(フランスの極右政党、国民戦線(FN)の党集会に出席するマリーヌ・ル・ペン氏(2011年1月15日撮影) この党大会で彼女は父親から党首の座を引き継ぎました。(c)AFP/MIGUEL MEDINA 【2011年01月17日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/2782485?pid=6670882)
【フランス:国民戦線が支持率でトップ】
ドイツの一人勝ち状態の欧州経済にあって、フランス経済の停滞が続いています。
****仏失業者、過去最悪更新=改善目標達成できず****
フランス労働省は27日、海外県・海外領土を除く本土の求職者のうち過去1カ月間に全く仕事をしなかった完全失業者が、2013年12月末時点で前月比1万200人(0.3%)増の330万3200人に上ったと発表した。2カ月連続の増加で、過去最悪だった13年9月末の329万5700人を更新した。
オランド大統領はかねて、13年中に失業増加傾向を反転させる意向を示していた。訪問先のトルコで27日、失業増に関し「落ち着いてきたが、まだ十分ではない」と論評。雇用改善が政府の目標通りに進んでいないことを認めた。【1月28日 時事】
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国民の批判は事態を改善できないオランド大統領に向かっており、大統領の支持率が過去最低を記録していることは1月17日ブログ“フランス オランド大統領の「ファーストレディ」騒動 「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140117)でも触れたところです。
もっとも、「ファーストレディ」(すでに“前”になってしまったようですが)である事実婚相手、トリルベレールさんの人気があまり芳しくなかったこともあってか、20日に発表された世論調査によれば、この騒動が報道されてから大統領の支持率は4ポイント回復して31%に回復したそうです。
依然、低い水準にあることは変わりありませんが。
大統領が不人気な一方で、高い支持を維持しているのがマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党「国民戦線(FN)」のようです。
****極右、支持率トップ維持=欧州議会選で台風の目―フランス調査****
フランス紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(電子版)は25日、5月の欧州議会選に向けた世論調査で、極右・国民戦線(FN)が支持率トップを維持したとする結果を掲載した。
景気や雇用の本格的回復が遅れる中、欧州統合に反対する極右への支持が根強いことを示した。
世論調査会社IFOPが今月14~17日、1894人を対象に行った調査によると、FNに投票するとの回答は23%で、2013年10月調査から1ポイント低下したものの首位を維持。右派の国民運動連合(UMP)が21%で2位、オランド政権を支える社会党は18%で3位にとどまった。
FNは13年11月、オランダの極右政党・自由党と欧州議会選での共闘を発表。各国の欧州懐疑派と連携する方針で、選挙では台風の目になると見込まれている。【1月26日 時事】
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欧州議会選挙は、EUとの距離感が問題となりますので、国内選挙に比べて反EUを掲げる極右が支持を伸ばしやすいという事情はありますが、左派・社会党、右派・国民運動連合(UMP)を抑えての第1位の支持というのは、注目に値します。
【欧州の反体制派政党と米国のティーパーティー:どちらも現状に怒りを抱き、今より単純だった時代を懐かしんでいる】
経済的に苦境が続き、また、移民の増加で軋轢も増している欧州にあって、反EU・ユーロと反移民を掲げる反体制・極右政党が支持を拡大していることはこれまでも取り上げてきたところです。
また、ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)やイタリアの5つ星運動などの左派系反体制勢力も大きな支持を集めています。
*****政治的反乱:欧州版ティーパーティーの台頭****
2014年には、各国の反体制派政党が、第2次世界大戦以降で最も勢力を伸ばす可能性が高い。
