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(1月22日 6週間ぶりに姿を現わしたフェルナンデス大統領(60)ですが、大波がアルゼンチン経済を襲っています。【1月24日 SANKEI EXPRESS】http://www.sankeibiz.jp/express/news/140124/exd1401241321002-n1.htm)
【「私がもう終わりだと国民に印象づけたかったようだが、そうはいかない」】
南米アルゼンチンの通貨混乱が報じられていますが、その話に入る前に、アルゼンチンに関して「あの話はどうなったのだろうか?」と気になっていたことがありました。
昨年10月8日ブログでも取り上げた健康問題を抱えるフェルナンデス大統領が、年末からほぼ1カ月、公の場に姿を見せていないということでした。
****アルゼンチン大統領、1カ月姿見せず 健康不安説も****
アルゼンチンのフェルナンデス大統領がほぼ1カ月、公の場に姿を現さず、健康問題や所在について憶測が飛び交っている。
フェルナンデス大統領は昨年10月、脳の表面にできた血腫を除去する手術を受けた。11月に公務に復帰し、12月には複数の行事に出席したが、その後は公の場に姿を見せていない。
手術前、フェルナンデス大統領は国営テレビを通して情熱的に政策を語ったり、インターネットで自らの仕事について矢継ぎ早に投稿したりしていた。だがツイッターへの最後の投稿からすでに33日が経過している。
国営テラム通信によれば、カピタニチ官房長官は今月初め、「大統領は毎日出勤して、われわれとともに働いている」と記者団に述べた。だが一部からは「政府は誰の下で運営されているのか」と批判の声も上がっている。
「数カ月前の病気の件がなければ問題にもならなかっただろう。だが噂は広まり、理由が分からないことによる不安感が生じている」と、ベルグラノ大学(ブエノスアイレス)世論センターのオルランド・ダダモ所長は言う。
「政治的戦術なのか? 来年の大統領選の候補のために活動の場を作っているのか? 政府がかかえる難局に向き合いたくないのか? 国民には分からない」
一方で、健康に配慮して十分な休養を取っているとの見方もある。前大統領で夫のネストル・キチルネル氏は10年に心臓発作で死亡した。「同じような状況になりたくないのだろう」と、政治評論家のエンリケ・スレタは言う。【1月17日 CNN】
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そのフェルナンデス大統領が、1月22日、ようやく姿を現しました。
****アルゼンチン大統領 6週間ぶり姿****
昨年(2013年)12月10日を最後に公の場に姿を見せていなかったアルゼンチンのクリスティーナ・フェルナンデス大統領(60)が1月22日、6週間ぶりに姿を現わし、大統領府で支持者の歓声に笑顔で応えた。
大統領は昨年(2013年)10月8日に脳内出血の除去手術を受け、11月18日に公務に復帰したが、健康不安説が絶えなかった。
(1月)22日のテレビ演説で大統領は「いくらか(健康に)問題があっただけ。野党勢力や一部メディアは、私がもう終わりだと国民に印象づけたかったようだが、そうはいかない」と語った。【1月24日 SANKEI EXPRESS】
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【ペソの年初からの下落率は20%を超え、この1年で外貨準備高は約30%減】
大統領が姿を見せた翌日の23日、これまで通通貨ペソをなんとか買い支えてきた中央銀行が外貨準備減少のためこれ以上買い支え切れない事態となり、ペソが急落しました。
****アルゼンチンペソ急落 中銀の姿勢に懐疑的見方広がる ****
23日のブエノスアイレス市場で南米アルゼンチンの通貨ペソが急落し、前日と比べて12%ペソ安・ドル高の1ドル=8ペソで取引を終えた。
外貨準備の減少を背景に、中央銀行のペソ安阻止の姿勢に懐疑的な見方が広がっていることがペソ売り材料となった。ロイター通信によると、1日の下落率としては、債務危機が起きていた2002年以来の大きさだ。
ペソは前日も下落していたが、中銀は介入をしなかった。外貨準備高の減少を懸念する中銀が、ペソ買い・ドル売りの為替介入の姿勢を和らげるとの観測が広がり、23日のペソ急落を招いた。この日は一時、1ドル=8.5ペソで取引される場面もあった。ペソの年初からの下落率は20%を超えた。
アルゼンチンの外貨準備高は13年末時点で305億ドル(約3兆1500億円)と、この1年で約30%減った。政府・中銀はさらに減少することに神経をとがらせる。
急激なインフレもペソ売りの要因になっている。政府は消費者物価の上昇率が13年に10.9%だったと公表したが、エコノミストらは実際の物価上昇率は25~30%程度に上ったとみている。【1月23日 日経】
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中央銀行の方針は当然に大統領に事前に報告されていたと思われますので、22日に大統領が姿を見せたのは、その後の経済混乱を予測して、これ以上の政治空白は許されないとの判断から健康状態を押して姿を見せた・・・ということでしょうか?
