孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想で動き出す「中国版マーシャルプラン」

2014-12-04 23:12:46 | 中国

(AIIB当初参加国 【11月13日 化学業界の話題】http://blog.knak.jp/2014/11/post-1473.html

【「隣人同士のつきあいに問題はつきもの」】
長く関係が中断していた日本と中国の間では、先月のAPEC首脳会議が北京で開催された際に約2年半ぶりの日中首脳会談が実現したことで、両国間のさまざまなレベルの対話が再開しています。

****中国首相「隣人同士のつきあいに問題つきもの****
中国の 李克強 ( リークォーチャン )首相は4日、日中両国の有識者による「新日中友好21世紀委員会」の日本側座長の西室泰三・日本郵政社長ら日中双方のメンバーと北京の人民大会堂で約40分間、会見した。

日本政府関係者によると、李氏は「日中関係は両国と地域の平和や安定にとって重要だ。お互いに不利なことをしないようにしなければならない。隣人同士のつきあいに問題はつきものだが、大局的、長期的な視点で誠意をもって対応すべきだ」と述べた。

青年交流など民間交流を促進し、新たな委員会を設けるべきだとの考えも示した。
沖縄県・尖閣諸島や靖国神社については言及しなかったという。

これに先立って開かれた21世紀委の最終会合では、安全保障分野を含む政府間の対話や交流を強化し、政治的な相互信頼を高めることなどで一致。次期委員会を早期に設立するよう両政府に求めることも確認した。【12月4日 読売】
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会談で李首相は
「中国語には、『歴史を鑑(かがみ)にし、未来に向かう』ということばがある。日中の間でこれまで苦労して得られた成果を大事にして、お互いにとって不利にならないようにしなければいけない」
「日中関係の改善のためには、双方が大局的な視点で誠意をもって臨み、約束したことを実行することが大事だ」と述べています。【11月4日 NHKより】

“隣人同士のつきあいに問題はつきもの”という感覚で、“大局的、長期的な視点で誠意をもった対応”が両国間でなされるのであれば、非常に結構な話です。
そうした関係が実現できるように、最大限の努力をするべきでしょう。

こうした政治的な動きとは無関係な実務的な話なのかもしれませんが、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の廃棄処理作業も新たな段階に入っています。

****旧日本軍の化学兵器、日中政府で廃棄処理開始****
2014年12月02日 20:33 発信地:北京/中国
日中両国は1日、第2次世界大戦中に旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の廃棄処理作業を、中国北東部の吉林省ハルバ嶺に日本が建設した施設で開始した。施設では両国の職員が作業している。

内閣府によると、中国には約30万~40万発の化学兵器が残存していると推定されている。

両国政府は1999年に「遺棄化学兵器の廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設およびその他の資源」を日本側が提供するとした覚書に署名。当初は2007年までに作業を完了する計画だったが、12年まで延長され、そこからさらにずれ込んだ。現在は2022年の廃棄完了を目標としている。

内閣府遺棄化学兵器処理担当室によると、これまでに約5万発の化学砲弾などを発掘・回収しているという。
中国・京華時報は1日、日本の歴史学者・吉見義明氏を引用し、1931~45年の間に旧日本軍は750万発の兵器を製造するために有毒ガス7300トン超を用いたと報じている。【12月2日 AFP】
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戦時中に旧日本軍が中国に残した毒ガス兵器などの「遺棄化学兵器」は、「化学兵器禁止条約」に基づいて日本政府が、2000年から各地で回収や処理を進めていますが、中国では、遺棄兵器に触れて死傷する事故が度々発生しており、廃棄処理の遅れに対する不満も大きいとのことです。

内閣府遺棄化学兵器処理担当室によれば、日本政府はこれまで約1400億円を投入し、中国内約50か所で約5万発を回収、約3万7000発を処理したとのことですが、多くの砲弾が埋まっているとみられる東北部・吉林省のハルバ嶺では、現地での廃棄処理を加速する必要があるとして、日本政府が処理施設の整備を進めてきました。【11月21日 NHK 11月30日 読売より】

