孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  政治混乱を乗り越えて、国民融和に向けて新憲法制定 

2014-01-29 22:36:50 | 北アフリカ


(チュニジア 圧倒的多数で新憲法を承認し、議場で喜び合う議員 “flickr”より By Tunisia Live http://www.flickr.com/photos/77178345@N05/12171982163/in/photolist-jxAAer-jzqNzX-jxBARh-jxBHVN-jxD2zq-jxzrSR-jxAzTX-jxzsCD-jxzroK-jxCJz3-jxzrwF-dBb8RE-dBb9d7-dB5EPp-dB5F4n-dBb8oS-dBb97C-dB5FoR-dB5FdR-dB5DSF-bw7zeY-bhX6yM-boiExf-axEDf4-axEDtn-axEDqB-axHmN7-dQ3jv7-dQ3k4U-dPWKdc-dQ3pUj-dPWFdF-dQ3kBG-dQ3m1o-dPWMmp-dQ3mvw-dQ3oiS-dPWJNc-dQ3nYC-dQ3mNC-dPWFH8-dQ3hV7-b8qMxp-bowTzd-cHmBey-cHn42u-cHn9wQ-cHmd3Y-cHmTSw-cHmvtS-cHmiDd)

チュニジア:混迷を深める「アラブの春」経験国のなかで“希望の光”】
いまや死後となった「アラブの春」の発端となったチュニジアでは、その後の政治混乱を乗り越えて“アラブ世界で最も進歩的な憲法の1つとみなされる”新憲法が3年越しで成立しました。

新憲法では、思想・信教の自由や男女平等、汚職の撲滅などが明記され、国防・外交は大統領、行政全般は首相が担うなど権力を分散されています。【1月27日 毎日より】

****暫定大統領らチュニジア新憲法に署名 、「アラブの春」から3年****
チュニジアの指導者らは27日、制憲議会が前日に承認した新憲法に署名した。「アラブの春」の発端となった同国の革命の鍵となる目標の1つが、3年越しでようやく達成された。

同国の制憲議会で開かれた式典の中で、近く退任するイスラム系のアリ・ラアレイエド首相、ムスタファ・ベン・ジャーファル議長、そしてモンセフ・マルズーキ暫定大統領の3人が、アラブ世界で最も進歩的な憲法の1つとみなされるこの歴史的な文書に署名した。

マルズーキ暫定大統領は署名に先立って議会に対し、「この文書の誕生により、独裁に対するわれわれの勝利を確認する」と語った。

起草に2年以上費やされたこの憲法は、官報での発表を経て、今年中に実施予定の議会と大統領の選挙の前に段階的に発効する。同国で有力なイスラム系政党「アンナハダ」は、両選挙が10月に行われるとの見通しを持っている。

憲法が26日、賛成200票、反対わずか12票という圧倒的多数で承認されると、議員らは抱き合ったり国旗を振ったり、国歌を歌ったりして議場は祝賀ムードに包まれた。

同国ではここ数か月間、政局の危機にイスラム勢力が関与しているとされる暴力行為、社会不安が続いてきたが、この日の憲法承認で2011年1月にジン・アビディン・ベンアリ元大統領の独裁政権を崩壊に導いた民衆蜂起が目指したものの少なくとも一部は実現の目途が立ったことになる。

この動きについては他国首脳らも、同じく「アラブの春」を経験したリビアやエジプトといった国々が政情不安に直面している中で、チュニジアは希望の光だと歓迎する姿勢を示している。【1月28日 AFP】
*******************

チュニジアの後に続いたリビア・エジプトなどでは政治混乱が拡大しており、シリアに至っては内戦の泥沼状態から抜け出せない状況・・・というなかにあっては、イスラム主義・世俗主義の対立を超えた幅広い国民の合意によるチュニジアの新憲法制定はまさに“希望の光”と言えます。

ここに至るまでは、チュニジアにおいてもイスラム主義政党とそれに反発する勢力の間で、厳しい対立がありました。
昨年には、世俗派の野党指導者が相次いで暗殺され、大規模な反政権デモに発展しました。

下記は昨年10月段階での混迷を伝えるものです。

****チュニジア政治混迷 相次ぐ暗殺、進まぬ憲法制定****
「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアで、政治の混乱が続く。

革命後、イスラム系政党が政権を主導するが、リベラル派などの野党は民主化の遅れや治安悪化を批判し、デモが続発。野党党首の暗殺事件も混迷に拍車をかけ、新しい国の基盤となる憲法制定が進んでいない。

7月25日朝、チュニス郊外の住宅地に銃声が響いた。世俗派野党党首のムハンマド・ブラヒミ議員が自宅を出たところで襲われ、銃弾11発を浴びて死亡した。2人組の男がバイクで近づき射殺するという手口は、2月上旬に別の野党党首が暗殺された事件と同じだった。被害者が最大与党のイスラム穏健派「ナハダ」を批判する急先鋒(きゅうせんぽう)だったことも共通している。

野党支持者らは「ナハダが黒幕だ」として一斉に反発。以来、最大労組のチュニジア労働総同盟(UGTT)などの呼びかけで、全国的に数千人規模のデモやストが相次いだ。

チュニジアは、革命後の民主国家の基盤となる新憲法を起草する段階にある。与野党でほぼ合意にこぎつけていたが、7月の暗殺事件をきっかけに制憲議会で野党の50人以上が欠席し、議長が議会を停止。9月中旬に再開したが、野党の欠席は続き、新憲法制定に向けた動きが止まっている。