あるいは、今日の経済混乱を招いたひとつの要因に、大統領不在の政治空白があった・・・とも考えられます。
24日のペソは、中央銀行がペソ買い・ドル売りの為替介入を再開したため、前日比でほぼ横ばいと、ひとまず下げ止まった格好にはなっています。【1月25日 日経より】
アルゼンチンペソ急落の国際経済的背景としては、アメリカの量的緩和縮小により新興国からの資金流失が挙げられています。
アルゼンチンで明らかになった新興国の通貨不安は、世界経済をけん引してきた中国経済の停滞感もあって、先進国を含む世界経済に株安などの影響を与えています。
****新興国、マネー変調 米の緩和縮小、アルゼンチン通貨急落****
新興国の景気減速への不安が広がっている。世界経済を引っ張る中国の成長率が鈍り、アルゼンチンで通貨が急落するなど異変が出始めた。米国の金融緩和の縮小が背景にあるとみられ、先進国でも軒並み株安になった。東京市場では日経平均株価が一時400円超下がり、円高が進んだ。
きっかけは中国だった。英金融大手が23日発表した中国の製造業の景況感を示す指数が、1月は景気判断の分かれ目の「50」を半年ぶりに下回った。
中国では、10~12月期の成長率が前年比7・7%と、7~9月期から0・1ポイント悪化した。政府の景気対策が息切れ気味で、今後の景気減速への不安が強まり、欧米の株価が下がる原因になった。
米国の量的金融緩和の縮小が響いている。米連邦準備制度理事会(FRB)は今月から、市場に流すお金の量を減らし始めた。新興国へ投資していたファンドなどが資金を引き揚げているとみられ、インドやブラジルで通貨安が続く。投資の減少と通貨安による物価高などで、景気をさらに悪くするおそれがある。
経済力が弱い国ほど緩和縮小の影響は大きくなる。23日の海外市場では、アルゼンチンの通貨「ペソ」が一時1ドル=8・2ペソと、15%も下がった。米メディアによると、アルゼンチン政府が国の借金を返せなくなる「債務不履行(デフォルト)」に事実上陥った2002年以来の下げという。
経常赤字に苦しむアルゼンチンでは、ドルなど外貨の蓄えがこの3年で4割も減っている。中央銀行がペソの急落を防ぐために市場で外貨を売ってペソを買う「為替介入」ができなくなるとの見方が強まり、「弱み」を突かれたペソは一気に売られた。
新興国では昨夏も「米国が緩和縮小を始める」という予想が増え、各国の通貨が急落した。第一生命経済研究所の西浜徹氏は「アルゼンチンの通貨急落で『新興国経済は大丈夫か』という不安が広がった」と話す。【1月25日 朝日】
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【脆弱なアルゼンチン経済 政治の無策】
アルゼンチンが市場に狙われたのは、基本的にアルゼンチン経済がインフレーションという問題を抱えているからです。
2001年にデフォルト(債務不履行)を経験し、未だにその影響が残るアルゼンチン経済については、
2012年12月12日ブログ「アルゼンチン 景気悪化とインフレーション インフレ率操作の疑惑も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121212)や、
2012年5月29日ブログ「アルゼンチンに見るデフォルトの後遺症」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120529)でも取り上げてきました。
このところのアルゼンチン国内では、物価高騰や1週間にわたる停電、略奪行為など、経済混乱が拡大していたようです。
****アルゼンチンで国債デフォルト懸念が再燃-停電頻発し略奪横行****
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの商業地区で食料品店を営むドミンガ・カナサさんが神経をすり減らしているのは、物価高騰や1週間にわたる停電、略奪行為の全てが重なったからだ。
カナサさん(37)は先月のうだるような暑さの日に、店の金属製シャッターを全開するのをためらい、通行人にソーダを販売できる程度しか開けなかった。「怖かったからだ」とカナサさんは言う。
隣接するコルドバ州で、賃上げを求める警官のストライキで警備が手薄になった隙をみて略奪が始まり、ブエノスアイレスの郊外にも波及。
カナサさんの店の近隣でも動揺が広がった。こうした無秩序な状況は2001年の950億ドル(現在のレートで約9兆8200億円)のアルゼンチン国債デフォルト(債務不履行)後の暴動以来経験したことのない規模だとカナサさんは話す。