日中間の支援競争の主戦場でもある東南アジア・インドシナ半島地域についても、動きが再開されています。

****メコン支援、日中が連携=3年ぶり「政策対話」―北京***
日中両政府がメコン川流域5カ国との協力を協議する「日中メコン政策対話」が2日、北京で行われた。日中はともに、相対的に経済発展の遅れているメコン地域の開発を支援しており、会合では関係国や国際機関の連携が重要との認識で一致した。

日中の関係悪化に伴い途絶えていた同対話の開催は、2011年以来3年ぶり。先の首脳会談で確認された「戦略的互恵関係」の再構築へ両国間の対話促進の表れとなった。

5カ国はカンボジアとラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム。会合には両国外務省の参事官らが出席した。

日本側は、インフラ整備をはじめ、15年の東南アジア諸国連合(ASEAN)共同体発足に向けた協力を説明。中国からは習近平国家主席が提唱している陸上と海上の二つの「新シルクロード構想」などが紹介された。【12月2日 時事】 
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【「中国の夢」から「アジアの夢」へ
ようやく動き出した感がある日中関係ではありますが、関係が途絶えていたここ2,3年の間にも、両国を取り巻く情勢は大きく変化しています。

中国・習近平政権は、中華民族復興の「中国の夢」から更に、アジア周辺国を巻き込んだ「アジアの夢」へと動きを拡大し、「大国」としての自信を深めています。

その具体的なものが、先述記事にもある陸上と海上の二つの「新シルクロード構想」であり、それを資金的に支える「アジアインフラ投資銀行」(AIIB、本部北京)の構想です。

****アジアの中心で中国が「この指とまれ」、日本はどうする****
11月7~12日、北京でアジア太平洋経済協力(APEC)会議が開催された。このとき中国が掲げたキーワードが「互聯互動」(「インタラクティブに影響し合う」という意味)。

中国は自ら主導するインフラ支援構想を掲げ、インフラ開発で周辺国の経済を一体化させ、アジア太平洋地域を発展させようと提唱した。中国の主要メディアは、主要議題をさしおいて一斉にこの構想を報じた。

APECにおいて習近平国家主席は、「中国はアジア周辺国に公共インフラを提供、陸と海の両方のシルクロードと経済圏を構築する(「一帯一路」構想)。中国はこれを支援するため400億ドル(約4兆5800億円)を『シルクロード基金』として創設する」と発表した。

この計画の軸となるのが、陸と海の2つの“シルクロード”である。まずは陸のシルクロード経済圏を確立するため、中国と周辺国を鉄道と道路で結ぶのだという。

また、習氏はAPECの参加国に「中国という発展の列車に乗ることを歓迎する」とも呼びかけた。習氏が政権の座に就任して以降、一貫して説いてきた民族復興の「中国の夢」は、周辺国を巻き込んだ「アジアの夢」へと拡大したのである。

シルクロード建設を後押しする「アジアインフラ投資銀行」
習政権は、この「シルクロード」という言葉を、2012年末に政権の座について以来、盛んに唱えている。

2013年9月、習氏はカザフスタンの講演で、交通を結び、貿易を促し、貨幣を流通させるという「陸のシルクロード建設」の重要性を打ち出した。

次いで10月には、インドネシアでASEAN諸国のネットワークづくりを提唱し、「海のシルクロード建設」を打ち出した。

同時に、こうしたシルクロード建設を後押しする「アジアインフラ投資銀行」(AIIB、本部北京)の構想についても言及した。

習政権はこれらを重要な国家戦略と位置づけ、今年に入り、2つのシルクロード計画を実行に向けて加速させるようになった。このシルクロード計画とAIIBは「中国版マーシャルプラン」の戦略基盤だとも言われている。

APEC開催に先立ち、10月には北京でAIIB設立に向けた覚書の署名式が行われ、中国やインド、ASEAN諸国など21カ国が共同で署名を行った。

AIIBは2015年末までの設立を見込んでいる。設立後に真っ先に着手するのは北京とバグダッドを結ぶ鉄道建設である。

西側体制への不満から自力で国際金融機関を創設
アジアにおけるインフラ建設を掲げる習政権。その背景にあるのは、西側諸国によって確立された旧秩序を打破し、中国を中心とする新秩序を築き上げたいという思惑だ。それは、欧米と日本を軸に形成された国際金融システムへの挑戦状でもある。

