![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/f7/b7c6d3431166eb4ab2022d037c7924b4.jpg?random=c8e80a43398ee800eae8955548c581e8)
(アレッポの戦局
薄緑は反体制派支配エリア 黄色が「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」支配エリア 右側のベージュが8月21日以前の政権側支配エリア その周囲のピンクが8月21日以降に政権側が取得したエリア
政権側は市街北東部の反政府勢力を攻撃する準備をしており、政権側がここを占領すると、市内にいる反政府勢力はその周辺の味方と分断されることになるそうです。【1月14日 WSJ】)
【「自らの庇護者に腹を立て、やがてしぶしぶやってくるだろう」】
シリア内戦終結に向け今月22日からスイス・モントルーで行われる国際和平会議への出席が危ぶまれていたシリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」が“参加”を決定しました。
****シリア:反体制派・国民連合 国際和平会議参加を決める****
シリア反体制派の主要組織「シリア国民連合」は18日、トルコで総会を開き、シリア内戦終結に向け今月22日から行われる国際和平会議に参加する方針を賛成多数で決めた。
反対論も強かったが、支援を受ける米欧諸国などの説得で参加を決めた。会議ではアサド政権と国民連合の初の直接協議も行われる見通しだ。
総会では58対14で参加賛成が多数を占めたが、最大派閥「シリア国民評議会」のメンバーら約40人は投票を拒否。国民評議会は参加を決めた場合には国民連合から離脱する意向で、反体制派の新たな内紛の火種となる可能性もある。
国連の潘基文事務総長は18日、参加決定を「勇気ある歴史的な一歩」と歓迎し反体制派代表団の構成に「多様性が幅広く反映されるよう望む」と述べた。米国のケリー国務長官も同日の声明で「政権移行に向け協議を始める反体制派を支援する」と表明した。
会議直前まで国民連合の方針が定まらなかったのは、参加の前提条件だったアサド大統領の退陣が見通せないからだ。アサド政権は一貫して退陣を拒否し、戦闘でも攻勢を強めている。
また国民連合内では昨年後半、米欧からの軍事支援を引き出せない執行部への不満などを背景に、有力武装組織の離脱が相次いでいた。国民評議会や主要戦闘部隊「自由シリア軍」も会議参加に反対で、参加を強行すれば求心力がさらに低下する懸念もあった。
それでも最終的には米欧諸国の説得が奏功した。米英仏などは今月12日にパリで会合を開き、「アサド政権の退陣」を実現させていく方針を確認。米欧が働きかけを強めた結果、自由シリア軍など主要な反体制派武装組織は18日に和平会議への参加を容認する姿勢に転じた。
和平会議は22日からスイスのモントルーで始まり、中立的な移行政府樹立を柱とする2012年6月の「ジュネーブ合意」を下敷きに、和平の具体策が議題となる。激戦地の北部アレッポでの部分的停戦や捕虜交換、政権側の人道支援受け入れ拡充などの案が浮上しており、アサド政権も前向きに検討する方針だ。
ただ政権側は、内戦の混乱に乗じた国際テロ組織アルカイダの勢力拡大を念頭に「対テロ戦争」が主要議題になると主張している。国民連合の目的はアサド政権の排除で、議論がかみ合わないとの懸念もある。
また在外活動家が中心の国民連合にシリア国内の反体制派を統率する力はなく、停戦などの合意内容が履行されない恐れも強い。
国民連合は12年11月に反体制派を統括する組織として設立され、欧米や日本など100カ国以上から「シリアの唯一正統な代表」と承認されている。
だが、反体制派間の戦闘も、イスラム系組織を中心に続いており、今月上旬以降の死者は1000人を超えた。市民や捕虜の処刑も横行し、国連のピレイ人権高等弁務官は16日、「戦争犯罪になりかねない」と警告している。【1月19日 毎日】
****************
「アサド政権の退陣」が見通せない状況での参加は、アメリカなどの支援国からの強い働きかけがあったと思われます。
“反政府勢力は――少なくとも、うちの一部は――態度を決めかね、のち自らの庇護者に腹を立て、やがてしぶしぶジュネーヴにやってくるだろう。”【1月17日 The Voice of Russia】という、ロシア側の見立てのとおりになっています。
総会での評決は“賛成58、反対14、棄権2、無効1”1月19日 AFP】だったようですが、この数字と“最大派閥「シリア国民評議会」のメンバーら約40人は投票を拒否”ということの関係はよくわかりません。
棄権にも含まれていないということでしょうか。
“国民連合のアハマド・ジャルバ代表は18日の会議参加決定後、「ジュネーブ2は革命要求の全面的な実現、第一に殺りく者(アサド大統領)から全ての権力を剥奪することを目指す片道の道筋だ」と述べた。”【1月19日 AFP】とのことです。