政治空白は2月の暗殺事件後にも生じていた。与野党対立で政局が混乱し、ジェバリ前首相が辞職。ラアレイエド現内閣の発足に約1カ月かかった。

政府は野党に配慮し、ナハダに近いとされるイスラム厳格派の取り締まりを強める姿勢に転換。9月中旬から暗殺の再発防止に向け、野党関係者十数人に護衛をつけた。

ナハダと野党側は今月5日、今後3週間かけて協議し、その後に内閣が辞職することで合意。後継内閣が1カ月以内に憲法起草を終え、大統領選と議会選挙の日程も確定させるという。

 ■国民の政争疲れに危機感も
野党の反発は、暗殺事件や過激派対策の遅れだけにとどまらない。報道関係者の逮捕など言論弾圧に危機感を持ち、女性の権利を否定する動きが強まることも警戒する。

経済の低迷も政権批判に拍車をかける。国立統計局などによると、昨年の失業率は革命前の10年と比べ、約4ポイント高い16・7%だった。4月にナハダを離れ、新党結成を進めるマノール・ムハンマド・ダカンダローニ氏は「ナハダは(旧ベンアリ政権下の)亡命者やかつての政治犯の集まりで、国民の日常生活が分かっていない」と批判する。

ただ、民間調査機関が9月中旬に発表した世論調査では、内閣総辞職に反対は29%で、賛成の23%を上回った。議会の解散にも48%が反対と答えた。

連立与党の左派「エタカトル」のロブナ・ジビリ議員は「本当の危機は暗殺ではなく、議会が憲法制定という任務を2年も果たせていないことだ。国民は政争に疲れている。一刻も早く新憲法を制定するべきだ」と訴える。

チュニジアは、内戦となったリビアやシリア、デモ制圧で大量の死者が出たエジプトと違い、比較的穏やかな民主化のプロセスを歩む。多数派のイスラム勢力が世俗・リベラル派と協力する形で、民主化のモデルになれるか注目される。

政治アナリストのサラヘディン・ジョルシ氏は「ナハダは民主主義を知らないが、それは野党も同じ。時間をかけることで、議論が深まっているとも言える。憲法改正を急いで軍のクーデターが起きたエジプトのようにはならない」と話している。【10月17日 朝日】
*****************

チュニジアの第1党である穏健なイスラム系政党「ナハダ」は、エジプトのムスリム同胞団を母体とする組織ですが、エジプトのムスリム同胞団・モルシ政権が世俗主義を含めた国民統治に失敗したのとは異なり、新憲法制定に向けて踏みとどまったと言えます。

ただ、「ナハダ」の中にもいろんな立場がありますので、一概にその性格を論じることもできません。
“「ナフダはテレビでは「ソフト」なようだが、モスクでは完全に違う。彼らの中にはジハードを求める声もある。」”【ウィキペディア】

チュニジアが「アラブの春」の先駆けとなったのは、アラブ世界では比較的民主主義的な土壌があり、政府批判弾圧もその他の国に比べれば穏やかだったという事情があったと思われますが、ジャスミン革命後の混乱を踏みとどまって新憲法制定に漕ぎつけられたのも、そうした政治的な土壌があってのことではないでしょうか。

エジプト:「国民の支持と軍による負託」か、「独裁政権時代への逆戻り」か
一方のエジプトでは軍政回帰とも言える現象が加速しています。

エジプトでは今月の国民投票で、暫定政権主導で起草された改憲案が約98%の賛成で承認されました。
暫定政権側の支持者らは、これを軍主導の政治に対する信任と受けとめ、軍部と暫定政権の最高実力者であるシシ第1副首相兼国防相の出馬を強く求めていました。

こうした“国民の要望”を受ける形で、シシ氏の大統領選出馬が明らかになっています。

****エジプト:シシ国防相 春の大統領選に立候補へ****
複数のエジプトメディアによると、シシ国防相(59)は27日、今春実施の大統領選に立候補する意向を固めた。

シシ氏は昨年7月のクーデターを主導し、当時のモルシ大統領を追放した。世俗リベラル派を中心に人気は絶大で、当選が有力視される。

ただ、モルシ氏の出身母体・イスラム組織ムスリム同胞団は「反逆者」と批判。国民の愛憎半ばするシシ氏が大統領に就任した場合、国民融和はより困難になるとみられる。

27日に開かれた軍最高評議会で軍幹部らから出馬を求められた。シシ氏は「国民の支持と軍による負託」を立候補の条件に挙げていたが、1月中旬の国民投票で自身が推進した憲法改正が圧倒的多数で承認されたため、国民の支持も得られたと判断した模様だ。大統領選は4月までに実施される。

エジプトでは2011年の革命以前は4代続けて軍出身の大統領が続いた。クーデター後は治安機関などが反政権運動を厳しく取り締まっており、シシ氏の出馬で「独裁政権時代への逆戻り」という批判も強まりそうだ。【1月27日 毎日】
******************

今月承認された現憲法は軍人は大統領になれないと規定、一方で国防相ポストに就けるのは現役武官に限られるとされており、シシ氏が大統領に立候補するためには国防相を辞任する必要がありますが、エジプトの軍最高評議会(議長・マンスール暫定大統領)は27日、シシの国防相辞任・大統領選出馬を了承しました。

混乱に疲れ、安定を求める国民の支持を受けて、シシ氏の大統領選挙での当選はまず間違いないところですが、ムスリム同胞団の反発は必至で、“国民融和はより困難になる”【前出 毎日】と見られます。

また、軍部の権限が強化された新憲法において、自由がどこまで保障されるのか、「独裁政権時代への逆戻り」となるのか・・・懸念されています。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする