
“1968年フランス映画「個人教授」(主演:ルノー・ベルレー、ナタリー・ドロン)より”
【高まるファーストレディー不要論「ベッドと国家を分離せよ」】
事実婚状態のフランス・オランド大統領が、夜な夜なスクーターで愛人の待つ部屋に通っていた・・・という話が週刊誌に報じられ話題になっています。
フランスでは基本的には政治家の私生活は詮索しないという風潮ですので、今回報道についても、“世論調査では77%が「私的な問題だ」とし、支持率が低迷しているとはいえ、84%は大統領への評価は変わらないと答えた”【1月15日 朝日】という冷静な対応のようです。
個人的な印象としては、大昔のルノー・ベルレーなどが出ていたようなフランス青春映画を彷彿とさせるものがあり、政治家にありがちな黒塗り高級車で愛人マンションを密かに訪れる・・・といった隠微なイメージに比べれば、さわやかなものも感じます。
ただ、事実婚相手のトリルベレールさんが公職にある訳でもないのに大統領府に公的なスタッフを6人抱え、「ファーストレディ」として相当の公費が支払われていることから、その立場はどうなるのか? 今の「ファーストレディ」は誰なのか? そもそも「ファーストレディ」が必要なのか?・・・という議論はあるようです。
****オランド大統領:密会認める パートナーと「つらい時間」*****
フランスのオランド大統領(59)は14日、エリゼ宮(大統領府)で行われた年始の記者会見で、女優、ジュリー・ガイエさん(41)との密会報道について事実関係を認め、事実婚のパートナー、バレリー・トリルベレールさん(48)との仲について「私たちにとってつらい時間だ」と語った。オランド大統領は記者からの密会報道についての質問に「誰でも個人生活の中で試練を経験する」と述べ、2月11日に予定されるオバマ米大統領とのワシントンでの会談にトリルベレールさんを同伴するかについて「会談までに答えたい」と語った。
その上で、「私的なことは私的に扱われるものだ。ここはその場でもそのための時間でもない」と語り、私生活に焦点を当てた質問を拒否した。ただ、トリルベレールさんは大統領の配偶者として公的スタッフが付いており、費用は月額1万9700ユーロ(約280万円)との報道もある。
記者からは「私生活と公的生活を明確に切り離すのは難しいのでは」との声も相次いだ。
密会時の警備が手薄だったのではないかとの指摘には「私の安全は公務、私的な旅行にかかわらず、いつでも、どこでも確保されているので心配する必要はない」と答えた。【1月15日 毎日】
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オランド大統領は、かつては同じ社会党の大統領候補でもあったロワイヤル氏との事実婚関係があり、4人の子供もいます。
ロワイヤル氏と別れた後のパートナーがトリルベレールさんですが、社会党公認で選挙に立候補したロワイヤル氏への対抗心から、トリルベレールさんが対立候補を支援するツイートをした・・・という出来事が話題になったこともあります。
事実婚パートナーであるトリルベレールさんは今回騒動で「休息が必要だ」と入院しましたが、この人の評判があまり芳しくないことも話題が大きくなった一因のようです。
“フランス政治が専門であるリーズ大学のデビッド・ベル名誉教授はトリエルベレールがフランス中で嫌われており、ほとんどの国民が彼女の贅沢のために税金を払わなければならないことに腹を立てていると指摘する。”【1月15日 Newsweek】
更には、週刊誌報道への圧力が殆どなかったことなども含めて、愛情も冷め、評判もよくないトリルベレールさんを大統領府から追い出すために、オランド大統領側があえてこの報道を抑えず、あるいはリークしたのではないか・・・というかなり穿った見方もあるようです。
この春に迎える統一地方選の社会党候補の間では「大統領が現在のトリルベレールさんと別れ、女優、ジュリー・ガイエさんと一緒になったら、党の支持も上向きになるのでは」との期待が出ているとか。【1月16日 Foresight[
“フランス大統領の「夜這い」はプライバシーにあらず”より】
ちなみに、前任のサルコジ前大統領は任期中にセシリア夫人と離婚して「権力者在任中の離婚はナポレオンとジョゼフィーヌ以来」などと言われたそうです。【同上】