2010年頃から、米共和党内の反体制派であるティーパーティーが、米国の政治をかき乱してきた。
ティーパーティーは寄せ集めの集団だが、そのメンバーのほとんどに共通する3つの信念がある。
第1に、支配層のエリートは、米国の建国の理念を見失ってしまったという信念。
第2に、連邦政府は肥大化し、それ自体のためにのみ機能する巨大な怪獣になってしまったという信念。
そして第3に、不法移民は社会秩序に対する脅威であるという信念だ。
このティーパーティー運動が核となり、米国の政治を二分する対立を引き起こし、予算と移民法の改革を難しいものにしてきた。
今、これと似たようなことが欧州で起こっている。反体制派の政党が台頭しているのだ。彼らの台頭を懸念する主流派の政党と有権者にとって、ティーパーティーに対応してきた米国の経験は、有益な教訓を与えてくれる。
搾取され、怒りを抱く中間層
ティーパーティーと欧州の反体制派政党の間には、大きな違いがいくつか存在する。
ティーパーティーの各派閥は、米国の主流政党の内部で活動し、小さな政府を求める保守主義という昔ながらの伝統にルーツを有するのに対し、欧州の反体制派政党はそれぞれが小さく、反抗的な集団で、一部は極右を母体とする。
欧州の人々は、米国人よりもずっと多様だ。
例えばノルウェーの進歩党は、ハンガリーの暴力的なヨッビクとは大きく異なる。
英国の独立党のナイジェル・ファラージ氏とパブの特別室にたむろする退屈な人々は、ドーバー海峡を挟んだ隣国フランスのマリーヌ・ル・ペン氏と国民戦線(FN)を疑いの目で見ている。
しかし、欧州の反体制派政党と米国のティーパーティーの間には共通点もある。どちらも現状に怒りを抱き、今より単純だった時代を懐かしんでいる。
また、双方とも移民に懸念を抱いている。
彼らは搾り取られている中間層の中から生じてくる。この層は、社会の頂点に立つエリートと底辺にいるたかり屋が、一般労働者の負担でおいしい思いをしていると感じている。
そしてどちらも、権力の中枢――ワシントンやブリュッセル―――が官僚で膨れ上がり、その官僚たちが人々の人生を管理する仕組みを作ろうとしていると信じているのだ。
欧州の主流派の政治家は、反体制派政党を、抑制の利かない人種差別主義者やファシストと描写することによって、卑小化しようとしてきた。
しかし、それはうまくいっていない。理由の1つは、反主流政党の多くが尊敬に値する存在になろうと、強い決意で努力しているからだ。
英独立党と仏FN、そしてオランダの自由党(PVV)は、5月の欧州議会選挙で、それぞれの国の最多得票を獲得する可能性がある。
フランスでは、学生の55%がFNへの投票を考えると述べている。ノルウェーの進歩党は、連立政権に加わった。スロバキアには、極右の知事が誕生した。
ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)やイタリアの5つ星運動など、左翼の反体制派政党も数に入れると、欧州の主流政党は第2次世界大戦以降で最も弱体化していると言える。
反体制派政党が勢力を伸ばしている理由の1つは、主流政党が政策を大きく誤ったからだ。各国政府は消費者に借金を奨励し、銀行にしたい放題させ、欧州プロジェクトの頂点としてユーロを設計した。過去5年の間、一般国民が、増税、失業、社会給付削減、給与凍結などの形で、これらの愚行の対価を支払ってきた。
本誌(英エコノミスト)は、ティーパーティーの洞察に共感を覚えている。現代の国家は、本来国家が尽くすべき国民ではなく、国家そのものの面倒を見るよう作られていると思えることが多いという洞察である。
確かに欧州連合(EU)は、多くの国で一部の有権者がEUに正当性がないと感じているという問題に対して、答えを持っていない。これはユーロに迫り来る脅威だ。しかし、欧州の反体制派政党の脅威は、それだけにとどまらない。
オランダのPVV党首、ヘルト・ウィルダース氏は、コーランを「ファシストの書」、イスラム教を「全体主義の宗教」と呼んだが、これは不寛容を是認するということだ。
仏FNのル・ペン氏は、フランス企業を外国企業との競争から保護することを求めるが、これは同胞の能力を衰えさせかねない要求だ。
英独立党は英国人に、EUには属さず、独自に考案した自由貿易圏の中で繁栄できると約束する。これは幻想を売り込んでいるに等しい。
不平等の拡大と移民の増加は、技術的進歩と経済的自由には必ず付随するものだ。しかしこうした進歩や自由を喜んで手放そうとする人はほとんどいないだろう。
