でAAPは既存二政党と手を組むことを拒否して独立路線を保ち”とありますが、前回ブログでも紹介したように、AAPは年末に第3党に転落した前政権与党・国民会議派を取り込んで連立政権を樹立、ケジリワル党首は首都圏政府首相に就任しています。
****インド首都圏で「汚職撲滅ホットライン」がスタート****
インドのデリー首都圏で9日、新たな首都圏政府が立ち上げた「汚職撲滅ホットライン」がスタートした。初日だけですでに数千件の電話が寄せられ、アルビンド・ケジリワル首都圏首相は「期待を上回る」反応を得られたと語った。
反汚職を掲げる「庶民党(Aam Aadmi Party)」の党首でもあるケジリワル首都圏首相は、ホットラインの目的について、官僚の間でまん延する汚職を撲滅することだと説明。
9日は受付開始から7時間で3904件の電話があったといい、ホットラインの設置で人々は「賄賂の受け取りを恐れるようになる」と自信を示した。
インドの人々の間では、結婚証明書や運転免許証から死亡証明書の発行まで、何かを依頼するたびに賄賂を強要されるとの不満が絶えない。
「汚職撲滅ホットライン」の受付時間は午前8時から午後10時までで、公務員が賄賂を要求してきた場合の対応を助言する。
ケジリワル首都圏首相によると、初日に受け付けた電話から38件の汚職を摘発したという。【1月10日 AFP】
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“汚職対策という一つの問題だけ”であっても、そこに風穴をあけることができれば、政治・行政システムを立て直し、他の分野全般にわたる革新も期待できます。「一点突破,全面展開」でしょうか。
ただ、選挙戦で激しく対立していた国民会議派との連立は長続きしないのではないかとの指摘もあります。
【本番・総選挙に向けて】
いずれにしてもインド政治の本番は、今年5月までに実施が予定されている総選挙です。
総選挙については、地元州の経済成長を牽引した手腕が評価される一方で、原理主義者ともいわれ、過去のイスラム教徒虐殺問題との関係も指摘されるインド人民党(BJP)のモディ氏を本命として、名門ガンジー家の「プリンス」、ラルフ・ガンジー副総裁が率いる苦戦必至の国民会議派がどこまで踏ん張れるか、今回取り上げた新党「一般人党」のアービンド・ケジリワル党首がどこまで既成政党に迫れるか・・・なかなか面白い展開となっています。
近年のインド政治においては、地域政党が大きなウェイトを占めるようになり、国民会議派、インド人民党(BJP)という全国政党はこうした地域政党との連立を余儀なくされています。
地域政党が拡大している背景には、多様なカースト、階層、民族が存在し、それぞれの社会を構成しているインドにあっては、そうしたグループの利益を代表する地域政党が大きな議席を占めやすい現状があるようです。
選挙に勝っても、政権獲得のためには地域政党との連立交渉が必要になります。
この点では、BJPより国民会議派の方がうまいとの評価もあるようです。