しかし、後述のような現状では反体制派が求めるような「アサド政権の退陣」が明確化されることはまずあり得ず、内部の反対を押し切って参加した国民連合は、会議後は「シリアの唯一正統な代表」という立場も難しくなりそうな感じがします。
【イラン「前提条件が付けられるなら参加しない」】
アサド政権側は、早くから出席の意向を示していました。
****シリア和平会議:アサド政権出席…国連報道官****
国連事務総長の報道官は16日の記者会見で、スイスで22日に予定されているシリア国際和平会議について、アサド政権が書簡で出席を伝えてきたことを明らかにした。政権側の代表団はムアレム外相が率いることになる見通しという。(後略)【1月17日 毎日】
****************
未だはっきりしないのが、アサド政権を支援するイランの参加問題です。
アメリカが、シリア反体制派が参加する「移行政府」の樹立を柱とする「ジュネーブ合意」の受け入れを参加の条件として求めているためです。
****イラン「条件付きなら欠席」 シリア和平会議、米けん制****
イランのザリフ外相は十六日、モスクワを訪れ、ロシアのラブロフ外相と会談した。シリア内戦の収拾を目指してスイスで二十二日に開かれるシリア国際和平会議への対応を協議し、会談後の記者会見で「前提条件が付けられるなら参加しない」と強調した。
二〇一二年六月の一回目に続く次回会議ではシリアのアサド政権を支援し、影響力を持つイランが参加するかが焦点の一つ。米国は、シリア移行政府樹立という和平会議の目的に「賛同するなら歓迎する」と条件を付けている。ザリフ氏の発言は、こうした米国の立場をけん制したものだ。
一方、ラブロフ氏は、イランのほか、シリア反体制派に影響力を持つサウジアラビアも和平会議に参加するべきだと強調。会議でアサド政権側と反体制派が直接対話する可能性にも言及した。【1月17日 東京】
******************
サウジアラビアは参加しないのでしょうか?
イランが政権側の支援国なら、反体制派の資金的支援国はサウジアラビアです。
両国が参加しないというのは、何のための会議かいささか疑問です。
【反体制派にとって厳しさを増す戦局と国際情勢】
シリア内戦の現状は再三報じられているように、アルカイダ系「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」の勢力拡大で反体制派内部は分裂抗争状態、結果的に、ヒズボラ参戦以来態勢を立て直している政権側が更に戦局を有利にしています。
****シリア政府が漁夫の利-アルカイダ系勢力の台頭で****
シリア北部ではここ数日、反政府勢力と国際テロ組織アルカイダ系のグループとの戦闘が激化しており、この混乱と戦線の変遷が同国政府を有利にしている。
この結果、政権側勢力は、同国最大の都市で経済の要でもあるアレッポ市内およびその周辺での地歩を固めている。これらの勢力はまた、アレッポ周辺地域でさらに奪還地を拡大しようとしている。
2012年7月に初めてアレッポに入り、その後政権側を市内の一部から追放した反政府勢力にとっては大きな痛手だ。同勢力の活動家やアナリストは、同勢力と「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」と呼ばれるアルカイダ系グループとの戦闘が続けば、政権側はアレッポ全域を占領する可能性があるとみている。(中略)
シリア内戦をめぐっては来週、ジュネーブで和平交渉が開かれるが、政権側が反政府勢力の支配地を次々と奪っていることから、政権側が妥協の姿勢を示す公算は小さい。
シリア政府は13日、アサド大統領を戦犯とする反政府勢力を支持する西側とアラブ諸国の中核グループが12日に出した声明を批判した。シリア国営メディアは外務省当局者が「パリでのシリア人民の敵の会議で出てきたこの声明は幻想であり、現実離れした人々によってのみ作られるものだ」と述べたと伝えた。
ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相は13日、パリで会談したが、アサド政権の主要な軍事支援国であるイランが和平交渉に参加すべきかどうかで応酬があった。両者は、シリア反政府主要組織「国民連合」のジャルバ議長が会議参加の主要条件にしている、激戦地域での停戦仲介で合意したと述べた。
2人は、アレッポやダマスカス東部の東ゴウタなどでの戦闘状態が落ち着けば、身動きが取れないでいる市民に人道援助を施すことができるようになる、としている。
しかし、共同記者会見ではラブロフ氏がケリー氏とブラヒミ国連・アラブ連盟共同特別代表に対してイランを会議に出席させるよう圧力をかけたため冷えた空気が流れた。
また、米国など一部の反政府勢力支援国がシリア北部での戦闘が終わるまで、ISISと戦っている穏健な反政府勢力への支援を増やすことに慎重な姿勢であることもシリア政府の強みになっている。
英国のヘイグ外相は13日、同国は今週、シリアへの新たな「大規模」支援を発表すると述べるとともに、条件が整えば、同国の主要な反政府勢力への非軍事支援を再開し、拡大する方針だと語った。【1月14日 WSJ】