このような細かい点で、ル・ペン氏がひるむことはない。ル・ペン氏は、売り出し中の政治家特有の傲慢な態度で、自分は10年以内に大統領官邸に入るだろうと予言する。
それはまずあり得ない。1つには、国政選挙は欧州議会選挙ほど抗議票に左右されないからであり、1つには、欧州のティーパーティー政党が権力に近づけば、ほとんどすべての政党がその無能さと派閥主義をさらけ出す可能性が高いからだ。
しかし、反体制派の政党は選挙で勝利しなくても、主導権を握ったり、改革を妨げたりすることができる。だからこそ、欧州の人々は反体制派政党を追い払う必要がある。
何もかも正直に
反体制派政党をファシストと攻撃することは、ヒトラーの記憶が新しかった時代には有効だったが、今日の有権者の多くが正しくも見抜いているように、それは恐怖心をあおるデマ戦術と言ってよい。
主流政党は、反体制派政党を貶めながら、一方で、反移民、反グローバル金融、反EUといった政策を薄めて採用することで、彼らにおもねってもいるのだ。
しかし、主流政党は、可能なことを見極める感覚と、合法性をわきまえる理解とによって、行動に歯止めが掛けられている。その結果、何かを修正する必要があるという考えを褒めそやしていても、何かを成し遂げようとする勇気に欠けると思われてしまうのだ。
欧州の政治家が米国から学ぶべきことは、反体制派政党に主導権を握られたくないのなら、相手の主張を論駁する必要があるということだ。
共和党の指導者たちが、ティーパーティーの要求に応じて(例えば連邦機関を閉鎖したように)政府が機能することよりも主張の純粋性を優先させている間、共和党に対する国民の評価は下がってきた。
共和党の候補者の強硬姿勢は、党の忠実な支持者は満足させるが、態度を決めかねている有権者の票を逃がす。最近の選挙で共和党が上院の議席を失ったのも、恐らく2012年の大統領選で敗北したのも、そのせいだ。
政治家は、難しい選択について国民に説明し、誤解を解いていく必要がある。
欧州の単一市場は繁栄の源なのだから、これを拡大しよう。東欧出身の労働者は、国庫から受け取る金額より多くを国庫に支払っているのだから、東欧出身者を歓迎しよう。
率直に語る覚悟を持っている政治家は、ほとんどの国民が真実に立ち向かえることに気づくはずだ。
最後は有権者の判断
しかし、最終的な選択を行うのは有権者自身だ。ティーパーティーが米国で勢力を拡大した理由の1つは、ごく少数の有権者が、特に特定の主張に有利に改変された選挙区で予備選を支配することにある。
欧州議会選挙では、多くの有権者が単純に選挙に足を運ぼうとしない。それが反体制派政党にとってありがたい条件となっている。
欧州の人々が反体制派政党の勝利を望まないのであれば、投票に行かなければならない。【英エコノミスト誌 2014年1月4日号】
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正直に話して理解が得られるかどうかは分かりませんが、それでも国民が独断的で過激な主張を支持するのであれば、その先に起こることを含めて、選択した国民の自業自得というべきでしょう。
【“外国嫌い”の極右勢力が連携できるか?】
極右政党の台頭が予測されている欧州議会の権限は最近強まる傾向にあるようです。
“折から欧州議会は権限を強めている。過去には「無用の長物」と嘲笑されたが、EUがリスボン条約の下で「欧州連邦」色を強める中で、EUの閣僚である欧州委員や、EU予算の承認も権限に加わった。EUが域外の国と結ぶ条約も、自由貿易協定(FTA)を含め、発効には議会の承認が必要だ。
「欧州委員は、各国政界の『上がり』の政治家たちに割り振られてきたが、評判の悪い人物には、議会が『ダメ出し』をするようになって、欧州委員承認のハードルが高くなった」とEU外交筋は言う。”【選択 2013年11月号】
台頭する極右勢力の中心にいるマリーヌ・ル・ペン氏は昨年の大統領選で17.9%を得票して、極右の大物である父親の2002年の得票率さえ上回って、過去最高を記録しています。
【1月26日 時事】にもあるように、マリーヌ・ル・ペン氏が最近親交を深めているのがオランダ自由党(PVV)のヘルト・ウィルダース党首ということで、この両者が欧州議会選挙の“台風の目”になると見られています。
もっとも、極右勢力は基本的に“外国嫌い”という性格がありますので、各国の欧州懐疑派連携がどこまで進むかは疑問視する見方もあるようです。