国債デフォルトから13年が経過した中、フェルナンデス大統領には新たな危機を回避する時間はなくなりつつある。政府統計では昨年のインフレ率は11%弱だったが、大統領による圧力で政府統計と相反する内容の物価統計について沈黙させられているエコノミストの予想を明らかにしている野党議員によると、28%に達したという。
ペソは過去2日間で13%下落し、過去最安値1ドル=7.8825ペソを付けた。アルゼンチンの中央銀行はペソ相場の下支え策を縮小しており、過去1年間では35%余り値下がりした。
国債デフォルト後の通貨切り下げ以来最大の急落で、世界でこれを超える通貨下落に見舞われたのは戦争で疲弊したシリアとイランだけだ。
フェルナンデス大統領にとって最大の金融問題は外貨準備の減少。外貨準備 は過去3年間で44%減少し295億ドルに落ち込んだ。
国際資本市場から依然締め出されたまま、ヘッジファンド運用者ポール・シンガー氏とのデフォルト債をめぐる訴訟が続くアルゼンチンにとって、外貨準備は債務再編に応じた300億ドル相当の国債の保有者への支払いの主要財源。他の外貨債務を合わせると、債務は500億ドルに膨らむ。
投資家はデフォルト再発の可能性に備えている。同国のドル建て債の平均利回りは12.4%で、主要新興国ではベネズエラに次ぐ高い水準。アルゼンチン債のデフォルトに備えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引は、向こう5年で同国の支払いが79%の確率で滞るとの見方を反映した動きとなっている。【1月24日 bloomberg】
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2001年のデフォルトの清算が済んでいないため、外からの資金調達が難しく、巨額のマネーが動く市場にアルゼンチン一国のわずかな外貨準備で立ち向かわねばならない状況です。
24日のペソは下げ止まったようですが、巨額の市場マネーと脆弱な外貨準備では勝負にならないような気がします。
この事態は、国内経済の問題を、統計数字の操作などで隠蔽し、フォークランドなどの外交問題を煽ることで国民の目をそらそうとしてきたフェルナンデス政権の無策の結果とも言えます。
【日本経済への影響も】
24日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、、前日終値より318・24ドル下げています。昨年12月17日以来約1カ月ぶりの安値で、下げ幅は昨年6月20日(353・87ドル安)以来、約7カ月ぶりの大きさです。
日経平均も一時、前日より400円超下げ、終値も304円33銭(1・94%)安の1万5391円56銭と、今年の最安値をつけています。
アルゼンチン通貨の混乱を受けて、その影響は新興国通貨、更に日本円にも及んでいます。
****新興国通貨全面安 アルゼンチン暴落が引き金 円買い加速****
週末24日の外国為替市場で、トルコ・リラが過去最安値となり、南アフリカ・ランドも5年3カ月ぶりの安値を更新するなど、新興国の通貨が全面安となった。
アルゼンチン・ペソの暴落をきっかけに、新興国経済への警戒感が広がり、新興国通貨の売り圧力が強まった。
米国の量的金融緩和の縮小や、中国経済の減速への懸念も浮上、世界の金融市場全体に悪影響が及ぶ懸念が出てきた。
ロンドン時間午前10時30分現在、ランドが1ドル=11・1ランド台と前日終盤から1・4%下落、リラも同2・31リラ台と1%安だった。メキシコ・ペソも同13・5ペソ台、ロシア・ルーブルも同34・4ルーブル台とともに1%前後下落した。今年に入ってからの下落率はトルコ・リラで7・6%、南ア・ランドで6・1%になっている。
円相場も、新興国通貨の急落を背景とするリスク回避に伴い円買いが加速、一時1ドル=102円近辺と昨年12月6日以来約1カ月半ぶりの高値まで上昇した。【1月25日 msn産経】
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円高が進むのは、新興国の景気減速が世界経済全体に波及するとの見方から、各国への投資を引き揚げた投資家たちが「安全資産」とされる円を買い、日本に一時待機させる動きが強まっているためです。
円高・株安の流れが、業績改善・景気回復の足を引っ張る懸念が指摘されています。