中国のこの構想に危機感を抱くのが「アジア開発銀行」(ADB、本部マニラ)である。ADBの最大の出資国はアメリカと日本だ(出資の割合はそれぞれ15.65%)。1966年の発足からすでに48年という長い歴史があり、歴代の9人の総裁はすべて日本人が就任している。

中国も1986年にADBに加盟している。だが、出資割合は6.46%と、アメリカ、日本の半分にも及ばない。今や世界第2位の経済大国である中国は、このアンバランスを不服としていた。またADB総裁の座を獲得できなかったことも根に持っていたようだ。

ADBの総裁は日本人が務め、IMFや世界銀行のトップは欧米人が就任する。その不文律に反旗を振りかざそうとしたのか、2013年7月、中国はBRICS銀行の設立を発表し、10月にはAIIBの発足計画を固めた。

一方、ADBからすれば胸中おだやかではない。ADBは交通や電力などのインフラプロジェクトに巨額の融資をしており、これはAIIBが狙う融資先とまったく重なるのである。日米は「AIIBは、ADBと役割が重複する」と受け止めている。

今年10月、折しも日本では「海外交通・都市開発事業支援機構」が発足した。鉄道や高速道路などのインフラ輸出に官民連携で取り組もうというものだ。発足の背景には、中国が鉄道大国として台頭し、世界の受注を独占することへの危機感がある。

鉄道を含む新興国を中心とした世界のインフラ需要は年間230兆円と言われており、アジアでは年間80兆円の需要がある。中国はその市場を虎視眈々と狙っている。

中国は世界最大の外貨準備高(現在3兆9500億ドル=約403兆円)と「低コスト競争力」を武器に市場を奪おうという戦略である。そして、この戦略を実現させるのがAIIBであり、その延長に描くのが人民元の国際化だと言われている。

さらには、中国の行き詰まった経済の突破口になることも期待される。輸出や不動産投資への依存度が大きい中国にとって、産業構造の転換をもたらしてくれるのが「アジアのインフラ開発構想」というわけだ。

簡単に「列車」には乗れない日本
APECでの「互聯互動パートナーシップ関係の対話」の席上、習氏はこうも述べた。「皆が中国という発展の列車に乗ることを歓迎する」――。

「中国がインフラ開発でアジアの経済発展をリードする。恩恵にあずかりたい国はこの指とまれ」というわけだ。

では、日本は習氏の差し出す「この指」にとまれるのだろうか。
今年初めに行われたAIIBの準備会合に、アメリカ、日本、インドの姿はなかった。また10月に北京で行われた覚え書きの署名式には、韓国、インドネシア、オーストラリア、日本の参加はなかった。

現在67カ国が加盟するADBに対し、AIIBは21カ国にとどまる。だが、署名式の後にインドネシアが参加を表明し、韓国も「条件次第で参加する」(中国メディア)と表明した。

日中首脳会談で両国の対話が再開したとはいえ、これだけ政治的関係がギクシャクしている中で、日本にとって簡単に乗れる「列車」ではない。日本は「中国を中心とする枠組みには参加しづらい。しかし完全に参加しないのも不利」という状況に立たされている。

これからのアジアは中国主導の枠組みで回るのか。中国から見て太平洋への進出路をふさぐ位置にある日本を、中国はどう組み伏せるつもりでいるのか。

APEC会期中、中国中央テレビの報道は「アジアの夢」一色に染まった。今回のAPECは北京五輪や上海万博に次ぐ国威発揚の場とも言われるが、これをいつもの「政治ショー」と一笑に付すのは危険である。

なぜなら、そこにあるのは紛れもなく「歴史的転換点」であり、私たち日本人にとってはこれから直面することになる「厳しい現実」の始まりかもしれないからだ。【12月2日  姫田 小夏氏 JB PRESS】
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日本主導の「アジア開発銀行」に対する挑戦でもあるAIIB、また、IMF体制への挑戦ともいえるBRICS外貨準備基金の資金源となっているのは、約4兆ドル(約460兆円)に積み上がった中国の外貨準備高です。