【「それでも社会党政権と言えるのか」】
まあ、男女の仲がサルコジ前大統領と同じ流れになるのは一向にかまわない話ではありますが、低支持率(昨年11月の世論調査では支持率20%に低下。1958年に始まった第5共和制下の大統領支持率で過去最低を更新しています。)に喘ぐオランド大統領にとって悩ましいのは、下記のような「サルコジと同じじゃないか!」という批判でしょう。
****オランド政権:相次ぐ企業優遇策に「それでも社会党か」****
フランスのオランド大統領は14日、エリゼ宮(大統領府)での年始の記者会見で、家族手当の原資となる企業拠出金を2017年までに廃止し、300億ユーロ(約4兆2700億円)の企業負担軽減を実施すると発表した。
オランド社会党政権は200億ユーロ分の法人税控除制度の今年からの導入も決めており、仏企業の国際競争力低下に歯止めをかけたい意向だ。だが相次ぐ企業優遇策に、仏メディアからは「それでも社会党政権と言えるのか」との声が出ている。
家族手当はフランスの「2」を超える高水準の出生率を支えているが、企業が従業員給与の5.4%相当分を拠出して原資としており、企業負担の重さが国際競争力の低下につながっているとの批判があった。オランド大統領は会見で、「(拠出の)穴埋めは公共支出削減でまかなう。家計に転嫁することはない」と説明するが、詳細な補填(ほてん)策は明らかにしていない。
「経済成長重視」を旗印に12年大統領選で誕生したオランド政権だが、経済好調の隣国ドイツを尻目に、仏企業の競争力低下傾向が止まらない。
経済成長率もマイナスに落ち込んでおり、昨年には、法定最低賃金の2.5倍以下の従業員給与について、14年に4%、15年に6%の法人税控除を実施することも決めた。
家族手当の企業拠出金廃止は、仏経営者団体が昨年まとめた1000億ユーロ規模の企業負担軽減要求に沿った内容で、記者会見では「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」などの質問が相次いだ。オランド大統領は「企業負担軽減は雇用拡大との引き換えだ」と説明した。【1月15日 】
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オランド大統領の不人気は、景気と雇用の改善が遅れる中、オランド政権の経済・財政運営に対する不信感が高まっていることが背景にあると見られています。
その不振のフランス経済をなんとかしたい・・・という思いからの企業優遇策ではありますが、そこに左派色を出すのはなかなか難しいものがあります。
結局は、経済運営は市場を重視し、左派色は所得分配面で出すしかないと思われますが、家族手当が削られるようなことになると、「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」との批判にもなります。
【ロマ人排除政策にも人権団体から批判】
経済での独自色が難しければ、社会党の看板でもある人権問題で・・・ということにもなりますが、こちらも「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」という状況にあります。
****仏政府のロマ人送還、2013年は過去最多の2万人****
フランスで、2013年に国外退去処分を受けたロマ人の数が、前年の2倍以上に急増し、過去最多の1万9380人に達したとする2人権団体による合同報告書が14日、発表された。
同国のフランソワ・オランド大統領はこの報告を受け、政府が掲げるロマ人排除政策を改めて擁護している。
非政府組織(NGO)「人権連盟(LDH)」と「欧州ロマ人権センター」は、当局によって強制退去させられたロマ人の数は、2012年に9404人、2011年には8455人だったと述べ、「強制退去はほぼ毎回、きちんとした替わりの住居も社会的支援もないまま継続されている」と指摘。
両団体の合同報告書によると、政府の方針では排除の前に社会的な審査が義務付けられているにもかかわらず、「実施されることはまれ」だという。