**************
アルカイダ系ISISの台頭は、単に戦局において政権側に有利に働いているだけでなく、反体制派を支援してきた欧米において“アサド政権の存続やむなし”の意向を増長させいている国際情勢においても、政権側に有利に作用しています。
****シリア情勢:米欧でアサド政権存続論****
シリア内戦を巡り、米欧ではイスラム過激派の台頭を懸念し、アサド政権の存続やむなしとの考えが出ている。
ロイター通信は18日、米欧の一部が反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部にアサド政権の存続を容認する姿勢を示唆したと報道。
こうした姿勢に反体制派組織は不信感を強めており、来年1月にスイスで開かれる予定の国際和平会議のボイコットも辞さない構えだ。
◇イスラム過激派を警戒
「最も良い選択肢はアサド政権の勝利かもしれない」。AFP通信によると、米中央情報局(CIA)のヘイデン元長官が12日、米国での講演で指摘した。
ヘイデン氏は、イスラム教スンニ派とシーア派の過激派同士の抗争激化▽シリアの分裂−−などが予想されると分析し、そうした結論を導いた。
米欧はこれまで「アサド政権が存続する選択肢はない」との立場を明示し、反体制派への軍事支援の強化に再三言及してきた。
だが「イスラム過激派の手に渡る恐れがある」として、反体制派が求める高性能兵器を供与していない。
8月にダマスカス郊外で化学兵器が使用された際も、米仏などは政権側への軍事攻撃を直前で回避。アサド政権に化学兵器を全廃させる妥協案を受け入れ「政権の存在を容認する行為だ」と反体制派を失望させた。
ロイター通信の報道によると、米欧側は現時点で政権が崩壊すれば、イスラム過激派が台頭し混乱が拡大するのを懸念したという。
国民連合はアサド大統領の退陣を和平会議への参加条件に挙げており、複数のメンバーは毎日新聞の取材に「報道は単なるうわさだと考えているが、事実であれば、会議に参加しない」と述べた。
反体制派内では今春以降、国際テロ組織アルカイダが影響力を拡大。また、国民連合と協力してきたイスラム武装勢力も「イスラム戦線」を新たに結成し、国民連合とは一線を画す動きを強めている。
今月上旬にはイスラム戦線がトルコとの国境付近で、国民連合傘下の「自由シリア軍」の武器庫を襲撃する事件も発生。米国はトルコ経由の反体制派支援を見合わせている。
シリアでは2011年3月に反政権デモが始まってから今月8日で1000日を迎えた。在英の反体制派組織「シリア人権観測所」や国連によると、一連の武力衝突による死者は12万人を超え、国外に逃れた難民は約230万人、国内避難民は約650万人に上る。
アサド政権は、反体制派がレバノンからの主要補給路にしている西部山岳地帯で攻勢を強めている。また15日以降、北部アレッポの反体制派支配地域を重点的に空爆し、死傷者が多数出ている。【12月19日 毎日】
***************
【破綻している武力による政権打倒】
化学兵器処理の責任を政権に委ねたこと、更に、アルカイダ系組織の台頭への懸念ということで、欧米諸国のアサド政権容認の流れは加速しているようです。
現実問題としては、“一連の武力衝突による死者は12万人を超え、国外に逃れた難民は約230万人、国内避難民は約650万人に上る”という惨状、更にイスラム過激派の台頭という事実から判断して、反政府派の武力による政権打倒という戦略はもはや破綻していると言うべきでしょう。
破綻した戦略にいつまでもしがみついて、いたずらに犠牲者を増やすのは愚かしい判断です。
戦闘参加者は自らの命をささげる覚悟でしょうが、一般国民の屍と犠牲の上に政権打倒を実現しても意味がありません。
本来は、22日からの国際和平会議を機として、停戦に向けた取り組みを行うべきですし、関係国はその方向で働きかけるべきです。
将来に向けては、停戦を実現させ、反体制派はその後の政治参加によってアサド政権の非を主張し、選挙によって発言力を強めていくことが考えられます。
ただ、今の反体制派にそうした方向転換を受け入れる余地はないでしょう。
非常に難しい役割ですが、アメリカは反体制派に引導を渡すことを考えなくてはならないのではないでしょうか。
それはアメリカ自身にとっても外交戦略の失敗を認めることであり、国内的に大きな問題となります。
そうであっても、犠牲者をいたずらに増やす現状に歯止めをかけるためにはやむを得ないことではないでしょうか。
戦闘での勝ち負け、外交的な成功・不成功より、犠牲者をこれ以上増やさない決断が重要です。それが本当の意味での指導力だと考えます。
非人道的行為も多々あるアサド政権存続を容認するというのはなかなか言いづらいことではありますが、屍の山を築くよりはましです。
反体制派がそうした流れを受け入れないのであれば、関係国の反体制派への支援停止、アサド政権側の戦闘面での勝利という形で進めるしかないようにも思えます。