AIIBによって牽引される「中国版マーシャルプラン」は、中国経済の観点から見ると、鉄鋼・アルミ・ガラス・セメント・造船・自動車など国内に抱える巨大な過剰生産力のはけ口として、途上国支援に名を借りて自国産品を周辺国に押し込もうとする狙いがあるとも言われています。

こうした中国の既存体制への挑戦を、「近隣諸国を軍事力で脅しあげたあと、インフラ投資をするとか、陸と海との新シルクロードと称してカネをばら撒き、北京になびかせる朝貢外交を狙っているのは明らかだ」(英・フィナンシャル・タイムズ紙11月11日)と批判するのは容易ですが、日本にとって現実問題として、ますます存在感を大きくする中国の存在が厳然としてあります。

中国を軸としたAIIBの流れも止まることはないでしょう。

中国に求められる「よき隣人」となるための努力
もちろん、中国の海外進出が現地で様々な問題を起こしており、現地住民からの大きな反感を買っている・・・という点はあります。

中国の経済的影響力が強まるモンゴルでは、中国に対して否定的な感情を抱いているという回答が90%に達した世論調査もあります。

中国人の「襲来」にさらされている中央アジア・キルギスでも、地元商人の不満が高まっているとも言われています。

ミャンマーでも、地元住民の反対を受けて中国から支援を受けるダム建設が凍結されています。

中国にも、従来どおりのやり方では自国のイメージを損ない、結局目的を達成することができない・・・という反省も出ているように見受けられます。

****中米間で揺れる東南アジア****
香港で起こった学生デモの様子から判断すると、中国政府は威嚇にはたけているが民主活動家との対話は苦手と見える。

しかし、ミャンマー(ビルマ)の旧首都ヤンゴンでは9月、まさに逆の出来事があった。中国共産党の関係者が歴史上初めて、ミャンマーの市民グループ「88世代」(天安門事件の1年前の88年に大量虐殺された民主運動家たちの生き残り)と対話したのだ。

このとき中国当局は、88世代の指導者コ・コ・ジイから、中国の対ミャンマー投資は人権を無視していると非難された。

以前であれば、中国の政府高官は活動家などと会うことはせず、ミャンマー政府としか話をしなかっただろう。 

中国はミヤンマーの変化に気付き始めているのかもしれない。
昨年、ミヤンマーのテイン・セイン大統領が、中国の支援を受ける水力発電ダム建設を凍結するなど、かつての友好国ぶりから大胆な戦略の変化が起きていることを示唆したからだ。(後略)【11月11日 Newsweek日本版】
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各国政府が中国マネーを切実に欲しているのは事実ですが、中国の「アジアの夢」が実現できるかどうかは、「大国」にふさわしい「よき隣人」となるための中国の努力にもかかっています。
日本が中国と手を携えてやっていけるかも。

日本の側も思考の見直しが必要でしょう。

日本では安倍首相が震災被災地で「強い経済を取り戻し、再びこの地域、日本が世界の真ん中で輝くことを約束する」との選挙戦第一声をあげています。

“日本が世界の真ん中で輝く”・・・・ネット受けしそうなもの言いではありますが、日本を取り巻く情勢、日本が抱える経済・社会の実情からはズレているように思われます。選挙用の景気づけ発言であるにしても。

高度成長期、日本がアジアで唯一独走できた時代の思考の名残、「Japan as Number One」とも言われた時代の残滓さえ感じます。あるいは、そうした時代への郷愁でしょうか。「中国の夢」と同レベルとも言えます。

いたずらに“真ん中”にこだわり続けるのは、無用な軋轢も生みます。

個人的には、別に世界の真ん中で輝かなくとも、シルクロードの終点にあって、長安や洛陽にも勝る、美しく、豊かで、文化の花開く、成熟した住みやすい平和な国「黄金の国ジパング」であって欲しいと思っています。
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