フランスのロマ人排除政策に対しては、各人権団体から批判が集中。特にマニュエル・バルス内相が、ロマ人にはフランスに定住する意思のある人などほとんどおらず、出身国に帰るべきだと発言した際には、同国でロマに対する敵意が高まっている現状が浮き彫りになった。
現在フランスには、ロマ人が約2万人いると推定され、その多くが町外れに違法な居住キャンプを設営して生活している。仏政府は近年、キャンプから一部のロマ人に退去を命じる政策を実施し、ロマ人に金銭を渡してルーマニアやブルガリアといった出身国へ送還するという措置が取られることが多い。
オランド大統領は、14日の記者会見で、ロマ人に対する政策について質問を受けると「自らの過去の行いを恥じるべきだろうか、答えはノーだ」と述べ、同国ではロマ人排除の法律がこれまで一貫して適用されてきたことを強調した。【1月16日 AFP】
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“ロマ人に金銭を渡してルーマニアやブルガリアといった出身国へ送還する”ということですが、フランスだけでなく英独などEU富裕国は今、域内ルーマニアやブルガリアからの移民流入を警戒する状況となっています。
****EU富裕国、移住増を警戒 ルーマニア・ブルガリア、就労制限撤廃****
■「移動の自由」か「差別扱い」か…議論呼ぶ
欧州連合(EU)で、ルーマニアとブルガリアの労働者に対する就労制限が1日に撤廃された。域内の最貧国である両国からの移住者急増を恐れる裕福な加盟国は対策に動くが、両国は「差別扱いだ」と反発している。
欧州統合の要である「移動の自由」にかかわるだけにEUも懸念を強めている。
「社会保障を得る目的での移住は拒否する」。ドイツではメルケル政権の一角、キリスト教社会同盟が昨年末、移住者に入国後3カ月は社会保障の給付金を支給せず、不正受給者は追放・再入国禁止とすることを要求。政府は8日、必要か否かも含めて対策の検討を始めた。
EUでは労働市場が自由化されている一方、各国は新規加盟国の国民に対して最大で7年、自国内での就労を制限できる。
英独仏など9カ国は2007年加盟のルーマニアとブルガリアの国民に、労働許可取得などを義務付けていたが、両国民は撤廃を受けて他国で自由に職探しができるようになった。
ただ、経済的に豊かな国では他国の求職者が殺到し、失業手当など社会保障の負担増につながることへの警戒心が強い。「手当目的の観光」と報じるメディアもある。ドイツの世論調査では、移住者に直ちに同等の社会保障上の権利を与えることに「反対」するとの回答が約8割に上った。
英国も1月から、EU域内からの移住者に対して入国後3カ月間は失業手当を支給せず、就職先を6カ月間見つけられない場合、手当を打ち切る方針を表明している。路上で物乞いをすれば強制送還し、再入国を1年間禁じる。
英国は04年、ポーランドなど東欧諸国が加盟した際、就労制限の措置を取らず、大量の移住者が押し寄せた経験がある。キャメロン首相は「とてつもない過ちだった」とし、今回の措置の必要性を強調する。
こうした国々には5月の欧州議会選を前に、反移民や反EUを掲げる政党の台頭への警戒感もある。15年に総選挙を控える英国では小党の英国独立党が支持を拡大、ドイツでも反ユーロ政党の伸長が懸念される。
他の加盟国に居住しているルーマニアとブルガリアの国民はすでに300万人を超えており、EUは規制撤廃で移住者が急増する可能性は低いとしている。ドイツでは労働力不足の補充につながるとの意見も強く、英国では過去の東欧からの労働者が経済成長に貢献したとも指摘される。
EUにとり人、物、サービス、資本の「移動の自由」は欧州統合の原点にさかのぼる基本原則で、域内で自由に働く権利はその重要な柱の一つだ。アンドル欧州委員(雇用・社会問題・同化政策担当)は、「垣根を設けることは解決策にならない」と強調している。【1月9日 産経】
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フランス世論は、ロマや移民には厳しい見方をしており、社会党オランド政権としてもその流れに掉さすことはできないところでしょう。
ただ、それだけでは「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」という話になります。